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コールまで。

今日はクライアントの青木錦之介さんの大切なレコーディングの日。

彼が寝坊する予感しかなくて
鬼のようなウェイクアップコールをする為に眠るわけに行かない。

今日の投稿が多いのは寝てしまわない様にする為だ。
いつも忙しさと反動の眠気で何も書けないので丁度良い。

起こしたい時間までくだらないことを書いてみよう。

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錦之介さんに依頼される「カラオケ練習の見守りセッション」の前には腹ごしらえをする。

その為によく彼を連れて行くお気に入りの喫茶店のマスターは、
まるで【サンジェルマン(セント・ジャーメイン)】のようだ。

80歳手前なのに、50代にしか見えない。
長身でスタイル抜群。髪はフサフサと黒く、瞳はキラキラと輝いている。

(タイトル画像はマスターの後ろ姿。撮影とネット投稿はウェルカムらしい)

マスターの作るナポリタン、オムライス、焼きそば、カレー、どれも素晴らしく美味しくて懐かしく、飽きる事など想像出来ない。

【類は友を呼ぶ】のか、
この店の常連さんもやはり、【かなり若々しい70代】が殆どだ。


日が暮れると、此処は「カラオケ喫茶」と化すようで、
それを知ったのはつい二月前。

「すいませんね、お食事中。歌わせて貰うわね」と、素敵な美しい老婦人が流れ出した前奏に合わせ美しいステップを踏み始めた時が最初。

「ダンスをやられていましたか?」と歌の直後に訊ねたら
やはりそうであったらしい。

本当に美しいご婦人だった。


昨日は「女泣かせの九州男児」の常連さんと仲良くなった。

彼は今60代に見える74歳で、
【彼女居ない歴4年】になったそうだ。

最後の彼女は34歳も歳の離れた若い女性だったのだと。

訊ねる前に彼は別れの理由を語り始めた。


「69歳の大晦日の日にね、金輪際連絡しないぞって言って別れたんだよ。
あっちからは新年の挨拶なんか来るよ。でも俺は返事しねーの。
その時からキッパリさ。

何でってね。アンタたちみたいな若いもんにはわからねーの。
絶対わからねーの。

自分がその時になってみねーとね、これは絶対にわからねーんだけどね。

60代のうちはよかったの。俺元気だったもんね、アッチも。
でもねえ、そうも行かなくなんの。
だからよ。だから別れたの!

あのね。60代のうちはね、俺、言ってたの。女に。
【俺みたいな爺さんと歩いていて恥ずかしくねーか?
 恥ずかしいなら会わんでもいいんだぞ】ってね。

ほんとにそういうふうに思ってたんだよ。
でもねぇ。
ある時から逆になんのさ。

【アッチも元気無ぇのに、俺ぁこんな歳になってこんな若い女なんか連れて何やってんだ?みっともねーな。恥だな】ってね。

自分の方が恥ずかしくなんの。

いやぁ。これは若いもんにはわかんねーよ。わかんねーのよ。
あんちゃん、ずーっとずーっと先にわかるぜ、見ときな」


錦之介君は困っているのに代わりにナイスな笑顔で「いやぁ、そうなんすかね」と言っている。

歌好きの方で、私たちに歌を聴かせる事も、
私たちの歌を聴く事も楽しんでくれた。

歌の合間に彼の「若いもんにはわかんねー話」はまだまだ続く。

「いやぁ、すごい。歌ぁ上手いねえ!
 二人居て二人とも上手いたぁ、こりゃ珍しいねぇ。
 いやぁ、ナイスカップル!!」と言いながら、

私たちが歌う度にアイスコーヒーをまるでオヒネリのように与えてくれた。

【カップルじゃないんですよぉ😊
 親子ほどに歳も離れていますしね😊
 カップルじゃないんですよぉ😊】

と、都度訂正しても聞いてくれはしないらしい。

「ナイスカップル!ナイスカップル!」と言いながら
「マスター!歌のお礼だ、ナイスカップルにアイスコーヒー!!」と言いつけて私たちを帰そうとしない。

きっと、これは【オヒネリ】じゃなくて【引き留める手段】なのだ。

錦之介君と小声で「もう少し付き合いましょう」と決めた。


彼は私の年齢を聞き出そうとし、
マスターが「俺の息子と全く一緒なの!」と代わりに答えてくれた。

「へぇえええ!えええ???若く見えるねぇ!!」とおべんちゃらを言ってくれるあたり、なるほど女の扱いを心得ていると言いたげだ。

その言葉に喜んだのは私ではなく錦之介君で、

「ですよね、ですよね、そうですよね、ほら!」と満面の笑み。


女は若く見られたいものだと思って居るのだろうか、男たちは。

若い男も、老いた男も、なんだ、似ている。


真に受けるなら、【私ってそんなに貫禄ないですか?そんなに頭軽そうですか?】だ。

ショックでしかない。

「いずれにせよ、40代なんて若いよ。全然だ。
 俺くらいになるとよぉ、わかるよ。俺の気持ちが」

今だってわかるわ。

「きっとお父さん、弱いとこ見せるのが嫌なのね」

ショックを受けたお返しにちょっと意地悪したのに、
彼は逆に喜んだ。

「そーなのよ!だって俺ぁ、癌になった時にも誰にも言わなかったもんね!別れた女房にもさ。俺ぁ、【可哀そう】なんて思われたくねーのよ!」

マスターは彼を指さし「九州男児だからね、この人」と笑った。


錦之介くんに「このお父さん、ちょっと私に似てるわね」と耳打ちしたら
錦之介くんは「すごくわかる」と言った。


そう。私は彼の女版・・・と言うより、そうだった。

若い頃に別れた男とは、偶然以外で二度と会ったりしない。

「老いた姿を見せるくらいなら死んだほうがマシ」だったから。


でもね。
私は違う道を行く。

自分の性質を乗り越えて行く。


だってこのお父さん、とても得意気ではあるけれど、
「淋しい」のがバレバレだもの。

私はくだらない(←私にとっては)プライドなんかで自分を淋しくはさせない。

死ぬほど辛くても、死んだ方がマシだと思っても、
それでもこの(私にとっては)糞みたいなプライドを分解して愛に戻るわ。


錦之介くんがお父さんに言う。

「僕は一生この人の面倒見ますから」

また始まった。彼の勝手な未来の話。

行き過ぎちゃった陽性転移。まぁ、熱病みたいにイットキの事。なんてね。

呆れながら、それでもね。

最近すこーしずつ思うのよ。


【不思議ね。一人で死ぬ覚悟がすっかり出来たとたんに
 「看取ります」と言う人が現れる】

これがこの世のしくみかしら。

独りを恐れるうちは、ずっと独り。

独りを覚悟すれば独りじゃなくなる。

まったくもう、なんか素敵ね。



何十年も先の事なんて知らない。

でも、もし私が死ぬ間際に淋しかったら

我慢なんてしない。

他に誰も呼べる人が居なかったら

錦之介くんを呼ぼうかしら。


介護なんてしなくていい。

たまに顔を見せてね。



さて。丁度モーニングコールの頃合いだ。


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