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続・EDUTRIPスウェーデンレポ。リスク層の若者のエンパワメントと社会参加を促進するユースセンターの話。(オンライン報告会告知付き)

先日書いたこちらの記事に書ききれなかったことがまだもう少しあるので、書ききってしまいます。前回の記事よりは忘備録的な色が強めです。

そして前回も書いたけれど再掲 ↓

この記事は、現地での経験や現地の方に聞いた話はもちろん、今回の現地コーディネーターとして旅に同行してくれた北欧研究者・両角達平さんによる解説や、彼のブログ「Tatsumaru Times」からの情報もベースにしています。1つ1つの訪問先についての解説もここでは丁寧にはしないので、興味を持って詳しく知りたい方は「Tatsumaru Times」へ。

ヨーロッパ最大規模を誇るユースセンター「フリーシュフーセット」

今回最も楽しみにしていた訪問先が実はここでした。
こちらがその建物。でっかいです。

ユースセンターというのは、日本では馴染みがあまりないかと思いますが、ざっくり言うと、だいたい10代から20代前半の若者たちを対象にした余暇施設で、若者たちの相談機能・支援機能も持っています。ユースワーカーと呼ばれるスタッフが、若者の悩みや成長に携わります。日本では札幌のここと、京都のここが大きいかな?

デンマークやフィンランドでは基礎自治体ごとに設置されていたりして、訪問したこともあるのですが、若者が余暇が楽しめる場所になっていた。でも、今回行ったフリーシュフーセットは、とにかくどデカく、やっている内容もかなりヘビーなものを扱ってる印象。やんちゃ系 / 非行系の子たちに特にフォーカスしているようです。

今回フリーシュフーセットについて教えてくれたのは、ここのシニア・アドバイザーというポジションのマーティンさん。

フリーシュフーセットは、すべての若者を対象にしているけれど、"リスクゾーン"にある若者が特に対象。つまり、

・自分の声は聞かれていない
・自分は見られていない
・将来に展望が持てない 

そんなふうに感じている若者たちに特にリーチしようとしている。

また、Webサイトにはこんなふうに書かれている。

私たちは、危険にさらされているかすでに排除に直面している人々
特別な焦点を当てて、若者のエンパワーメントと社会的参加を促進します。

もちろんここには移民や難民、貧しい家庭の出身など、マイノリティの若者が多く含まれるだろう。フリーシュフーセットは民間のNGOなのだが、この層の若者たちにアプローチするにはそれはいいことなのだと言う。なぜなら、学校や行政など公的機関への信頼感が低い(不信感を持っている)から。フリーシュフーセットは、そこの橋渡しができるポジションにある、とのこと。

まためちゃくちゃ興味深かったのが、ここのスタッフの多様さ。犯罪歴のある人や、学校をドロップアウトした経験のある人などを積極的に雇うという。もちろん、学位のある人もいたりするわけだけど、マーティンさん曰く、大事なのはマインドセットであり、若者当事者の言葉で話せる= Credible Messenger(信頼できる/説得力のあるメッセンジャー) であることだそう。自分もつまずいた経験のある人は、そうなりやすい。ロールモデルになれる。つまり、「I can change my life, you can also!」と。

やっていることは、大きく4つ。

とにかく、情熱と興味を注げることを楽しむ「ユースカルチャー部門」

これは、若者が、楽しいこと・没頭できること、情熱と興味(Passion & Interest)を注げることをとにかくやれる環境をつくっている。
ここでは、バンド、スケボー、スポーツ、アート、その他いろーーんな活動ができる。
 
ソーシャルワークでつなげてこられた、リスクゾーンにある若者に対しても、ここでは"Positive Context"に入れるということを大事にしているそうだ。つまり、しんどいことにフォーカスして改善しようとするのではなく、どの人も持っているPassionの源を探し、それを表現できるようにサポートする。Passionの源は、人によって、それがメタルロックだったり、野鳥観察だったりするというわけだ。
 
私は、地元で子どもの居場所づくりの仕事をしているのだが、その関係で出会った地元のスケボー屋の店主さんにこんなことを言われたことがある。

スケボーってね、ハマるんですよ。中毒性あるっていうか。
学校に居場所がなくても、家に居場所がなくても、スケボーやってる間は確かに自分がここにいると感じられる。他のこと忘れて没頭できる。
その子にとっては、スケボーそのものが居場所なんすよ。

私はこれにはシビれて、感動した。
マーティンさんのこの話を聞いて、この言葉を思い出していた。

ちなみに、フリーシュフーセットにもスケボー場があるが、ここはマジですごい。でかっっ!

ちなみにバスケコートもどでかく、なんと400ものチームが利用登録しているとのこと。

そもそもユースカルチャーという概念が、好きだ。すばらしい。
「スケボーなんて」「メタルなんて」「クラブなんて」「アニメなんて」とバカにしない。若者たち独自のカルチャーを尊重して、縛らず、型にはめない。若者へのリスペクトが感じられる。
これはきっと世界中どこでもそうだと思うんだけど、ユースには自由がとっても大事だ。「大人の管理」のニオイがするところには基本行きたくない。
これは余暇的な感じで私がこれまで見た他の北欧のユースセンターとも共通なのだけど、見守る大人はいるけれど、ユースセンターにはちゃんと(?)自由な雰囲気がある。これが、すっごく大事なことだと思う。

マーティンさんが紹介してくれた、ここに来たある若者の言葉も印象に残った。

大人たちは"未来"や"将来"のことばっかり言うけど、
ちがう。私たちは"今"生きてるんだ。

そうだよなぁ。若者はもっと"今"を謳歌していいよなぁ。

反社会的な行動の予防と社会復帰の促進をする「ソーシャルプロジェクト部門」

この部門では、犯罪に手を染めてしまったり、ネオナチ・白人至上主義団体に入ってしまった人の社会復帰や、さきほどから書いているリスクゾーンの若者が反社会的な行動に結びつかないためのサポートをしているそうだ。

↑これは施設内の体育館の窓。世界の宗教をあらわすイラスト。フリーシュフーセットはすべての宗教を尊重します、というメッセージのリマインドとして機能してるとのこと

例えば、「ルグナ・ガータン=静かな通り」プロジェクト
地下鉄の駅や、リスクゾーンの若者が溜まっているような街中にスタッフが目立つジャケットを着て出かけて行って、若者たちに声をかけながら良好な関係をつくる。アウトリーチ(対象者のいるところにサポートを届けにいくスタイル)のプロジェクト。
面白いことに、このプロジェクトのスタッフは、元当事者(ギャングに入っていた人など)をたくさん採用している。広告は打たず、噂話を流して求人(笑)30人雇用の枠に180人応募があったそうだ。マーティンさんは、「彼らはStreet Smartnessを持っている」と言う。
 
ある時、ギャング同士が一触即発だった時に、警察ではなくルグナ・ガータンのスタッフに地下鉄の駅から連絡が入った。警察が来るとそれはそれでエスカレートしてしまいがちだが、普段からいい関係を築いているスタッフが「まあまあ落ち着けよ」「冷静になれよ」と説得し、クールダウンさせることができた、と言うエピソードも紹介してくれた。すご。
ちなみに、このパッケージを地下鉄の会社に売ったりして財源にし、元当事者の雇用につなげているそう。なるほどなぁ...。

一般教科に加え、情熱と興味で授業を選択できる「フリースクール部門」

スウェーデンでは、学校に民間が参入できるようになっている。スウェーデンでは現在約50%が私学だ。フリーシュフーセットの中にも、フリースクールがあり、12-19歳の子どもたちが通っている。
公立同様、指導要領やテストでの評価制度にも乗っ取っているが、私学は独自色が出せるのだということ。

ちなみに前回の記事で触れた民衆大学も、この中にあるそうだ。ここの民衆大学は音楽家になりたい人が通うところだそう。

↑ここはフリーシュフーセット内の図書館。こういう謎の(失礼)造形物が棚の上に置かれたり天井にぶら下がったり。「これなに?」と聞くと真顔で「It's a piece of art」とマーティンさん。ユースがつくったものとのこと。

そして「就労&アントレプレナーシップ部門」

また、ここでいうアントレプレナーシップというのは、ビジネスで起業するということではなく、「やりたいことを実現する」ということのサポートだそう。自分たちのプロジェクトを立ち上げたり、その運営を支援することによって、最初の仕事を得ることのサポートをしているとのこと。

ドロップインではない、というのがポイント、かな。

これは重要なところだと思うのだけど、ここはドロップインの施設ではない。つまり、ふらっと立ち寄るいつ来てもいいオープンな施設ではない。グループとして利用登録した人たち、民衆大学の生徒たちに加え、学校や行政などからソーシャルワークによってつなげてこられたリスクゾーンのユースが利用している。達平さんによれば、スウェーデンでも、他のユースセンターはほとんどドロップイン型だそう。

ドロップインだと、若者が立ち寄ってくれるようにロビーに溜まれるようにしたり、充電&Wifiフリーにしたりいろいろ工夫することが多い。
そういう感じにここのロビーもなってはいたけれど。

参加者だった遠藤まめた氏(LGBTQとそうかもしれないと思ってる若者の居場所をやっている人)と、「ネオナチの子とか来てたら、怖くて行けない気がするよね、オタク系とかおとなしい感じの、しんどさを抱えてる若者はどうなってるんだろうね?」という話をしていて、その辺はコーディネーターの達平さんとも話した。ある程度イメージできたのは、そういう子たちはスウェーデンでは学校でかなり包摂できているのだということ。だから、ユースセンターには自ずとそれとは違う層の若者たちが集うと言うことらしい。もっとハイソサエティな層は、女の子は乗馬、男の子はホッケーをやったりしていて、それもまた層が分かれているんだって。うーむ。やはりスウェーデンにもそういった分断はあるのだ。地域によっても人種構成が全然違うとのこと。

ここは、やっぱりドロップインでふらっと現れる層というよりは、もっとアクセスしにくい、ソーシャルワークでつないで来られる層の若者を主たる対象にしているんだと話を聞いても感じた。あと学校がくっついているのは、民間なので収益確保的な意味合いもあるのかもしれない。

「若者を / 若者に」ではなく 「若者と共に」環境をつくる。世界を変える。

マーティンさんはこんなふうに言っていました。

ここのスタッフは「若者について話す」のではなくて、「若者と話す」。
それが大事なことです。

また、フリーシュフーセットのWebサイトにはこんなふうに書かれています。

私たちは、若者と共に、全人的な学びと自己成長のための環境をつくりだすことによって、これを達成するよう努めます。
私たちは若者の声、考え、アクションの価値を認識します。

若者たち、しかもリスクに直面している、しんどさを抱えた若者たちを「お客さん」にも「支援されるだけの人」にもせず、あくまで主体としてリスペクトし、共に環境をつくる / 社会をつくるパートナーとして信頼する。そんなところに、スウェーデン社会が大事にして来たFolk Buildningの精神が垣間見える気がします。

しかし、フリーシュフーセット、日本で若者支援をやってる団体には必見かもしれない。ここだけ見に来て、取り組み内容をディープに聞くだけでも、とても価値があると思う。しかも公的施設ではなくて民間だから、マネタイズについても聞けるし。

そんなわけで、2回でレポートは終わろうと思ってたけれど、野外保育をやってる幼稚園と森でのアクティビティのことまで書けなかったので、もう一回、次回もスウェーデンのことを書きます。

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【EDUTRIP in Sweden オンライン報告会】のお知らせ

報告会をやってほしいというお声にお応えして、オンラインでの報告会を開催します。私からの報告が中心ですが、参加者の皆さんにも声かけ予定で何人か参加してくれるかと思います。Q&Aもあり。よろしければぜひ。

●日時:2019.4.21(日)19:00-20:30
●参加方法:
 お申込みいただいた方にオンライン会議室のURLをお送りします。

※スウェーデンの社会と教育の専門家ではありませんので、お伝えできるのは、あくまでも今回現地で見聞きしたことと、個人として感じたことになります。ご了承ください。



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