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日本の「DAO法」で何ができるのか?

日本で「DAO法」なるものができたらしい、しかし日本において想定されている「DAO」はグローバルのCryptoの世界でDAOとして知られているものとはちょっと違うらしい、というのをこの業界の人たちはなんとなく認識されているかと思います。

が、足もとの米国での現物ビットコインETF上場からのクリプト市場の急騰、さらにここから半減期でどうなるの?という動きのなか、本件に関する議論が十分にされていないように感じています。
4月1日にはDAO協会設立も控える中、改めて「DAO法」とは何なのか、どのような経緯でできたのか、これによって何が可能になったのか、をまとめてみました。


「DAO法」にいたる経緯

DAOについては、2023年4月に自民党web3PTの皆様が発表した「web3ホワイトペーパー」で以下のように書かれていました。DAOに関するルールメイクの方向性が明記されたのはこれが初めてではないかと思います。

2023年web3ホワイトペーパーにおける「ただちに対処すべき論点」

ここでのDAOに関する論点は「構成員の有限責任性」「機動的に設立できるDAOに適した法人格」です。つまり、有限責任性=DAOメンバーがDAOに対して出した金額を超えて金返せと言われない、機動的に設立=法人の中で簡単に設立できるもの、ということですね。有限責任の法人(ざっくり株式会社 or 合同会社)で簡単に設立できるのは確かに「合同会社」になります。
これを実現するための提言としては以下が含まれています。

  • 合同会社をベースにするDAO特別法を制定する

  • 会社法、金商法を一部変更する

これらに関しては「議員立法」(内閣が提出した議案ではなく、議員が提出した議案が成立して立法されること。世の中的には内閣立法の方が多いのでこのように書いている模様)でやるかもね、ということにもなっていました。

しかし、4月以降は議員立法がされることはなく、2023年11月に自民党web3PTより「DAOルールメイクハッカソン」が開催されることが発表されました。
「DAOルールメイクハッカソンで検討したいポイント」については以下のようにまとめられています。

「DAOルールメイクハッカソンで検討したいポイント」

中の人ではないので推察ですが、DAOのための法改正の方向性について自民党内で議論していく中で、今の方向性(合同会社型)でいいか、トークンの流通はどのような類型があるか聞くべきでは?という話になったのではないでしょうか。
こちらのDAOルールメイクハッカソンには21個の団体が参加し、上記の「検討すべき点」について個々のプロジェクトの現状説明、様々な提言が行われました。

DAOルールメイクハッカソンを経て、2024年1月25日、「DAOルールメイクに関する提言 ~ 我が国における新しい組織のあり方について ~」が自民党政調審議会で了承されました。
具体的なルールメイクに関する提言の内容はこちらのページにまとめられています。

「DAOルールメイクに関する提言」より、合同会社型DAOを実現するためのルールメイク

2023年4月のホワイトペーパーでは議員立法で「DAO特別法」を、という話もありましたが、こちらの提言ではざくっとまとめると、

  1. DAOを合同会社として定義し、合同会社型DAOの定款フォーマットを作り設立コストを下げる

  2. DAOのスマコン業務執行、DAOメンバーの匿名性、メンバーの持ち分変動の円滑化などは法改正なしで解釈で対応できる範囲を明確化する

  3. 金商法内閣府令の改正で、DAOの「社員権トークン」の規制を緩和する

ということになっており、「合同会社型DAO」については法改正不要な範囲で運営方針を示しましょう、社員権トークンについては金商法内閣府令を改正しましょう、という形に落ち着いています。
※冒頭に書いた通り4月1日に「DAO協会」が立ち上がり、「合同会社型DAO」の法改正不要な範囲での運営方針などは当協会がリードして作っていく予定のようです。

この提言に沿って、2024年2月1日には金融庁から「金融商品取引法第二条に規定する定義に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令(案)」等の公表についてが出ており、3月4日までパブリックコメントに付されていました。

では、上記の金商法内閣府令の改正によって具体的に何ができるようになるのでしょうか。

「DAO法」=金商法内閣府令の改正によってできるようになること

上記の府令の改正がされると、一定の条件を満たす合同会社型DAOの社員権トークンについて、一項有価証券から二項有価証券となり自己募集に係る業規制や開示規制(50%超有価証券投資の場合を除く)が適用されない形となる見込みです。つまり、DAOの形でトークンを用いた資金調達ができるようになる見込み、ということになります。

金融商品取引法第二条に規定する定義に関する内閣府令9条の2を改正することで、以下が業登録不要で行えるようになります。

  • 合同会社型DAOが発行する社員権トークン(NFTを想定)を募集すること

    • 業務執行社員(追って説明します)による取得の勧誘(自身のTwitterなど、DAOのホームページ・Twitterなどでの取得の勧誘を行うこと)は可能

    • 業務執行社員以外のその他の社員による取得の勧誘は二種金融商品取引業に該当するのでダメ。ただし、リツイート等は許容される可能性

  • 合同会社型DAOが発行する「別トークン」(条件を満たすもの)の取得の勧誘

  • 会員が保有する社員権トークンの譲受の勧誘

ちなみにここで言う「勧誘」とは、金融取引への誘引を目的として特定の利用者を対象として行われる行為で、インターネット等で広告をすることです。(企業内容等開示ガイドラインB4-1)等

上記で出てきた「業務執行社員」と、その他の社員は以下の違いがあります。
業務執行社員:合同会社の会社法上の責任を負い、登記で氏名が記載される。意思決定への参画、業務の全部または一部に従事。
業務執行社員トークンを保有し、このトークンを業務執行社員以外に譲渡できない場合は出資額を超える収益分配が可能
その他の社員:登記に氏名が記載されない。社員権トークンに出資し、出資額を超える収益分配は行わない。出資額を超える物品やサービスをあげるのもダメ(出資額を超える収益分配をしたら、1項有価証券に当たることになる)(別トークンは除く)
※登記はされないものの定款に非業務執行社員として名前は載りますし、合同会社社員としての有限責任は負います。ここの匿名性を高めるための議論がDAO協会ではなされており、法解釈により事実上の匿名性を確保できる取り扱いが可能になる模様。

なお別トークン、というのは社員権トークンとは明確に区別されて発行 or 職務執行の対価として発行 or 社員以外の者にも同じ条件で発行、という条件があるようです。主にDAOでの活動に対する報酬として配布される「トークン」や、DAOでの意思決定に使えるガバナンストークンが想定されており、これは基本的には資金決済法上の暗号資産には該当しない、前払い式支払い手段やポイントの形になります。
別トークンをエアドロップする場合は別トークンを暗号資産とすることが可能です。

つまり、こんな形の3層構造のDAOになって、「社員権トークン」と「別トークン」でDAOとして資金調達が可能になります。

合同会社型DAOの仕組み

開示規制がない、とは社員権トークンや別トークンを「勧誘」するにあたって有価証券届出書、目論見書、有価証券報告書がいらないよ、ということですが、出資総額が1億円以上で、50%超を有価証券に投資する場合のみ開示規制に該当します。(なので、いわゆる「インベストメントDAO」は開示が必要になりそう)
なお、出資総額が1,000万円以上の場合は、「有価証券通知書」が必要になります。

日本の「DAO法」的「DAO」のユースケース

後述する通り、ここで想定されている「DAO」はいわゆるグローバルなCryptoの世界で一般的な「DAO」とは毛色が違うものですが、では日本の「DAO法」のユースケースとしてはどのようなものが想定されているのでしょうか。
一つ行政側から明確に示されているのは「空家古民家DAO」です。

以下、DAO協会キックオフ資料の説明によると・・・

  • 合同会社型のDAOを設立し、社員権をトークン(NFT)の形で個人投資家等に付与して資金調達。その他、ローンでも民間金融機関等から調達。調達資金を用いて空家などの不動産を取得・賃貸借、建物を改修したうえ、賃貸物件や宿泊物件などにして収益化

  • NFT保有者に対しては出資額を上限とする現金・トークン・暗号資産の利益配当又は社員優待としてトークン等を付与、貢献者にはトークン・暗号資産を付与。NFT保有者はNFTのユーティリティ、FTのユーティリティによるベネフィットを得られ、FTの価値向上に直接関与できる。更に場合によってはトークン等を流通市場で売却することでベネフィットを確保

  • 定款において分散型意思決定(貢献に応じて取得できるトークンを用いた意思決定等)の導入、社員の非公開/社員変更時の定款変更自動化、業規制・開示規制の適用免除により、DAO側・社員側の参入障壁を減らし、簡易・広範囲に資金調達が可能になる

「DAO協会キックオフ資料」より

これまでは地元の不動産管理会社だけが行っていた、空家・古民家再生事業に地元の個人や事業会社なども「合同会社型DAO」の「その他社員」として入ってもらい=お金を出してもらい、お金を出してもらった比率に応じて意思決定にかかわってもらい、出してもらったお金を上限にリターンを返していこう、というこころみに見えます。

つまり、

地元の不動産会社、アセットマネジメント会社⇒登記された合同会社型DAOの業務執行社員。業務執行社員トークンホルダー。DAOが営む事業からの収益について、当初出資分以上の超過収益を受け取る権利がある
地元の個人など⇒登記されない。社員権トークンホルダー。当初出資した(社員権トークンに支払った)金額の範囲内で、貢献に応じてDAOからトークンなどを受け取れる。このトークンは例えばDAOで管理する物件の宿泊割引トークンなど。DAOの活動をがんばってDAOで管理する物件の価値が上がれば宿泊割引トークンをもらえることがより嬉しいことに。

というようなことだと理解しています。
ここでは宿泊割引トークンがDAOが社員権トークン以外に発行できる「別トークン」になります。これは資金決済法上の「暗号資産」として流通させることもできますが、この例では前払い式支払い手段やポイントとして整理される性質のように見えます。

グローバルで一般的に「DAO」と呼ばれているもの

では、グローバルで一般的に「DAO」と言われているものはなんでしょうか。
これは定義は明確にはないですが、Decentralized Autonomous Organization=自律分散型組織、として多くは以下の特徴を備えているのではないかと思います。

  1. トークン、またはNFTの保有者がDAOのメンバー(Walletベースで認識)

  2. トークン、またはNFTの購入代金はDAOのトレジャリーウォレットで管理され、ブロックチェーン上で誰でも見ることができる

  3. DAOの目的に資する提案がされ、DAOメンバーの投票で提案が可決された場合、トレジャリーウォレットから提案者に提案資金がスマートコントラクトで自動的に支払われる

Nouns、ENS、Gitcoin、Optimism Collectiveなど、この形で運営されているDAOはいくつかあります。以下のnoteでもいくつか紹介しています。

Crypto界隈で長く働いている個人としては、スマートコントラクトとトレジャリーウォレットがないものをDAOと呼んでいいのか、という気持ちもありますが、この辺は今後の継続事項として自民党web3PTの提言資料にも記載があります。
web3PTの皆様もこれは第一歩にすぎない、とおっしゃっており、こういったグローバルで「DAO」と呼ばれるものがどのように日本で制度化されていくのためにも引き続きプレイヤーと行政の対話が必要になってくるのだと認識しています。

日本における今後の「DAO」の発展

足もとの状況を受けて、日本で今後「DAO」と呼ばれるものは2方向の発展の可能性があると考えています。

①事業会社が主体となって作る合同会社型DAO(収益事業型)

今回金商法定義府令が改正されれば、「合同会社型DAO」を作り、NFTを使った社員権トークン、主に前払い式支払い手段やポイントの形になりそうな「別トークン」での資金調達が可能になります。
すでに収益事業を行っている企業が、ユーザーやファン、対象事業の関係者を巻き込む形で社員権トークンで資金調達を行い、社員権トークン保有者、DAOメンバーと一緒に収益事業を行っていく形が想定されます。
実は2023年11月-12月に行われた自民党ルールメイクハッカソンにおいては、出場23団体のうちほとんどが、事業会社が中心となりトークンまたはNFT保有者をプロジェクトに巻き込む、というものでした。
こういった企業にとっては今回の金商法定義府令の改正は追い風になるものだと感じます。

②民間が主体となって作る非営利型DAO

一方で、民間が主体となって作るNon-profit型のDAOもweb3PTでは引き続き検討事項とされています。
例えば、私が個人で参加している新潟県山古志地域の「牛の角突きファンクラブ」はファンクラブメンバーから集めた資金(法定通貨とCrypto)を、牛の角突きを盛り上げるための提案として可決されたら拠出していく形をとっています。※スマートコントラクトは未整備
「合同会社」は設立時に10.2万円、維持費用として最低7万円/年はかかるため、非営利型DAOにとってはこの形態は選択しずらいものになります。
(NPO法人を活用すれば設立費用、税金(申請免除可)、役員変更の登記費用はかからないので、今後はNPO法人の活用というのも選択肢になってきそうです。)
現状、「権利能力なき社団」という形での設立がもっともやりやすい選択肢となりますが、「権利能力なき社団」が銀行口座や暗号資産取引所に口座をあけるのは現状では困難です。
この場合、DAOのトレジャリーウォレットから起案者のメタマスクにCryptoを送り、起案者のメタマスクから暗号資産取引所の口座に送り、そこで法定通貨に換えて闘牛会等に支払うフローも想定されるのですが、この資金が起案者の所得にならず、起案者が資金決済法違反にならない、というような手当てがまだ整備されていません。
こういった点が明確になることで、「牛の角突きファンクラブ」のような小さな経済圏が自律的にまわっていく事例が生まれてくるのではと考えています。

山古志「牛の角突きファンクラブ」の仕組み

最後に:個人的には民間主導非営利型DAO (スマートコントラクト、トレジャリーウォレットがあるもの)の制度化に期待していましたし、この業界の多くの人はそうではないかと思いますが、合同会社型DAOは大きな一歩ですし、活用事例が多く出てくることに期待しています。
なお、ここまで読んでいただければ自明ではありますが、「DAO法」と書いていますが、今回実施されそうなのは金商法定義府令の一部改正にとどまっており、「DAO法」と呼べるものはできていません。念のため。

Special thanks to Macくん from DAO協会、Ryuさん、めりちゃん先生 from ネオ山古志村。DAO会の賢者の皆様、いつもありがとうございます!

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