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世界一幸せなデートの思い出を成仏させたい【後編】

前回の続きです。

まず、このデートをこの手で成仏させることにより、何が得られるかというと、正直なところ、ただ思い出にふけるのみで、何も変わらないのかもしれない。
ただ、自分が、懸命に恋をしていた、という事実を認めてあげるだけで、今後の救いになると考えている。
60か70になったあたりで、おそらく独り身を謳歌している自分へ、ねちっこい聖地巡礼の旅のしおりのプレゼント、とでもしておこう。
その頃には、いいくらい思い出が美化されているだろうし。



横浜駅で合流した私たちは、まず鎌倉へと向かった。
昼食を食べに、有名な釜飯のお店へ。10分以上並んでいたが、その間に高校の修学旅行はどこへ行ったか、最近仕事はどうか、そんな話をしていたらあっという間に過ぎていった。しらすといくらの釜飯は、締めのお茶漬けまで最高に美味しかった。
そのあとは、小町通りへ。
小町通りには、飲食店やらお土産屋さんやらがぎっしり並んでおり、それだけで圧倒される。
人混みをかき分けて、鶴岡八幡宮へと到着。おみくじは吉。縁談の項目には、『真心がすぐ認められる』と記載あり。所詮占いだもんなー、と今なら思うが、当時は上手くいくんだ!と相当浮かれていた。
また小町通りへ行き、お団子を食べ、ドライフルーツを家族へお土産として買い、由比ヶ浜駅へ。

由比ヶ浜に到着するや否や、『ここって、月曜から夜ふかしの川柳の海だよね?』が第一声の自分の、ロマンのかけらもないあたり。冬の由比ヶ浜は、さほど混み合うことはなく、静かに時間が流れていた。
綺麗になったね。散歩しながら、彼に言われた。
キザ過ぎるだろうか。いや、海には、これくらいのセリフが似合う。

そこから江ノ島へと向かう。
江ノ島は、映画『陽だまりの彼女』のロケ地でもあり、訪れる前から楽しみにしていた。
夕方に行くと、夕日が眩しく、優しく街を包み込む、絶景を見ることができる。

彼は、美しい景色を前に『やっぱり肉眼で見るのがいちばんいい』と言っていた。
旅行の醍醐味は、インスタ映えするスポットよりも、おいしい食べ物よりも、美しい景色なのだ、とこの時知った。隣にいる人が好きな人なら、なおさら思い出深い。

鎌倉、由比ヶ浜、江ノ島、と巡った中で、いちばん思い出深いのは、江ノ島だ。
江ノ島を散歩しているときに、手を繋いだ。こうなるのかな、と期待はしていたが、それが実際に起こりうるとなると、夢みたいだった。
私は、世界でいちばん幸せだ。本気で思った。
私は彼の恋人ではないし、車はぶつけて修理に出したままだし、帰ったら極寒の雪国が待っている。それでも、幸せだと心底思った。楽しかった、とあとから振り返ることは度々あるが、幸せだ、と率直に感じることって、そうそうない。
日が暮れ、江ノ島を出、駅まで歩いて向かうときも、手を繋いでいた。
なんかいいね、こういうの。
彼は言った。
私は嬉しくて、子どもみたいに、繋いだ手をぶんぶん振り回していた。
そのあと、みなとみらいへ行き、夕食をご馳走になり、ドラマに出てくるような、キラキラした夜景を2人で眺めた。あまりにも寒かったので、自販機であったかいお茶を買ってもらった。
夢を見ているようだった。今でも、夢なんじゃないか、と思ってしまう。


こんな素晴らしいデートは、二度とはできない。
彼と会うことは、もうないだろう。
こちらから、連絡することは、ない。
元気?と気軽にラインはできない。
ただ、忘れることもできないので、せめて、ここに残したい。
ご時世的に、県外へ行くのは気が引けると、家族にだけ行き先を伝えた。予防を徹底した。それでも、行きたかった。
今後、県を跨いでの旅行は、さらに安易になる、と願っている。ゴールデンウィークにハワイに行く観光客も増えたのだから、感染対策をしながら、気をつけながら、楽しもう、という考えがより浸透するだろう。と心底願っている。

勢いに任せて向かった横浜。
美しい景色に心を奪われた江ノ島。
彼がいなければ、こんな楽しい旅はできなかった。

世界一幸せなデートの思い出が、色褪せませんように。

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