どこかにいる私じゃない誰か

全く会ったことのない人から「去年、お会いしましたよね?」と訊かれたら皆様はなんと答えますか?
『去年マリエンバートで』かよ、と答えた方とはちょっと映画友だちになりたいです。
 さておき、ずいぶん昔、そんな問いかけをされ、「はい」「いいえ」どちらでもいいのかなあと思ってしまった私は、千葉の九十九里浜で出会ったおばあさんに話しかけられて、「はいそうですよね」と嘘をつきました。再会を喜ばれているご様子に、去年、九十九里浜に来ていた、おそらく似ているだろう誰かに瞬時ならなっても許されるかなあと、いい加減な性格をお許しください。
 「はい」「そうですね」とおばあさんの会話を聞きながら、(去年本当に私は九十九里浜に来ていないよねえ???)と頭の中で去年を思い出し、自分の記憶力に自信がなくなっていき、ちょっと映画チックでした。

それからまた時を経て、某街で友だちと初めて入ったアジア料理屋さんで、美味しかったけどなんとなく残った料理(汁物系で冷え切っていた)を隣の席のおじさんが「食べてもいい?」と急に訊かれて、まあいいかと「たべかけですがどうぞ」とOKをだしたらば、おじさま大感激。
 曰く「俺は毎日この店に通っているけど、この料理は初めて食べた。美味しくて大感動した」ということで、おじさまとの会話がスタート。
 お、嬉し恥ずかしナンパ!では全くなく、近くにいた別の常連チックなおじさま達も参入、この店によく来ることなどを熱く語るおじさま達(でもおじさま達はそれぞれが仲良しという感じではなし)との謎の交流会のような感じでした。一緒に行った友だちもそういうのが嫌いなタイプではないので、二人で「へ~」「そうなんですね」と楽しんでいたら、最初のおじさまが「あなたには会ったことがある。一月前、あの大通りの交差点で、自転車に乗ったあなたとすれ違ったよ!」「よくこの街に来ているよね?」「他でも見かけたかも」
 確かにこの街には自転車で偶に来ることがあるけど、先月は来ていないはずだよね。それに交差店ですれ違った程度で誰かの印象に残るような特別な風貌ではないし?? いや実はまた私に似た誰かがいたのかも?? 改めて考えると記憶ってば曖昧でちょっと不安な感じになりました。
 その後そのおじさまと何度も再会、映画チックな不思議な愛に魅入られる展開には勿論なりませんでした。お店を出るときも連絡先や名前など訊かれることなく、万が一でも偶然の再会があると怖いので暫くその街は避けていたら、数年ぶりにそのお店の前を通ったら閉店しておりました。
 
 実は、もっと大昔の高校生の頃、電車の中で肩に手を掛けて挨拶をされたことがありました。全く知らない他人、でも同じ制服を来ている誰か。
 吃驚よりも「おお、彼女の友だちか」と納得状況でした。
 実は、高校に入学してから時々全く知らない人から話しかけられることがあり、友だちに相談したら、「確かにちょっと似た下級生がいるかも」とのことが有ったからです。
 それから数ヶ月後、全学年参加の体育祭があり、スタンド席でぼへっとしていたら、友だちが「あの子、あの子、あんたにちょっと似た子は、多分彼女よ」と指を差されたので、とマイドッペルゲンガー的よく似ている人を確認できるチャンスと、持てる限りの観察力を駆使したのですが、どこが似ているの??? と正直思いました。

 唯一の機会に、全く残念な我が観察力。当方、特に人間の風貌に関して観察力・記憶力が全くなく、あるとき、長年の親友を通学途中の電車の中で見かけ、挨拶しようとしたら、「いや待てよ、別人かもしれない、彼女はあんな顔をしていたかしら」と判断できず、でもやっぱり友だちかもと怪しく学校まで後をつけ、教室に着いてから声を掛けたことがありました。我が不審者的行動に、「なんか怪しい視線を感じてちょっと怖かったんだ」と友だち談。
つまり、九十九里浜に行っていた彼女とも、高校の下級生の彼女とも、すれ違う機会が会ったとしても、私は自分の似た人を認識できないはず。永遠のすれ違い。似た人に会っても別に特段良いことがあるわけではないのですが、残念な気持ちに。

 という夏が来る度に思い出す誰かに関しての話ですが、オチも盛り上がりもない話ですみませんです。

 

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