花嫁御寮
どうだい、見事じゃぁないか…… なあ……
えぇ、お前さん。
ただ、名のある大店(おおだな)の跡取り息子。肩身の狭い思いをするんじゃないかと。
なぁに、身につけるもん身につけさせたじゃねぇか。気立てもいいしべっぴんだ。そんじょそこいらの娘とはわけが違う。
お前さん、いい加減親ばかだねぇ。
いいや、何処へ出しても恥ずかしくなんかありゃしない。じきに立派なご新造さんだ。
それにしても…… ちっちゃく生まれた子だったなぁ。みっつよっつの頃まではよっく熱を出してたもんだ。
無事に跡取りを授かりゃぁいいが…… いゃいけねぇ、心配は罰当たりだ。
晴れの日だ、笑って見送ってやんねぇと、な。
身ひとつで来いと言われたのに、値の張るお道具を揃えてくれて。
どこぞで借財でもしたのでは無いですか?
夜なべのお針で縫い上げた、小袖を一枚置いていきます。
なにかの折には少しの足しにでもしてくださいね。
好いたお方の元へ参ります。なんの心配がありましょうや。
ただ、弟が一人前になるのはまだ先。
頑固に蕎麦屋の暖簾を守り続けて、白いものが増えたおとっつぁんとおっかさんのことが案じられるばかり。
どうか、どうかおからだをおいといくださいまし。
白く細い指をつく娘と、目頭を押さえる父と母
嫁に行く身も送る身も、互いの身を案じるは世の習い
数えきれぬほどの思いはあれど
それでもすべてを飲み込んで、口元からこぼれるのはたったひとこと
「お世話になりました」
「達者で暮らせ帰ってくるなよ」
やがて刻となり、左手引かれる花嫁御寮
進む道中に茂るカタバミ
風、薫る
土曜絵画参加作品 白無垢
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※カタバミ
一度根付くと丈夫に広がることから、子孫繁栄、喜びを意味するようになった、どこにでもある草花です。
この意味から、家紋にも多く用いられています。
※ご新造さん
もともとは武家の奥方をご新造様と言っていましたが、裕福な町人の若奥さんのこともご新造さんと呼ぶようになりました。
note商店街で出しているものに近く、短いストーリーを、詩的な要素リズムを含ませて表現したものです。
土曜絵画参加作品 《白無垢》との自作コラボです。
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