プロの押しも押されぬ漫画家さんが恐らく絵柄ストーキングされて消えていったように見えた話

昔、プロの押しも押されぬ漫画家さんが、恐らく絵柄ストーキングされて消えていったように見えた話(文字通り)である。
なお、私からはそう見えたけど因果関係までは確認しようがないのであくまで「私からはそう見えた」としか言いようがないのでご注意を。


彗星の如く漫画界に進出したイラストレーターさん

その当時私は漫画家(当時は)のBさんにちょっと注目していた。
というのはBさんはイラストレーターから漫画家に活動の場を広げて、当時ある分野で一世を風靡していたのだが、絵に特徴があったのだ。

・デッサンが上手い、けどリアル寄りではない可愛らしい絵柄
・可愛らしい絵柄だけどデッサン上手いので男性の体格は男性らしく描ける(少女漫画文法上のそれではない男性の体型を描ける)
・可愛らしい絵柄だけど他に似た絵柄の人はいない(何系とかの類型に当てはまらない、Bさん独自の絵柄)
・可愛らしい絵柄だけどそこからグラデーション的にリアル絵に寄せて描くこともできるので、恐らくBさんがリアル人物デッサンからBさん独自の解釈で形成してきた絵柄と考えられる(でないとグラデーション的にリアルデッサン寄せはできない)
・陰影の付け方が大胆(陰影の法則を理解している人だけができる大胆な省略法)
・ものすごく動きを描くのが上手い、躍動感に溢れている
・立ち姿にインパクトがある(キャラが地面にしっかり立ってることがはっきり伝わってくる)

などだろうか。
これらからBさんの絵は平均的な少女漫画の絵柄とかけ離れたインパクトがあった、のだと思う。

私がBさんに注目していたのは、憧れていたから…ではなく、数多いるプロアマ含めた絵師の中で、唯一私の絵の描き方との共通点を感じていたからだ。
勿論、私の絵などはBさんの絵を100回殴った程度の出来ではあるが。
そもそも絵柄も似てはいないと思う。
ただ、どんな絵を描きたいのか、というこだわりのツボが似ているのだった。

Bさんの少女漫画界での目立ち方は、ちょっと特殊だった。
一見柔らかい少女漫画な絵柄で、細い流麗な線で描かれた絵は一見あっさりだがしかし人目はとても引く。
それは勿論リアルな陰影の法則とデッサン力を身につけているが故のことであるのは明白だった。
ただ、陰影の法則がわかってない人にはなぜBさんの絵が(一見そんなに他の人と密度も描き込みも変わらない、というより少ないのに)そんなに目立つのか理解できないだろうなあ、とは思っていた。
しかしプロの世界なら私のような素人同人界でこっそりストーカーされた末にエンガチョされるようなことはないのでは、と勝手に思っていた。

古巣でベンチマークされるBさん

が、まず古巣のイラスト界隈(同じ雑誌に載る他のイラストレーター)から不穏な動きが見えた。
Bさん以外の同雑誌イラストレーター複数がこぞってBさんをベンチマークしBさんのように大胆な陰影の付け方やポージングの付け方を真似始めた(あくまでポージングの「付け方の傾向」であってポーズや構図の丸パクではない。が、それまでのテンプレポージングとは明らかに違った)
のだが陰影の法則やデッサンがわかってないらしく、無理やり描きつつ描きあぐねているようにも見えた。
ただ、「Bさんになんか負けないような絵を描いてやるううう!」という呪詛のような思念が乗っているイラストレーターもいた(描かれたキャラの顔付きが変だった)
ただ、元の画力がBさんとは天地ほどに違いすぎて功を奏してはいなかったが。
例外もあるとはいえ、結局基本はデッサン力と陰影の法則を獲得した者勝ちなのだ。

絵柄そっくりさんC登場

そして漫画界である。
Bさんが快調に連載作品を発表していた頃、メジャー他誌からBさんそっくり(だが基礎画力は7割引程度)の絵柄の漫画家Cがデビューしたのだ。
私は内心「あちゃー…」と思った。
鳥山明と鈴木央よりずっとそっくりなのである(敬称略、以下同)
わざわざ並べて見比べねばCにはBさんほどのデッサン力や画力がないことは素人や初歩の同人作家にはわからないだろう。

Cは元々恐らくBさんの熱狂的フォロワーとは思うが、プロの行状としてはどう考えているのか皆目不明だった。
鈴木央のようにリスペクトに溢れてるわけでもない。
寧ろBさんが鳥山明ほど著名じゃないからBさんの読者が余りいなさそうな他誌でデビューしたのでは、という疑念も湧く。
メジャー他誌の読者はややマイナーな他紙の先達のBさんの存在を知らないのか、Cは(大元のBさんの絵柄が可愛らしいものだから余計に)それなりに人気が出たらしく、連載が矢継ぎ早に繰り出された。

同時にBさんの連載が滞りがちになる。
理由はわからない。
メジャー他誌のCの絵柄ストーキングに気づいているかどうかもわからない。
当時のインターネット上には時々「Bさんそっくりの他誌のCさんってBさんの別名義なの?」という疑問もないことはなかったが、余り多くはなかった。

プロとしてそれをやる真意

法的には問題ないだろう。
絵柄に著作権はないから。
ただ、そこまで絵柄がそっくり(老若男女問わずどんなキャラもBさんの描くそれにそっくり)で、Bさんのいない「メジャー」他誌でデビュー、の真意がわからない。
鈴木央なら分かる。
生まれた時から鳥山明の漫画やアニメに浴びるほどに接してきて骨の髄から憧れてたのだろうから。
Bさんは鳥山明ほどの知名度でもベテランでもなく、寧ろ新進気鋭の新顔作家であった(当時)

新進気鋭の漫画家にそこまで短期間で絵柄のみ寄せて、相手よりメジャーな他誌でデビューという行動が、相手に対する敬意ある行動に見えないのだ。
Bさんがどう思うか、とかBさんのファンが見たら、とかBさんファンに勘違いされたら、とか考えないのだろうか。

年端もいかぬ子供なら丸写しみたいに描くこともあり得る。
しかしメジャー誌デビューし連載の連発である。
絵画的な基礎画力はほぼないがテンプレ二次元としては(憧れだけで絵柄を模写するような初心者にしては)描き慣れしすぎてる。
元々漫画を描き慣れてたところに重機のような勢いで短期間に模写しまくりBさんの絵柄を丸パクリでもしないとああいうやり方はできないのではないだろうか。

Bさんの絵のインパクトは絵柄由来のみではなく、寧ろ重要なのは確かなデッサン力と陰影の法則の理解であるのに。

鈴木央のように骨の髄から憧れるにはCは漫画自体を描き慣れすぎ、手慣れすぎてて、そこに他人の絵柄を丸かぶりさせるには作為がないとできない行動だと思うのだ。

行方知れずになったBさん

以降、Bさんの連載は途切れ途切れになり、やがて途絶え、その後の行方は分からなかった。
掲載誌はのちに休刊になった。
途切れ途切れの時久しぶりに見たBさんの絵柄は変わっていた。
妙なデフォルメが加わって非常に見づらい絵柄になっていた。
あの絵柄をこんな妙なデフォルメに変えなければならない内的必然性は普通に考えて余りないと思う。

一方のCは大手を振ってBさんの絵から基礎画力を7割引した二次元だけ描き慣れた元のBさんそっくりの絵柄で連載を続けたようだ(そもそも本人自体に興味がないので追ってない)
が、数年後には余り見なくなったように思う(私自身余り他人の作品は見ないので、よく知らない)

私は、Bさんの可愛らしく独創的で躍動感に満ち溢れ、しっかりしたデッサンと手練れの陰影遣いだったあの絵柄を捨てなければならなかった理由が未だに理解できないでいる。

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