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「可愛い」を、となえて。

春、大学の入学式。
空いている席に座ろうと、隣の女性に声をかけた。

「初めまして。よろしくね〜」

関西出身の私は、半径1メートル以内の人はみんな友達、みたいな危ない思想の持ち主だった。生粋の名古屋嬢が目をまんまるにして私を見た。

「よ、よ、よろしく。」

構わず、ぐいぐい攻める、関西女。

「え、自分めっちゃ可愛いなあ〜」

あまりのお顔立ちの良さに言葉を選ぶ間もなく、声を発していた。この令和のご時世であれば、初対面の女性に対してセクハラまがいの発言かもしれない。

「よ、よ、よく言われる。」

「よく言われるんや。笑」

彼女の正直さに思わず、わはっはと笑ってしまったことを覚えている。
あとで聞いた話、彼女は、あまりの緊張で何を話したか覚えていないと言う。見た目がクールギャルなので、まさか緊張しているとは一ミリも思っていなかった。


彼女の名前は、りか。
スカートよりも断然ズボン派。スキニーパンツをスラリと履きこなす、キレイめカジュアル系。minaの雑誌がハマりそう。

「可愛い」のを良いことに、自前の手拭いで脇汗をグイグイと拭いたり、一度履いたショートパンツの上からまた別のショートパンツを履くような、意味のわからない人間だった。(本人曰く、どちらにするか選べなかったから、両方履いたとのこと。)

たまたま入学式で隣の席だっただけなのに、私たちは大学の4年間ずっと一緒だった。ギャルとは対極にいるような私と、りかの組み合わせは、自分でも意外で、なぜ仲が良かったのか、今でも不思議なくらい。



ハタチの春。
大好きな人がいた。その彼にどっぷりハマってしまって、付き合ったり、別れたりを繰り返して、心を消耗させていた。

彼の笑った顔とか、話す言葉とか声とか、匂いとか、、本能的に求めてしまう。動物みたいな自分が心底いやだった。


学校の帰り道。りかが言った。

「その人のこと、何がそんなにいいの?」

「うーん、、かわいいところかな。」

「・・・は?」

「私の方がかわいいし。」


りか様が、そう言った。

彼女の正直さに思わず、わはっはとまた笑ってしまった。


りかは「可愛い」。これは、紛れもない事実。
目鼻立ちがくっきりしたお顔立ちで、彼女は恵まれていると思っていた。

けれど、そこにある「美」は、自分を大切にし、日々磨き続けてきたからこそ存在する、「強さ」だとわかった。その「強さ」が、己を「可愛い」と、躊躇いもなく言い退けてしまうのだろう。

不覚にも、彼女にぐっときてしまった。



もうすぐ迎える4月。
りかは私よりもひと足さきに、ひとつ歳を重ねる。

出会った頃の18歳、バカをしていた20代、りかは若くて可愛いかった。すれ違った人が、おもわず振り返るくらい、彼女は魅力的だった。


それから10数年。
私たちは、確実に歳を重ねた。もう若い枠にはハマらない世代になった。

それでも、りかは、変わらず「綺麗」であり続けるのだと思う。そう言い続けることが、そう言われ続けることが、「綺麗」であり、「強さ」になるから。

 
私は、りかみたいにはなれないけれど、
あの時の自分より、今の自分の方がずっと「好き」で、これからも「好き」でい続けると思う。

彼女から、「強さ」を教わったから。



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