真の悲劇のヒロイン ティファ・ロックハート


 FINAL FANTASY 7のエアリスは死ぬ。
 ゲーム事情に詳しくない人でもネットに触れていれば一度は目にした事のある重大なネタバレの一つではなかろうか。
 FF7は、SFCからPSへというハードの進化、それまでのFINAL FANTASYシリーズのキャラクターデザインを行った天野喜考から野村哲也への転換、ドットからポリゴンというグラフィックの進化と共に、ヒロインが物語の中で死に、永久に戦線離脱してしまうことや、主人公の精神崩壊等、画期的なシナリオからシリーズ中でも大変人気の高い作品となっている。
 エアリスの死は当時大きな波紋を呼び、生存をめぐり都市伝説が蔓延するほどであり、近年発表されたリメイク作品においてもいわゆる「エアリス生存ルート」へファンの関心は大きい。
 しかし、私はこのエントリーのタイトルに同作品のもうひとりのヒロインを挙げた。

 FF7の真の悲劇のヒロインは、ティファである。

 ティファのキャラクター性は徹底して「エロティック」だ。
 まず、ティファは短いトップス、ミニスカートといういでたちで露出度が高く、更には大きいバストの持ち主である。しかし、戦闘に不向きな服装や大きなバストがエロティックなのではない。マリオが配管工の格好であることを誰が不自然に思うだろうか。彼に水中ではウェットスーツを着ろという人はいない。その物語の中で言及されないことは、どんなに我々の常識とかけ離れていても、その物語の世界においては全く問題ではないのだ。加えて、キャラクターの身体的特徴は、二頭身のドットでは表現できなかったことの一つでもあるかもしれない。ポリゴンという表現を手にしたスクウェアの一つの挑戦であるともいえるだろう。
 しかしながら、ティファは仲間の制止を振りきり着飾って好色家の元へ潜入し、階段でスカートの中を見られることを気にかけ、戦闘後はわざとらしく胸を強調するポーズを取り、過去回想では「ちょっと背伸びパンツ」が彼女の部屋にあり、ムービーシーンでは必ず乳揺れの描写が入る。明らかにエロティックに、性的な視線が彼女に注がれるように仕向けられている。
 エロティックなキャラクターとして作られたティファは、プレイヤーにエロティックな気分を起こさせるために彼女の長所を強調した紹介がなされる。例えば、献身的、家庭的、控えめ、スラリと伸びた足、かわいい顔。実際に物語で語られるティファのキャラクター性とは乖離している部分もあるが、不幸にも、それはエロのために語られない。ここにティファの悲劇性を見出すことができる。

 ティファは神羅への復讐心から反神羅組織で活動している。同じアバランチのメンバーであるジェシーは、自分たちの作戦で死んだ人々を思い、償いのために死を受け入れた。バレットは最終決戦の前に魔晄炉の爆破を反省し、娘のために星を救うことを決意する。ところが、ティファには反省し、前へ進むイベントが用意されていない。罪を自覚していてもバレットのように守るべきものを持たされず、クラウドがいるならばと最終決戦に向かうのだ。もし、クラウドがミディールで精神崩壊したままならば、他の仲間が北の大空洞へ戦いに赴いたとしても、ティファはクラウドの側を離れず、最終決戦に不参加だったに違いない。
 物語を通して、ティファはクラウドに好意を持っているように描かれているが、ティファの好意とは依存心に他ならない。幼い頃の約束から始まり、最終決戦の直前まで、ティファが最も大事にしているのは守られる自分であり、自分を守ることをクラウドに期待しているのだ。
 インターナショナル版で追加されたイベントに、ティファとクラウドの再会のシーンがある。幼馴染のはずのクラウドの言動に疑念を抱き、目の届く場所でその疑念を確認するためにアバランチの仕事を紹介したという独白がなされるが、何故、仲間に相談しなかったのか。アバランチの仕事は過酷である。様子のおかしい元ソルジャーは、アバランチの仲間に仇なすことがあるかもしれない。ティファは仲間の安全よりも、幼い頃にヒーローになってくれると約束した得体の知れない幼馴染を優先する。その後もパーティーメンバーへ相談する様子は一切ない。それも、ティファ曰く、クラウドが遠くに行ってしまうのが嫌だという自己中心的な考え方からである。それは「控えめ」で「思慮深い性格」だからだろうか。
 クラウドがセフィロスに記憶の改竄を突きつけられ、リユニオンを果たし、生死が不明な状況に陥っても、ティファは変わることはない。クラウドの秘密を隠していたことを仲間に謝罪することもなく、メテオやウェポンの脅威を解決してもらおうとクラウドを探すのだ。ティファがクラウドを求めるのは、好意からとはいえない。
 クラウドの真実の記憶を取り戻す精神世界のイベントについても、ティファは進んで危険を冒してはいない。奇跡的にミディールに噴出したライフストリームに落ち、幼馴染だったことが幸いして、結果的にクラウドの過去の証人になれたに過ぎない。クラウドを助けるために自らライフストリームに飛び込んだわけでもなければ、更に悪いことにはライフストリームの悲痛な声に恐れを抱いたティファは、精神崩壊している状態のクラウドにさえ助けを求めている。

 ティファは幼い。依存心が高く、考えなしで愚鈍な面を持つ。しかし、そのようなキャラクター紹介もなされなければ、物語中でティファの短所について言及されることもない。それは、彼女がエロティックなキャラクターだからである。エロを強調させるため、エロに必要のない、もしくは、都合の悪い性格は覆い隠されているのだ。
 覆い隠されてしまった彼女の短所は物語の中で改善されることはない。ユフィのように難ある振る舞いの理由が語られることもなく彼女は最後まで短所を抱え、そのせいか、誰の一番にもなれないのである。ティファのために戦ってくれる人はいない。命を懸けた決戦の後、ティファのヒーローであるはずのクラウドは、亡くなった恋敵のエアリスに会えると信じていることをティファに告げる。それは続編であるADVENT CHILDRENでも変わらず、星痕症候群に罹ったクラウドは、家族のために家族と支えあって病気と闘うことから逃げ、エアリスの教会で一人死を待つ。
 FF7に、ティファを第一に考えてくれる人はいない。これを悲劇と言わずして何と言おう。それもこれも全ては、ティファがお色気要員としてのキャラクターであるからなのだ。哀れむべきことに、ティファはエアリスには出来なかった「エロティックであること」をその身に引き受け、ファンタジー的要素は全てエアリスに譲ってしまった。それがどんなに悲劇的であることなのか、ここまででお分かりいただけたのではないだろうか。
 一方、ティファがエロティックなキャラクターとして大成功を収めている点は、文句のつけようもない事実である。ティファという一人の女性を思えば、エロのために成長の機会を失い、大切にされなかったことを可哀想だと感じるが、作り手の狙いが正確に的中し、20年もの間人気を衰えさせることなくエロ市場で愛され続けていることも記しておかねばならない。