塗香2

清めの香りと、もう戻らない懐かしい時 〜 京都 鞍馬寺の塗香

先日、京都 鞍馬寺を初めて訪れました。
お参りを済ませ、御朱印を頂き、お守りが並んでいる場所へ向かうと、ほんのりと和な感じのする良い香りが漂ってきました。

その香りはどこかとても懐かしく、例えば、子供の頃にお寺の観音様の前とか、家の仏間を開けた時などに嗅いだことがあるような、そんな香りでした。

鼻をたよりにその香りの正体を探してみると、お守りやお札に並んで、『塗香』と書いてある茶色の袋が置かれているの見つけました。
懐かしい和の香りはこの袋から漂っていたのです。

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塗香の袋を手に取り、しばらく見つめながらその香りを嗅いでいると、なぜかあの世の祖父や祖母、そして、わたしの住む地域の昔の風景が思い浮かんできて、なんとも言えない泣きそうな気持ちになりました。

まさかここで泣くわけにはいかないので、わたしは塗香を買って帰ることにしました。ひとりじっくりこの感情と向き合ってみたいと思ったのです。

ホテルの部屋に戻り、早速塗香を取り出しました。
袋の中を覗くと、薄茶色の粉末が入っています。
とてもいい香りの正体はこの粉末でした。

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恥ずかしながら、わたしは塗香について何も知りませんでしたので、勝手に「ぬりこう」と読んでいましが、スマホを取り出し調べてみると「ずこう」と読み仮名が書いてありました。人に話す前に調べておいてよかったです(笑)

塗香とは、修行や祈りに入る前に身を清めるため、一つまみ身体に塗って使うものだそうです。
その起源はインドにあり、日本でも千年もの歴史があり、これは伽羅や丁子などの香木を粉末にしたものなのだそうです。

塗香について一通り調べると、わたしはとりあえず一つまみの粉末をコーヒースプーンで取り出し、手に乗せて、ゆっくりと両手を擦り合わせました。

そして、姿勢を正して、目を閉じました。
両手で髪を撫でるように頭を清め、身体の周囲に香りを振りまきます。

懐かしい…やっぱり、懐かしい…
昔、住んでいた家のお仏壇が思い浮かびます。
その横には、わたしが書いた書き初めが貼られている風景が浮かびます。
お習字の得意だった祖父は、毎年年明けに孫たちに書き初めをさせ、それを貼って満足気に見つめていました。

祖母の姿も浮かんできます。
毎朝昇ってくる太陽に向かって、仏間から両手を合わせて祈っていました。家族みんなが健康で幸せでありますようにと、祈る祖母が見えてきます。

そして、近くにあった駄菓子屋のおじさん、おばさん
通学路の家で飼われていた「エス」という名のセントバーナード
両親が営んでいたレストランから聞こえてくるパーティの音

あんなにたくさん家族がいて、毎日は賑やかで楽しくて…
でも、わたしは反発ばかりしていて、高校を卒業と同時に家を出て…

今では実家に戻ってはいるけど、わたしはバツイチ子供なしで、現在は母とふたりきりの生活。

わたしは、何か一番大切だったものを大切にしてこない人生を送ってきてしまったのかもしれない…

そう思ったら、急に涙が溢れてきました。
そして、それは嗚咽に近い涙となって、しばらくの間、久々に思いっきり泣いてしまいました。

香りは、昔の記憶を呼び覚ますと言うけど、人生で一番天真爛漫で幸せだった頃の記憶と和の香りがこんなにも結びついていたなんて…
不覚だった…

たまにこうして清めよう、ひとりの時間を作って。
わたしの中に渦巻いている、いろいろな欲とか煩悩とか、ずるくて、邪で、あざとくて、汚れた考え方を、できるだけ清浄にしていきたい…

千年の歴史を持つ香りは、魂を清める効果も半端なものではありませんでした。

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