さいとうさん

【投票のいろは】意義と決め方を考える

*この記事は斉藤亮太様による寄稿記事です。


はじめに


 「投票に行く意味って何だろう」と考えたことはありませんか?
 そんな方にむけて本記事では、選挙と選挙で投票に行くことの意味を説明します。そして、「行こう!」と思ったあなたに、投票先を決める際、どのように投票先を吟味すればいいのか提案します!


1. 選挙はなぜ必要か? 


 そもそも、選挙はなぜ行われるのでしょうか?間接民主主義をとり、私たち国民の代理人として政治家をたてる意味について、先人の言葉を借りながら、確認してみましょう。

 
 よく知り合った少人数の人たちが討論した場合、合議によって素晴らしい決定ができるかもしれません。しかし、議論する主体が大きな組織になってしまうと機能不全に陥り、物事が決められなくなってしまう、と彼は述べています。


 では、どれくらい大きな集団であれば、「大きすぎる」のでしょうか?次は、人類学者のロビン・ダンバーの言葉を借りましょう。
 霊長類を研究していたダンバーは、コミュニティごとの適切な構成人数に関して「ダンバー数」というものを提唱しました。彼によると、「30〜50人の小集団」、「100〜150人の中集団」、「500〜2500人の大集団」を組み合わせて社会を構成するのが集団として生きるために適切なサイズだそうです。つまり、このような規模であれば、お互いに知り合いで、統率がとれた集団として、ひとつになれると主張しています。

 さて、現在、日本には約1億2千万もの人が暮らしています。ダンバーのいう適切なコミュニティサイズは大きく超えてしまいました。リンゼイの言葉通り、これでは物事を直接の議論によって決めることは難しいでしょう。しかし、何も決めなければ私たちは集団として社会で生きていくことができません。
 そのリスクを乗り越えることを背景のひとつとして、「間接民主主義」を運用し始めました。つまり、政治を専門とする人たちを代理人として選び、国会を組織することで政治を行おうとしたのです。
 日本の衆議院は480人(現在465人)で、参議院は248人です。ダンバー数から考えると、衆議院は大集団で、参議院はふたつの中集団で構成されています。1億2千万人の社会を運用するために、適切なサイズの組織が「国会」として運営されている、と捉えることができます。
 国という大きなコミュニティで民主的な意思決定を行うためには、適切なサイズの集団である国会が必要です。だから、その代理人を選ぶ選挙は必要なのだと私は考えます。


2. 投票はなぜ重要か?

 衆議院や参議院の議員を選ぶ投票という行為がなぜ大切なのか考えたことはありますか?
・自分の意見を表明する場だから
・民主主義国家の国民として投票するのは当然だから
・政治は私たちの生活に結びついているから
 いずれの考え方も正しいのではないでしょうか。

 ここで、リンゼイの言葉を再び借りてみましょう。
 リンゼイは、民主主義の重要なポイントは、「国民が実際にたずさわること」だと述べています。さらに、民主主義の価値は「それが、かれら自身の統治であり、同時に、そこでは、すべてのひとが主権者たりえ」ることにあり、自らを統治している実感こそが重要だとも述べています。その実感がなければ、民主的政治社会は崩壊してしまうのです。

 しかし、議会制民主主義で政治が営まれている現代において、みなさんに「自らを統治している/民主社会に生きている実感」はあるでしょうか?
 私たちが持つ、「自らを統治するという実感」を伴った瞬間は、投票の際だけではないでしょうか?
 投票をしていなかったり、投票をしてもその実感を一人ひとりが感じていなければ、民主主義の重要なポイントが失われてしまいます。

 ここまで読んで「よし。投票に行こうか!」と思ってくださったみなさんと共に、次はどう投票先を決めれば良いのかを考えてみます。


3. 投票先を決めるときのポイント:政策編

 選挙区で投票するときに注目してほしいものは、候補者ごとの政策と人間性です。
 一方で、比例区で投票するときには、党ごとの政策が重要になります。
 つまり、どちらも、政策の吟味が重要です。しかし、現代の複雑化した政策についてよく考えようとするとき、どのようなことから考え始めればいいのでしょうか。

3.1 政策ってどう吟味するの?

政策を吟味する際は、上記3ステップを経ることをおすすめします!

STEP①各党の政策を比べてみる
 まずは、政党の政策集にアクセスして、ザッと目を通してみましょう。インターネットを用いれば、簡単に各政党のウェブサイトから政策集にアクセスすることができます。
目を通したあとは、自分に関心のあるテーマについて、各党の政策を比較してみてください。

STEP②各政策に関して、参考にしたい解説資料を集める
 関心のある政策課題に対して、マスメディアによる情報を集めてみてください。メディアや発信している個人は中立とは限りません。SNSやまとめサイトに転がっている情報には、あまり振り回されないようにしましょう。情報にはバイアスがかかりうることを踏まえた上で、「社説」記事のような各社のオピニオン部分や、政策が現状に即したものなのかを検討するための事実が多く含まれた記事を読むことをおすすめします。
 
STEP③自分の立場を振り返り、政策の賛否を判断する
 政策集と、それに対する各社のコメント、また解説資料をつきあわせて考えてみましょう。最終的に大切なのは〝あなたがどう考えるか〟です。

3.2 左派や右派といったスタンスって何?

 さて、投票先や政策を考え始めた際にぶつかる言葉として、「右派/左派」、「右翼/左翼」、「保守/革新」といったものがあります。政党や政治家に対するラベリングとしてもよく見受けられるものですが、この言葉に左右されて思考停止になることがないよう、改めて日本におけるこういった言葉への向き合い方を考えてみることにしましょう。
まずは、辞書での意味を確認してみましょう!

さは【左派】:左翼の党派。また、政党などの内部で急進的または革新的な立場をとる派。
うは【右派】:右翼の党派。また、政党などの内部で保守的な立場をとる派。
※ともに広辞苑 第七版 2018年1月12日発行より引用

 さて、辞書的な意味からだけでは、各政策を左派/右派とあてはめ、理解に役立てることは難しいです。このようなイデオロギースタンスは、現在の日本においては政党ごとに左派だ、右派だ、と割り切れるものではありません。わたしは、スタンスというものは、現状に対してどのような政策的変更を加えようとしているかという部分にまつわるものであり、その理解のためには、ひとつひとつの政策の中身を確認していく必要があると考えています。

3.3 どこから見て右派?左派?


 ひとつひとつの政策について、イデオロギースタンスを理解するとはどのようなことなのでしょうか。いくつか私の意見に基づいて、例をあげて説明してみます。

 日本の社会保障制度に注目してみましょう。国民皆保険や年金といった制度は、社会主義的な色彩がつよいです。すると、これらの分野については、大きな政府を標ぼうする左翼が保守、小さな政府を標ぼうする右翼が革新派という見方ができます。

 ほかにも、現行憲法について、改正を目指している政党は、革新派ないし急進派と捉えることができます。この場合、改憲案に反対している政党は保守派に属します。さらに、現行憲法を維持しながら、不足を補う改正をおこなう「加憲」というスタンスをとっている政党は中道に属するスタンスであると理解できます。「中道」とは、極端な政策をとらず、穏当に物事をすすめようとする姿勢のことを指します。

 お分かりいただけたでしょうか。右派は保守として現状のすべてを肯定するわけではなく、その逆もしかりです。

 右派・左派・中道というイデオロギースタンスは、自分や政党の意見を整理する時に切り口のひとつとして用いることができます。

 一方で、現代においては、政党ごとにイデオロギーでくくり、ひとつの政党が掲げる政策をすべて右派/左派とまとめてしまうことはできません。そのような大雑把な括り方をして、思考を止めてしまうことなく、ぜひ政策ごとの吟味の入り口としてほしいです。


3.4 今回の参院選で注目すべき15個の政策分野


 最後に、「自分の重視する分野がどこなのか、わからない!」という方にJAPAN CHOICEが提案している今回の参院選争点として15の政策分野を紹介します!

 これらの分野について、各政党の政策とあなたの意見を照らし合わせてみれば、複雑な政策を吟味する入り口がみえてくるのではないでしょうか。


4. 投票先を決めするときのポイント:人柄編


 政策の他にも実際に演説やタウンミーティングを聞きに行くなど、候補者と直接触れ合う機会をもつことも投票先を決める際に重要なことです。
 掲げている政策とニュアンスの異なる発言をしていたり(実はよくあります)、
 柔和なポスターの表情とは打って変わって、横柄な印象を受けたり、また強面に見えたのに、実際に会うとかわいらしい方であったりと
実際に候補者に会うことで、様々な発見があり、おもしろいです。 現実の印象と政策をつきあわせて投票先を決めると、さらに深みのある投票ができるのではないでしょうか。


5. 最後に


 選挙の際にわたしたちにできることは、民主主義の中で、自分にとってベターな政治家を選ぶことです。よりよい候補者に政治を任せられるように、彼らが何をしようとしているのか・どんな人なのかに着目して、ぜひあなたの投票先を決めてください。



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参考文献:
①A.D.リンゼイ、永岡薫訳(1964)『民主主義の本質 -イギリス・デモクラシーとピュウリタニズム』、未來社
②プラトン、藤沢令夫訳(1979)『国家〈上・下〉』、岩波文庫
③佐々木毅(2007)『民主主義という不思議な仕組み』、ちくまプリマー新書
④宇野重規(2013)『西洋政治思想史』、有斐閣アルマ
⑤飯尾潤(2007)『日本の統治機構 ―官僚内閣制から議院内閣制へ』、中公新書

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