経済政策

【2019参院選】15争点で公約を比較してみた【経済政策編】

 本記事では、JAPAN CHOICE 公約比較 サービスと連動して、15個の争点について、解説を行っていきます! 表だけでは伝わらない、争点の構造や争点をめぐる経緯について各争点1記事ずつにまとめました。15の争点、今回は【経済政策】についてです。


1. はじめに

 2019年1月に内閣府によって刊行された「日本経済2018-2019」によると、日本経済は緩やかな回復を続けており、景気回復の長さでは戦後最長と並んだ可能性があるとされています。しかし同時に、2019年2月にマスコミ各社が実施した世論調査では「景気回復に実感していない」との回答が軒並み70%付近になるという状況となっています。経済政策は国民の関心が特に高い争点です。本記事では主に、各政党の経済成長に対する姿勢を取り上げ比較していきます。


2. ▷アベノミクス

 2012年に安倍政権が誕生し、デフレスパイラルからの脱却を目指して導入されたのがアベノミクスでした。
デフレスパイラルとは、
物価が下落するデフレ状態に陥る→企業の業績が伸びない→賃金が伸びない→国民が消費をしない→物価が下落する→・・・ 
という連鎖のことです。

アベノミクスはこの脱却のために「3本の矢」を掲げ、これは2015年以降に「新・3本の矢」として進められています。
それではその中身について簡単に解説します。

第一の矢 大胆な金融政策
世の中に出回るお金(円)を増やすことによって、物価を上昇させてデフレを脱却し、経済を活性化させようという政策です。「異次元の金融緩和」とも呼ばれ、今回の参院選でも複数の政党が争点として公約で取り上げています。

具体的には?
2%の物価安定目標を実現すべく、短期金利をマイナス0.1%、長期金利をゼロ%程度に誘導する大胆な金融緩和を行っています。


第二の矢 機動的な財政政策
デフレ脱却をよりスムーズに実現するため、巨額の税金を用いて公共事業投資を実施し、雇用を生み出そうとするものです。持続的成長に貢献する分野に重点を置き、成長戦略へ橋渡しするという方針です。

第三の矢 民間投資を喚起する成長戦略

民間需要を持続的に生み出し、経済を力強い成長軌道に乗せていきます。投資によって生産性を高め、雇用や報酬という果実を広く国民生活に浸透させていくことが目指されています。


そしてこの3本の矢をパワーアップ(踏襲)したのが、「新・3本の矢」となっています。

▼「新・3本の矢」

第一の矢 希望を生み出す強い経済
・名目GDP500兆円を戦後最大の600兆円に
・中身はほぼ「3本の矢」と変わらず、これを踏襲・強化するとしています。
第二の矢 夢を紡ぐ子育て支援
・現在1.42の出生率を1.8に
・幼児教育の無償化、結婚支援や不妊治療支援
第三の矢 安心につながる社会保障
・介護離職をゼロに


2.1▶アベノミクスに対する評価


 さて、ではこのアベノミクスを軸とした成長戦略に関して各政党はどのような評価を行っているのでしょうか。

①アベノミクスを評価する立場
 与党は、アベノミクスの成果を主にGDP、企業収益、雇用/所得環境の3点から経済の好循環を生んでいると評価しています。

・GDP
2012年:約495兆円→2019年:約558兆円

・雇用/所得環境
主に失業率の低下、有効求人倍率の上昇、名目賃金の上昇から、環境が改善したとしています。
統計不正調査の発覚により疑問視されましたが、麻生財務大臣は「雇用・所得環境は改善しているという認識に変わりはない」と回答しています。

また、公明党は企業収益も過去最高水準を記録したとして評価しています。


②アベノミクスを評価しない立場

 野党は日本維新の会を除いて軒並み、アベノミクスを評価しない立場をとっています。

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③評価に言及していない(日本維新の会)
 野党のうち日本維新の会のみはアベノミクスに対して「業界団体に支援された政党は改革をできない」としながらも、評価に関しては言及していません。

 上記のように、ほとんどの野党はアベノミクスに対してマイナスの評価をしています。特にアベノミクスに対する批判の中心は「金融緩和はやめるべき」と「民間消費を中心に」の二つとなっています。後者の、いわゆるボトムアップの経済成長に切り替えるべきだという主張は野党の中心的な経済成長戦略の一つとなっています。


3. ▷今後の経済成長戦略~ボトムアップかトリクルダウンか~


 安倍政権に対する批判的な意見として取り上げられるのが、アベノミクスを初めとする経済政策がトリクルダウンを狙ったものであるというものです。トリクルダウンとは「滴り落ちる」という意味で、経済においては「富める者が富めば、やがて貧しい者にも富が滴り落ちる」という考え方を指します。このトリクルダウンに対しては、有効な所得再配分政策を講じなければ、富は必ずしも低所得者層に向かって流れず、富裕層に蓄積し、貧富の格差は拡大する、との批判があります。
 アベノミクスがこのトリクルダウンを狙ったものであるという根拠の一つに、2014年10月3日の第187回国会の予算委員会での安倍首相の発言があります。

「株価でありますが、それは一部の人たちだけが利益を得るのではなくて、いわば株が上がっていく、株を持っている人は資産がふえますから、資産効果としては、例えば給料やボーナスが上がったよりも大きな効果があって、これは消費につながるんですね。消費につながって、買い物をすれば、その物をつくっている人にとってはプラスになっていって、その後は、収益が上がった企業が、これは賃金になっていけば、消費から賃金に、こうなっていくわけでありまして、これが景気の好循環であります」

 この株価の上昇で富を受けるのは結局のところ資産家であるとの指摘がなされています。また、法人税の軽減(2012年度39.54%→2019年度29.74%)も企業優遇であるとの批判が出る要因となっています。

 これに対して安倍政権は
・企業に対して賃金の上昇を要求していること
・最低賃金の上昇を果たしてきたこと
などを示し、「トリクルダウンは狙っていない」としてきました。

実際に、政府は2012年から毎年経済界に賃上げ要求、2018年には初めて「3%」という具体的な数字に触れました。また、最低賃金は2012年時点の652円から2018年には761円に上昇しています。


3.1▶各党の立場


 それでは、各政党はこのような応酬が繰り広げられる中で具体的にどのような経済成長への方針を掲げているのでしょうか。各党の立場をより詳細に取り上げていきます。

①これまでの方針を踏襲していくべきだとする立場(自民党・公明党)
 自民党と公明党は安倍政権で出してきた多くの実績を根拠に、政策を総動員することによって経済の好循環を今後も継続させていくべきだという立場をとっています。

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②ボトムアップの経済成長に切り替えていくべきだという立場(国民民主党、立憲民主党、日本共産党、社会民主党)
 野党は軒並みボトムアップの方針に切り替えるべきだとの立場をとっています。国民民主党、立憲民主党、日本共産党は特に家計を盛り上げることに重点をおいています。

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 また、日本維新の会は、供給者から消費者優先への転換や再チャレンジが可能な社会づくり、グローバル経済に対応できる産業構造への転換などを打ち出していますが、特に規制緩和を推進して経済成長を実現することを強く主張しています。


最後に


 経済政策は、数ある争点の中でも有権者の関心が非常に高い一つとなっています。これまで与党が行ってきた経済政策に対してどのように感じ、今後どのような方針をとってくべきなのか。ぜひ、景気回復に対する実感はあるのかどうか、自身の生活に各党の方針がどのようにかかわってくるのかを考えつつ各政党公約を比べてみてください。


▶︎ シリーズ15の争点 他の記事はこちら

★この記事はJAPAN CHOICEと連動して各党の公約を分析したシリーズです。ぜひ他の記事・サービスもご利用ください。

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内閣府(2019)「日本経済2018ー2019 -景気回復の持続性と今後の課題-」内閣府<https://www5.cao.go.jp/keizai3/2018/0125nk/keizai2018-2019pdf.html>
内閣府「安倍内閣の経済財政政策」<https://www5.cao.go.jp/keizai1/abenomics/abenomics.html>
自民党(2014)「アベノミクスの実績」自民党<https://www.jimin.jp/election/results/sen_shu47/political_promise/achievements/index.html>
上野奏也(2019)「景気回復が「実感できない」理由を考えてみた」日経ビジネス<https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00122/00012/>
深尾京司(記載なし)『「失われた20年」の構造的原因』RIETI<https://www.rieti.go.jp/jp/publications/rd/058.html>
産経新聞「麻生財務相「雇用・所得環境は改善しているという認識に変わりはない」」(2019年2月1日)<https://www.sankei.com/economy/news/190201/ecn1902010032-n1.html >
日本経済新聞「アベノミクス「新3本の矢」を読み解く」(2015年9月25日)<https://www.nikkei.com/article/DGXZZO92034300U5A920C1000000/>
日本経済新聞「首相、6年連続賃上げ要請へ 消費税増税に備え」(2018年12月25日)<https://www.nikkei.com/article/DGXMZO39325540U8A221C1PE8000/>


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