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【そもそも参議院ってなに?】 ②歴史に学ぶ、参議院抵抗史

はじめに

 いよいよ参議院選挙が3年ぶりに実施されます。
そこで、改めて皆さんと考えてみたいテーマがあります。

「参議院に意味はあるのでしょうか。」

 現在、自民党と公明党に支えられている安倍内閣は、衆議院だけでなく参議院でも過半数を占めています。衆議院で成立した法律は、参議院でも成立することはわかりきっているのに、もう一度審議するという一見無駄な行為をしているのです。

 しかし本当に参議院は無駄なのでしょうか?

参議院、特に参議院の自民党が歴代政権に対して示してきた存在感を振り返ってみれば、そうとも言い切れないことがわかります。衆議院や内閣に参議院がどう対処してきたのか、振り返っていきましょう。

 1.議長の時代~自律する参議院自民党~

 1950年代半ばからの一時代は、参議院の自民党議員が一致団結し、内閣や衆議院に対抗していた時代でした。
参議院が創設された当初、多くの議員が無所属で、しかも「緑風会」というグループを作り、ときに政府に賛成、ときに反対、と自立して行動していました。この緑風会議員の賛成をどう取り付けるか、歴代内閣は苦心したのですが、1956年、ついに与党・自民党が過半数を掌握します。しかし、その後も政府は参議院に悩まされました。法案を通すためには与党・自民党の参議院議員が賛成する必要がありますが、影響力を持つ議長を中心に議員たちは団結し、内閣や党本部を恐れることなく行動したのです。例えば第5~7代議長の松野鶴平は、自分が推薦した議員が大臣になれなかったことを不満に思い、内閣への仕返しとして重要法案を1本廃案にしました。その後継者で同様に大きな権力をもった第8~10代議長の重宗雄三は、党本部の要請を受けて、ルール違反スレスレのやり方で重要法案の成立に協力しました。
 しかし、重宗が議長を辞めた1971年以降、状況は大きく変わります。勝手に動く参議院を嫌った自民党は議長に実力者を就けさせず、公平性のため議長就任後は政党からも離脱するようになります。また、参議院にも進出しはじめた「派閥」が、それまで1つにまとまっていた参議院自民党を分断し始めます。参議院が再び力を持つには、1990年代まで待つ必要がありました。

 2.脱派閥の時代~「参議院のドン」の出現~

 1990年代、弱っていた参議院自民党は再び力を持ち始めます。議員たちを分断していた「派閥」が力を弱めたのです。参議院自民党が団結できる環境が整い始めると、再び参議院に実力者が現れました。いわゆる「参議院のドン」、村上正邦や青木幹雄です。村上は、政府の法案に問題があると堂々と反抗した上、政府の望まない修正をして可決させたこともあります。青木は、自民党の古いあり方を嫌う小泉純一郎が首相の時に参議院に君臨しましたが、小泉も青木と参議院には配慮をしました。例えば、参議院議員から誰を大臣にするか決めるとき、小泉は素直に青木に従い、小泉が自民党本部と大ゲンカした郵政民営化についても、参議院の修正提案には耳を傾けました。
 一方で、参議院議員それぞれも政権に対して自律的に行動しました。その最たる例はやはり郵政民営化です。自民党が強く反対した郵政民営化法案は、解散がなく、それゆえ失職する心配もない参議院議員が大量に反対し否決、首相に再考と修正を迫りました。

 3.ねじれの時代~抵抗する参議院~

 これまでの自民党政権は、公明党などと協力し参議院でも過半数を確保していましたが、第1次安倍政権が2007年の参院選で敗れ、与党が参議院で過半数の議席がない「ねじれ国会」となると急変します。自民党は参議院で、民主党など野党の徹底的な抵抗を受けました。例えば、国会の同意が必要な日銀総裁人事について、政権の人事案が民主党の理解を得られず、総裁が20日間に渡り空席となる異例の事態となりました。別のある法案は民主党が参議院でなかなか審議を始めず、2度国会を延長し、ようやく衆議院で再可決し成立させることが出来ました。自民党政権はねじれ国会に揺さぶられ続け、毎年首相が交代する混乱ぶりでした。
 しかし、ねじれに苦しめられたのは自民党だけではありませんでした。2009年の衆院選で政権交代を果たした民主党は、1年もたたないうちに参院選で敗北、またねじれ国会が始まります。当時の野田佳彦首相は、消費増税や社会保障改革を含む法案を野党である自民・公明と合意し、参議院を通過させることに成功します。しかし、逆に民主党内の増税反対派が離脱し、分裂状態のまま挑んだ総選挙で惨敗しました。かつて参議院で自民党を苦しめた民主党は、参議院に苦しめられ政権を失ったのです。自民党の第2次安倍内閣が成立しても、ねじれが解消するにはさらに半年後の参院選を待つ必要がありました。

 4.一強の時代とその先へ

 2013年の参院選でねじれを解消した安倍政権は選挙に連勝し、2016年には27年ぶりに自民党のみで参議院過半数を回復(1)、「安倍一強」とも言われるこの勢いに乗って様々な政策を推進しています。では、安倍政権で参議院は無力なのか?必ずしもそうではありません。例えば、2015年の安全保障関連法案の審議では、法案自体には賛成する参議院の保守・中道系小政党の申し入れを受け入れ、修正案を可決させました(2)。
 参議院自民党も復権の兆しを見せました。2016年、自民党参院幹事長に吉田博美が就任すると、組織的犯罪処罰法改正(テロ等準備罪を新設)やIR法案(いわゆるカジノ法案)の審議において参議院自民党の自律的な立場を貫き、法案を通す際や大臣を決める際に、安倍首相が配慮せざるを得なくなるほどの影響力を示しました(3)。ただ吉田幹事長は今年の参院選に立候補せず引退することをを表明しており、今後この独自色を維持できるかは不明です。


まとめ


 参議院がどういう働きをするかは、そのときの政治情勢や政党・官邸のパワーバランス、様々な政治制度によって大きく変わってきます。参院選で敗北し過半数を確保できないと、内閣は苦しい政権運営を強いられ行き詰まります。一方参議院で過半数をとっていたとしても、強いリーダーがいれば参議院を思うがままに動かすことはできません。

 ただ少なくとも言えるのは、参議院は皆さんの想像以上に、日本政治で影響力をもってきたということです。衆院選とは違って政権を選ぶわけでないし、参議院なんて何もしていないから、参院選なんて行っても無駄…そんな観念を、少し変えてみませんか?


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【参考文献】
1~3章の出典
竹中治堅(2010)「参議院とは何か:1947~2010」中央公論新社.
4章の出典
(1)ハフィントン・ポスト「自民党が参院単独過半数へ、平野達男元復興相が入党届け提出」(https://www.huffingtonpost.jp/2016/07/13/story_n_10955766.html)2016年7月13日
(2)産経新聞「次世代など3党、安保修正案提出合意 自公に協議呼びかけ」(https://www.sankei.com/politics/news/150825/plt1508250017-n2.html)2015年8月25日
(3)産経新聞「『参院自民党』が復権!? 青木幹雄氏以来の「ドン」誕生 内閣改造や国会で存在感」(https://www.sankei.com/premium/news/170830/prm1708300005-n1.html)2017年8月30日


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