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【2019参院選】15争点で公約を比較してみた【憲法編】

 本記事では、JAPAN CHOICE 公約比較 サービスと連動して、15個の争点について、解説を行っていきます! 表だけでは伝わらない、争点の構造や争点をめぐる経緯について各争点1記事ずつにまとめました。15の争点、今回は【憲法】についてです。

1. はじめに:背景

 日本国憲法は1948年に施行され、すでに70年以上、一切姿を変えず今日まで至ってます。1955年に結党された自民党は、新しい憲法の制定を掲げていたもののこれまで達成できていません。
 戦後日本では、自民党など保守政党が改憲の立場を、社会党など革新政党が護憲の立場を取り対立してきました。2019年になるまでに徐々にこの対立軸は変化しつつありますが、依然として大まかな対立構造は昔と変わっていません。
 自民党や日本維新の会は改憲に積極的で、自前の改正案も発表しています。立憲民主党や国民民主党、公明党は、憲法改正自体に反対はしませんが、慎重な姿勢を見せています。20世紀の日本政治を革新政党としてくぐり抜けた共産党や社民党(社会党の後継政党)は、一切の改正に反対する護憲の立場を鮮明しています。

1.1 ▷9条改正

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 憲法第9条は、戦後の日本政治を象徴するキーワードです。これを1つの軸として政治が展開されてきたと言っても過言ではないでしょう。60年日米安保問題から90年代のPKO法、そして21世紀での集団的自衛権・安保法制問題に至るまで、常に9条が大きなテーマとなってきました
 9条は、「平和主義」を規定しているとされています。第1項の戦争放棄の内容は世界的にも珍しくないのですが、第2項で軍隊及び交戦権の放棄を定めているのが、世界的にもほぼ日本だけという、特徴ある条文です。憲法に従い、日本は公式には「軍隊」をこれまで保有してきませんでした。
 しかし実際には、1950年にGHQ(第二次大戦後日本を占領していたアメリカ主体の組織)から再軍備要請が出されると、政府は「警察予備隊」を創設し、その後1954年に「自衛隊」を発足させます。今日自衛隊は世界でも屈指の「実力」を有する組織となっています。
 では政府は、軍隊保持を禁じた9条2項と、国際的には軍隊とみなされている自衛隊との整合性をどう保ってきたのでしょうか。政府は2項の「戦力」を狭く解釈することで、解決を試みています。まず前提として、国家には固有の自衛権があると考えます。そして政府は、この自衛権と、9条1項が明確に禁ずるような「戦争」を分けて考え、戦争は禁じられているし「戦力」の保有は認められていないが、自衛権の行使は1項は禁じられていないし自衛のための必要最小限度の「実力」を保持することは問題はない、そして自衛の範囲内での「武力の行使」をする、という立場をとっています(1)。
 こうして自衛隊は今日までおよそ65年にわたって活動してきたのですが、憲法を重んずる人々からは長らく批判を受けてきました。憲法を素直に読めば、自衛隊の存在には疑義が生じるともいえます。朝日新聞が2015年に行ったアンケートによると、現在でも6割強の憲法学者は自衛隊を違憲、あるいは違憲の可能性があると捉えています(2)。他方、自衛隊自体は厳しい環境の中で、常時国を守るために活動し、もはや国家にとって欠かせない存在となっています。災害時の出動などによって日本国民にも好意的に受け止められています(例えば内閣府調査では、概ね90%の国民が自衛隊を好意的に受け止めている(3))。この現実と憲法学の衝突をどう解決していくか。これがここでの争点です。

1.2 ▶現在の争点

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(文章は産経新聞「【自民党大会】『改憲4項目』条文素案全文」(https://www.sankei.com/politics/news/180325/plt1803250054-n1.htm)2018年3月25日

 自民党はこの衝突を避けるべく、憲法の方を現実に引き寄せようとしています。上に掲げたのは自民党の9条改正案で、9条自体は維持した上で「9条の2」を新設し、そこに自衛隊を明記しようとしています。従来の解釈どおり日本国憲法は自衛そのものを禁止していないという立場から、そのための組織として自衛隊を置くことを明記しています。
 これに対しては、いくつか批判が考えられます。まず、現在の憲法解釈と変わらないし、国民も自衛隊を受け入れているのだから、そもそも改正をする必要がないのではないか、というもの。また、9条の2を挿入することで、軍備禁止を定めた9条2項が無効化するのではないか、という批判もあります。立憲民主党など、野党共闘する各党は改正に反対し、連立与党である公明党も慎重姿勢を示しています。上で述べた通り、憲法学的にはいまだ自衛隊は法的に全く疑義のない存在とはいえません。そのあたりの整合性、現実と憲法との乖離、自衛隊をどう捉えていくかが大事になってきます。純粋に自衛隊の存在を明記するだけで全ての問題が解決するわけではなく、既存の9条1項、2項との関係が非常に複雑になる点も、この問題を難しくする要因です。

1.3 ▶その他

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 9条以外にも各党はどう憲法を改正すべきか、議論をしています。

2. 他の争点

2.1 ▷解散権

 まず解散権の制約について。日本国憲法第7条により、衆議院の解散は内閣が自由に決めることができるように解釈、運用されています。具体的には7条は、天皇が内閣の補佐(「助言と承認」)によって衆議院を解散できると定めているのですが、天皇が内閣に逆らうことは想定されておらず、憲法上も認められているとは考えられていないため、内閣が天皇に「助言と承認」さえすればいつでも衆議院を解散できるようになっています。さらに、一般に首相の意向に各大臣が逆らうことはないため、この権限は「首相の専権事項」と呼ばれています。

 解散権を制約することで、衆議院議員が解散・総選挙を疑って浮足立つことはなくなるという利点があります。野党は、安倍内閣が過去2回した衆議院の解散を、与党が勝てるときにした解散だと批判しています(4)(5)。今回の参院選も、直前まで衆議院の解散があるかどうか、野党は翻弄されていました。この解散を制約することで、落ち着いた議論が期待できるというのです。
 もちろん、欠点も考えられます。これまでの日本政治は、衆議院の解散という形で頻繁に民意を議席に反映してきました。例えば2005年、小泉内閣は、参議院で郵政民営化法案が否決されたとき衆議院を解散、「郵政選挙」に持ち込み圧勝しました。そしてその結果を受けた参議院は、選挙前に否決したときと議員は変わっていないにもかかわらず、民営化法案を可決しました。日本には改憲以外での国民投票制度は設けられていません。そうした中で、政治と国民の溝をなるべくなくす一手段としての自由な解散権の果たしてきた役割は否定できません。もっとも、このような指摘に対しても、首相による解散がなくとも3年ごとの参院選や4年ごとの衆院選でも十分に民意の反映は実現できるはずだ、解散を、69条に基づき内閣不信任決議案が可決された場合のみに限定することが妥当である、という批判がありえます。
 日本国憲法のもとこれまで衆議院が任期満了で選挙を行ったのは1回しかない事実や、首相が自由に解散権を行使できる現状をどう捉えるべきでしょうか。


2.2 ▷新しい人権

 新しい人権とは、日本国憲法が定められてから認められるようになった人権のことです。日本国憲法は1947年に公布されて以来一度も改正されていませんから、20世紀後半や21世紀になって生まれた新しい人権は、当然憲法に明記されてはいません。


2.3 ▷統治機構・教育無償化・緊急事態条項

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 その他一部の政党は、日本の統治システムの変革を明記する改憲も提案しています。
 統治機構改革には、道州制導入や参議院改革、憲法裁判所の導入が挙げられます。

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 教育無償化については、憲法に書かなくても実現できるという批判があります。現在憲法は教育に関する権利義務を規定するだけで、具体的に何が義務教育なのか定めているのは学校教育法という法律です。したがってこの法律を改正してしまえば、大学教育の無償化を行うことも可能なのです。ただし、法律のみでこれを定めている場合、国会の過半数を確保すれば大学教育無償を撤廃することが可能となる一方で、憲法に規定すれば衆参両院の2/3以上+国民投票で過半数の賛成を得なければならないという具合に、改正のハードルが一気に高くなります。時の政権の意向で簡単に変わらないようにするという点では意味があるともいえます。

 

3. 最後に

 緊急事態条項は、国会で議論して対策を決めている余裕がない重大な緊急事態が発生した際に、一時的に内閣に国会を超える権力を与え、対処させるものです。外国では他国の攻撃や大規模災害の際に認めている例が少なくありません。自民党が提示している案は大規模災害に限定していますが、こうすることで万が一首都直下型地震などで国会機能がマヒしても、行政府による対処が可能になります。一方、歴史的にも緊急事態条項は悪用されたケースがあり、強力な権限によって独裁への道を開くのではないかという懸念もあります。


▶︎ シリーズ15の争点 他の記事はこちら


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(1)防衛省・自衛隊「憲法と自衛隊」(https://www.mod.go.jp/j/approach/agenda/seisaku/kihon02.html)(2)朝日新聞「安保法案 学者アンケート」(https://www.asahi.com/topics/word/安保法案学者アンケート.html)2015年6月30日付の回答(3)内閣府「自衛隊・防衛問題に関する世論調査」(https://survey.gov-online.go.jp/h29/h29-bouei/index.html)2018年1月(4)2014年総選挙について、例えば民主党「『何の大義名分があって解散するのか』海江田代表、安倍総理による大義なき解散総選挙を批判」(https://web.archive.org/web/20141208102213/http://www.dpj.or.jp/article/105456/「何の大義名分があって解散するのか」海江田代表、安倍総理による大義なき解散総選挙を批判)2014年11月17日(5)2017年の総選挙について、例えば産経新聞「小池百合子都知事『目的、大義わからず』」(https://www.sankei.com/politics/news/170918/plt1709180022-n1.html)2017年9月18日
その他参考文献佐藤幸治「日本国憲法論(法学叢書7)」成文堂、2011
解散権については、AbemaTIMES「解散権は本当に総理の専権事項なのか?「7条解散」の矛盾…世界のトレンドは"制約"へ」(https://abematimes.com/posts/2974820)2017年9月20日も参考にどうぞ


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