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【2019参院選】15争点で公約を比較してみた【働き方改革編】


 本記事では、JAPAN CHOICE 公約比較 サービスと連動して、15個の争点について、解説を行っていきます! 表だけでは伝わらない、争点の構造や争点をめぐる経緯について各争点1記事ずつにまとめました。15の争点、今回は【働き方改革】についてです。

1. はじめに:背景

 働き方改革が話題となったのはもともと、2012年に発足した安倍政権の掲げる経済政策「アベノミクス」において、この働き方改革が主軸の一つにおかれたことがきっかけとなっています。政府は、2016年9月に、「働き方改革」の具体策をまとめる「実現会議」の初会合を首相官邸で開き、一部法改正も行ってきました。また、そうした動きのさなか、2016年12月に電通女性社員の自殺が労災と認められたことが社会的に大きな波紋を呼び、この働き方改革を求める声はより大きくなっていきました。
 政府が働き方改革を進めることとなった背景には、今後の労働力人口の減少と労働生産性の低迷という二つの事実があります。2018年度の労働力人口は高齢者や女性の労働参加率の増加に伴って2017年度と比べ110万人増加していますが、少子高齢化により長期的に減少していき2065年には4000万人にまで減少する(現在の約4割)と予測が立てられています。減少していく労働力に対して今後の経済を支えていくためには労働生産性が重視されますが、日本における労働生産性は1970年代からずっと主要先進国中最下位の状態にあります。この労働力人口の減少と労働生産性の低迷に対する危機感が働き方改革推進を生みました。そして2017年衆議院選挙を経て、政府は2019年4月施行の「働き方改革関連法」を策定しました。

2. 【働き方改革の柱】

 働き方改革は主に、「長時間労働の是正」、「賃金格差の是正」、そして「働き手の多様化」の3つの柱に分かれています。

2.1  ▷長時間労働の是正

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 日本における長時間労働は、過労死という言葉が英語でも「karosi」と表記されるほどに日本独特の社会問題です。2018年に発表された国際労働比較において日本は、週49時間以上の長時間労働をする就業者(パートタイムを含む)の割合は2016年時点で男女併せて20.1%と他の主要先進国に比べて特に高い結果となっています。

 働き方改革関連法においては、これまで法的に上限が定められていなかった残業時間に上限を定め、これを超える残業ができないように改正しています。原則として月45時間・年360時間とし、臨時的な特別な事情があっても年720時間以内・複数月平均80時間・月100時間未満と定められました。大企業は2019年4月より施行、中小企業は2020年4月から施行予定です。

 今回の参院選における各党の立場を見ていきましょう。与党である自民党と公明党は、長時間労働の是正に関して、上記で取りあげた従来の働き方改革を進めることを明記しています。これに対し立憲民主党、共産党と社会民主党は主に、高度な職業能力を有する労働者を対象に労働時間ではなく成果によって賃金を支払う「高度プロフェッショナル制度」の導入が働き方改革に含まれていることに関して反対する立場をとっています。立憲民主党と社会民主党は、残業を抑えるにあたって「11時間の連続した休息時間」を義務化したインターバル制度を導入することを公約として掲げています。国民民主党は、働き方改革に対する明確な立場を示していないながらも、インターバル制度の導入や、裁量労働制の厳格化、法令違反に対する罰則強化を含んだ「安心労働社会実現法」によって長時間労働や過労死を防ぐとしています。
 日本維新の会は、社会基盤の整備によるワークライフバランスの推進、というように公約を掲げています。


2.2 ▷賃金格差の是正

 非正規労働者の賃金水準は、欧州諸国においては正規労働者に比べ2割低い状況ですが、我が国では4割も低くなっている現状があります。その差は2016年時点で月あたり約11万円となっています。
 また、日本の最低賃金は、最も高い東京で985円、もっとも安い鹿児島では761円、全国を平均すると874円になります。物価などを考えると一概には言えませんが、これは欧米諸国(1)に比べて比較的低い数字と言えます。


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(参考1)
最低賃金については地域差などもありますが、フランスは10.03ユーロ(約1214円)、英国は6.7ポンド(約1110円)、米国は各州を平均するとだいたい8.2ドル(約877円、都市部になると金額は跳ね上がり、主要都市では時給12ドル)となっています。


 こうした問題に対して政府は2020年施行予定の「同一労働同一賃金法」を策定しました。
 これは、同じ職場で同じ仕事をする正規雇用の従業員と非正規雇用の従業員の賃金格差や待遇の差をなくす目的のものです。今までもガイドラインとして一定のルールは設けられていましたが、今回の法改正によりルールが明確化したというものです。同一労働同一賃金に関する主なポイントとしては以下の3つです。

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 今回の参議院選挙において、与党はこの法改正を遂行する立場を採っています。これに対して反対の立場を示している政党はなく、全政党が法定化を公約としていますが、共産党、社会民主党、日本維新の会の三政党はこれを正規雇用・非正規雇用の差に加えて男女間の賃金格差の是正のためでもあると明記しています。
 与党と野党の立場の違いが明確に現れているのは、最低賃金の引き上げにあります。与党は、全国の最低賃金を都道府県ごとの労働者で重みづけして平均した額である全国加重平均で公約を示しており、現在874円のところ1000円以上を目指すものとしています。しかし、野党各党は全国の最低賃金を全国一律で1000円以上に引き上げることを掲げています。立憲民主党は5年以内に1300円、日本共産党と社会民主党は1000円に引き上げた後1500円を目指すとしています。


2.3 ▷働き手の多様化


 実は日本の労働力人口は、少子高齢化の風に逆らうように2020年代半ばまでは増加するという予測が立てられています。現に今でも労働者人口は増加し続けています。しかしながら、この予測は女性や高齢者など今まで労働に積極的には参加していなかった層の参加率が上昇することを前提としています。そのため、働き方改革ではこれら働き手の学び直しや、わずか約11%にとどまる女性の管理職の処遇改善などが望まれます。
 また、今回の参議院選挙で各党の公約に特徴的に見られるのは育児休暇の取得率の改善です。日本においては育児・介護休業法が制定され、2017年10月1日からは最長2歳まで育児休業の再延長ができるようになりましたが、その取得率に大きな問題があります。女性の育児休暇取得率が81.8%と高水準なことに比べ、男性の取得率は3.16%と実に25倍以上の差がつく結果となっています。この数字の根底には、社内の男性が育児休暇を取得することへの潜在的な反発が大きいといわれています。取得することによって処遇を著しく悪化させるなどの「パタハラ」も昨今大きな問題として取り上げられています。

 これに対し、日本維新の会を除くすべての政党が男女問わず育児休暇を取得する社会に向けた意識レベルでの改革推進に関して言及しています。特に立憲民主党、国民民主党、社会民主党は育休の一定期間を父親に割り当てる「パパ・クオータ制度」を掲げています。男性の育休取得の義務化を明記したのは国民民主党のみとなりました。


3. 最後に

 働き方改革、特に長時間労働の是正と同一賃金同一労働は2017年衆議院選挙における大きな争点の一つとなっていましたが、今回の参議院選挙における各党の公約をみると育児休暇をはじめとする働き手の多様化が主なトピックとなっているようです。公約の細かな表現に隠された社会の意識の捉え方に注目することも、皆さんの意思決定の一助になるかもしれません。

▶︎シリーズ15の争点 他の記事はこちら


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厚生労働省(2014)「最低賃金全国一覧」<https://pc.saiteichingin.info/table/page_list_nationallist.php
>2019年7月13日アクセス
厚生労働省(2019)「パートタイム・有期雇用労働法が施工されます」<https://www.mhlw.go.jp/content/000471837.pdf>2019年7月13日アクセス
厚生労働省(2018)「『働き方改革』の実現に向けて」<https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000148322.html>2019年7月13日アクセス
厚労省研究班(2016)「過労で心の病、30代が3割 労災認定で目立つ若者」,『日本経済新聞』<https://r.nikkei.com/article/DGXLASDG25H98_V21C16A0CR8000>
野村浩子(2017)「『同一労働同一賃金』の目的は格差是正ではない」<https://business.nikkei.com/atcl/report/15/261748/030100015/?P=4>2019年7月13日アクセス
労働政策研究・研修機構(2018)「長時間労働の割合(就業者)」<https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/databook/2018/06/p209_t6-3.pdf>2019年7月13日アクセス

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