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一番長く首相を務めたのは?日本の歴史を役職の在任記録で振り返る!


・はじめに


 2018年9月20日に安倍晋三氏が自民党総裁に再選し、このまま行けば内閣総理大臣在任記録を更新、歴代最長となるだろうと言われています。ではいま現在最も長く務めた首相は誰なのでしょう?最短は?首相だけでなく国務大臣やはては征夷大将軍まで、各役職の記録から日本史を振り返ってみましょう。(以下敬称略)


・内閣総理大臣


(1)在任期間が最長
 憲政史上最も長く内閣総理大臣を務めたのは誰でしょうか?現任の安倍晋三はまだ届きません。小泉純一郎も長いけれども、最長記録には遠く及びません。現在最長記録を保持しているのは、戦後ですらなく、大正期に三度組閣した帝国の元勲・桂太郎です。
 桂は長州藩(今の山口県)出身の陸軍軍人で、山縣有朋を中心とする陸軍長州閥の重鎮として陸軍大将まで登りつめました。台湾植民地の統治を担う台湾総督や陸軍大臣など多くの顕職を歴任して後、1901年に内閣を初めて任されました。当時の大政党である立憲政友会の総裁・西園寺公望と交互に計三回内閣総理大臣を務め、明治末期から大正初期にかけて「桂園時代」という官僚勢力と議会勢力による安定した政治体制を築きました。在任総日数は2886日、8年弱政権を担いましたが、三度目の組閣の際その前の西園寺政友会内閣を桂ら陸軍勢力が潰したのではないかと政党勢力から激しい攻撃をうけ(第一次護憲運動)、第三次桂内閣はわずか53日で退陣(大正政変)、桂も失意の内に病没しました。官僚的な内閣を作ったとして批判をうける桂ですが、安定した政権基盤のもと日露戦争の勝利や韓国併合、条約改正などを達成し日本の国際的地位の向上に著しく貢献したのも事実です。また、この時代を境として国政の中心が藩閥や維新の英雄たちから政党に徐々に移っていき、大正デモクラシー及び昭和の政党内閣につながりました。


(2)連続在任期間が最長

 さて、これが連続在任期間となるとどうなるでしょう。桂は総日数は確かに長いですが、間を開けて組閣しているので一回ごとの日数でみるとそこまで長くはありません。この記録の保持者は戦後の宰相・佐藤栄作です。彼は三度連続で組閣し、経済成長後の日本の国際的地位の向上に努めました。
 佐藤は官僚出身の政治家で、吉田内閣で官房長官や実兄の岸信介首相のもとで大蔵大臣などを歴任、池田勇人の跡をついで内閣総理大臣に就任しました。在任中は韓国との国交正常化や環境問題、国際貿易体制への復帰、沖縄返還と言った問題など、経済だけでなくそれ以外の分野の問題解決にも取り組みました。いわゆる非核三原則を打ち出し、のちにノーベル平和賞も受賞しました。「黒い霧」と呼ばれた政界の大汚職や閣僚の失言に悩まされましたが、好調な経済を背景に無難に政権運営をこなし、当時任期二年の自民党総裁に四選、計2798日、8年弱務め上げました。


(3)在任期間が最短
 逆に最短の首相は誰でしょう?さすがに一ヶ月保たなかった首相はいませんが、二ヶ月以上務められなかったのは一人だけいます。終戦直後に組閣した皇族・東久邇宮稔彦王です。皇族が組閣した唯一の例でもあります。
 陸軍軍人(終戦時大将)として歩んできた稔彦王は、戦後混乱する日本をまとめ上げ、軍を従えることも出来る皇族首相として期待が集まり、内閣を任されます。彼の任務は皇族という特別な地位を利用して日本をうまくまとめ、占領体制にスムーズに移行させることでした。しかし共産主義者などの政治犯の釈放や特高警察の廃止など内政に細かく指示を加えるGHQの方針への抗議として、在任わずか54日で総辞職しました。旧来の体制の中で生きてきた稔彦王にとって、運が悪ければ天皇制の崩壊にも繋がりかねないGHQの方針に従うのは耐え難いことでした。在任期間の短さは、終戦直後の政権運営の難しさを如実に表しています。ちなみに王は東久邇稔彦として皇族でなくなった後、102歳の長寿を全うしました。
 他に在任期間が100日以下と特に短い首相は、組閣後間もなく衆議院で過半数を維持できなくなり辞職した羽田孜(64日、新生党)、病気のため潔く身を引いた石橋湛山(65日、自民党)、組閣直後女性スキャンダルが発覚し参院選に大敗、辞職に追い込まれた宇野宗佑(69日、自民党)の三人がいます。


(4)安倍内閣は?
 安倍晋三は在任期間で現在どの位置にいるのでしょう。第四次安倍改造内閣が発足した2018年10月2日時点で、首相在任期間は合計2468日、歴代5位です。2019年11月まで続ければ桂太郎を抜いて最も長く内閣総理大臣を務めた人物になります。総裁三期目を満了すれば3567日と、桂を優に超える空前の長期政権を実現することとなります。果たしてどこまで記録を伸ばせるのでしょうか。

・最後に

まさに麻生財相が言うように、長ければ良いというものではありません。任期が長ければ確かにそれだけ国や政治を安定させたり多くのことを成し遂げたりすることができます。一方で政権が長い分、政争や汚職といった負の側面も自然と大きくなります。桂太郎・佐藤栄作・徳川家斉・足利義持、これら国家のトップは全員安定した一時代を築きましたが、良くも悪くもその後の歴史の転換点にもなりました。
 安倍内閣は四次を数え、安倍晋三は歴代最長の首相になることはほぼ確実と言って良いでしょう。この「安倍体制」が一体歴史の中でどういった評価をされるのか、なんの転換点となるのか、それが歴史的に確定するのはもう少し先のこととなります。

【参考】

朝日新聞「麻生財務相、在任最長更新へ「長くやりゃいいもんでも」」(https://www.asahi.com/articles/ASL295CMFL29ULFA01S.html)  2月9日
朝日新聞「麻生氏また舌禍 でも財務相戦後最長更新中」(https://www.asahi.com/articles/ASLBS4W67LBSUTIL02X.html)  10月26日
産経新聞「菅義偉官房長官の在職日数歴代トップ1290日に「私に力があるとは全く思っていない」「派閥の時代は完全に終わった」」(https://www.sankei.com/politics/news/160707/plt1607070019-n1.html) 2016年7月7日
(以上3記事2018年11月12日最終閲覧)
鳥見靖「歴代内閣・首相事典」吉川弘文館,2009年

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