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【2019参院選】【約束なのにあいまい】公約からわかった政治の課題

 令和初の参議院選挙も残すところ1週間となりました。
 改めて、何をもとに投票しようかと考えている方も多いはずです。本記事では、投票基準となる「候補者・政党・公約・実績」などのうち、公約に注目してみたいと思います。
 選挙になるとしばしば、「公約に書いている政策をしっかり確認して政策で投票しましょう」、「過去の公約を達成しているかの実績もセットでみましょう」と言われることがあります。政策投票や実績投票と言われる投票の仕方です。

 しかし、ここに大きな問題があります。この政策投票や実績投票は、全党の公約を確認し、さらに過去の公約まで評価しないといけないため、そもそも私達が1人で行うことは不可能な投票方法です。そして、現在の各政党の公約の出し方が、それをさらに難しくしています。

この記事では、サービスを作る中でわかった、政策や実績に基づく投票にあたってハードルとなる課題を、4つの観点からシェアします。


1. 公約にはあいまい語が多い

6年前に当選した現職議員たちはその時に約束した公約を果たしているのか。JAPAN CHOICE では、議会で過半数を持つ与党であり続けた自民党・公明党の2013年公約を全項目、1つ1つ評価しました。
こちらに結果をまとめています。
【サービス 公約実現度

 集計結果のグラフ(下図参照)で濃い赤になっているところが「達成」と評価したものです。公約の多くが達成されていることが分かります。これを見ると、与党は自らに課した課題にしっかり向き合ってきたと言えるでしょう。
 しかし、公約実現度が高ければ高いほど、その実績を評価できると考え、投票先として決定してしまって良いのでしょうか。例えば達成度が8割を超えれば政権与党として合格となるのででしょうか。

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 実は、一概にそのように評価することはできません。なぜなら、そもそもの公約が「あいまい」だからです。 
 濃いグレーになっているところは、「あいまいだから」などの理由で評価不能としたものです。また、上図で赤色や濃いピンクで「達成」「実施中」と評価しているものについても、あいまい語を使っているものが多くあります。例えば「〇〇法の成立を図る」という公約については、文字通り読むと、たとえ〇〇法が成立しなくても、成立に向けて「図った」ことが確認された時点で達成とすることになります。私達はこのように評価することが不適切と考え、「〜を図る」とあるものについては、→「〜法を成立する」と読み替えました。こうしなければ「成立は図ったが成立できなかった」というときに達成と評価しなければならなくなります。同じような表現が多すぎるので、書いているとおりに捉えると評価が成り立たないので、読み替えることにしました。

 このように、もともと公約ではあいまいな表現が使われていたが、私たちが読み替えて評価しているものも含めると、実際にはさらに多くのあいまい語が使われています。

 そもそも公約をあいまいに抽象的に書いているということは、何かを約束しているようで、実はしていないというような状態にある点で、有権者に対して不誠実です。また、そもそも公約では確実に達成できるような抽象的なもので固めてしまおうという政党側の意図も見えます。

 こちらは、自民党が今回の参院選で発表した参院選公約内で頻出している言葉ほど大きく表示される「ワードクラウド」です。
 進める、図る、取り組む、推進、強化、目指す といったあいまい語が上位になっています。

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例えば、こちらの公約


● バイオ(合成生物学等)とデジタルの融合により、高付加価値製品(バイオ医薬・機能性食品・革新バイオ素材・燃料等)の創生を可能とする、バイオエコノミーを推進していきます。

 6年後、この公約をみた私たちは、これを評価不能とするでしょう。何をもって推進されたとすればいいのかが不明です。
 同じように、自民党の過去4回分の国政選挙の公約集を、同様に頻出語を集計して浮かび上がってきたあいまい語はこれらです。

目指し / めざし / 図 / 取り組 / 推進 / 進め / 加速 / 充実 / 強化 / 努め / 最大限 / 積極的 / 早期 / 抜本 / 総合的 / 本格的 / 強力  / 着実 / 安定 / 必要な / 検討 / 改善  /  改革 / 応援 / 支援 / 対策 / 確保 / 整備 / 活用 / 強い
 *なお、このあいまいさ、自民党に限ったことではありませんのでご注意ください。自民党は、過去の選挙で同様の形式で公約を出し続け、それが今も政党HPでダウンロードできるため、傾向が変わらないことを確かめやすく、分析対象としました。

 そして、これが各党の公約を、上にあげた単語を「あいまい語」と定義して集計した結果です。

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(*この表内の文字数は、空白スペースも入っていますので、必ずしも公約本文の字数を反映できているわけではありません)

 各党の公約の形状の違いや、分析に使ったツールの限界もあって各党ばらつきはありますが、どの政党もあいまい語をつかっていることがわかります。
 民主党政権が、政権交代前の選挙で数値目標を並べた結果、達成できずに民主党批判が高まり政権を失ったとされる経緯もあり、各党の公約でかなり具体性が失われているといえます。
 その中でも、国民民主党の公約はあいまいな言葉をできるだけ排して、わかりやすく独自性のある政策を記述していると言えるでしょう。また、共産党については、消費増税によらずに教育無償化などを行う別の財源をどこから確保するかなど、こちらも明確に記述していることと、分析の対象とした文書では共産党の立場がはっきりしたかなり限定した項目にしか言及していないという2つの理由から、あいまい語の該当率が低くなったと考えられます。

 なお、ここでは、分析が比較的ラフなものであるため、該当率が高い自民党・公明党のほうがあいまいな言葉を使っているということは言えません。また、自民党・公明党のほうが仮にあいまい語を多く使っているとしたとしても、その背後には政権与党として、国民に聞こえのいいできぬ約束はしないという方針の現れともいえ、それは誠実な態度と捉えることもできます。一方で、野党のほうがあいまい語が少ないのは、現実に政権をとって政策を実現する側にたつ可能性が少ないので、実現可能性をあまり考えずにはっきりと主張できるということもあるでしょう。 

1のまとめ どの党も、公約にあいまい語を多用している 


2.公約には、数値目標が少ない 

 1つ目のあいまい表現と対極にあるものとして、次は数値的な目標をどれだけ掲げているかです。公約実現度を調べるために精査していた、自民党と公明党の2013の公約を例として数えました。なお、ここでは、増加・減少など方向を示すだけのものは「数値目標」から除きました。

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 いかがでしょうか。おそらくこれを見た読者の方は、数値目標への言及の少なさに驚くのではないでしょうか。
 参議院議員の任期は6年であるため、参議院議員の候補者がまず目標を設定すべき期限は、任期満了後に有権者に審判を仰ぐという点で「6年後」と設定するのが一つの見方です。
 7年後、あるいはそれ以上先に実現する政策を掲げることは、中長期的な目線をもっているとして当然歓迎されますが、それと合わせて、次に国民の判断を受ける「6年後」までの目標が必要なのではないのでしょうか。
 なお、政治には、数値目標として書き記すのにそぐわない、法律の制定など大事な役割が多数あります。そのため、全て定量的に目標設定すべきということではないことは付言しておきたいと思います。

 あいまい表現が多いことと合わせて、数値目標が少ないために、公約はわかりにくく参考にしにくく、また実績を検証しにくいものになっています。

2のまとめ 公約には数値目標が少なく、任期を単位に目標設定していない。


3. 公約は自己検証がなく、そもそも検証が前提にない 

 公約実現度を評価する時にぶつかった壁は他にもあります。そもそも公約内に載せている実績値の参照統計や月次が不明であり、あるいは統計手法が切り替わってしまって検証が不能になる、といった課題です。こうした課題をクリアするためには多大なコストがかかりました。

 例えば、このようなものです。

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 本来、公約をどれだけ達成したのかは、政党が自己検証して、有権者に発表し説明を尽くすべきです。実際に、自民党では2017年の衆議院選挙の公約の自己検証をしたそうですが、結果は公表しませんでした。
そもそも、自分たちで検証することを最初から前提にしていれば、継続実施されない可能性がある統計で7年先までの目標をたてたりはしません。そもそも、検証と発表を前提として作られていないのです。

3のまとめ 政党は公約を自己検証して発表していない

 

4. 公約をしっかり出していない党がある 

 ここまでで、この記事に日本維新の会が出てこないことに気づいた方もいらっしゃると思います。
 実は、今回の選挙にあたって、日本維新の会は他の政党ほど網羅的な政策の細目を出しませんでした。そのため、他の党と比べてデータに違いが出るので、本記事での分析に加えていません。JAPAN CHOICEの「投票ナビ」でも、維新は18の質問のうち、5つ以上について公約に記していないため、その項目では本来その党がもっている立場を選択しても一致度があがらないことになっています。細かい政策にまで言及するには、党内の意見がまとまりきっていないのかもしれませんが、それにしても重要政策に言及がないのは、国政政党として、十分に選択肢を示していると言えないのではないのでしょうか。

 また、立憲民主党は細かな政策集を出してはいますが、非常にわかりにくくあげられていて、有権者の判断材料として他党の政策集と横並びにするのは不適切かもしれません。しかしながら、積極的に提示している「立憲ビジョン」の内容が乏しいため、政策集も「投票ナビ」などの考慮に入れることにしました。
 ちなみに、党HPの6月24日付ニュースに、後日、最後の一文でリンクを付け足していて、このページ以外からのアクセス方法が不明です。

https://cdp-japan.jp/news/20190624_1863


 野党第一党で、政策集も作っているならば、しっかりと有権者・支持者にそれを発信していくのがあるべき姿なのではないでしょうか。

4のまとめ 国政政党なのに詳しい公約を出していなかったり、はっきりと提示していないところもある 



最後に

以上をまとめますと、2013年の自民党・公明党の公約実現度評価と、2019年参院選の国政政党の政策比較に取り組むなかで、政策・実績に基づく投票へのハードルと発見したのはこの4つです。

・多くの党が公約にあいまい語を多数使っている
・公約に数値目標が少ない
・どの党も公約を自己検証して発表していない
・国政政党なのに詳しい公約を出していなかったり、はっきりと提示していないところもある


 ユーザーのみなさん、有権者のみなさんには、これらを念頭に置きながら、与野党の公約実現度と、国政政党の政策に向き合っていただきたいです。 

 また、このように政党からの、情報発信が不十分な状況だからこそ、意思決定のハードルをなくそうという私達の活動に意味があるのだと考えています。

 なお、公約実現度というサービスが持つ欠点についても最後に述べておきます。それは「公約には重要度があり、全てが平等に重要ではない」にもかかわらず、公約実現度は全ての政策を「一つの政策」と平等の比重で計算し、実現度の割合を機械的な数値で出している点です。たとえば、消費税増税や賃金格差是正と、ドローン法の改正については、多くの有権者にとって重要性が全く異なるでしょう。しかし、前者を達成しても、後者が達成しても、このサービスの上では「達成1」となるのです。
 したがって、与党が達成した政策以上に重要なのは、達成に至っていない政策に何が含まれているのか、そして実はそこに重要な政策の多くが入っているのではないか、という視点を持っていただくことが非常に重要になります。

 ぜひ、JAPAN CHOICEを使い倒して、投票してください。



★この記事はJAPAN CHOICEとの連動して選挙と政治を多方面から分析したシリーズです。ぜひ他のサービスもご利用ください。

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★本サービスの開発・運用はクラウドファンディングで支えられています。下の画像より支援ページにとぶことができます。応援してくださると幸いです。

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*使用している各政策集は以下です。自民2013https://jimin.jp-east-2.storage.api.nifcloud.com/pdf/sen_san23/2013sanin2013-07-04.pdf?_ga=2.32412606.1094224494.1561271336-1313975462.1550987968自民2019https://jimin.jp-east-2.storage.api.nifcloud.com/pdf/manifest/20190721_manifest.pdf?_ga=2.194218797.12016693自民のその他年度はこちらからhttps://www.jimin.jp/policy/manifest/04.1562574009-1313975462.1550987968公明2013https://www.komei.or.jp/policy/policy/pdf/manifesto2013.pdf公明2019 https://www.komei.or.jp/campaign/sanin2019/images/top/manifest2019.pdf立憲民主2019https://special2019.cdp-japan.jp/国民民主2019https://www.dpfp.or.jp/new_answers_2019共産2019https://www.jcp.or.jp/web_download/2019/06/201907-sanin-kouyaku-zen.pdf

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