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自分と向き合う大作ADVだった『Detroit Become Human』

↓↓いいからデトロイトやれよ、というネタバレなしの紹介↓↓

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「いいからプレイして」

と帰宅後、深夜に手渡されてから5時間近く、トイレに行くタイミングすら自分で定められずにプレイしてしまったタイトルでした。手を休めたのも、「判断が鈍ると、このゲームを100%楽しめないから」という、いわば泣きの戦略的撤退。

「感情のジェットコースター」とはいい表現で、クリアーするまで、こんなに集中力を発揮しながら、緊張感を保ちながら、そして、ひとつひとつの選択肢に熟考させられるゲーム、最近遊んだかなぁ……と耽ってしまうほどでした。プレイ中は上質なドラマを体験しているようで、またクリアーした後は、大作映画を見終えたような満足感。そして残される、「あの言葉の意味はなんだったのか……」という疑念。

 本作を開発するスタジオの特徴として、作中でキャラクターの動きとプレイヤーの脳を直結させるため、「ドアを開ける」「本を手に取る」などの何気ない動作にも、少し煩わしいコマンドが設けてあり、アクションシーンでは瞬発感を求められるQTEが設置されています。『HEAVY RAIN 心の軋むとき』『BEYOND: Two Souls』は同開発のタイトルですが、本作は前二作に増して操作の手馴染みがよく、キャラクターとの一体感を味わうことができました。「5秒以内に!」と突然決断を迫られるシーンでは、慌てふためいた脳が「実際に体を動かしている」と勘違いしたな……と感じたほどです。

■死んでも続くよ、どこまでも

 なんてなんて、システムの評価はゲームのうまい人たちにお任せすべきで、編集部一ゲームが下手だった私がこのタイトルを好きな理由のひとつに、「ゲーマーでなくても、ゲームが下手でも存分に楽しめる」という点があります。このゲームにゲームオーバーはありません。「ここで(主人公の1人である)コナーが死んだ」としても、物語は続きます。

「ゲームがうまいから、一番いいエンディングにたどり着ける」というわけでもありません。ただ「何をもって善悪とするか」「自分の信念はなんだ」と淡々と向き合いながら、決断していくことが、本作の一番の楽しみ方だと私は思います。

「自分は手を汚したくない」その結果、「仲間が死んだ」。「非暴力に訴える」「代わりに誰かが銃を手にするかもしれない」。現実同様、なかなか思うように物語は進まないかもしれません。後悔することや、失敗することがあるかもしれません。しかし、プレイヤーが決断することに意味があるゲームです。そして、その結果を受け入れることも。もちろん、受け入れられないかもしれない。それも含めて。

■3人の主人公は私自身

 プレイヤーが操作するキャラクターは、アンドロイドの3人。最先端の刑事捜査アンドロイド・コナーと、家事手伝いを業務にするカーラ、そして、一番劇的なストーリーが展開するであろうマーカスです。

  私自身、クールな刑事でもなければ、有能なお手伝いさんでもなければ、世話焼きな恰幅のいい黒人でもありません。でもそれぞれを操作しているとき、確かに私は現実の自分ではなく、それぞれのキャラクターそのものでした。「現実社会において、人は何かの役を演じているに過ぎない」という言葉を痛感するほどです。私は現実さながらのゲーム内で、「3人のキャラクターを操作している」と意識させられることなく、いつの間にか与えられたままに、私という自我はそのままに、それぞれを演じ続けていました。

 演じるという言葉すら少し違うかもいれません。3人とも、私自身であり、私の欠片でした。

■最初のプレイこそ、完成されたあなただけの物語

 先述の通り、明確なゲームオーバーのない本作。ゲーマーの方はまずその「ゲーム的にはこれが正解だろ」という概念を捨ててプレイしてください。あくまであなたの信念に基づいてプレイしてほしい。これは普通のゲームではなくて、心理テストです。できるだけ自分と向き合って、その過程やエンディングを楽しんでもらいたい。たとえ何かで失敗しても、それがあなたの正解のはずです。私はQTEで失敗しまくりましたが、それはそれで納得、というか、私らしいエンディングだな……としっくりきました。

 以前、男女関係のアプローチが如実にでる「キャサリン」というアトラスのパズルアクションがありましたが、ちょっと似ているかもしれません。(彼氏や男友だちにプレイさせると貞操観念が明らかになって最高なので、ぜひ皆さん、やらせてみてください。その後の責任は負いかねますが!)

 本作は、本性……とまで言い切れるかわかりませんが、「自分らしさ」や「自分がどう思われたいか」が顕著に現れるタイトルです。物語は能動的で、プレイヤーの背中をグイグイと押し、決して待ってはくれません。

「もしかしたらあの時、違う選択肢を選んでたら……」という疑念ももちろん生まれるでしょう。でも私は、何度プレイしても、重要な局面での選択は、きっと変えることはできない。それだけ、自分の信念に訴えかけてくるタイトルです。

■いいからやれよ!

 なにはともあれ、いいからやれよ! 久々の大作ADVだ!! そして願わくば、「あそこでどんな選択をした?」「どんなエンディングだった?」を教えてほしいな。だから、いいからプレイしてよ!!!


以下、ネタバレです。私の迎えたエンディングもあります。









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 全体を通して、非暴力。銃は一切手に取りませんでした。「力を持った人間は、それを駆使したくなる」という、「リーンの翼」や「∀ガンダム」の富野監督の教えがあるためです。

 そのため、「私が手をくださない代わりに、他の誰かが相手を殺す」ことが多々あり、ままならなさ……というか、「自分ばかりがキレイなままでいたいだけでは?」という葛藤が多かったです。

■コナーエンド

 私のQTEの下手さと、優柔不断さが目立ち、ことごとく事件を闇に葬り去り続けた最新型(笑)。取り調べが特に下手で、まったく役に立ちませんでした……。それでも、ハンクとはそこそこうまいことやっていました。

 変異体となったあとは、タワーで1000体のアンドロイドを覚醒させるぜ! と息を巻いて突入しましたが、エレベータが開いた瞬間にSWATに打たれて死にました……。

 犬のような性格が一番好きなキャラクターだったので、思わずそのあっけなさに「え!?」と声が出たほどです(笑)。唯一、クリア後にチャプターからやり直したシーンでもあります。

■マーカスエンド

 カールの言いつけを守り、息子には手を上げませんでした。その結果、カールは死亡……。絶望だけが残りました。

 ジェリコに入った後も、非暴力を掲げていたために、ノースとはよく口論になりました。でもなぜか恋人に……。お、おう。

 私が手をくださない分、他のアンドロイドたちが肩代わりをしたり、あるいは死んでしまったりとままならなさを一番感じていたキャラクターでした。しかし、彼はあくまで「争いのない世界の旗」でなければいけないと思い、痛みを抱えながら殺さずを貫いていました(るろ剣か)。

 エンディングでは市内でのデモを決行。SWATの攻撃で数も減ってしまったアンドロイドたちとともに歌い、世論に訴える姿はさながら12使徒とキリストのようでした。

 その甲斐あってか大統領にも声が届き、攻撃は中止に。アンドロイドたちは一時の自由を得たようでした。

■カーラエンド

 個人的に、カーラの物語にとくに引き込まれました。私は昔、父親に虐待を受けて育っていたので、父親トッドの「愛している」と言いながら子どもに暴行を加える姿がなんともリアルで、胸が締め付けられました。

 変異体になったあとは、トッドに目もくれず、一目散にアリスのもとへ。「体の大きな大人には敵わないのだから、逃げるしかない」という判断だったと思います(実体験)。銃も発見しましたが、わざわざ取りに行くこともありませんでした。

 最初の宿泊地は車でもよかったのですが、いろいろ悩んだ末に廃屋に。ラルフにも出会えたのでよかったと思います。基準は何せ「父親に見つからないこと」ただ一点です。服を盗んだり、ワイヤーカッターを盗んだりと、アリスのためならなんでもする姿勢はありましたが、強盗はできませんでした。

 カナダ行きのバスへ向かう道中は、ルーカスを見捨てることができず、だからといって救出にも失敗(笑)。収容所に送られるも、なんとか無傷で脱出することができ、最終的にゴミ捨て場で3人で疑似家族となりました。

 カーラ編については、「アリスがじつはアンドロイドであった」という事実が受け入れられずに今もいます。「突き放す」という選択肢も浮かびましたが、できませんでした……。

 最初からカーラは気付いていたはずだとルーサーに言われても、私は気付いていないわけで、なんだか梯子を外されたような気持ちがあったのは事実です。「火を起こす」「食事をとらせる」など、アンドロイドには不要なはずの行為を行っていたのは、カーラがアリスに「人間であってほしい」と願う気持ちが強かったからなのか、それとも、気付いていなかったからなのか……。

 私はあくまで、「人間という弱い生き物を守る」というポジションでアリスを愛していたんだと思います。壊れかけのアリスも同様に弱い個体ではありますが、あくまで人間を守りたかった。猛烈なエゴです。

 アリスに操作されているような感覚すら覚えました。「(子どもとして)守られるようにプログラミングされた相手に、感情を左右させられている」ような。アリスもまた変異体であろうと思いますが、それも「愛されるべくして作られた子ども型アンドロイド」の場合、どこまで感情の模倣なのか、プログラムなのかも、私にはわからないのです……。

■アンドロイドのその後と生きた世界

 しかし、本作ではいい人間が少なすぎる(笑)。アンドロイドは自我を持つと皆、自由を求めましたが、はたしてすべてがそんな個体なのか? という疑問が残ります。

 自由はいいけど、今のご主人が好きだからここに残りたい、と願うアンドロイドもいてほしかったな、とも思います。ただ、「自由」という人間からしたら当たり前のことを模倣しているだけなのかもしれません。自由の先の責任を考えるには、まだアンドロイドたちは未熟です。

 エンディングがどうであったとしても、はたしてこれからアンドロイドはどんな未来をつくるのか。アンドロイドと人間の恋愛はもちろん、ケンカや浮気、アンドロイド同士の殺し合いだって、きっと目前でしょう。

 そんなことを考えると、この「デトロイト」の世界は生きていて、さまざまな妄想を楽しめる一大テーマパークなのだと思います。