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朝日ウルルン滞在記〜ベトナム編〜 EP6 夢の国の光と影

はじめに。このnoteを書く日が来てしまったことを寂しくも誇らしくも思っている。
ありきたりな言葉かもしれないが、この旅のことは一生忘れないだろう。


滞在5日目は前日の夜あれだけ騒いだのに、朝の7時半スタートだった。
ホーチミン廟へいくためである。
ベトナムの民族解放と独立のために南北統一に生涯をかけた、今もベトナム国民の父として敬愛されるホーチミンの亡骸が眠る場所、らしい。JTBガイドより抜粋。

軍隊が沢山いて、観光客の持ち物を検査する。ミニスカートも禁止。厳重な警備だ。
ナムは、小さい頃に来て以来久しぶりに訪れるという。観光らしいことをさせるためにわざわざ朝しか開いていないここに連れて来てくれた。
この場所を私に日本語でガイドするのはとても難しいはずなのに、知っている言葉やわかりやすい日本語で一生懸命に話してくれた。
リンちゃんは寝不足で終始不機嫌であったが、日本にいたときのリンちゃんのようで懐かしく、つまらなさそうに歩く姿も愛しい。

THEベトナム!なお土産屋さんを回って日本に持って帰るお土産を購入。リンはこれいいんじゃない?と伝統衣装のアオザイを勧めてきて、ナムも買っちゃえよ!と私を調子に乗せるので、勢いで買ってしまった。THE観光客の私である。

ナムもこれいいんじゃない?と、ベトナムっぽい服を買わせてみた。意外と嬉しそう。食べる?やこれ買うか?など、日本のおじさん感があるナムである。

ナムは仕事のため、中抜け。リンちゃんちタイムだ。でも今日のリンはお疲れモード。日本語を話さなくなる。日本にいた頃からだ。
この旅で私は、ナムやリン、トゥンくんや友達たちに頼りきりでひとり旅といえることは全くと言っていいほどしていない。

意を決して、近所ではなく2時間ほどひとりで行動してみることにした。
リンちゃんちにちゃんと帰れるように道を覚えて韓国人街や路地を歩いてみる。都市部から離れた方も歩いてみた。
まず1人きりだと道を渡るのに苦労する。ベトナム人は信号を基本守らないからだ。モールがある方に行こうとしても、大通りを渡れない。
そしてキャットコールやバイクのキャッチもすごい。
全然楽しくない。もうすでにこの街を知っているから珍しくはないし、ただただ注意を払うことで精一杯だ。

自分の不甲斐なさに撃沈した。ひとりでできるもん!で、完成した料理が可もなく不可もなく。みたいな気分。私ひとりじゃ美味しい料理は作れない。

帰ってきても、リンは眠り猫。
早くナム帰ってきて。と、しょんぼりしてしまった。


やっとナムの仕事が終わり、念願のホアンキエム湖へ向かった。
そのタクシーの中、ナムが日本は台風だと聞いて、航空会社に連絡した方がいいと私に電話を促した。
でも、日本の会社にかけてみたものの繋がらず、結局、ナムが直接ベトナム航空へ電話をしてくれた。なにから何までナムに頼りきり。明日朝行ってみて飛ばなきゃ空港でまてばいいや〜と呑気に考えていた自分が恥ずかしい。


湖に着くと、昨晩のターヒエン通りを超えた世界が広がっていた。

ここはただの湖じゃない。湖の周りはまるで夢の国。ディズニーシーのようなのだ。音楽の演奏やパレード、この滞在期間中に何度も利用したような屋台や路面店に、絵を描く人など様々な人々で賑わう。

さっきまで自己嫌悪も薄れて、ベトナム最後の夜を楽しめそうであった。

でも今日はトゥンくんがいない。3人での行動だ。ナムは私にガイドしたり相手をするのに一生懸命になってくれるので、リンの不機嫌は直らず。リンもこの一週間私に付き合ってくれた。大好きなナムが私にばかり気を取られることに不機嫌になるのも無理はない。リンの素直な性格はよく知っているし、そんなリンが可愛いと思う。

私はリンとも楽しもうと、話しかけたりはしゃいだりしていた。けれどそんな様子もナムにはお見通し。大丈夫か?と言われてしまう。


大丈夫だよ〜といいつつも、複雑な気持ちが入り混ざってうまく笑えない。ここまでしてもらって贅沢ものだ。

そんな中、湖の周りを歩いていると、ある子供がベビーカーに座り何かを売っていた。水だ。ナムリンが立ち止まる。
私はよくその子を見てみた。彼の顔は火傷の痕で見るに耐えなかったのだ。
それでもその子は笑顔で笑いかける。
昨日手のない物乞いに冷たい態度を示したナムが買おうと言った。
その子は治療費が無いから、一人でベビーカーに乗り水を売っていたのだ。親の姿はない。
そのほかにも、障がいを抱えた人が絵を描いていたり、音楽を流しながらお手拭きを売っていたりと、その場所には自分の姿をお金に変える人々が沢山いたのだ。

日本にある夢の国。そんな場所と照らし合わせていた私は我に帰った。汚いものを隠して現実逃避出来る夢の国と、ここは違う。
美しいもの、楽しいもの、弱いもの、汚いもの全てが同居していてそれを隠したりしない。それが全てて、その全てを受け入れている。だから幸せなんだ。繕ったり幸せなふりをしない。影のない場所=夢の国なんかじゃない。幸せな場所には光と影が同時に存在しているのだ。

リンちゃんのことを気にしたり何もできない自分に気を落としたり、私は何を小さなことでウジウジしてるんだろう。
そんなことを気にしていられるくらい私は豊かなんだ。
そう考えながら歩いているとナムは振り返りこう言った。
「俺が仕事急に入ったりしたから、あまり遊びに連れていけなくてごめんね。」


その言葉を聞いた瞬間、私は涙が止まらなくなった。クサイ!クサ過ぎる!何泣いてんだ!旅の終わりに泣いてる私!と、冷静になろうとしても涙が止まらない。

もう、十分なくらいだよ。それ以上だよ。ナムはおもてなしを超えた遊びを、生活を人々の姿を、そしてベトナムでの時間を私に与えてくれた。本当に幸せだった。フートでの時間、バイクから見た景色、街の匂いや、香草の味。全てが蘇ってくる。

嬉し泣きする私をみて笑いながら、涙止めてよ〜なんていうから余計に涙が止まらない。
愛しさと、切なさと、心強さと。まさにこれだ。ふざけてない!ナムに強烈に感じているのはこの気持ちだ。


落ちつくために、たばこを吸いながら久しぶりに二人で話をした。
「ナムがベトナムに帰ってから、東京で一人暮らし始めたんだけどさ。色々辛くてね。」
涙が出そうになり、言葉に詰まる。こんな話をするつもりはなかったのに。

「苦しいか?」
ナムはたぶん、それ以外の言葉を知らないのではなく、私をみて感じたのだと思う。
帰ってから私を待ち受ける現実。仕事。生活。
東京はベトナムのように汚くないし、臭くないし、虫もいない。だけど、ここより冷たい。ナムはそれを知っている。

「こっちで働いてもいい。いつでもくればいい。また沢山遊びに連れて行く。」

そんな言葉をナムは渡してくれた。

うぇーん!!と子供みたいに泣いてしまった。


湖をあと少しで一周するという時、人集りが見えた。女性歌手が歌を歌っている。
私は近づいてみることにした。

その歌手が歌っていたのは、世界にひとつだけの花だった。ここにきて日本の歌を、それも湖を一周回ってさまざまな人を見てきた、はたまたさっきまで大号泣していた私にこの曲を聞かせるなんて、ベタすぎる。神さまは私を泣かせにかかっている。
もう、涙は止まらない。

知らない子供に笑われた。

帰り道。泣いたりなんかした私をみてちょっと心配するリンちゃん。ナムには相変わらず不機嫌だけど、日本語が少しずつ増えてきた。

3人で路上に座ってタクシーを待った。
私は持っていたペットボトルに携帯を立てかけて、タイマーをセットした。
この旅をして、はじめて撮る3人の写真である。

私は一生この夜を忘れない。 


出発の朝。
最後までてんやわんやだった。旅行番号は間違ってると言われるし、ベトナムの空港で働く人はゆるゆるしていて進まない。
リンちゃんが荷物を一緒にもってくれて、空港を走る。
ナムが全て対応してくれた。ベトナム語が全く分からない私の盾になって対応してくれた。
最後の最後まで、駆け込み乗機。お別れのハグを出来ずにまた泣きべそかいて走って行く私をナムが心配そうに見送った。

「これお母さんに渡して。」とナムはハスのお茶の葉をくれた。
あと、私たちと一緒に働いてたおじいちゃんに渡すコーヒー豆も。

飛行機に乗り込んで日本の上空を飛んでいる時も涙が止まらなかった。林檎嬢の「ありあまる富」なんて聞いてしまったから。感情を隠さず過ごした私は色々なブレーキが日本仕様に戻せなくて困っている。


ベトナムでの時間はモラトリアムなんかじゃなかった。私はナムやリン、トゥンくんやナムの家族、そしてベトナムの人に背中を押されたのだ。 

観光客としてではなく、ベトナムで時間を過ごす仲間として私を受け入れ、一緒に過ごしてくれたことは大きな私の力になった。
富が溢れている東京で生きるのはきっと大丈夫!余裕だぜ!そんな気持ちにさせてくれた。

私はまた東京で、前に進むことが出来る。

心からのカムーンを。
私と時間を過ごしてくれたみんなに捧げたい。

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