見出し画像

おばあちゃんともう一回話がしたい。

おばあちゃんが食べるのを拒むようになった時、生きるのを諦めてしまったように見えた。

おばあちゃんがおばあちゃんじゃなくなるような気がした。

「おばあちゃんであることは変わらないよ」と私の母は言った。

変化しないことなんてこの世の中にないのに。
今は変化することが怖くて怖くてどうしようもない。

自分の変えられないものに対して悲しむことやめられないかな。

私がよく笑うのは、おばあちゃんゆずり。
ちょっと天然なところもおばあちゃんゆずり。
お花が好きなのもおばあちゃんと一緒。

もう前のおばあちゃんは帰ってこない。

そう思ってしまったらものすごく悲しくなってしまった。

大切なひとが変わってしまうことってこんなに辛いんだな。

おばあちゃんに会いにいった日

先日、食べなくなってから体調が急変し、ついに救急車で運ばれ、入院することになった。

この間、おばあちゃんが緊急入院してから初めて会いに行った。

いつもだったらずっと寝ているというおばあちゃんがうっすら目を開けていた。

「スースー」

口で息をしているからか管も何も通していないのに音がした。

「美晴が来たよ〜わかる〜?」と私の母が言うと首を縦に振った。

そして何かを必死に伝えようとしてくれた。

「あ…あ………」

何を言っているのか、何を伝えようとしているのか正直全くわからなかった。
お母さんの問いかけに首を振るばかりで、私もお母さんもおばあちゃんが何を言いたいのか全くわからなかった。

くそだと思った。

これが最後の会話になるかもしれないのに。
必死に伝えようとしてくれている言葉を私は一言も聞けない。
私の耳は何のためについているの?くそみたいな言説は聞こえるのに、世界一大好きなおばあちゃんの声を聞くことができないなんて、本当にくそ以外のなんでもないと思った。

腕に力を入れながら、絶対に泣かないように。
伝えたいことは全部言った。伝わっているかどうかは、わからない。

聞けなくてごめん。

ずっと寝ているおばあちゃんがあんなに長く起きていることはなかったらしい。それくらい私に言わなければならないと思っていることがあったのかもしれない。

それなのに。

今日またおばあちゃんに会いに行く。渡航前の最後。

今日は何を言おうか。話そうか。考えておかなくては。

おばあちゃんに最後に会った日

ばあちゃん〜!って元気に行きたかったのにもう行く前から泣いてしまった。
おばあちゃんみたらさらに泣いてしまった。

話してよ、名前呼んでよ、「ほうねぇ」って話聞いてよ、ばあちゃん。

ばあちゃんに見えないように泣いた。それでティッシュで鼻を噛んでからもう一回笑顔で「ばあちゃん」って言った。

目をうっすら開けた。

片手の手袋を外してあげたらばあちゃんが必死に左手も外そうとしていた。看護師さんにすぐ言って両手を外してもらった。

布団を何度も何度も剥がすような仕草をしてた。暑そうだった。

ばあちゃん、ばあちゃん美晴きたよ〜って言ったらうんうんと首を小さく縦にふった。

見えているのかどうかさえ怪しい。

それでも一生懸命顔を見せるように話しかけた。
今日ね、広島出るんよ、明日行くんよ

そういうと、

「ほうねぇ」

とばあちゃんが言ったような気がした。少なくともそんな表情になった気がした。

ばあちゃんの手を握ると左手も伸ばしてきた。しっかり握った。わたしの手を取ってコツコツと手を合わせてくれた。

「ようきたねぇ。ありがとうね。嬉しいねぇ」

そんなふうに私に言ってる気がした。

ばあちゃんかわいいね、大好き、世界で1番大好き。ばあちゃんの孫でよかった。ありがとう。

バカみたいに単純な言葉しかこういうとき人間は伝えられないのだなと悟った。

そろそろ行かなくちゃ。

なんでこんなことになっちゃったんだろう。行き場のない悲しさをどこにもぶつけることができずただただ泣いた。むせり泣くってこんな感じなのかな。

「ばあちゃんそろそろ行かなきゃ」

わたしの顔を見つめるばあちゃん。

「ばあちゃんバイバイね!」

うんうん。

え?うんうんって頷いた…

もう一度。

「バイバイ!行ってくるね!」

うんうん。

わかってる。私の言うことがちゃんとわかってるばあちゃん。

泣いちゃだめだと思いつつ泣きながらもう一回バイバイって言うとまた首を小さく縦に振った。

「ばあちゃん、頑張るんよ」

そういうとさっきまでうんうんと頷いていたばあちゃんがゆっくり首を右に傾けた。

「わたしはもうだめよ」

そんなふうに言っている気がした。

なんで?ばあちゃん大丈夫よ!
と言うともう涙は止まらなかった。

部屋を出てから声を出して泣いた。
涙が止まらなかった。
ばあちゃん。大好きなばあちゃん。最後に声を聞きたかったよ。

おばあちゃんは星になった

こんなタイトル書くだけで涙が出ちゃう。

おばあちゃんが亡くなったのはイギリス時間だとまだ10月3日だった。つまり私の誕生日だった。

私が妹からおばあちゃんが亡くなったと通知をもらった時、私はフラットメイトからサプライズケーキをもらっていた。通知は嘘のように見えた。これは何かの間違いなんだろうな。見た時は涙は出なかった。

おばあちゃんの亡骸に会いたかった。抱きしめたかった。

次の日に妹がテレビ電話で繋いで亡骸を見せてくれた。
大学にいないと行けなくて、仕方なく泣き崩れるように地面に座り込んで号泣していた。

二人くらいの人から「大丈夫?」って声をかけてもらった気がする。
そりゃ大学で馬鹿みたいに泣いてたら誰だって心配するわな。と思いつつ「大丈夫です、ありがとう」と言ってそのまま泣き続けた。

物理的にも時間的にも葬式には間に合わないことがわかり、日本に帰るのはやめた。

葬式の日。オンラインで繋いでもらっていた時に親戚の人の一人が言った。

「一番会いたかったじゃろうにねぇ」

私にとっておばあちゃんは世界で一番大切な存在だった。でもその別れはあっけなかった。
ご飯を食べなくなったのが5月。亡くなったのは10月。
半年でおばあちゃんはいなくなってしまった。

思い出したら泣いてしまう。急に会いたくなって、涙が止まらなくなってわけもないのに涙を流して。

おばあちゃんにもらったかけがえのないものを胸に刻んでこれから生きていこうって思った。いつまでも悲しまない。今日で終わり。
泣いてたらおばあちゃんが心配する。


学費に使わせていただきます!