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#13 そこに行かねばならぬ

私はアラスカのスキー場の斜面を降りている。
指一本動かすことなく、足ひとつ動かさず滑っている。

ガイドブック地球の歩き方には、
スキー滑れなくても頂上にはいく価値はあると。
そして私ができるのはせいぜいボーゲンである。
しかし、そんなことは関係ない。
そこには美しい景色が私を待っているのだ。

アリエスカホテルから直通のゴンドラが頂上に通じている。
スキー板や靴はこのホテルで借りられる。
この至れり尽くせりの状況の中、頂上へ行かない理由はない。

頂上から見下ろすと、
海の氷河が見える。
この斜面を滑り降りた先には氷河が待ち受けているかのように見える。
無論、そんなわけはない。

さて、ここからどうやって、下に降りようか?
とりあえず、じぐざぐに滑り転びながら行けばいずれ下に着くに違いない。
そう思い、斜めに降りてコースのはずれで転んだ。意図的に。

まるで生き血の匂いを嗅いだサメのように、レスキュー隊がスキーに乗ってやってきた。
下までおろそうかと声をかけてきた。
いやいや大丈夫だからと拒否して、斜め反対方向に滑り降りて転ぶ。
また、レスキュー隊が寄ってくる。
いやいや大丈夫と、また反対方向へ。
そこで根負けして、
わかった。下まで連れてってくれと言うと、レスキュー隊はトランシーバーで仲間を呼びよせた。
そりの上に担架をのせて。
私はぐるぐるロープでそりにしばりつけられて、横たわると
頭が斜面の下、足は斜面の上という状態で2人のスキーに導かれるように下におりた。
覚えているのは、空とレスキュー隊のスキーで滑っている姿がぐるぐると回っている映像。

しばらくして、初級者コースまで降りると、何事が起きたのかといろんなスキーヤーが私を見に来る。私は身動き取れないし、きっと骨折したスキーヤーと思われたに違いないが、私は傷一つ負ってはいない。

その後、初級者コースをひたすら滑り降りた。
すると、レスキュー隊がうれしそうに、いやぁ元気かいと話かけてくる。

照れくさそうに笑顔で
楽しんでいるよおかげさまで
と返すしかない。

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