変わる時空列車 #シロクマ文芸部
「変わる時空列車のチケットです」
怪しげな男が小さい声でそう言って、新幹線のチケットのようなものを渡してきた。
駅のホームでぼーっと考え事をしている時だった。
今日は仕事でミスをして、上司に叱られ散々な日だ。でも叱られて当然だよな。取引先をあんなに怒らせて、高額な契約をパァにしちゃったんだから。それだけじゃない、ミスなんて日常茶飯事で、その度に上司に叱られる。
…もうこの仕事向いてないのかも。
そもそも別に好きな仕事でもないし。給料だって安い。
就活していた時に、たまたま受かったから入っただけだし。
あぁあ、あの時第一志望の大学に入れてたら、こんな今じゃなかったはずだ。
「人生やりなおしてーーーっ!!っっ!!」
そんなことを考えている時に、男は現れた。
チケットの裏には、【本日午前3時33分1番線より発車いたします。お客様のやり直したい時代を頭に浮かべてご乗車ください。その時代に戻ってやり直すことが出来ます。
注1、時空列車にご乗車のあとは、現在の記憶は消されます。
注2、ご乗車する選択により、現状より良くなる人生とは限らず、悪くなったとしても責任は負いかねます。】
こんなもん。
乗るしかないだろう。やり直したらこんな毎日じゃなくなる。良くなるしかないだろ。
やっぱり、高校時代に勉強をもっと頑張れば良かったんだよな。
いや、でも手っ取り早く大学時代の就活に力を入れとけば良かったのか?
本当に今日は散々だったよな。あのクソ上司!!あの取引先のヤツも、ふざけんな!!
俺は高校時代に戻ることに決め、一旦駅を出て、出発の時刻まで近くのネットカフェで仮眠を取ることにした。
疲れていたらしい。すぐに眠ったようだ。
走馬灯のように、あの頃が流れる夢を見た。
大学時代に出逢った友だち。毎日馬鹿騒ぎをした。いつまでも就職が決まらなかった俺に、就職が決まった時には朝まで騒いで祝ってくれた。
母さんには毎日の様に「まったくあんたは!」なんて、やることなすことにぶつくさ言われたけど、就職が決まった時には、うっすら涙を浮かべて安心した表情をしてたな。
鼻歌をうたって赤飯を炊いてくれた。
そもそも俺、入社式の時はやる気に満ちてたわ。
ティン♪
携帯が鳴った。
「明日お花見楽しみだね。ねぇ!お弁当作るね。楽しみにしててね!」
涙がツーっと流れた。
俺は明日、あの公園で桜を見ている。
変わる時は、過去に戻りたい時じゃないよな。
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