見出し画像

僕のそよそよはもういない

このnoteは架空のホテルをテーマにした"お菓子とことばの展示"の企画に寄せて執筆したショートストーリーです。11月10〜11日に開催する「 #HOTELmoshica 」の展示にて、物語の世界に遊びにいらしてください。

僕の「そよそよ」は、もうしばらく、姿をあらわしていない。それどころか僕の住む小さな国には、もうずっと風が吹いていない。隣国がどんなに嵐や台風にみまわれても、ここには葉っぱ一枚舞いあがることすらないのだ。

最後は、いつだったろうか。

「待って」と追いかけたはずが、走っても走っても、見当たらない。それどころか、やけに遠くにきて「しまった」と思った頃には、一番星が心配そうに瞬いてた。あきらめて、とぼとぼと家路についたら、かあさんが動揺を隠せないまま玄関をぐるぐるしていた。

「もう、変な冒険はやめなさい」

安堵と怒りのまじった声で、僕の小さな頭を包みながらそう言った。

それから月日は流れて、いつの間にか僕の住むここは「凪の丘」と呼ばれるようになった。ここ数年、凪の岡だけでなくどの街も、ぴったり風が止んでしまっているのだけど。

最初こそ僕が空気を集めすぎたせいだ、と噂されたほど。けれど、いまじゃ僕が手がかりを握る唯一の存在みたいだ。頼みのツナってやつ。

僕の仕事?申し遅れました、僕は「空気蒐集家」、様々な地域の空気を集めて研究しています。そして空気が風になる、とりわけ人を心地よく、幸福な気持ちにさせてくれる、そんな風をつくるのが僕の仕事。ときには遠い国まで空気を採取しに足を運ぶこともある。なにせ、この国にはもう小さな風すらないのだから。

おっと本題ですね。今回の依頼内容は、ぼくの「そよそよ」を探してほしいのです。「そよそよ」が一体何なのか、説明していませんでしたね。

そよそよは小さいです。
そよそよは少し涼しいです。
そよそよは短い時間、姿をあらわします。
そよそよは木の葉を運べません。
そよそよは赤ちゃんの毛を揺らします。
そよそよはチューリップは揺らせません。
そよそよは止まっているとき、そばにいます。
そよそよは走っていると、遠ざかります。
そよそよは"うちわ"が好きです。
そよそよをはじめて見たとき、おかあさんと一緒でした。

こんなところでしょうか。

どうぞ、そよそよに関する情報があれば些細なことでもかまいません。何か掴んだら、僕に連絡をくださいね。

この話、今回の依頼内容は絶対に口外しないでください。僕だって、その、いっぱしの空気蒐集家ですから。真空商店さん、どうぞ宜しくお願いします。さて、僕は研究に戻ります。ちょうど異国の地で拠点がつくれそうなのです。それでは。

【依頼人のオーダーリスト】
・そよそよを探すこと
・そよそよに関する情報を提供すること
・そよそよは10の特徴がある、これにあてはまる存在であること


+++

このnoteは全文読むことができます。購入していただいた金額はこのnoteをテーマにした個展開催費用にあてさせていただきます。

続きをみるには

残り 0字

¥ 100

期間限定 PayPay支払いすると抽選でお得に!

サポートはときめきを感じるカフェやレストランでの実食のために使っていきます!