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それでも東京で生きるの、tokiya, あい言葉の言い訳を

「だって、」

言い訳をする。

「ただ、帰れないだけ」

いつもキラキラしたもの食べてるね。インスタのストーリー、おしゃれな生活!って感じ。ザ・東京だよね……

「そんなことないよ。ない、ない」

ハハハと笑いながら、彼女たちはどこまでも否定しあって、謙遜合戦を繰り広げる。人生の分岐ルート、良し悪しなんてない。どちらも当人の歩む、幸多き道。

馬鹿だなぁ。実に、馬鹿らしい。

こんな風に語っていたきみはどこへ行ったのさ。

「馬鹿って、なんだか赤身肉のシズル感があってバカにできな字面だよね」

救いようのない馬鹿かもしれない。あるいは、無邪気。

きみにお似合いなのは、言い訳だ。【でも、だって、】そうやって東京にずっと居てくれたら僕としては、万々歳さ。今日は言い訳が捗る、あるレストランについて書き溜めたい。

・・・


学芸大学の「tokiya」は切ないほどあたり前に、そこに店を構える。

目黒区五本木の住宅街のなか、ひっそりと佇む一軒家ローファイ・ビストロ。フランス料理をベースにした、やや創作的な料理をお楽しみください。

「ここ、人の家だよ、ほんとに入っていいの?」店主の家だけれど、ひとつのテーブルを予約したのだから、きっと入っていいだろう。

コンコン、とノックするのは<鴨レバーと杏のクレーム ブリュレ>。デザートではなく前菜だ。食欲は背後霊のように、次なる一皿への予感と高揚の、ひそひそ話をはじめよう。


↑<鯖と苺、パセリのテリーヌ> 魚の青さと果実の酸が、煌めくステップ。異国のテキスタイルのように美しい。

「寿司職人さんのつくったケーキだね」、なんて言いながら、惚れぼれとナイフとフォークを構える仕草があまりにスムーズで、見とれてしまう。


↑<鰯とバナナ、ゴルゴンゾーラ、ルッコラのタルト仕立て>

一生添い遂げたい体温の持ち主。異性のタイプはきみしかいない。

「完全な体温の恋人っていると思う?」どうだろう。見た目の華やかさより、どうしたって着飾れない手と手が触れ合ったとき、始まることならあるかもしれない。

イワシは熱々、バナナはぬくい、低体温のサラダ、常温のタルト、素知らぬお皿。それらが触れ合った瞬間に生まれる予感。じわ、とろ、サク……好きすぎて一瞬が忙しい。


↑<子羊もも肉、キウイのカツレツ、コリアンダー、桜エビ、竹炭のピューレ>

「これはシュールレアリスム?いえ、リアリズム」虎視眈々と季節の味わいを煮詰めていくと、季節の終わりにやっと"解"らしき味にたどり着く。虎は羊に化かされて、黒いソースで闇落ち寸前、フルーツと薬味のマジカルステージで逆転ハッピーエンド。世界平和をテーマにダリがキャンバスに向かったら、きっとこんな感じ。

フルーツのカツレツは#来世彼氏に生まれたらシリーズで公開したkiki (キキ)のイチジクのカツレツと並ぶ絶品さ。


↑<ブロック豚肩ロース、牡蠣、春菊、コルニッションとパラペーニョ>
肉と貝類が抱擁しているのを目の当たりにして、やはり最初は驚いた。どこで出会ったの?って馴れ初めから始まり修羅場を超えて、今は幸せです、そんな声が聞こえる。

「海の幸・山の幸というけれど、どうして決別してしまうのかしら。」なんでもジャンル分けしたがる人類の習性だと思うよ。なぜ男女と分けてしまうのか、なぜ地図に線がひかれて国境があるのか。

曖昧な境界線を溶かす一皿から、愛の多様性を見るのである。


↑<うさぎ肉のコンフィ、バルサミコ酢のゼリー、春野菜>

お肉と野菜が睦まじく語り合っている。しかも、こじゃれた布団にくるまれて。この布団、時間経過とともに彼らの体温で溶けていく。

「だって、東京にはおいしいお店が多すぎるのよ」
「でも、忙しないから一生住むってワケじゃない」

言い訳をくるむのは、溶ける寸前、一皿の記憶。終劇にむかう、祝福の一夜。ドラマティックの大階段を駆けのぼる、フォークとナイフは最後のひとくちを彼女に運ぶ。

・・・

言い訳の多い人生でいいんだよ。

「tokiya」にいけば、【でも、だって】を愛せるから。

🍴tokiya(トキヤ)アクセス:学芸大学駅から徒歩5分営業時間:平日 19:00~L.O.22:30 土日祝 12:00~14:00 19:00〜L.O.22:30定休:月祝休みメニュー:コース1800円〜、3000円〜、4000円〜の3パターン。ワイン800〜1000円公式サイト:http://www.tokiya.org/※要予約

4月訪問時メニュー(構成は大きく変更されないが、メニューの素材が季節によって変わる)


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