夕方の海、家族の食卓
その日、ひとつの用事を終えていったん家に戻ろうとしたときのことだ。
「あ、今日、たぶんお買い得の日だ」
日頃、「○曜日は得々市!」(適当に言った)とか「毎月○日はポイント3倍デー!」とか、各種お店がよかれと思ってオファーしてくれるすべてを雑音くらいに迷惑がっているのに(そういうのに縛られて行動を決めるのが嫌)、何を思ったかついスーパーに足を向けてしまった。「しまった」と書いたのは、そこで確かに普段よりお買い得だった"お刺身の4種盛り合わせ"を見つけて、いそいそと買って「しまった」から。
一瞬、迷ったのである。
「あ、でも今日、もしかしたら外食するかも」と思ったのである。
よく晴れた日で、今日は夫が休みで、たぶん娘を早めに保育園に迎えに行くだろう。まだまだ沈まない太陽が照らす海を見に行こう、市営船に乗ろうと言い出すかもしれない。そしたらわたしもその言葉にあらがえず−この季節の海にあらがえるひとなんている?−、お刺身に後ろ髪引かれながらもYesと言うだろう。ビーチサンダルとタオルを持って、車に乗り込むだろう。
と、同時に、我が家のしあわせなルーティンも思い出す。毎週この日の夕食だけは家族3人が揃うのだ。笑っちゃうくらいに早いうちから、娘の食事に合わせて食卓を囲む日。いつもは2人のテーブルに、3人向かい合って座るのがどれだけ嬉しいことか。
スーパーの鮮魚売り場で一瞬のうちにそのシーンに意識が飛び、わたしはそのまま刺身をカゴに入れ、レジに向かった。あとはお味噌汁を作って、お豆腐でもあれば十分だろうと考えながら。
☆☆☆
で、結局、どうなったかって?
その日の夕方、お刺身に後ろ髪引かれながらも車に乗り込むわたしがいた。「いや、これ、わかってたんだよ...!!」と思いながら。ビーチサンダルとタオルをバッグに詰めて。
夕方の海、家族の食卓。
結局はどちらに転んでも、しあわせなことに違いはないのだった。
(お刺身は漬けにしていただきました←オチ
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