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可愛い肉体

昼食後、職場の年上女性がすごくしんどそうにしている。なんでも昨夜寝つけず、頭が痛くて全身がだるいという。

それを見兼ねたさらに年上の女性が

「私、マッサージやってあげる!」

と机に半身を臥せるよう言って背中や腰を揉み始めた。

あー。

きくー。

目を閉じ、口を少し開いてつぶやいている。

実は私もマッサージはしてあげるのが好きなほうだ。

「私もやりますよ~」

「え、いいんですかー」

揉まれている女性は

もう半分どうでも良さそうに見えるほど

半身を投げ出してだらんとしている。

先に施していた人が

「ほら、ここ。すごいでしょ」

と我がことを自慢するように、凝りを指摘。

立ち上がって後ろに回り、

背中にそっと触れ、徐々に力を入れる。

「あー、ここ。かたいですね」

私は擦るように揉みほぐすのだけど、

初めて触れたその年上女性の上半身が

見ためを遥かに超えるぷりぷりした感触で思わず

「なんだかプリッとしていて可愛いですねー!」

と声をかけてしまった。

「そう。だからあたし、痩せたいのー」

ちょうど職場ではダイエットの話で持ちきりだった。

でも、そういうのじゃないんだよな…。

うまく伝えられなくてもどかしいなと思う。

揉んだ瞬間に「かわいい」という感情がダイレクトに流れてきて驚いたのだ。

彼女は年上ということもあり頼りにもしていたし、

誰にでも優しくて、お茶目で魅力的な人ではあったけれど

私が「可愛い」と思う対象ではなかったのに。

快活な人なので無意識のうちに、

少し堅い、少年っぽい感触を想定していたのかもしれない。


思うに、からだっていうのは

私が考えている以上に

たくさんのメッセージを持っている。

呼吸を合わせて触れたりすると

ふと伝わってくるものがある。

そのふくふくした背中や肩に触れると

彼女の旦那さんが

彼女をいとおしく思う気持ちや

彼女のお父さんやお母さんが

いいこね、と優しく抱いた景色が

ほわんと見えた気がした。


気のせいかも知れないけど。


それで、

からだというのは

ご飯や運動や睡眠で作られるだけじゃなく、

自分の気持ちだけでもなく、

誰かの気持ちも含んで構成されているんじゃないかなと思った。


「あんまりやり過ぎると揉み返し来るかな」

と私たち二人が背中からそっと離れると

女性はゾンビのように半身を起こした。

ちょうどそこへやって来た別の人が

「あらー、なんだか寝起きみたい。でもすっきりした顔してますよ」

と声をかけて通りすぎる。

彼女はまだボーッとしながら、

「マッサージって人によって全然やり方ちがいますねぇ。おもしろいわ。みなさま、施術ありがとうございました」

と最後は少しおちゃらけた感じに言った。

10月だけど暑い日が続いて疲れやすい。

秋まであともう少しがんばろう。

私の手のひらからも何か伝わったのかしら。

それが優しいものであったらいいな、

と思う。


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