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東洋陶磁美術館、本気の「マリメッコ茶室」

大阪市立東洋陶磁美術館「『マリメッコ・スピリッツ』展で「マリメッコ茶室」が展示されている。この展覧会、すでに岐阜、山口で開催されていて、会場ではマリメッコ監修の茶室「不徹斎」が出品されているのだが、大阪展ではそれとは別に、大阪オリジナルの茶室を制作。異様なる気合の入り方をレポートしました。


フィンランド陶芸に宮川香山、発見。

『マリメッコ・スピリッツ』展と同時開催されているのが『フィンランド陶芸』。フィンランドというとアラビアとかポップなテーブルウエアのイメージが強いが、出品作の造形センスのきわどさ。クマと漁師が壺の上で睨み合ってるミハイル・シルキンの作品なんて、宮川香山かと思ったわ。香山の作品、絶対見てるね。でも足跡がゆるい。

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ルート・ブリュックのレリーフの幻想的な表現は、フィンランドの陶アートのユニークさが極まる。絵の具ではあらわせない釉薬の色彩と輝きに、二度見、三度見。ルート・ブリュック展も巡回中ではあるが、東洋陶磁美術館のライティングは陶磁器を見せることに特化しており、釉調、陶肌のキレイ見せ効果は絶大。同じ見るならここでしょう。私もこの美術館に通ってなかったら陶磁器好きになってなかった。

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さてマリメッコ茶室。写真ではちょっとやらかした風なんですが、設計をされた茶室建築家の飯島照仁さんが解説するに、この作品には茶の湯とマリメッコを融合させる周到なワザが駆使されております。飯島さんの解説を、長いですが、書きおこしておきます。

サブコンセプトは、マリメッコ×利休。

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「マリメッコの茶室をつくりたいというお話をきいて、利休の茶室をイメージしました。利休って、非常に優しい茶室を作った人で、茶室作りには、自然に普通に、という教えが残っておりまして。今回、それを頭に入れて、まず、優しい球体をイメージしました。ご存じのように待庵の壁はまっすぐ塗られていません。「塗り廻し」という、丸みがある塗られかた。柱も塗り込められていて、そうすることで、奥行きが出てくるんですね。そういう美意識を意識しました。球体のような、包まれるような空間にしたかったんですね。遠藤周作さんがかつて「母親の胎内への回帰願望が茶室だ」と言っていたように、なんとなく安心感のあるかたち、しかし球体は、床の間などもありますし、難しい。それで八角形が面白いかとおもってデザインさせていただきました。三畳に板畳を2枚いれています。ほかにはない形、きっと今後もない形だと思います」。

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利休とマリメッコ、どうなんだろう?ということなんですが、北欧では、どんよりした天気が多いのでデザインにも明るいものが欲しくなる。いっぽう利休は、戦乱の中で心の豊かになれるものを、と茶室を作った。マリメッコのデザインも利休の茶室も、どちらもそんなふうな気持ちからつくられたものではないかと思います。

世界初でしょう。茶室での「ファブリック見立て」

「この美術館は水辺にありますから、水辺でお茶をたのしむ趣向なんです。外側にKivet(石)を張って、堂島川の河岸をイメージしました。ファブリックを縦に張ると雰囲気が出なくて、ぐるっと横向けに布地を回しています。半円の上に丸が乗るのと、丸の上に半円が乗るのと、全然、違うんですね。お城なんかの石組を見ると、小さい石を大きい石が支えているんですが、そのような形にすると、デザインに強さが出てくる。反対側にはHyasintti(ヒヤシンス)があります。室内のLetto(湿原)も、水辺を連想させています。わび茶の草庵の茶室には、天井に「竹木舞」などといって竹が非常によく使われています。そこで、Tiiliskivi(煉瓦)のオレンジの格子を、竹を思い出させる柄として用いました。

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マリメッコの有名な柄、Unikko(ケシの花)は、館長のリクエストで「どうしても」ということで(笑)水屋(控え室)に張ってあります。お茶っていうものにはストーリーがありまして、この襖は太鼓襖という空洞の襖で、亭主が座っていて裏側から光が当たると、影がうつるわけです。で、点前座に道具が据えられて、点前がはじまると襖が開いて亭主が登場。すると、このマリメッコを代表する柄Unikkoがあらわれる。そして『一服差し上げます』というかたちで、お茶が始まります。

タテ長の障子の組子、美濃紙の上張で「塗り廻しトーン」

ファブリックの上の障子なんですけど、紙には貼り合わせた筋がそれぞれ細く入っていて、これを石垣張りと言います。最初、表具屋さんは「これ、一枚の紙で張って良いですか?」と聞かれたんですが、「ダメ」(笑)。障子の組子は、数寄屋建築では通常、横長なんですが、東洋と西洋の融合ということで、縦長に変えてみて、したがって石垣張りも縦に入ります。室内から透けて見える障子の形や石垣張りの線が、西洋的にリズミカルに良い調子におさまったと思います。
柱は14本入っていて全部京都の北山杉です。一本一本同じじゃありません。ふしがあったりするものを使います。10年くらい寝かして使いますので、ヒビが入るということがありません。施工は、茶道裏千家家元出入りの職人が手がけました。
室内は一部の壁のファブリックの上に美濃紙が貼られています、そうすることによってマリメッコと美濃紙の間に、ひとつの空気感があらわれます。利休の「塗り廻し」の効果にならったものです。紙を貼ったのは亭主の側の壁で、ここのファブリックの色のトーンを落として、客より一段ひかえるという意味もあります。
腰張は西ノ内紙、亭主座は利休の時代からあった湊紙です。マリメッコが出すぎると雑な感じになるし、二段張って高くすることで、ちょうど良いバランスになったかなと思います。

北欧ファブリックに利休美学のロジックを引き寄せつつ、おそらく茶室建築というお仕事史上、彩度の高さ最高のマテリアルと格闘されたと思われる。お疲れ様でした。

戦国時代の武将から明治・大正時代の実業家まで、茶の湯にハマった男たちは、道具を選んだり、見立てたりして、茶会に世界観をつくる遊びに真剣勝負をかけてきた。令和のいま、館長、茶室建築家、職人たちというオジサマチームが叡智とプライドを注いだのが「マリメッコ茶室」。日本—フィンランドとの一期一会の出会いの場でもある。





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