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Moani Ke 'Ala

「ハラウがうちの庭に来て、踊ってくれることになったんです!」

ゆみちゃんからそう連絡があったのは、彼らが来る二日前だった。

                ▫️

ゆみちゃん達はその土地、『Moani Ke 'Ala』を半年前に買った。
”土地に呼ばれた”としかいいようのないご縁だったので、彼らは
その土地のランドキーパーとして、ハワイ文化と世界を繋げるための
拠点にすると決めた。

彼らを呼んだその土地は、100年ほど前、
プランテーションオーナーの広大な敷地の一部だった。
ハワイアンの奥さんのための美しい庭で、
横を流れる川水を引き入れたプールやプールハウス、ガゼボ、
石畳の散歩道など、贅を尽くした庭だった。

当時その庭にはたくさんの文化人が訪れた。音楽家もいた。
美しい庭にインスピレーションを得て生まれた曲が2曲ある。
ハワイアンはその曲でフラを踊った。

                ▫️  

ちょうどフラの祭典である『メリーモナーク』が始まる時だった。
今年も各地から、コンペティションに出場するために
たくさんのハラウがヒロに集まっていた。
その日、ゆみちゃんが会場の近くを歩いていると、
彼女の庭から生まれた曲が聞こえてきた。

「どこかのハラウが今年、この曲を踊る!」

驚いたゆみちゃんはすぐに連絡を取り、
この曲が生まれた庭あると聞いたハラウは
急遽、庭でフラを奉納してくれることになった。
奇跡のような展開だった。

幸運なことに、ゆみちゃん達の計らいで、
その日わたしも奉納の場にいることができた。
かつてプールハウスがあった場所に、ダンサーが並ぶ。
庭に美しい歌声が響くと、雲が割れ光が差してきた。
溢れる光の中、若いダンサー達の鮮やかなスカートが揺れ、
庭と歌と踊りが一つになる。

100年前、この歌はここで生まれた。
この緑を眺めながら、感じたものが音になる。
音が動きになった。
そして100年後、今目の前で緑と音と動きが一つになった。

心がふるえ出す。
静かに静かにこみ上げてくる。
自然と人が作り上げたアート。
この日、わたしはフラの原型に出会った気がした。
そこにあるすべてのものが、踊る瞬間に一つになる。
自然と人が一つになるということは、こんなにシンプルで、
悦びでしかない世界なんだと気づかされた時間だった。


*ハラウ- フラ教室


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