自分の恋愛スタンスの根底は、「相手への興味の無さ」かもしれない
「エビアンってさあ、どういう男がタイプなの?」
時刻は深夜1時をとっくにまわっている。すでに4軒目。前職から丸5年お世話になっている4つ上の先輩と、向かい合わせで座るやいなや、合コンの決まり文句のような発言が飛び出た。
意外だった。この人から恋愛の話が出ることが。
というのも、先輩とは5年間かかわってきて一度もちゃんとした恋愛の話をしたことがなかった。私はずっと同じ人と付き合っていたし、私の知る限り先輩は「彼女いない歴=年齢」だから。
へえ、一応恋愛に興味あるんだ、と思う一方、私が彼氏と別れたことを知っての発言だと思うと、手放しで愉快な気分にもなれなかった。
「別に。誰でもいいっすよ」
どうでもいいと言わんばかりにそっけなく返す。実際どうでもよかった。
ただでさえ恋愛話であまり盛り上がれないタイプなのに、相手が先輩ともなると、さらにどうでもいい。早く話を終わらせたかった。
「ええ〜っ!誰でもいいってことはないでしょ〜」
食い下がる先輩にすこし同情した。たしかに、誰でもいいは言いすぎた。ちょっとは考えてやろうか。
3日間風呂に入らなくてもいい人とは一緒に過ごせないし、モラハラ男はぜったい無理。太っている人も無理だったはずだけど、前好きになった人は相当腹出てたよな。付き合ってた彼氏は全員顔似てないから、顔の好みも決まってないかも。
すでに10杯は飲んでいて、カラオケでYOASOBIの『アイドル』とAimerの『残響散歌』を歌ったばかり。すっかり出来上がっている頭から、「こういうやつは無理」を引っ張り出して、その逆を自分のタイプとして定義した。
「……お互いを尊重できる人ですかね」
「何だよその真面目な答え!せっかく2人なんだからさあ、ぶっちゃけようぜ!」
はいはい。あぁ、めんどくさい。
こういうところが振られた理由なのかなあ、と、「エビアンはいい子すぎる」と言われて振られた先月を思い返して、すこし心が痛んだ。
***
別の日、20歳以上年上の男性と飲みに行く機会があった。
SNSで知り合い、初めての食事。出会い系ではなく飲み目的。「優しいおじさん」という第一印象通りの性格で、お店に着いて食事をするとともに、話はどんどん進んだ。
そのおじさんは、離婚を経験していまは独り身。元々寂しがりな性格で、付き合う人とは基本的にずっと一緒にいたいと思う人だった。
一方私は、1人でも平気なタイプ。むしろ1人がいいと思うことの方が多い。連絡は取りたいときに取ればいいし、勝手に好きな場所に行けばいいんじゃない?と思う。
相変わらず恋愛系の話が不得意な私は、きっとまた突き放すような言い方になっていた。おじさんは苦笑して「人嫌いでしょ?」と聞く。
人嫌いと言われるとすこし違和感がある。でも人好きとは言いたくない。とっさにこう答えていた。
「いや、嫌いじゃないですよ。ただ興味無いんです」
とても笑われた。「エビアンってほんと真面目でいい子だよねえ」と、ここでも傷口をえぐることばをもらった。
***
相手がやりたいと思うことは、自由にやらせてあげたい。
だから私も自由にやらせてほしい。
いままでこのスタンスを貫いてきた。そしてこれは、お互いの尊重から生まれるものだと思っていた。
私、尊重じゃなくて、相手に興味無いんじゃない?
お酒に任せて勢いで言ったこの発言に、いままでの恋愛スタンスを見直された。
尊重と無関心。ことばはまるで正反対なのに、言動はこんなに似るなんて。
ガタン
時刻は3時半。恋愛と愚痴を喋り倒した4つ上の先輩が、座っていたイスから墜落した。テーブルにはほとんど手付かずのメガハイボール。飲みすぎて寝落ちしたらしい。
周りの人が先輩を起こそうと駆けつける。仕方ない。私も席を立ち、先輩の肩を叩いて名前を呼ぶ。
いくら誰でもいいと言っても、この人は無いな、と改めて思った。
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