採用ターゲットを振り向かせる「早期接触&継続アプローチ」のススメ

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【デジタル環境下の求職活動】デジタルデバイスが日常生活の中に浸透し、個人が情報にアクセスする手段が無制限に広がっている今、個人のキャリア選択においても、求人票や採用広告、ナビサイトに掲載されている情報だけではなく、口コミサイトや企業ブログ、社員のSNS等を通じてより広範な情報を集め、自らが納得できる企業にエントリーする時代になっています。


 さらには転職も「当たり前」のこととして経験されるようになったことで、個人は転職意欲のあるなしに関わらず、日常的に接する企業情報を自身の将来のキャリアと半ば無意識的に関連づけるようにもなりました。その結果、転職に向けて具体的な行動に移る頃には「次の行き先」としてめぼしい企業が2、 3社ほど脳裏にリストアップされていることも少なくありません。

 このように情報環境の変化によって求職者の行動・思考パターンにも変化が起こったことで、企業の採用活動は今後どう変わっていくのでしょうか?

 ひとつ確実に言えることは、「見込み候補者へのアプローチタイミングの早期化」を通じて従来の「待ち」の採用スタイルから脱却を図る企業が増えるということ。つまり、オンラインを中心に積極的な情報発信をすることで見込み候補者とのタッチポイントを設計し、エントリー以前に自社に好意的な印象を抱いてもらえるようなコミュニケーションを図る必要が生じてくるのです。

【採用コミュニケーションにおける事前戦略作り】
 見込み候補者に自社への好意的な認知を形成してもらうためには、施策レベルではなく、採用の全行程を意識したコミュニケーション設計が欠かせません。つまり、「リードジェネレーションを始めるために社員インタビューを制作しよう」という意思決定だけではこと足らず、「この企業の正しい姿は何か」を明確にし、「それを伝えるためにはどのようなコミュニケーションが必要とされるか」を考えた上で、各コンテンツのストーリーラインに落とし込むことが重要です。


 たとえばウォンテッドリーの自社採用では、自社の運営するビジネスSNS「Wantedly Visit」のフィード機能を通じて採用広報コンテンツを公開しています。その前段階として、採用コミュニケーションの「核」となるようなコンセプト作りを行いました。これは採用広報だけでなく、本選考プロセスでの候補者とのやり取りや、入社後の社内コミュニケーションに至るまで、「対象にどんな企業イメージを想起させるのか」を定義することを目的としています。

 コアコンセプトの設計における狙いは2つあります。1つは応募の質の向上によりマッチ率を高めること。もう1つは、企業を構成する様々な要素をコアコンセプトと紐づけて伝えることによりミスコミュニケーションを防ぐことです。採用におけるミスコミュニケーションは、たとえば「社員はいい人ばかりだったのだが、事業の方向性に共感できる要素が足りなかった」というような内定辞退の理由となって表れますが、コアコンセプトと紐づけて自社のあり方を立体的に見せることで、こうした事態を防ぐことにもつながります。

リードジェネレーションの目標設計
 2019年になってからというものオウンドメディアの相次ぐ閉鎖が話題となっていますが、採用におけるリードジェネレーションでも、「短期的な成果を求め過ぎてコンテンツへの投資ができない」「コンテンツ制作に手をつけたのはいいが次第に士気が下がって継続できない」「成果を測る指標が曖昧」等のトラブルが起きがちです。

 こうした状況を回避するためには、確固たる目的を定めることはもちろん、専任者を置くことによる継続可能な体制構築や、中長期的な投資対効果を追うための効果検証のモデルが必要です。とは言えど、リードジェネレーションの進捗をどのように計測するかについては、HR全体を見渡してみても2019年時点では正解が定まっているとは到底言えない状況にあります。しかし、各種プレーヤーがこぞって参入してきている領域でもあるため、これからベストプラクティスが生まれてくることは想像に難くありません。

 ウォンテッドリーの自社採用におけるリードジェネレーションの実例についてご紹介すると、後工程(ナーチャリング/本選考)とのつなぎこみを意識した目標設計になっており、カジュアル面談やミートアップにエントリーした候補者の質の推移を追うことで、採用広報活動の効果検証を進めています。

 具体的には、初回接触時に自社へのカルチャーマッチ度や共感度が高いかどうかが判断軸になり、まだ仮説検証の段階ではあるものの自社の評価基準で上位に分類される候補者の絶対数は確実に底上げされているため、コンテンツ制作体制を構築したことによって採用活動にプラスの効果が出てきていることは確かです。また、嬉しい副次効果としてカジュアル面談から本選考への移行率も上昇しているため、短期的にも効果が現れ始めていると言えそうです。  

【「選り抜く採用」から「育む採用」へ:ナーチャリングの必要性】
 リードジェネレーションによって採用ターゲットを振り向かせることに成功したなら、次は「ナーチャリング」によって志望度を上げていくプロセスです。デジタルマーケティングにおけるナーチャリングとは「見込み客に1対1で向き合い、継続的なアプローチで購買意欲を高めていくこと」を指しますが、リクルートメント・マーケティングでは「1対1での継続的なアプローチによって見込み候補者の志望度を引き上げ、本選考への後押しをすること」を目的にナーチャリングを行います。

 これからの採用活動は、外部データベースからかき集めた母集団を選別する従来型の「選り抜く採用」ではなく、採用ターゲットに「働きたい企業」として認知してもらう「育む採用」への方針転換が求められています。見込み候補者とこうした関係値を育むために押さえておきたいキーワードが、「ソフトセレクション」と「タレントプール」です。これらの要素を実践することで、採用における候補者の量と質を向上させられるのです。


【ソフトセレクション:候補者と企業の相互理解を進める】
 「ソフトセレクション」とは、企業と候補者が相互理解を深めるきっかけとなるプロセスであり、採用のマーケティング化を加速させている最大要因です。従来型の「集めて落とす」採用プロセスでは、候補者の志望度や転職希望時期、仕事選びの価値観などの要素が一定ではないため、選考の場で自社アピールを行ったところで候補者の志望度が向上するかどうかは未知数でした。しかし、求人倍率の高まりによりエントリー効率が悪化している以上、こうした確率論的アプローチだけでは現場の疲弊は免れられません。

 そこで有効なのが、母集団形成のための選考エントリーよりも一つ手前の指標として、「ソフトセレクションへのエントリー数」をKPIに置くこと。ソフトセレクションの具体的な手法としては、「カジュアル面談」や、「自社イベント/ミートアップの開催」、「学生の長期インターンシップ」など様々なやり方があります。いずれも選考プロセスの外部にありながらも、候補者と社員が触れ合う重要な機会となり、ここでターゲットの意向度を上げることができれば採用におけるマッチング精度をぐっと高めることが可能です。

ソフトセレクションで接点を持ったターゲットには、相手のステータスや志望度に合わせて継続的なアプローチをかけることが肝要です。具体的には、「転職タイミングを待つ間の温度維持」「社員との接触機会を増やす」「疑問・不安の解消」などと、目的別にコミュニケーションを使い分ける必要がありますが、そのすべてのコミュニケーションを人事がカバーするのは到底不可能です。事業部を積極的に巻き込みつつ、人事が指揮者となって全行程のプロジェクトマネジメントの役割を果たすことが、これからの採用の現場では求められることになるのかもしれません。

【タレントプール:継続的なアプローチを可能にするデータベースを整備する】
 タレントプールは、過去に接点を持った見込み候補者をリスト化したデータベースです。タレントプールを整備すると、理念共感・スキルマッチ・カルチャーフィットといった条件を満たしつつも、転職希望時期が合わなかったり、接触時点では希望するポジションを容易できなかったりした有望な人材に継続的なアプローチを行えるようになります。

 ウォンテッドリーの自社採用においては、雇用条件やスキルマッチなどを示す「共通ジャッジ項目」と、互いのビジョンのマッチ度合いを示す「会社への共感度」の2軸によって見込み候補者を評価した上でタレントプールに追加しています。このように分類することで、個々のタレントプール人材の特性に合わせてアプローチ方法や目的を使い分けることできるのです。


 また、タレントプールを効果的に運用するためには、「アプローチタイミングの最適化」が欠かせません。候補者情報を管理するATS(Applicant Tracking System)やSNSを活用すれば、候補者の状況に合わせたメッセージングができるようになります。リクルートメント・マーケティングの本場であるアメリカでは、GMやヒルトンホテルのような大企業を中心にタレントプールへのエントリーシステムを自社サイト上に開設しており、ユーザーの行動ログの蓄積や、定期接点の確保の円滑化に成功しています。情報登録の心理的ハードルが高い採用領域でも、継続的なリードナーチャリングの接点を創出するための工夫はまだまだたくさん残されていそうです。

 「ソフトセレクション」と「タレントプール」は、見込み候補者との継続的な接点を創出しつつ、マッチング精度を高める科学的なアプローチを可能にします。これにより、「エントリー数」や「採用数」といった短期的な指標を最大化するのではなく、長期的な視点を持ってマッチング精度を高める採用に取り組むことができるのです。

【チーム全体で長期的な視点を醸成することが、RM実践の第一歩】
 一般的なマーケティング活動においても、数年単位の長期的な戦略設計を行い、実行できる企業は決して多くありません。この長いプロセスを採用シーンに応用し、実践できている企業はさらに少ないでしょう。

 採用においては、「あの人を採用するのに3年かかった」というケースも珍しくなく、本当に採用したい人物を年単位で追うことが当たり前に行われています。だからこそ、長期的な視点で取り組む意味をチーム全体で共有することが非常に重要になります。その上で、「リードジェネレーション」や「リードナーチャリング」といった各プロセスの目的を明確化し、PDCAを長期視点で回せる体制を作ることが、激しい人材獲得競争を勝ち抜くリクルートメント・マーケティングの実践につながるのです。

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