人に寄せる 中西美雁の日々是排球

いやー第2回まで書いてから今までほったらかしで、すみませんでした。最初に書きたいテーマとして挙げていた「そうめんがあまり好きじゃない理由」とか、季節外れもいいところですね。来年の夏になって覚えていたら書きます。

今日のお題は「人に寄せる」です。バレーチームオーナーの某たばこ会社のCMキャッチフレーズみたいですが、そうではなく。私が書いているメディアで、よく編集さんから言われる言葉なのです。「では、やはりうちとしては人に寄せる感じで…」みたいな。私が書くのはバレーボールの記事。その大会のコラムとかを書くときに言われるんですね。「うちは」という媒体の特性と、あとは「バレーはマイナーだから、選手個人を際立たせないと興味を引けない」というのと、両方あると思います。

最初にそのメディアに記事を書いたときは「バレー専門誌じゃないから、なるべく一般の読者にわかるようにお願いします」とくどいほど言われました。レセプションではわからないと言われて、レセプション(サーブレシーブ)、ディグ(スパイクレシーブ)と必ずカッコで説明するようにしたり。なので、今夏JVAからレセプションはサーブレシーブで、ディグはスパイクレシーブで表記するようにとのお達しを頂いて、「あ、そうなんだ」とちょっと肩の荷が下りました。あ、でも私は「全日本」表記を続けますけどね! バレーは全日本!っていうのがなんかちょっと誇りだから。あと世界選手権のことも「世界選手権」表記を地味にしている私。これは、某2メートルで左利きの解説者も前こだわってました。「世界選手権は世界選手権でしょ!」って。今はどうか知りませんが。

あっ話がそれました。編集長ブログとか言って全然更新しないじゃないか!と思っていた方、お待たせいたしました。今回のお題はさっきも書いたように「人に寄せる」です。そう、よくツイッターとかで「選手個人ばかり取り上げるなー!」とやり玉に挙がっているアレです。

もう一誌書かせていただいているスポーツ総合サイトも、最初のうちは何でも書いてくださっていいですよーと言われて、「バレーボールはなぜ全日本というのか」とか「サーブのときのそーれという声援は必要なのか」とか「男子バレーファンはヌードが好きなのか」とか、大変に好き放題のテーマで書かせていただいたんですけど、最近はめっきり企画の通りが渋くなり、他と同じくサッカーや野球ばっかりになっちゃって、バレーはこれまた「人気選手ものに限る」ってことになっちゃったんですよね。

私はずっとバレー専門誌もやってるので、そちらでは全日本の人気選手だけでなく、Vリーグで頑張っている選手とか、あまり有名ではないけど海外に挑戦している選手とかもとりあげたいと思っています。ただ、戦術についてはそんなに詳しくないというのと、取り上げた際に自分の意見と違うとものすごくバッシングされる人たちがいるので、そのリスクを考えると二の足を踏むところですね。バレマガの編集長としては、自分ができなくても詳しい方にお願いできないかなとは常々考えているんですけど。

この「人に寄せる」というのを極端に嫌う向きもあります。だいぶ前のことですが、北京五輪代表の狩野美雪さんが監督を務めるデフバレーが銀メダルを獲得し、記事にさせていただいたことがありました。狩野さんの率いるデフバレージャパンはその後金メダルも獲得しています。この銀メダルを獲得したときの記事のタイトルに「狩野ジャパン」と入れたら、もうめちゃくちゃ批判されまして。狩野美雪だけのチームじゃない!みたいな。でも、監督の名前を冠して〇〇ジャパンと銘打つのは別に普通のことですし、その批判は今でも納得いってないです。そもそも、メディアというのは「読まれる」「見られる」ことを目的にしているもの。Web記事では見出しが一つの生命線なのです(このことは別の回でも書きたいと思います)。狩野美雪ジャパンだったら、「あ、あの狩野さん、今デフバレーの監督をしているのか。どれどれ」と読んでくれる人もいるはずです。「〇〇年度女子バレー日本、準決勝を勝ち抜く」よりよほど引きがある。どんなにいい内容の記事を書いたとしても、読まれなかったら何の意味もありません。記事自体が狩野さんのコメントしかなかったのなら批判もある程度仕方ないことですが、記事はちゃんと選手たちのコメントも掲載していました。たとえ「狩野美雪」の名前に釣られたのだとしても、それで他の人物のコメントも読んでくれれば、それでいいではないですか。

と、話が少しずれましたが、バレーというマイナースポーツが総合スポーツ誌で記事になるためには、やはり「人に寄せる」ことが必要なんですね。それも「人気選手」に限るといいますか。はっきりと、「編集長からバレーはサオリン以外いらないって言われてるんですよね」とか、「石川くん柳田くんでしたらOKです」とか。まあ私も頑張って「西田くんていう現役高校生Vリーガーが活躍してるんですよ!」とか、「高松選手っていう面白い選手がいまして…」とか「浅野くんというリアルハイキュー!!並の身長で全日本に選ばれてる選手が…」などなどあの手この手を尽くしてプレゼンしてるんですよ。ただ現状は、最近地上波で放映のあった女子バレーは通りますが、男子はなかなか厳しいところです。

フェンシング協会長の太田雄貴さんが、「人気選手に頼る売り方はやめよう」と発信されてましたね。それはすごく正論ではある。でも正論だからそれが通るというわけでもないのが難しいところ。もしフェンシング界に、例に挙げていた羽生結弦選手のような人気選手がいたら、太田さんは果たして同じように言えたでしょうか?

サッカー日本代表も、知名度の高い選手を入れるかどうか(だけではないと思いますが)で、揉めに揉めて監督交代までありましたね。でも、私のようにサッカーは代表戦をテレビでしかないような人にとっては、「全然知らない選手たちがなんかごちゃごちゃいて、しかもあまり勝てない」というよりは、やっぱり「あ、この選手知ってる!」という人がいると視聴のトリガーにはなります。おそらくバレーもそうだと思うんですよね。「全然知らない人たちがネットを挟んでごちゃごちゃしている」状態よりは「あ、この人知ってる!」という方が、絶対に視聴のきっかけにはなるだろうなと。

全日本代表監督が、東京五輪を控えて中田久美監督と中垣内祐一監督になったのは、それも大きいんじゃないかなと思います。たぶん、特にバレーファンでない一般の日本人が知ってる最後の大物バレー人が、中田久美さんと中垣内祐一さんだったから。あ、大林素子さんはいろんな番組に出てらっしゃるので今も知名度はありますけど、指導者ではないので除外ということで。あのかつての天才少女セッターが監督なら、あのスーパーエース・ガイチが監督なら、見てみるか。そう思う人も結構いるんだと思うのです。

そこから他の選手や、競技自体の面白さにどう広げていくのかは、正直かなり難しいものがあります。競技自体の面白さを伝えろ!と言う人が例に挙げている方法が「海外のこんなスター選手が日本でプレーしているんだよと伝えろ」とか。バレー界は選手個人を売り出している方法が、ガラパゴス的でダサいと批判してる人の出すケースが「サッカーをやっている少年にあこがれの選手はいる?と聞くとクリロナ!と即答、バレー少女に聞いてもいません」それも結局「人に寄せて」いますよね…みたいな。

なんか一つの方法をやり玉に挙げてバッシングしてても、叩いてる人の気は済むかもしれないですけど、状況は何も好転しないでしょう。「人に寄せる」ことのメリットもデメリットも受け入れながら、より良い方向を手探りで探っていくしかないのではないでしょうか。競技自体の面白さは、やはり見てもらう、それも生で見てもらうことが一番なので、そこにつなげる導線として、もしくは興味を保ち続けてもらうための保水スポンジとして。うまく働けたらいいなと思う次第です。


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