【フィスト・オブ・デッド】(「社長暗殺計画を阻止せよ」より)

これは2021年5月4日にニンジャスレイヤーTwitterアカウント上で開催されたニンジャスレイヤーTRPG2版の初心者講習会イベントのリプレイとなります。

さて、久々のツイッターソロアドベンチャー。忍殺TRPGも第2版ということで、ここは新たなサンシタを生成して挑んでみよう。今回はダイスを振るのではなく、公式のニンジャスレイヤーTRPGニンジャメーカーにてオートマチック自動的にサンシタ生成することにした。

実に自分好みのパッとしないサンシタが生成された。「死の拳」という大仰なニンジャネームを持ちながらカラテはたったの1。カラテパンチ打ったらそのショックで自分が死ぬんだろうか。その割に「○言いくるめ」を持っているので、さては口先や雰囲気で自分を強く見せるタイプなのだろう。

第二版キャラ作成ルールに則り、ジツ無しということで初期スキルを一つ選択。せっかくなので一番サンシタ感の強い「◉常人の三倍の脚力」を選択し、最終的にはこういうことになった。

◆デッドフィスト (種別:ニンジャ)  DKK:0  名声:1 所属:ソウカイヤ
カラテ    1  体力   1
ニューロン  4  精神力  4
ワザマエ   3  脚力   3/E
ジツ     0  万札   0
◇装備や特記事項
 ・◉常人の三倍の脚力: 【脚力】が+1される。また『連続側転』難易度が−1される。
 ・オーガニック・スシ: 【体力】3回復、使い切り、スシ 
 ・○言いくるめ: モータルハント」時に【万札】を追加で1得る(余暇中1回限り)
 ・◉交渉:欺き
 ・◉交渉:駆け引き

さて、この貧弱カラテニンジャ、デッドフィストは生き延びることができるのだろうか?

【フィスト・オブ・デッド】



重金属酸性雨降りしきる夜のネオサイタマ。車もまばらなビル街大通りを走るヤクザベンツのボンネットには、黄金装飾されたカニのエンブレム。奥ゆかしい水産性のアピール。運転するのはネオサイタマの水産メーカー、ケジメ水産の社長だ。

「ハァーッ!ハァーッ!」 社長はきつくハンドルを握り締めながら、落ち着かない様子で視線をさ迷わせている。当然だ。彼は今、何者かに狙われているのだから。

1週間前に差出人不明のマグロの頭が自宅に送られてきたのを皮切りに、三日前には昼食のイクラ・スシに麻痺毒が盛られ、つい先日はベンツの車内にズワイガニを仕掛けられ、あやうく運転中の指をケジメされるところだった。謎の暗殺者はじわじわと段階を踏み、真綿を少しずつ喉に詰め込んで相手を窒息させるという平安時代の拷問術めいて彼を苦しめ、最終的に亡き者にしようとしているのは間違いない。

命の危険を感じた社長は、ネオサイタマを支配する闇のニンジャ組織、ソウカイヤに救いを求めた。ケジメ水産は元々ソウカイヤの傘下企業であったこともあり、社長の願いは通じた。ソウカイヤから護衛のエージェントが派遣されることになったのだ。

「ハァーッ!ハァーッ!」 せわしなく視線を動かし、サイドミラーとバックミラーを交互に確認。そこに時おり映る、ビルの屋上からカンバンへと移動する色付きの風。常人の視力ではそうとしか見えぬものが、ソウカイヤから派遣された護衛。サイバネの補助無しにベンツと並走できる存在。即ち、ニンジャだ。

「ハァーッ!ハァーッ!クソッ、落ち着かない!」 暗殺者に狙われていること、さらにそれに対する護衛が半身の怪物たるニンジャであるという異常事態が、ごく一般的な暗黒水産メーカーであるケジメ水産社長の精神を蝕んでいた。こんな状況が二日も三日も続けば、間違いなく発狂するだろう。

「クソーッ!なんで私がこんな目に……!」 ストレスと恐怖に耐え切れなくなった社長は、IRC端末で護衛しているニンジャになかば八つ当たりめいて叫んだ。「くれぐれもヨロシクお願いしますよ!私は死にたくない!」

◆◆◆

「クク……リラックスしたがいい、社長=サン。あなたは今、ソウカイニンジャに護衛されているのだからな」 端末から聞こえてくるヒステリックな金切り声に対して、余裕そのものといった声で返したのは、まるで特徴の無い藍色のニンジャ装束に身を包んだ男だった。

胸に刺繍されたクロスカタナのエンブレムを除いて、唯一目を引く特徴と言えば露出した両の手の甲に入れられた「死」のカンジ・タトゥー。彼の名はデッドフィスト。カラテ、スリケン、ハッキングのいずれも見るべきところ無くジツも使えない、ソウカイヤの中でも最下層に位置するサンシタニンジャである。

「イヤーッ!」 唯一、他のニンジャよりも優れていると言えないこともない(言えない場合の方が圧倒的に多い)常人の三倍の脚力を活用し、デッドフィストはビル街を飛び渡る。何の実績も無いサンシタ中のサンシタである彼がエージェントに選ばれたのは、ケジメ水産の社長が護衛の依頼に支払ったニンジャ・リクエスト料金がその程度のものだったからだ。

ケジメ水産はそれなりの規模を持つ会社ではあるが、ソウカイヤと繋がりの深いオムラ・インダストリやヨロシサン製薬と言った日本を支配する暗黒メガコーポに比べればダニやノミにも等しい。首謀者をあぶりだすためのオトリとして、社長本人が危険を冒して車を運転しているのが何よりの証拠と言えよう。

要するにソウカイヤとしては、社長が死んだとしても適当な人員を送ってケジメ水産を乗っ取るなり買収するなりすればよいし、護衛につけたニンジャも死んでも惜しくないサンシタなので痛くも痒くもないのだ。デッドフィストは実戦経験0、育成コストをかける値打ちも無いと判断されてこの任務に放り出された。はっきり言えば捨て駒である。

「クク……さて、一番ありそうなのはビルからの狙撃だが……?」 だがしかし、実戦経験皆無であるはずのデッドフィストは落ち着き払った様子で周囲を警戒している。その姿は護衛任務どころかヤクザクランへのミカジメ徴収程度しか経験の無いサンシタとはとても思えない。いつどこから襲撃があってもいかようにも対処できるというような、歴戦のニンジャ戦士めいた余裕を漂わせている。

なぜか。デッドフィストには絶大な自信があるからだ。カラテもスリケンもハッキングも三流でジツも使えないが、自分はソウカイヤ最強のニンジャであり、ソウカイヤを襲う難敵に対する切り札だと信じているからだ。

その根拠は、ニンジャとなって以来、一度も振るわれたことのない彼の拳にある。デッドフィスト。「死」の拳。彼にニンジャソウルが入り込んだ時、ニューロンに強烈に刻み込まれたイメージ。解き放たれたデッドフィストの拳は、どれだけ強大なニンジャであろうと、確実且つ不可避な死を与えるヒサツ・ワザ……ソクシ・ケンなのだ。

ゆえに、デッドフィストはどんな状況でも決して余裕を崩さぬ。己はソウカイヤ最強のニンジャにしてネオサイタマ闇社会秩序を守る切り札。どれほど強大な敵が現れようと、彼のソクシ・ケンの前には死、あるのみ…… 「ウム?」 デッドフィストのニンジャ視力は、前方ビル屋上に立つ不審な黒スーツの男をとらえた。夜の空気が剣呑なアトモスフィアを運んでくる。殺気。「あれか」 デッドフィストは力をこめてカンバンを蹴り、三倍脚力で一気に接近する!


「クク……なんともはや」 接近し、相手の姿をハッキリと確認したデッドフィストは思わず呆れたように笑った。対戦車ロケットランチャーを構えたクローンヤクザだ。ヤクザベンツの防弾装甲ごと吹き飛ばし暗殺するつもりか!

「スナイパーを警戒してはいたが、やれやれ。狙撃と呼ぶにはいささか大雑把」 デッドフィストは空中でスリケンを構える!狙うは今にもロケット弾を発射せんとするクローンヤクザの額だ! 「スマートな狙撃というものを教えてやろう……イヤーッ!」 スリケン投擲!

ワザマエ判定:5,6,4 成功
【万札】2 入手


「グワーッ!?」 (……クク) デッドフィストのスリケンはクローンヤクザの額……からは大きく外れて右足に命中!軽傷! 「ザッケン……」 負傷に構わずロケット弾を発射しようとするクローンヤクザ!このままではヤクザベンツが!

「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ」 デッドフィストは三倍脚力で高速接近しながらスリケンを六乱射! 「グワーッ!?」 脇腹! 「グワーッ!?」 左肩! 「グワーッ!?」 右耳!六発の内三発が命中!だがいずれも致命傷には程遠く、痛みを意に介さぬクローンヤクザは狙撃姿勢を崩さない! (クク……!)

「スッゾコラー!」 そしてとうとうその指が引き金にかかり、ロケット弾がヤクザベンツめがけて発射され 「イヤーッ!イヤーッ!」 カーン! 「アッコラー!?」

カンバンを蹴り渡り、僅かタタミ三枚の距離まで迫ったデッドフィストが投げた二発のスリケン。その一発がロケットランチャーの砲身に命中!砲身に受けた衝撃は発射されたロケット弾の軌道を僅かにズレさせ……CABOOM! 「ペケロッパ!」 ヤクザベンツの隣車線を走っていた不幸なペケロッパ・バイカーに着弾!ナムアミダブツ!

デッドフィストがちらと道路を確認すると、社長の運転するヤクザベンツは爆発炎上するペケロッパ・バイクから逃げるように走っていき、瞬く間にビル街を抜けた。 (クク……まずは良し) この先には社長の自宅まで狙撃・奇襲ポイントは無い。護衛任務はこれにて達成したと見て良いだろう。

「クク……ドーモ、デッドフィストです」 クローンヤクザに向き直ったデッドフィストは余裕たっぷりにアイサツを繰り出し、カラテを構えた。握られた拳の「死」のカンジ・タトゥーが不穏な光を放つ。おお……ゴウランガ。これこそは彼のヒサツ・ワザ。あらゆる敵対存在に確実且つ不可避な死を与えるソクシ・ケンの予備動作に他ならぬ……!

「ザッケ」 「イヤーッ!」 「アバーッ!」 ランチャーで殴りかかろうとするクローンヤクザに、即座に構えをスイッチしたデッドフィストのカラテ・ソバットが突き刺さった!三倍脚力による強烈打撃を受けたクローンヤクザは内臓破裂して即死!

「クク……弱敵。我が拳を使うに値せず」  緑色の血を流すヤクザ死体を見下ろしながら、デッドフィストは自信に満ちた笑みを浮かべた。 (どの道、ソウカイヤの目があるミッション中にソクシ・ケンを使うことはできぬがな……)

彼は自らのヒサツ・ワザであるソクシ・ケンを、そのあまりに凶悪さゆえに封印し、ソウカイヤの上司や同僚にも教えていない。もし知られれば、シックスゲイツはおろかダークニンジャ、そして首魁ラオモト・カンですら容易に殺しえる拳を持つデッドフィストは組織内で危険視され、即座に抹殺対象になるであろう。

ムーホンやゲコクジョを起こす気など毛ほども無く、ソウカイヤの忠実な拳を自認するデッドフィストにとってそれはデメリットでしかない。ゆえに、彼はソウカイ・ミッションにおいて一度たりとも拳を振るったことはなく、チョップとキックとスリケンによって任務(集金や使い走り)をこなしてきたのだ。

(この拳は死んだものと周囲に思わせておく……ソクシ・ケンを使うに相応しい大敵、ザイバツ・グランドマスターやニンジャスレイヤーと相対するまではな。クク……) デッドフィストはソウカイヤの秘密兵器としての自信を全身に漲らせながら、地面に散らばったスリケンを回収した。支給品とはいえ使いすぎると装備課からイヤミを言われるからだ。

おお、見よ。一発たりとてマトモな有効打を与えることのできなかったスリケンを、身を屈めて一枚一枚回収するその姿を。その姿はどこから見てもロクにスリケンも投げられないサンシタで、とてもラオモト・カンすら一撃で屠るニンジャとは思えぬ。(クク……我ながら完璧な擬態よ……!)

デッドフィストの真の力を知らぬ仲間は、彼のことを「カラテパンチよりチョップやキックを好む、根拠不明な自信に満ち溢れたサンシタ」と認識しており、特に気に留めてはいない。それがデッドフィストの巧みな擬態であるとも知らずに……!

「ム?」 クローンヤクザの懐から万札を回収し、浅く突き刺さっていたスリケンを引き抜いていたデッドフィストは、死体のすぐ横に転がる携帯IRC端末の存在に気づく。「ムム」 彼が手を伸ばすと、端末のLEDは緑色に点滅し始めた。着信の合図だ。誰から? 「クク……愚問よな」 この暗殺を計画した黒幕からに違いなし! 彼はためらいなく端末を操作し、着信を受けた。「モシモシ」

ワザマエ判定:2,6,6 成功

「モシモシ!ど、どうなったのかね!?その、なんだ、死んだのかね!?社長は!」 端末の向こうからは切羽詰った声が聞こえてくる。 (クク……いかにも小物めいた声……) デッドフィストは口元に嘲笑を浮かべながら、クローンヤクザじみて落ち着き払った声で答えた。「ハイ。ロケット弾でヤクザベンツごと吹き飛びました」 ナムアミダブツ!これはなりすましだ!

「あ、暗殺成功ヤッター!でかした!よくやったぞ!」 通話相手は興奮のあまり、答えている声がクローンヤクザとはまるで違うことに気づかぬ! 「いえ、それほどでもありません」 一方、なりすまし行為など初めてのデッドフィストは平常心そのもの。自分はソウカイヤの切り札であるという自覚が、彼に絶大な自信と余裕を与えているのだ。 (クク……この様子なら、ひっかかってくれようか?)

「これより帰還します。合流地点の指示を」 「オオッ!?……ウム、ウム。そう、そうだったな!エート……よし!今、アドレスを送った!確認しろ!」 (ブルズアイ)会心の笑みを浮かべたデッドフィストが端末を確認すると、そこには通話相手が送った合流場所、つまり、社長暗殺を企てた黒幕の居場所がハッキリと表示されていた。 「ハイ、確認しました」

「よし!ではそこに向かえ!ASAPでな!」 「ヨロコンデー」 「急げよ!」 ブツン。通話は一方的に打ち切られた。「クク……クク……!」通話中ずっと我慢していたデッドフィストは、とうとう堪えきれずに笑い出した。「黒幕=サン、仮にも暗殺など企む悪党ならば、もう少し注意深くあるべきではないかな。クク……!」

「クク……さて……」 改めて端末に送信されたアドレスを確認。ソウカイネットに繋いでチェックすると、その場所はケジメ水産の本社社屋、地下フロア。となると、黒幕は社内、身内の……?

「クク……なるほど。ムーホン。ゲコクジョ。お家騒動。よくある話よな。日刊コレワあたりが喜んで食いつく類」どちらにせよ傘下企業のゴタゴタなどデッドフィストの知ったところではない。「イヤーッ!」 三倍脚力で床を蹴った彼は、再び色付きの風となってビル街を飛び渡る。目指すはケジメ水産本社。ソウカイヤの忠実な拳は任務を遂行すべく、黒幕の下へと急ぐ……!

「アイエエエエ!?」 ケジメ水産本社、重役用地下駐車場。社長暗殺が成ったものと思い込み、機密フロッピーを手にクローンヤクザの帰還を待っていた専務の前に現れたのは、装束にクロスカタナのエンブレムを輝かせたニンジャだった! 「さきほ、ウン……先ほどはIRCでのお話を、ドーモ。改めてましゅて……ソウカイヤのデッドフィストです」 「アッなりすまし!?ゴボボーッ!」 ショックのあまり泡を吹く専務!まるでカニだ!

「し、しかしどうやってここに!?IDを持たない部外者にはトラップが作動するはず!」 ケジメ水産本社にはズワイガニピット、マグロ頭爆弾、大型バイオイカ、毒スシなどの水産業ならではの殺人オフィストラップがそこかしこに仕掛けられており、一般人はもちろん重サイバネ傭兵でも容易に返り討ちにできるのだ!だが……

「ク、ク……オシルコめいて甘い。しょ、そんな……そんな子供騙しで、ウン……ソウカイニンジャを足止めできると……で、でも?」 「アイエエエエ!?」 当然ながらニンジャには通用しない!

「ク、クク……!」 デッドフィストは毒スシで痙攣する口を歪め、恐れおののく専務の醜態を嘲った。その装束はマグロ頭爆弾の爆風とバイオイカのスミで焼け焦げ汚れ、ところどころにズワイガニがぶらさがっている。無辜なる一般市民が見れば、その恐ろしい姿に失禁・発狂は免れまい……!

「さ、さあ……ウン、ウン……よし。さて、専務=サン、トコロザワピラーへとご同道願いましょうか」 デッドフィストはズワイガニを払いのけ、ようやく痙攣の収まった口から投降の言葉を投げかけて専務に迫る。おとなしく投降すればよし、抵抗するなら少々カラテすれば終わり。もはや専務に逃げ道無しだ。 「オーテ・ツミというやつですな。クク……」

「クソーッ!私に相談も無くソウカイヤなどに護衛を頼むとは……!乗っ取り計画が失敗に終わってしまったじゃないか!」 だが半狂乱になった専務は突如として壁に走り、業務用昇降機ボタンを叩いた! 「だが私はキョートに亡命する!貴様を殺した後でな!」

ガゴンプシュー! 「シューッ!」 「……ほう?」 デッドフィストの眉がピクリと動いた。昇降機の扉から現れたのは……ナムアミダブツ、大型車両ほどもある巨大バイオズワイガニだ! 何たる水産業ならではの鮮度の高い海産ヨージンボか!コワイ!

「ハハハーッ!コイツはメキシコライオンすらケジメする我が社の最大水産戦力だ!いかにニンジャでも勝てるものか!」 勝ち誇って両手でピースサインを繰り出す専務!まるでカニだ!「行けッ!ケジメしろ!食えーッ!」 「シューッ!」 残忍そうなハサミをふりかざしながら、重戦車じみた巨体がデッドフィストに迫る!

「クク……やれやれ。まだ理解が足りぬようだ。ソウカイニンジャがいかなる存在なのかを」 デッドフィストは迫り来る致死的海産物を前にしてもまるで動揺しない。その佇まいは歴戦のニンジャ……ソウカイヤの最精鋭部隊、シックスゲイツの六人にも劣らぬ堂々としたものである。「ではお見せしよう。真のニンジャの世界を……!」

▶︎スリケン投擲
【ワザマエ】で射撃判定 4,5,3 成功 ズワイガニ体力 5→4

「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」 デッドフィストはまず様子見とばかりにスリケンを投擲!「シューッ!?」 ブルズアイ!ハサミの付け根を狙ったスリケン三連射は内二発がその強固な胴体甲殻に弾かれるも、残り一発がズワイガニの突き出した右目に見事命中! 痛みに悶えるかのようにハサミを振り回すズワイガニ!

「ほう、見た目通りの堅牢さだな」 デッドフィストは感心したように呟き、冷静に敵戦力を値踏みする。あの硬さ、スリケンで致命打は与えられまい。キックやチョップも恐らく通らぬ。 (……と、なれば)「シュシューッ!」 沈思黙考するデッドフィスト目掛け、怒り狂ったズワイガニが巨大なハサミをハンマーめいて振り下ろす!

【回避判定】 1,6,6,1 成功

「イヤーッ!」命中コンマ2秒前、デッドフィストは電撃的ジャンプで回避!CLASH!コンクリート床に叩きつけられたハサミ・ハンマーは、その衝撃で地下駐車場にクレーターじみたヒビを入れた!何たる圧倒的質量から生み出される杭打ち重機めいた攻撃か!いかなニンジャとてこれをマトモに食らっては即座にネギトロであろう!

「シュシューッ!?」 右目を潰されたことで狙いが甘くなったズワイガニは、獲物をミンチ圧殺する手ごたえを得られずに泡を吹いて狂乱! 「フム、破壊力も見た目通り。とはいえ、所詮はカラテ無き海産物の動き。避けられぬものでもなし」 着地したデッドフィストは駐車してあった重役ヤクザベンツの陰に素早く身を潜め、冷静に周囲を観察する。

「フム……」 重役用ということもあってか、駐車場に監視カメラの類は見当たらない。 (ダイダロス=サンの目は届かぬ、と) 懐の携帯IRC端末を手に取る。通話OFFの状態ならば、ソウカイヤに送られるのは位置情報のみ。つまり。何をやっても、バレぬ。(クク……なるほどな)

全ての情報を整理し、結論を出したデッドフィストはニヤリと笑うと、ゆっくりとベンツの陰から出て、ズワイガニに向かってカラテを構えた。握られた拳の「死」のカンジ・タトゥーが不穏な光を放つ。おお……ゴウランガ。これこそは彼のヒサツ・ワザ。あらゆる敵対存在に確実且つ不可避な死を与えるソクシ・ケンの予備動作に他ならぬ……!

「シューッ!」 獲物を見つけたズワイガニがハサミを振り回しながら迫る! 「クク……!」 三倍脚力による素早いステップを繰り出し、ズワイガニの懐に潜り込んだデッドフィストは、不吉に光る拳を堅牢極まる甲殻に向けて……!

「イヤーッ!」 突然構えをスイッチしたデッドフィストはズワイガニの甲殻に向けカラテ・ドロップキック! 「シューッ!?」 当然傷一つ付かぬ!だが! 「イヤーッ!」 脚をバネめいて曲げ、三倍脚力による反動で後方にロケットめいて跳躍!その先には…… 「ア、アイエエエエ!?」 専務!

「な、何を」「イヤーッ!」「アイエエエエ!?」着地したデッドフィストは専務を掴みあげると、ズワイガニに向かって全力投擲!「アイエエエエエエエ!?」 飛来物に反応したズワイガニは、反射的にそのハサミを構え……「シューッ!」「アバーッ!」ナムアミダブツ!

「ウム、良し」 専務がズワイガニのハサミによって胴体ケジメされるのを見届けると、デッドフィストは踵を返して駐車場から撤退した。すでに社長の暗殺は阻止し、護衛任務は完了。黒幕が専務であることも突き止めた。確保しようとするも抵抗したのでやむなく殺害。何の問題もなくミッションコンプリート。ソウカイヤの忠実な拳は、見事に任務を全うしたのだ。

撤退
【万札】3 入手

「クク……カニよ。悪くない甲殻ではあったが、その程度では我がソクシ・ケンを使うにまだまだ不足」 報告のためにトコロザワ・ピラーへと向かいながら、デッドフィストは愉快そうに笑った。 「さらに育ち、いずれ再び私の前に立つがいい。我がソクシ・ケンを使うに相応しい真の怪物となって……!」

◆◆◆  

「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」 数日後、トコロザワ・ピラー。トレーニング・グラウンドにて、木人を相手にひたすらキックを打ち込むデッドフィストの姿があった。「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」

サンシタと目されていながらも実はソウカイヤ最強のニンジャ、無敵のヒサツ・ワザを持つデッドフィストだが、カラテもワザマエもサンシタそのものであることは事実だ。ゆえに彼はトレーニングを欠かさぬ。ソクシ・ケンは秘中の秘であり滅多なことでは使えない。それを封じた状態でもソウカイニンジャとして十分に戦えるようにならねばならぬ。

「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」 打ち込みに熱中するデッドフィストに対する周囲の目は冷ややかだ。もはやニュービーとは到底言えぬ在籍年数。にも関わらず一向に伸びぬカラテ。実績と言えるものは何一つ持たず、つい先日捨て駒同然に放り出された護衛任務ではズワイガニ相手に怯えて逃げ帰り、反ソウカイヤ勢力と関わりのある専務へのインタビューも果たせなかったという。だというのに何の引け目も感じておらず、根拠不明な自信に満ち溢れている。

「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」 デッドフィストは周囲の冷ややかな視線と、不快な異物を見るような嫌悪感を背中に感じながら、ひたすら打ち込みを続ける。笑い出しそうになるのを堪えながら。(クク……私の擬態も、なかなか大したものよ。ソウカイヤに入って数年、誰一人我が真の実力に気づかなんだ)

いつかソクシ・ケンを解き放つ時……(あってはならないことだが)トコロザワ・ピラーにニンジャスレイヤーやザイバツ・グランドマスターが襲撃をかけ、シックスゲイツすら倒れる非常事態。そんなソウカイヤ壊滅寸前の時、颯爽と現れてソクシ・ケンで敵ニンジャを次々と爆発四散させる……(後ろにいる連中の、その時の顔。想像するだに愉快でたまらぬわ)

サンシタであろうと、シックスゲイツであろうと、あるいはリアルニンジャであろうと、デッドフィストの真の実力を見抜くことは不可能である。なぜなら、ソクシ・ケンは一度も放たれたことがないからだ。本人ですら見たことがないヒサツ・ワザの威力を、どうして他人が知ることができるだろう?

誇大妄想に取り付かれた狂人の稚気じみた夢と切って捨てることは誰にも不可能だ。死の拳が実際に放たれぬ限り、それが無敵のヒサツ・ワザ、ソクシ・ケンである可能性は常に50%存在する。その50%がデッドフィストの誇りであり、自信であり、希望であり、支えであり、存在価値の全てなのだ。

決して放たれぬ拳が死んだままである限り、彼はソウカイヤ最強のニンジャであり続ける。また、そうであり続けなければならない。そうでなければ、デッドフィストは一体何者だというのだ。

いつか来る強者とのイクサを期待するかのように、拳の「死」のカンジ・タトゥーが不吉な輝きを放つ。その光は、ネオサイタマのどこにでもあるネオンタトゥー屋台で入れられる、数日で跡形もなく消え去る安価な即席タトゥーの輝きに似ていた。

【フィスト・オブ・デッド】終わり


というワケで、なんと体力1の分際で生き残ってしまったデッドフィスト=サン。ズワイガニ戦が撤退可能だったのが幸運だった。でも次は死ぬな、多分。報酬合計の万札5を得てステータスはこちら。

◆デッドフィスト (種別:ニンジャ)  DKK:0  名声:1 所属:ソウカイヤ
カラテ    1  体力   1
ニューロン  4  精神力  4
ワザマエ   3  脚力   3/E
ジツ     0  万札   5
◇装備や特記事項
 ・◉常人の三倍の脚力: 【脚力】が+1される。また『連続側転』難易度が−1される。
 ・オーガニック・スシ: 【体力】3回復、使い切り、スシ 
 ・○言いくるめ: モータルハント」時に【万札】を追加で1得る(余暇中1回限り)
 ・◉交渉:欺き
 ・◉交渉:駆け引き

と、今回はこんなところで終了。お付き合いいただきありがとうございました。もしあなたが忍殺TRPGにどんな形でも触れていたら、その経験をリプレイに書き起こしてみてはどうでしょう。タノシイですよ。それでは。

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