【ショウ・シンセリティ】 1(【ニンジャのアルバイト】より)
自作ソロ自作リプレイ作文
過去数度、忍殺TRPGのソロシナリオを自作している身だが、またも思いついたアイデアを形にすべくソロシナリオ作成行為をするなどした。
カネも無ければ命を賭ける度胸も無いサンシタが、目先の前金に釣られて簡単なアルバイトに挑むというシナリオだ。ソウカイヤからのミッションではないのでいつ放り出してもお咎め無しだが、報酬を全額きっちりもらうためにはそれなりのツキとカラテを必要とされるよう調整したつもりだ。途中で諦めて帰っても、ヤクザ相手にゴネることで追加の小銭を吐き出させるクズサンシタロールもできるようにしてみた。
そして、ありがたいことにしかな=サンにまたしても拙シナリオを遊んでいただき、リプレイ作品を書いていただけたのだった。アリガトゴザイマス!
不機嫌なアネゴ系ニンジャであるコールドブラッド=サンがワカガシラのタキボ=サンに頼まれ、ライオン捕獲のアルバイトに挑む。ところどころに隠し切れない善性とカワイイが滲み出しており大変に良さがあるので、未読の方は是非読んでいただきたい。
そして私自身も影響され、自作リプレイ作文を書かずんばと思い行動したのだった。
新たなジツ
さっそく自作サンシタを生成しよう。今回は生い立ちとマイナースキルは適用せず、代わりにニンジャスレイヤーTRPGプラグインLITE:追加のジツとニンジャソウルを導入。デジタルダイスの12面体ダイスを使用し、ジツの種類を基本5種類からではなく12種類の中から選んでみることにした。
◆フロスティ(種別:ニンジャ) PL:三笠屋
カラテ 3 体力 3
ニューロン 1 精神力 1
ワザマエ 2 脚力 2
ジツ 3 万札 0
DKK 0 名声 0
◇装備や特記事項
コリ・ジツLV3
◆ウィルス入りフロッピー:ハッキング難易度-1、使用後D6で3以下が出ると喪失
能力値合計:9 総サイバネ数:0
嬉しいことにジツ値3となり、さらに12面体ダイスで6を出してコリ・ジツを得られた。だが基本ステータスはサンシタそのもので、せっかくのコリ・ジツも精神力1のおかげで一発限り。なんともサンシタらしくて非常に好みの造型となった。
名前はコリ使いらしくフロスティとした。霜が降りる、凍るような寒さ、といったような意味合いらしい。ではこのフロスティ=サンを用い、いざアルバイトに挑むとしよう。
【ショウ・シンセリティ】 1
「ンンーッ・・・メキシコライオン、とな?」
時代遅れの弱小ヤクザクラン、ストロングバッファロー・ヤクザクランの事務所。応接室のあまり豪華でないソファに座っていた男は、手にしたオチョコを指先で弄びながら問うた。
「ハイ!是非ともフロスティ=センセイのお力を借りたいと・・・」ガラステーブルの対面でドゲザしているヤクザが、床に額をゴリゴリとこすり付けながら必死に嘆願した。
(フム、セッタイの理由はそれか)フロスティと呼ばれた男はしばし思案するようにオチョコを、そしてガラステーブルに並べられたオーガニック・スシ重箱を見た。隣に座ったあまり高級でないオイランは、彼が放つ超自然の冷気、そして顔を覆うメンポに刻まれた不吉なクロスカタナのエンブレムの恐ろしさに身を震わせていた。
フロスティはネオサイタマの闇社会を支配するニンジャ組織ソウカイヤに所属するニンジャだ。彼は業務としてストロングバッファローの事務所へ月々のミカジメ徴収へ来たのだが、今日はなぜかワカガシラのゲンノによってスシ、サケ、オイランが用意されていた。理由もわからぬままとりあえず目の前のセッタイを受けていい気分になっていたところ、突然ゲンノがドゲザし、彼にある仕事を頼んだのだ。
「ツキジのとある倉庫に、密輸入されたメキシコライオンが保管されている。倉庫に侵入し、麻酔銃でライオンを眠らせ、檻から出しておいてほしい」・・・依頼の内容は概ねそのようなものであった。
無慈悲さと凶暴さを兼ね備えたオーガニック猛獣であるメキシコライオンはヤクザ・オヤブンや闇カネモチの間で人気が高く、メキシコライオンを邸宅で飼育することは彼らにとって一種のステイタスとなっている。
その分値段も高く、とても弱小ヤクザクランが支払えるような金額ではない。ゲンノはこれを強奪し、老いたオヤブンに献上することで、クランの跡目争いでライバルに差をつけたいというのだ。
「ライオンさえ何とかして下されば、あとはもう全部ウチの若いモンにやらせますんで!」「「ヨロシクオネガイシマス!」」ゲンノの両脇で正座していたレッサーヤクザが同時にドゲザする。
「ンンーッ・・・なるほど、なるほどなァ~~~」フロスティは目を閉じ、尊大に腕を組んだ。ゲンノ達はその様を固唾を呑んで見守る。
依頼が受け入れられるかどうかはもちろんだが、この申し出に対して「弱小ヤクザの分際でニンジャに頼み事とは言語道断である」と突然暴れ出したりしないかと不安で仕方がないのだ。目の前に座る存在は、人の形をした怪物。何がカンに触るかなど、モータルの身たるゲンノ達に理解できるはずもない。
しかし、当のフロスティはと言えば、(これはチョージョー!うまい儲け話が転がり込んできたわァ~~~ッ!)すでに依頼を受けることを決めていた。(すぐに飛びついては安く見られ、報酬を値切られるかもしれぬしなァ~~~)
思案しているような態度を見せているのは単なるポーズである。「ンンーッ」腕を組んで小さく唸りながら考えているのは、この弱小ヤクザからどうすればより多くのカネを吐き出させることができるかということだけだ。
フロスティは確かにネオサイタマを支配するソウカイヤに所属するニンジャである。だが組織内の地位は極めて低く、カラテもスリケンもハッキングも何一つパッとしない。唯一取り得と言えるのは超自然の冷気を放つコリ・ジツだが、それも貧弱な精神力のせいでジツを使えばほとんど気絶するという体たらくだ。「ニンジャであることだけが取り得のサンシタ」というのが、彼に対する的確な評価である。
フロスティは普段、上位ニンジャの使い走りをするか、上位ニンジャに意味も無く暴力を振るわれるか、さもなければストロングバッファローのようなソウカイヤ傘下の弱小ヤクザクラン事務所に出向いてミカジメ・フィーを取り立てるというつまらぬ仕事ばかりしている。
ストレスは多く、稼ぎは極めて少ない。彼の住んでいるアパート(末端ニンジャ用にソウカイヤが用意したものだ)は風呂はもちろんトイレすら無い。そしてその最低レベルの住居に払う最低レベルの家賃にすら事欠くような始末。生活レベルとしてはネオサイタマのマケグミとさほど変わらぬか、なお悪い程度。
ゆえに、フロスティはカネが欲しい。何よりもカネだ。カネさえあればスシもサケもオイランも・・・(そして、風呂とトイレのあるアパートも思いのままという算段よ~~~ッ!)彼はカッと目を見開き、オドオドとこちらの様子を窺うゲンノを傲然と見下ろしながら、可能な限りの重厚さを装って口を開いた。
「よかろう。このフロスティに任せておくがいい」
「あ、ありがてぇ!センセイ、アリガトゴザイマス!!」「「アリガトゴザイマス!!」」ヤクザ三人は額で床を砕かんばかりの勢いでドゲザ!「ハッハッハ!クルシュナイ!」フロスティはドゲザするヤクザ達を眺めながらおもむろにオイランの胸を揉む!「アーン!」「ハッハッハ!」全能感!
「では、これをお納め下さい」ゲンノは懐から封筒を取り出し、恭しく差し出した。「ンン」フロスティは盛り犬めいて飛びつきたい気持ちをグッとこらえ、ふんぞり返った姿勢でこれを受け取った。
(さて、さてェ・・・)メンポの下で舌なめずりをしながら、ニンジャ器用さを発揮して一瞬で中身を確認する。万札が2枚。(何ィ~~~ッ!?)ナムサン、予想外に少ない!
「ゲンノ=サン」「ハ、ハイ!」「これがあなたの誠意か」フロスティの目が青白く輝き、対面のゲンノにマグロ急速冷凍室めいた冷気が浴びせられた。「エッ、アッ、その」「卑しくもソウカイニンジャたるこの私に見せる誠意がこの程度で構わないと、あなたはそう考えているのだな?」
怒りを押し殺した静かな声が冷気と共に吐き出され、ガラステーブルの上を霜が覆った。「「「アイエエエ・・・」」」スシやサケがたちまち凍りついてゆき、それを見たヤクザ達の顔もまた凍り付いた。比喩ではなく、文字通りに。とめどなく流れる冷や汗が冷気によって凍りつき、顔全体を霜が覆っているのだ。
「ゲンノ=サン、私は金額の多寡をとやかく言うわけではない」欺瞞!(いくら何でも安すぎるわァ~~~ッ!)本心!「私は何よりも誠意を重んじる。この封筒からは、残念ながらあなたの誠意を感じることができない」欺瞞!(せめて3万は出せんのかこの貧乏ヤクザめがァ~~~ッ!)本心!
「誠意とは他者への敬意でありソンケイだ。私に対する誠意がこの程度ということは、ソウカイヤに対するソンケイも同程度、と判断してよいのだな?」フロスティの凍る眼差しがゲンノを射抜いた。その右手は無意識の内に親指と人指し指で丸く円を作るマネー・サインの形となり、そこから白い冷気が立ち昇る!
「ソウカイヤに対してソンケイを持たぬクラン。これは明らかに危険な造反の芽だ。ソウカイニンジャとして看過できぬ。誠に遺憾ながら、これはラオモト=サンに報告せざるを得まいなァ~~~」「アイエッ!?」
無論、彼の如き末端がそんな些末事を理由にしてソウカイヤ首魁たるラオモト・カンに謁見など不可能。これは単なるハッタリである。(もう少し出せと言っておるのがわからぬのかァ~~~ッ!?)ナムサン!左手も無意識にマネー・サインだ!
「アイエエエ!お待ちを!それは飽くまで前金でして!」ゲンノは必死に弁明!「前金、とな」フロスティはピクリと眉を動かす。「私がライオンを連れて戻れば・・・?」「ハイ!追加で、これを!」ゲンノは指を三本立てて見せた。
「ンンーッ」(追加で3万!前金と合わせて5万!悪くないなァ~~~ッ!)フロスティはメンポの下で下卑た笑みを浮かべる!しかしゲンノの答えは彼の予想を超えていた。「前金の3倍、6万をお支払いさせていただきます!」「ンンン~~~ッ!!」合わせて8万!深まる笑み!
「ゲンノ=サン。あなたの誠意、ソウカイヤへのソンケイ、しかと見せていただいた」フロスティは打って変わって穏やかな口調で語りかけた。「誠意には誠意を持って応じねばならぬ。それが私のモットーだ」「エッ、それでは」「ライオンの檻を用意しておくがよかろう」
「「「アリガトゴザイマス!!」」」ゲンノ達はまたも一斉にドゲザ!「ハッハッハ!クルシュナイ!」フロスティはドゲザするヤクザ達を眺めながらおもむろにオイランの胸を揉む!「アーン!」「ハッハッハ!」全能感!
◇◆◇◆◇
二時間後。一度トコロザワ・ピラーに戻ってミカジメ・フィーを収めてきたフロスティは、懐の前金2万を装束の上から撫で回しながらツキジ・ディストリクトを歩いていた。
廃倉庫が立ち並ぶ区画には、全身に危険なサイバネを埋め込んだスラッシャーやメガコーポに雇われたマグロ探索傭兵が剣呑な視線を交わしながら辺りをうろつき、武器や薬物の露天商、スシやイカケバブの屋台、前後コンテナの前に立つオイランが彼らの気を引くべく声を張り上げている。
あちこちからイカの焼ける匂いと共に悲鳴や銃声、怒声や嬌声が聞こえ、荒事を生業とするアウトローならば思わずフラフラと吸い寄せられるような危険で魅力的な空気が周囲に満ちていた。
つい先日、とあるソウカイニンジャの手によって地下のツキジ・ダンジョンより大量の前世紀非汚染冷凍オーガニック・マグロが発掘された。どこからかそれについての噂が広まり、ネオサイタマ中から一攫千金を狙おうとする欲深者がツキジへと殺到、マグロ・ゴールドラッシュが訪れた。
廃倉庫のいくつかは探索ベースキャンプとして改装され、命知らずの探索者を相手に商売をすべく露天商やオイランが集まり、今や廃倉庫群周辺はならず者たちの集うオマツリだ。フロスティは屋台からくすねたイカケバブをかじり、居心地の良い喧騒の中を機嫌よく歩いていく。
探索者の格好は様々だが、防寒着を着た者も多い。ツキジ・ダンジョン内の厳しい寒さを凌ぐためだ。コリ・ニンジャクランソウル憑依者の常として防寒着めいたニンジャ装束を着て歩くフロスティは周囲に完全に溶け込み、誰も彼に警戒の目を向けることはない。
「激しくコンテナ内前後するドスエ?」扇情的なピンク色に塗装された前後コンテナの前に立つオイランが、フロスティに流し目を送った。「ンンー」彼はオイランの豊満なバストを興味深く一瞥すると、そのまま前を通り過ぎる。その際、コンテナに貼られた料金表に素早く視線を走らせ、「25分コース5000円」の文字をしっかりと確認した。
「ンン、ここだなァ?」ダンジョン入り口からやや遠く、探索者たちの喧騒がかすかに聞こえる程度の場所に、目的の倉庫はあった。ニンジャ聴力とニンジャ嗅覚を働かせると、中から動物の息遣いと唸り声、そして獣臭が漂ってくるのがわかる。「相違無し」フロスティは満足気に頷き、入り口の前に立つ。
周囲に人影は無い。見張りも、監視カメラも、殺人トラップが仕掛けられている様子も無い。入り口に申し訳程度のロックがかけられているだけだ。「ンンーッ、ラクで良いなァ!」フロスティは懐からピッキングツールを取り出し、さっそく開錠にかかった。
2:【ワザマエ】でロックを解除(目標出目4以上)
【ワザマエ】判定 2d6 → 6,4 成功
ピーンと涼しげな音が鳴り、ロックは呆気なく解除された。「ンンーッ、よし」フロスティはニヤリと笑い、静かにシャッターを上げて倉庫内にエントリーを果たした。
◇◆◇◆◇
倉庫内は天井のLEDボンボリによって頼りなく照らされていたが、ニンジャ視力を持つフロスティには何の障害にもならぬ。
「いおったわァ」
倉庫奥に並ぶ十数個の鋼鉄製ケージ、その内の一つを確認したフロスティはニヤリと呟いた。中に閉じ込められているのは、立派なタテガミを持った美しいメキシコライオンだ。彼は麻酔銃を手にケージへと近づいていく。
「GRRR・・・」野生の本能が危険を報せたか、メキシコライオンは警戒するように唸り声を上げ、どうにか身を隠そうとグルグルと歩き回る。だが狭いケージ内でそれは不可能だ。扉は電子ロックによってしっかりと施錠され、どうすることもできない。
「ンンーッ、まぁ落ち着きたまえライオン君!私はそう、君をこの狭い檻から救い、外へと連れ出しに参ったのだ」メンポの下で舌なめずりをしながら麻酔銃を構えるフロスティ。「悪いようにはせぬから、どうか動かないでくれたまえよォ~~~ッ」
「GRRR・・・!」ライオンはますます激しく歩き回る!「ンンーッ、これは困った!聞き分けの無いネコチャンであるなァ~~~ッ」言葉とは裏腹にフロスティは非常に楽しげだ。実際、彼はこのシチュエーションを心から楽しんでいる。
(ンンーッ!反撃できぬ相手を一方的に攻撃する!絶対的安全と圧倒的優位!これこそがニンジャの力よのォ~~~ッ!)フロスティにとってのニンジャの力とは自分より格下の存在、マケグミ市民やヤクザを震え上がらせるものであった。
フロスティはニンジャとして強くなろう、ソウカイヤでのし上がろう、上位ニンジャを見返してやろうというような向上心を一切持たぬ。彼にあるのは金銭欲と「ニンジャである」ということだけで自分に平伏するモータルを相手に尊大に振舞うことだけだ。
もしフロスティに憑依したニンジャソウルが名も無きレッサーソウルであり、ジツや特殊なニンジャ体質を持たぬニンジャであったならば、彼も地道にカラテを鍛えて強くなろうとしたかもしれぬ。だが、彼に憑依したのはコリ・ニンジャクランのソウル・・・それも、相当に強力な高位ソウルであった。
(カラテが何だ。ハッキングが何だ。そんなのものはニンジャでなくともモータルでもロボットでもできようがァ~~~。私は選ばれし高位ソウル憑依者!モータルがどれほど努力しても得られぬジツを使えるのだぞォ~~~ッ!)
何の努力も無しに強力なコリ・ジツを使えるようになったことで慢心しきったフロスティの性根は、この考えから一歩も外に出ることができず、サンシタの枠組から抜けることもまたできない。彼は現状を打破することを望みながら本当に必要な努力を一切せず、ただただ格下を相手に尊大に振舞い、目の前の小銭を拾うことに執心するばかりである。
「ンンーッ・・・」スナイパーを気取って見よう見まねの狙撃姿勢を取るフロスティの頭の中は、8万円とスシとサケと「25分コース5000円」、そして風呂とトイレのある生活で一杯だ!「GRR・・・」(ンンーッ!)歩き回っていたライオンが立ち止まった一瞬を狙い、引き金にかけた指を「ザッケンナコラー!」
「アイエッ!何事!?」慌てて麻酔銃を取り落としながら振り返ると、そこにはチャカ・ガンを構えた警備クローンヤクザ!コンテナの陰に隠れていたのだ!「まあ待ちたまえ!私は決して怪しい者ではなく通りすがりの動物愛好家で」「スッゾコラーッ!」BLAM!フロスティを狙って放たれる銃弾!
【回避】判定(難易度NORMAL)
3d6 → 5, 4, 2 成功
「イ、イヤーッ!」フロスティは咄嗟に両腕をクロスさせ防御姿勢!すると強烈な冷気が発せられ、一瞬の内にクロス腕を覆うようにイビツで分厚い氷の板が生成された!なんたる使用するニンジャ本人ですら無意識の内に発動する高位ソウル特有のパッシブスキルめいた防御法か!
カーン!凸凹の多い氷板表面に命中した弾丸は勢いを殺さぬまま滑るように軌道を変えて明後日の方向へと跳弾!カーン!その先には鋼鉄製ケージがありさらに跳弾!その先にはクローンヤクザがおり跳弾せず命中!「グワーッ!」倒れるクローンヤクザ!
「ハッハッハ、偶然とは恐ろしいものよなァ!」思わぬ幸運に笑みを浮かべながら、フロスティは不恰好な氷の盾を構えたまま倒れたクローンヤクザへとにじり寄った。
「アバッ・・・ザッケ・・・」ヤクザは虫の息ながらまだ生きており、震える手はしっかりとチャカ・ガンを握り締めている。確実にトドメを刺して障害を排除し、安心して8万円に取り掛からねばならぬ。
「さぞや苦しかろうなァ・・・動くな動くな、無理はいかぬぞォ!今すぐこの私がラクにしてやるでなァ~~~ッ」フロスティは細心の注意を払いながら、死にかけヤクザにカイシャクをすべく近づいていく・・・
◇◆◇◆◇
「ザ・・・ッケンナコラーッ!」カイシャクまで後タタミ二枚というところで、ヤクザは突如顔を上げた!血唾を吐きながらチャカ・ガンを発砲!BLAMBLAMBLAM!「アイエッ!」思わず身を縮ませ、氷の盾に身を隠すフロスティ!
だがヤバレカバレで撃った銃弾は見当外れの方向へ飛んでいき、氷の盾に当たることも無かった。「アバッ」カジバヂカラを使いきったクローンヤクザは力尽き、そのまま事切れた。「イヤーッ!」フロスティは念のため氷の盾をヤクザの頭に叩きつけスイカめいて砕くと、満足気に息を吐いた。
「これでよし。ようやく8万円にとりかかれ・・・」振り返り、麻酔銃を拾おうとしたフロスティの体が硬直した。鋼鉄ケージの中にライオンがいない。扉が開放されている。
(これは)「GRRR」ごく近い場所から聞こえた唸り声と獣臭に顔を向ける。(何事)タタミ一枚の距離、メキシコライオンが怒りの目でフロスティを睨んでいた。
(なぜケージが)バチバチと火花が散る音が聞こえた。壁際のUNIX端末。恐らくはケージの電子ロック制御用。操作部分には銃弾がめり込んでいる。(先ほどの)モニタ部分に表示されるのは「ロック解除な」の文字列。(誤作動!)
「ま、待ちたまえ!マッタ!先ほども申し上げた通り私は君の敵ではなく、むしろ助けに」「GROWL!」後ずさりながら必死に弁明するフロスティめがけ、メキシコライオンが襲いかかった!
回避判定(難易度NORMAL)
2d6 → 2, 6 成功
1d6 → 5 成功
「GAAARH!」前足に野生のカラテを漲らせ、ライオンの鋭いツメが迫る!「イ、イヤーッ!」フロスティは咄嗟にブリッジ回避!だがライオンは素早くもう片方の腕で叩きつけるようなツメ攻撃!狙いはフロスティの腹部だ!「GROWL!」ブリッジ姿勢のため回避は困難!
「イ、イヤーッ!」フロスティはブリッジ姿勢のまま床についた両掌と両足指から強烈な冷気を放出!一瞬にして周囲タタミ五枚分の床が氷に覆われる!「イヤーッ!」氷を蹴り、アイススケートめいて滑る勢いを利用して死のツメを回避!「GAARH!」
CRASH!ツメ叩きつけによる砕け割れる氷!
「ハァーッ!ハァーッ!」フロスティは荒い息を吐き、形ばかりのカラテを構えてライオンと睨みあう。「ハァーッ!ハァーッ!」無駄口を叩く余裕は微塵も無し!メキシコライオンは実際凄まじいスピードとパワーを誇るメキシコ食物連鎖の頂点であり、並の人間ならば50人がかりでも倒せない恐るべきオーガニック猛獣なのだ!ソウカイニンジャの中にはこれを侵入者に対する虎の子としてアジトに飼っている者すらいる!
ニンジャであれば確かにメキシコライオンを倒せるであろう。だが、一対一のカラテでメキシコライオンを倒せるニンジャは一般的にサンシタと呼ばれることはない。カラテ持たぬニンジャでは敗北、爆発四散もあり得る危険な敵なのだ。特に、ニンジャであることだけが取り得というようなサンシタにとっては・・・!
◇◆◇◆◇
(ど、どうにかして逃げねばァ~~~ッ!)
フロスティはライオンを警戒しながら、素早く視線を動かして倉庫入り口を見る。すでにして彼はアルバイトの完遂を諦め、この場から逃げることを選択していた。8万円も25分コース5000円も風呂もトイレも命あってのもの。死んだら終わりである!
「GRRR・・・」(く、来るかァ!?)一際大きな唸り声を上げたライオンに身を震わせ、防御姿勢を取るフロスティ。だがライオンはそのまま踵を返し、倉庫入り口に向かって走り出した!「アイエッ?」
予想外の展開に目を丸くしたフロスティだが、すぐさま事態を理解する。自分がメキシコライオンを恐れたように、ライオンもまた自分を恐れ、戦うことを避けたのだと。メキシコには周囲を凍りつかせるような生物はいない。軽度の負傷でも死に繋がる野生動物が、得体の知れない相手と戦う危険を回避するのは当然のことであった。
「た、助かっ・・・ハッ!」命が助かった安堵感に胸を撫で下ろしかけたフロスティの心に、再びムクムクと金銭欲が湧いてくる!(8万円!)急いで麻酔銃を拾い上げ、ライオンの後ろ姿に狙いを定める!(25分コース5000円!)ニンジャアドレナリンが分泌し、主観時間が泥めいて鈍化!(風呂とトイレ!)引き金を引く!
【ワザマエ】判定(難易度NORMAL)
2d6 → 5, 6 成功
「ARRRGH!」「ヤ、ヤッタ!」ブルズアイ!麻酔弾見事命中!「ARRRRGH・・・」メキシコライオンは苦しげな唸り声をあげながらもヨロヨロと数歩を歩いたが、入り口目前で力尽き、そのまま眠り始めた。
「ンンン・・・」フロスティは恐る恐るライオンに近づき、つま先でつついてみた。「GRR・・・」小さく唸り声をあげたものの、その目が開けられることは無かった。麻酔弾はしっかりと効果を発揮している。
「ハ・・・ハッハッハ!召し捕ったりィ~~~ッ!」フロスティは無力化されたライオンを見下ろし、麻酔銃を高く掲げて笑った。輝かしい勝利だ!自分はニンジャですら倒す猛獣を怯えさせ、逃走をすら許さずに捕獲したのだ!これはまさに現代の怪物退治であり、ニンジャ英雄と呼ばれるに相応しい「GRRR・・・!」「アイエッ!?」
突然の大きな唸り声にフロスティは飛び上がり、そのままタタミ五枚分をジャンプしてコンテナの陰に隠れる!「ン、ンンー・・・?」おっかなびっくり顔を出して様子を窺う。ライオンは変わらぬ姿勢で眠っている。今のは大きめのイビキだったらしい。
「ハァーッ・・・し、心臓に悪いわァ~~~」フロスティは大きく深呼吸して息を整えると、IRC端末を取り出してゲンノに連絡を入れた。「ウム、私だ。終わったぞ。急ぐが良かろう」
精一杯の威厳を装って手短に用件を済ませると、コンテナに背をあずけてずるずるとへたりこんだ。後はこのまま待つだけだ。もはや勝利の高揚感は失せ、一刻もはやく回収のヤクザが現れることを祈るのみ。
「GRRR・・・!」「ヒッ」コンテナの陰からコソコソとライオンの様子を窺い、大きめのイビキが聞こえる度に体を震わせながら、フロスティはヤクザの到着をひたすらじっと待つのだった。
【ショウ・シンセリティ】 1 終わり。2へ続く
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