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【ショウ・シンセリティ】 2(【ニンジャのアルバイト】より)

前回までのあらすじ:ソウカイヤに所属する最底辺のサンシタニンジャであるフロスティは、ミカジメ徴収に訪れたストロングバッファロー・ヤクザクラン事務所でワカガシラのゲンノから依頼を受ける。なんでもツキジのとある倉庫に保管されているメキシコライオンを強奪する手助けをしてほしいとのことだ。報酬に目が眩んだフロスティはこれを承諾、多少のアクシデントはありつつも無事倉庫に侵入しライオンを麻酔で眠らせることに成功した。あとは回収を待つだけだ!

【ショウ・シンセリティ】 2

「ンンッ、ようやく来たかァ~~~ッ!」

フロスティがゲンノに連絡を入れて数分。彼のニンジャ聴力は大型車両特有の地響きめいた重低音をとらえた。こちらへ近づいてくるその音の主こそは、ゲンノのよこした回収用ヤクザ・トレーラーに違いない。

「ンンー・・・」フロスティは確認のためコンテナ陰からもう一度ライオンの様子を見る。相変わらず苦しげな寝息を立てており、起きる気配は無し。「・・・善し!」彼は倉庫入り口に向かって回転跳躍。倉庫の壁を背にして腕を組み、余裕たっぷりという雰囲気を極力装った。

数秒後、ヤクザ・トレーラーが角を曲がってその姿を現した。フロスティの姿を確認したトレーラーは速度を上げて直進、倉庫前に停車。運転席と助手席から二人のレッサーヤクザが飛び出し、彼に向かって120度オジギを繰り出した。

「「センセイ、ドーモ!!」」

「ウム」 フロスティは涼しげな目でヤクザ二人を一瞥し、眠るメキシコライオンをアゴで示した。「手早くな」「「ハイヨロコンデー!!」」

(手早く、手早くだぞォ~~~ッ!いつ起きるかわからんのだからなァ~~~ッ!)トレーラー荷台から動物用ストレッチャーを持ち出すレッサーヤクザとライオンを交互に見ながら、彼は内心の動揺を隠すために必死であった。万一ライオンが起きて暴れ出したらヤクザ二人が襲われている間にトレーラーに乗って逃走する心積もりである。

「ウワッ、すげぇ!でけぇ!」 「バカ!手早くって言われたろ!」 初めて見る生メキシコライオンに興奮を隠し切れない年若いヤクザを叱りつけながら、兄貴分らしいヤクザがテキパキと作業を始める。五分後、ストレッチャーにベルトでしっかりと拘束されたライオンを見て、フロスティはようやく安堵の息を吐いた。そして遠からず手に入る残りの報酬に思いを馳せた。

「ところで、センセイ・・・その、倉庫の中の様子は・・・?」珍しい仕事に携わった興奮からか、年若いヤクザが好奇心を抑えきれぬようにフロスティに問うた。(中の様子?)彼が首を巡らせると、倉庫の中は先ほどの交戦で作り出された超自然の氷が未だ残り、強烈な冷気が漂っていた。

「バ、バカ!センセイにつまらねぇことを聞くんじゃねぇ!」「グワーッ!」慌てた兄貴ヤクザが年若ヤクザを全力で殴り倒す!「スンマセン!このバカが大変なシツレイを!」再びの120度オジギ!質問をするのは常にニンジャの側であり、モータルがニンジャに対して質問など許されぬ増長であることを兄貴ヤクザは知っているのだ!

「許す」安堵感で気を良くしていたフロスティはさほど気にも留めず、重厚な雰囲気を作り出しながら小さく頷いた。(ンンーッ・・・少し話を盛って、私へのソンケイを高めておくのもよいかもしれぬなァ~~~)メンポの下で下卑た笑みを浮かべ、彼は呟くがごとき口調で思いついたデタラメを語り出す。

「檻の外から麻酔を撃ち込むというのもつまらぬのでな、ちと外に出して遊んでやったのよ」「「エッ!?ライオンをわざと外に!?」」驚愕の表情を浮かべるヤクザ二人!予想通りのリアクションにさらに笑みを深めるフロスティ!いかにも「歯応えの無いつまらぬ仕事だった」というような雰囲気を演出しながらさらに続ける!

「運動させた方が麻酔もはやく回ろうかと思ってな」欺瞞!「スゴイ!」「さすがニンジャだ!」賞賛!「ま、ジツを見せてやったら怯えたネコめいて逃げ出してしまったゆえ、麻酔を撃ち込んだわけだ。メキシコライオンは凶暴と聞いていたが、いささか期待外れであったな」欺瞞!「「オ、オミソレシマシターッ!!」」賞賛!

「ハッハッハ、クルシュナイ」語られたニンジャ武勇伝に恐れ入る余り自然にドゲザしたヤクザ二人を見下ろしフロスティはご満悦!だが!(・・・ンン?何か、妙な)彼のニンジャ第六感が間近に迫る危機を報せたのだ!

CLAAAAASH!!「「グワーッ!?」」突如として地面を突き破って現れた巨大な二本のハサミがヤクザ二人を挟み込む!「アイエッ!?」咄嗟に倉庫内へと飛び退るフロスティ!「「アバーッ!!」」奇怪なる巨大ハサミが勢い良く閉じられ、挟まれていたヤクザ二人はあっけなく両断、即死!ナムアミダブツ!

「な、なに・・・何事かァ~~~ッ!?」ワケのわからぬまま不恰好なカラテを構えるフロスティ。ヤクザを両断した巨大ハサミは狂ったように暴れ動き、強固なアスファルト製の地面を砕いて穴を拡げていく。やがて穴がタタミ三枚ほどの広さになると、フチにハサミをひっかけて体を持ち上げ、それは地上へと姿を現した。

「な、なんだこのオバケはァ~~~ッ!?」驚愕するフロスティ!だが無理もない!ニンジャである彼から見ても目の前に現れた存在はあまりにも非常識!

体格に優れた屈強なるヤクザを易々と挟み両断した巨大なハサミ。戦車の装甲めいた強靭さを感じさせる分厚い甲殻。巨体を支える八本の足はその重量を分散させるも、接地部分の地面は耐え切れず数センチ沈み込む。口からは白い泡をブクブクと噴出し、突き出した二本の目は不気味に揺れている。

それは二本のハサミを勝ち誇るように振り上げると、そのまま両断ヤクザ死体に叩きつけた!「シューーーーッ!!」一瞬でネギトロと化すヤクザ死体!クレーター状にひび割れるアスファルト!何たるパワー!何たる残虐性!何たる奇怪なバイオの大怪物!これこそはズワイガニ!巨大バイオズワイガニである!

「シューーーッ・・・?」「ヒッ!」現実離れした光景に唖然としていたフロスティの姿を、バイオズワイガニの二つの目がとらえる。不機嫌そうに視線を動かして観察していたズワイガニだったが、彼のメンポの意匠・・・ソウカイヤ紋であるクロスカタナのエンブレムを確認した瞬間、激しく興奮したようにハサミを打ち鳴らした!

「シューーーッ!」その目に決断的殺意を宿らせながら迫るズワイガニ!「ナンデ!?」なぜか自分に対し強烈な怒りと殺意を抱く怪物に恐れおののくフロスティ!

彼の如き不真面目で目先のことしか考えられず組織内情報に疎いサンシタは知らぬことだったが、この巨大バイオズワイガニは先のソウカイ・ミッションであるツキジダンジョン攻略時にソウカイニンジャと交戦、スリケンとカラテを受けながらも逃走し生き延びた個体であった。その巨体に突き刺さったままであるスリケンには、ソウカイヤ紋であるクロスカタナのエンブレムがしっかりと刻み込まれている。

快適な住居であったマグロ冷凍庫を追い出されてダンジョンを当て所も無くさ迷い歩き、ツキジ地下に広がる下水道に迷い込んで数日。獲物の気配を察知して地上へ這い出したこの巨大バイオズワイガニは、当然ながらその原因であるニンジャをひどく憎んでいた。

そのニンジャのメンポと装束に印されていたクロスカタナをカニ・ニューロンに憎悪と共に刻み込んだこの個体が、フロスティの身につけるクロスカタナ紋を見て怒り狂うのは無理からぬことだったのだ!

「シューーーッ!!」「ア、アイエエエ!?」だが当然、フロスティにはそんな事情など知る由も無し!地響きを立てて迫るズワイガニの巨体!振り回される死のハサミを前に、彼の取った選択とは・・・

◇◆◇◆◇

(こ、こんなバケモノと戦っていられるかァ~~~ッ!)

フロスティは当然逃走を選択!何とかしてズワイガニの巨体をすりぬけてトレーラーでの逃走を謀ろうとする!その間にも迫るハサミ!襲い来る死を前にしてニンジャアドレナリンが分泌し、主観時間が泥めいて鈍化!

ゆっくりと動く世界の中で、フロスティの目は逃走ルートを探し・・・ストレッチャーに固定されたライオンを見る。このまま逃げ帰れば報酬がパーだ。(だが死んだら終わり・・・?)ニンジャアドレナリンによって研ぎ澄まされた彼のニューロンが、ソーマト・リコールめいて先ほどのライオンとの戦いを再生する。

ライオンは彼のコリの力を恐れ、逃走した(8万円)。巨大バイオズワイガニといえど動物は動物。(スシとサケ)ニンジャのジツを見せれば怯えないわけが無い。(25分コース5000円)追い払えさえすれば、無事にライオンを回収できる!

「そして風呂とトイレのある生活だァ~~~ッ!!」

欲望の絶叫によって恐怖を克服し、フロスティはジツの構えを取った!

▶︎巨大バイオズワイガニと戦う

世界の速度が戻る!ズワイガニとの距離はタタミ三枚!(ここだァ~~~ッ!)フロスティは両腕をズワイガニに向けて突き出す!超自然の冷気が爆発し、彼を中心にドサンコ・ブリザードめいた暴風が倉庫内に巻き起こる!「イヤーッ!」フロスティのシャウトと共に、両腕から一直線に冷気の渦が伸びた!

ゴウランガ!これこそは彼のコリ・ジツ!致命的なまでのソウルとの相性の悪さ、そして素質と努力双方の不足による悲しいほどの錬度の低さをもってなお、その威力は直撃すればモーターヤブ三機をまとめて氷漬けにする!高位ソウル由来の莫大なジツ出力にものを言わせたヒサツ・ワザである!いかな巨体を誇るズワイガニとてこれを喰らえばひとたまりもないであろう!

「ハハハハハァーッ!相手が悪かったなァ甲殻類めがァ~~~ッ!冷凍ガニにして市場で売りさばき一儲けしてくれるわァ~~~ッ!」勝利を確信して哄笑するフロスティ!全てを凍らせる冷気の渦がズワイガニに迫る・・・!

【ジツ】+【ニューロン】判定(難易度NORMAL)【精神力】-1 【精神力】1 → 0
4d6 → 1, 1, 1, 2 失敗

「シューーーッ!?」「ヤッタ!」バイオズワイガニは咄嗟に危険を感じて回避を試みるも、その巨体では避けようも無し!直撃した冷気の渦はみるみる内にズワイガニの体を分厚い氷で覆い、身動きを取れなく・・・「シューーーッ!」CLASH!「エッ」

フロスティは己の目を疑った。確かにジツは直撃した。直撃箇所から氷が覆い始めている。だが。「シューッ!」CLASH!バイオズワイガニは凄まじい速度で両のハサミを振るって直撃箇所に生まれた氷を砕き、全身が凍結されるのを防いでいる!「バカナーッ!?」

「シューシュシュシュシュシュシューーーッ!!」残像すら生み出しかねぬ超高速のハサミチョップ連打!まるでニンジャだ!CLASH!CLASH!CLASH!発生直後に割れ砕かれていく氷!ほんの数秒あれば分厚く成長しズワイガニの巨体をも容易く覆ったであろうが、凍結が広がる前に砕かれてはそれも叶わない!

「バ・・・バカな・・・」冷気の放出が止まる。フロスティは呆然としながら両腕を下ろした。無意識に発動するならともかく、彼の脆弱な精神力は意図しての長時間ジツ使用に耐えられぬ。「ウッ」ニューロンがジリジリと痛み、鼻血が流れ出た。

「シューーーッ!」凍結の危機が去ったと見るや、ズワイガニは再びフロスティに迫る!(な、なんだこのバケモノは・・・!?)彼は目の前に迫る理不尽な存在に心底恐怖した。

ニンジャのジツを見て恐怖しない動物などいない。例え凍りつかせることができずとも、先のライオンと同様に逃げていくはず・・・だが、彼の予想に反してバイオズワイガニは微塵の恐怖も見せず、殺意と怒りを全身から漲らせて突進してくる!

ニンジャと戦い、生き延びたこのズワイガニは知っている。このクロスカタナをつけた存在がいかに恐るべき相手であるかを。かつてツキジ・ダンジョンの探索者達・・・全身に危険なサイバネを搭載したアウトローを数え切れぬほど殺戮、捕食してきたこの個体にとってさえ、相対すれば逃げることしかできない生物。理不尽の極致。それがニンジャだ。

それを知った上でなお、このズワイガニはクロスカタナへの復讐を選択した。貧弱なカニ・ニューロンは殺意と怒りがスシ詰め状態で、そこに恐怖の入る隙間は無い。手から冷気を出した程度でこの個体は怯まぬ。自分が復讐する相手はそういう理不尽な生き物だと知っているからだ。

「シューーーッ!」八本の足を素早く動かして迫るズワイガニ!(なぜ動ける!?凍りつかずとも、ドサンコ・グリズリーでも凍死するほど冷却されたはず!?)フロスティは知らぬ!酷寒のマグロ冷凍室で暮らしていたこの個体は、寒さに対して凄まじい耐性を持つことを!

尋常な生物ならば例え凍結せずとも寒さによって動きを封じられただろうが、このズワイガニにとって寒さは何ら障害とならないのだ!「バカなーッ!!」ナムサン!相性最悪!

「シューーーッ!」 「アイエエエエ!!」圧倒的質量を持つ死のハサミがフロスティに迫る!

【回避】判定(難易度NORMAL)
1d6 → 5 成功
2d6 → 1, 1 失敗 【体力】3 → 2

「イ、イヤーッ!」あのスピードと重量を相手に氷によるガードは無意味!フロスティはジャンプし左ハサミによる攻撃を回避!一瞬前まで彼がいた場所を切り裂く残虐なる大ハサミ!(ア、アブナ)「シューッ!」「グワーッ!?」

ウカツにも空中で安堵感に浸っていた無防備なサンシタに叩き込まれる対空右ハサミアッパーカット!ニンジャの動きにすら対応できる凄まじきカラテだ!吹き飛ばされ、廃コンテナに背中から落下するフロスティ!「ゴボボーッ!」衝撃で嘔吐!メンポから吐瀉物が溢れる!

ハサミアッパーカットはフロスティの体を逆袈裟に切り裂き、その衝撃で肋骨を数本叩き折っていた。「グワーッ!」0.1秒後には折れた肋骨が重要臓器に突き刺さる。ニンジャであっても致命傷だ。だが。

「グ、グワーッ!?」

フロスティ・・・いや、彼の宿すソウルは無意識にジツを発動し、瞬時に内臓を厚い氷で覆って肋骨から防護した。続いて折れた肋骨を凍りつかせて元の位置へと固定。致命傷を防ぐと、最後に出血箇所を凍らせて止血する。

この間、僅かコンマ数秒。ダメージは実際軽微。半神と呼ばれるに相応しい真のニンジャは、尋常な手段では殺すことの叶わぬ不滅の存在。フロスティの宿すソウルはそういった類のものだ。

「し、死ぬゥ~~~ッ!死んでしまうわァ~~~ッ!」だがフロスティ本人はそれを知らぬ!高位ソウルを宿しているのは理解していても己が不滅などとは夢にも思わぬ!実際ソウルとの相性が非常に悪い彼に不滅性が発揮されるかは極めて怪しいところだ!

「グワーッ痛い!」そして致命傷は避けられても激痛はどうしようも無い!コンテナ上でもがくフロスティだが、カサカサと迫る足音の恐怖に慌てて身を起こす!「アイエエエエ!?」すでにズワイガニは彼の目前!恐るべき殺忍の意気込みを感じさせるハサミを振り上げ、今度こそトドメを刺さんと迫る!「シューーーッ!」

▶︎戦闘を回避し、撤退する
自動成功

「アイエエエエ!もうイヤだァ~~~ッ!!」

パニックに陥ったフロスティが泣き叫ぶ!すると彼の足から爆発的な冷気が噴出!まるで間欠泉めいた勢いで氷の柱が伸び育ち、フロスティの体を倉庫天井まで押し上げた!「アイエエエ!?」

「シューーーッ!?」困惑しながらもその巨大ハサミを振るって氷柱を砕きフロスティを叩き落さんとするズワイガニ!だが遅い!すでに彼の体は宙に!凄まじい勢いで伸びる氷柱に突き上げられた衝撃で高速垂直氷柱射出されていたのだ!「アイエエエエ!」頭が接触した瞬間に凍結させた倉庫天井を突き破り、空中へと放り出されるフロスティ!

「アイエエエエ!アッ!?」ジタバタと空でもがくフロスティの目が、倉庫前のトレーラーをとらえる!あれに乗れば逃げられる!(あ、あそこまで行かねばァ~~~ッ!)未だパニックの最中にある彼は空中であることも考えずに全力疾走めいて脚を動かす!ALAS!何たるソウカイニンジャにあるまじき貧弱なニューロンと脆弱な精神力による愚かな行動であろうか!そんなことをして空中が歩けるわけがない!

だがフロスティの宿すソウルは強大無比であった!「アイエエエ!」彼が宙に踏み出せばその足元に軽自動車大の氷塊が瞬時に生まれ、即席の足場と化してフロスティの歩みを助ける!「アイエエエ!アイエエエ!」それにすら気づかぬまま、彼は氷塊を生み出しながらトレーラーまで空中全力疾走!足場の役割を終えた氷塊はそのまま自然落下、倉庫へと激突して屋根を破る!「「「グワーッ!!」」」倉庫内部からは複数の獣の悲鳴!落下した氷塊にケージごと押し潰されたか!だがフロスティの知ったことではない!

「ハァーッ!ハァーッ!イヤーッ!」トレーラーまで残り数メートルの地点でフロスティは氷塊を蹴って跳躍、そのまま運転席へ!「急げ急げ急げェ~~~ッ!」ドアを開ける音を聞きつけたズワイガニは逃げようとしている仇敵の姿を見て怒り狂い、全速力でこちらに向かってきている!

「エンジンを!」ナムサン!キーが刺さっていない!「イヤーッ!」フロスティは指先をキーシリンダーに押し付けて冷気を送り込み、内部で氷のキーを生成!何たるカジバヂカラが可能とする繊細なるジツ制御!勢いよく捻りエンジンを起こしアクセルを踏み抜く!「イヤーッ!」危険な急発進!

CLAAASH!「アイエッ!」車体に衝撃!慌ててサイドミラーで後方を確認すると、荷台後部がバイオズワイガニのハサミによって深く抉られているのが見えた。あと一秒遅ければ、運転席にあのハサミが叩き込まれていたのは間違いない。「アイエエエ・・・」震える手でハンドルを必死に握り締め、車体を安定させる!

恐るべき巨大バイオズワイガニとの距離はどんどん離れていく。サイドミラーで確認すると、ズワイガニは不満そうにこちらを睨みながら、ストレッチャーに固定されたライオンをハサミで挟んでズルズルと引きずっていく。仇敵を逃した悔しさをせめて珍味で晴らそうという心積もりか。あれではもはや回収は不可能だ。

「ああ、ああ、ああ」メキシコライオンが、残りの6万円が、スシとサケと25分コース5000円と風呂とトイレのある生活が、フロスティの手の届かない場所へと引きずられていく。生命の危機を脱した彼の心には、再び金銭への執着がムクムクと湧いて出てきていた。かといって再び戻ってカラテするなどとは考えられぬ。前金の2万で我慢するしか・・・

「・・・待てよォ~~~?私に何ら落ち度は無かったはずだぞォ~~~・・・?」

角を曲がり、サイドミラーからズワイガニとライオンが消えた頃、フロスティは不意に気づいた。自分はヤクザクランからの依頼を完全に達成していたことに。

確かにライオンは回収できなかった。だが自分が受けた依頼は飽くまで「回収の手伝い」である。倉庫に侵入し、ライオンを眠らせ、ケージから出し、ゲンノへと連絡する。この点について彼は何一つミスを犯していない。全て依頼通りだ。

「ライオンさえ何とかして下されば、あとはもう全部ウチの若いモンにやらせますんで!」

ゲンノの言葉がニューロンに蘇る。ライオンは何とかしたのだ。回収できなかったのは、完全なるヤクザ側の手落ちだ。巨大バイオズワイガニという予測不能なアクシデントがあったことは何ら言い訳にならぬ。あらゆる妨害を織り込み済みで計画を立てるのは当然のことだからだ。

特に、矮小なるモータルが恐れ多くもソウカイニンジャに依頼をするならば、ニンジャを極力不快にさせぬようお膳立てを尽くすのが当然の礼儀・・・見せて然るべき誠意である!

「ンンンーッ!ゲンノ=サン、どうやら今一度、あなたの誠意を試させねばならぬようだなァ~~~ッ!」

フロスティは吐瀉物のこびりつくメンポの下で下卑た笑みを浮かべた。バイオズワイガニの恐怖と傷の痛みが、手の届く範囲に落ちている小銭への期待で消し飛ばされる。最底辺のソウカイニンジャを乗せたトレーラーは、ゲンノが待つストロングバッファローの事務所へと向けてスピードを上げていった。

【ショウ・シンセリティ】 2 終わり。3へ続く

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