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【フォー・シンセリティ】 2(「ニンジャの樹液サイ集」より)

前回までのあらすじ:ソウカイヤに所属する最底辺のサンシタニンジャであるフロスティは、頭部をサイに置換した恐るべきニンジャ、セイントサイにちょっとした小金稼ぎを打診された。飼っているカブトムシにオーガニック・オニクルミの樹液を与えてやりたいので、それが生えている自然公園へ忍び込む手伝いをしてほしいというのだ。一度は断ろうとしたフロスティだが、スシを奢られながら話を聞いたことで非常に断りづらくなり、嫌々ながら頼みを受けることになった…

【フォー・シンセリティ】 2

「ドーモ!よく来たな。実際ありがたいぞ!」 「ドーモ」

草木も眠るウシミツ・アワー。自然公園から一区画離れた集合地点で、フロスティはセイントサイと合流した。屈強なるサイ頭のニンジャの傍らでは、茶色く大きなカブトムシが滑空飛行している。これが話に聞いていたオーガニック・カブトムシであろう。二人のニンジャを前にしていささかの動揺を感じさせぬその様は、見る者をして甲虫の王者と呼ぶに相応しい貫禄を感じさせるものであった。

「なるほど、立派なものだな」 ネオサイタマでは現在カブトムシとクワガタムシが大ブームであり、オーガニックの大型個体ならばヤクザベンツ一台分の値段で取引されると言う。(万札が空を飛んでいるように見えるわァ~~~ッ!) フロスティの目が金銭欲に細められる。

 「ウム…所詮は非ニンジャのカブトムシではあるが…慎ましく、勇ましい。できるやつだ」

セイントサイは努めて平静な口調を保とうとしているが、カブトムシに向けるサイそのものの眼差しには隠し切れぬ愛着…ユウジョウ、ソンケイ、そういったものが滲み出ていた。彼は非ニンジャ存在を総じてクズと見下す態度を隠さぬが、このカブトムシはそのアティチュードを揺るがすほどの存在であるらしい。

もっともフロスティにはそのあたりはどうでもいい。(何とかしてくすねて売り払えないものかのォ~~~ッ…) 相手がヤクザならば彼はこの時点で迷いなくカブトムシを奪い取り売り払っていた。だがニンジャ相手には不可能である。手を出そうとして怒り狂ったサイにツノを叩き込まれる光景を想像し、フロスティは思わず身震いした。

◇◆◇◆◇


二人のニンジャと一匹の甲虫は無言で闇夜の中を進み、自然公園の入り口へと到達した。開放時間を過ぎたドアは入念な電子ロックがかかっている。侵入するためにはハッキングかピッキング、もしくは強力なカラテが必要な場面だ。

「非ニンジャのドア如き、俺のサイ・ホーンで叩き壊したいところなのだが!」 セイントサイはツノをブンブンと振り回し、太く逞しいサイ(脚部)で地面を荒々しく蹴っている。まるで興奮したサイだ。昼間のスシ・ショップで見せた穏やかさは影を潜め、今の彼は心身共にほとんどサイに近い。フロスティはさりげなく距離を取った。

「ウオーッ!」 セイントサイは普段こそ冷静だが、イクサやミッションなどでニンジャアドレナリンが湧き出すと途端に異常興奮し、全てのものを自慢のサイ・ホーンで破壊したくなる衝動にかられてしまうのだ! (ヒィ~~~ッ!) 横で猛り狂うサイ怪人にフロスティは生きた心地がしない!

「だが…そんなことをしては非ニンジャの警報装置が作動する。そんなことは俺にだってわかる。それではこいつに樹液を与えてやれない」 滑空飛行していたカブトムシが鼻先に止まると、セイントサイはようやくある程度の落ち着きを取り戻した。

「ハッキングかピッキングで静かに忍び込むべきなのだが…恥ずかしながら、俺はこの手の細かい作業が苦手でな」 (そんなもん見りゃわかるわァ~~~ッ) 心の声をグッと飲み込み、フロスティは相手の自尊心を傷つけて怒らせぬよう、そして下手に出すぎてナメられぬよう言葉を選んだ。「誰しも得手不得手はあろう」

「そう言ってくれるか。ありがたいぞ」 セイントサイは軽く鼻先を下げるサイ・オジギをし、フロスティを促した。「では、頼む」 「…ウム、任されよう」

(い、いきなり困ったことになってきたぞォ~~~ッ!) 内心の動揺を必死で隠しながらロック制御装置を意味もなく指でなぞるフロスティ。最底辺のサンシタである彼は何もかもがパッとしないが、強いて言うならばカラテが一番マシで、ピッキングとハッキングは不得手もいいところである。

実際、どちらの手段を取るにしろフロスティよりもセイントサイの方が成功率は上であろう。だがセイントサイは「常に冷静なこのニンジャであれば、すぐに興奮する自分よりうまくやれる」と信じて疑わぬ。サイそのものの瞳が放つ期待に満ちた視線が背中に刺さる! (い、居心地が悪いわァ~~~ッ!)

電子ロック自体はごく一般的なものだ。カチグミ向け施設といえど自然公園、中にこれといったカネ目のものがあるわけではないのでヨタモノやハック&スラッシュの侵入を想定していないのであろう。平均的なハッキング技量を持つ者なら苦も無く突破できるレベルだ。

問題はフロスティの技量は平均よりかなり下、ということであるが… (ならば、私の手が届く範囲まで引きずりおろすまでよォ~~~ッ) 彼は装束の懐に手を伸ばし、ハッキング用のウイルス入りフロッピーディスクを取り出した。

「ウオーッ!?なるほど、そういう道具を使うのか!よく準備してきたな!」 セイントサイはしきりに感心している。全てをサイ・ホーンと脚力で粉砕する彼には、こういった小道具を使うと言う発想が無い。もしミッション前に準備していたとしても、興奮状態のセイントサイがそれを使うことは無いだろう。

「カラテに優れたあなたが手助けを頼むということは、カラテでは対応しきれぬ困難があるということ。であれば求められる手助けとはハッキングの類。そう考えた」 フロスティは制御端末にフロッピーを挿入しながら言う。 (その突撃しか能の無いサイ頭を見れば誰でもわかるわァ~~~ッ) 実際、ニンジャ推察力が無くとも用意な推理ではある。

「あなたと別れた後、万全を期す為にブラックマーケットにてこれを買い求めてきた」 実際は以前ヤクザクランを訪れた際、机の上にあったのをくすねてきたものだ。「少々の出費ではあったが、あなたの誠意に応えるには必要経費であろう」 フロスティは呼吸をするように自然な所作で欺瞞を吐きだす。彼にとって欺瞞を吐くことは生物的生理現象の一部である。

「ムム…なんと…ウオーッ…その、なんだ。すまないな」 セイントサイは黙々とハッキングを続けるフロスティの背中に向かってサイ・オジギ。 (よぉし、よしィ…効いてくれたわァ~~~ッ) フロスティはメンポの下で下卑た笑みを浮かべながら、それを微塵も感じさせぬ冷静な口調で答えた。「誠意を尽くされたからにはこちらも誠意を尽くす。当然のことだ」 「ウオーッ!お前はいいやつだな!」

(そうとも、私はお前のために誠意を尽くす良いニンジャなのだァ~~~ッ) カネを伴う誠意をアピールすることによって相手に罪悪感と感謝を押しつけ、失敗したとしても責任を問いにくい状況を作り出す。これがフロスティの狙いであった。

(だから失敗したとしても、そのツノを私に向けるでないぞォ~~~ッ!?) フロスティはここでわざとハッキングを失敗し、そのまま解散の流れに持ち込むつもりだ。確かにカネは欲しい。だが、異常興奮するサイ頭の怪人が横にいる状況から一刻もはやく脱したいという気持ちの方が強い。死んだら終わりだ。彼はハッキングに集中するフリをしながら、デタラメにキーを叩いていく…

【ニューロン判定】:NORMAL フロッピー使用:NORMAL → EASY
1d6 → 4 成功

キャバァーン!祝福するような電子音が響き、制御端末のLEDが赤から緑に変わる。液晶画面には「開放」の文字。 「エッ?」 「ウオーッ!」

二人のニンジャはそれぞれ困惑と喜びの声を上げる。 (な、な、何だとォ~~~ッ!?) ウイルスの効果か、はたまたデタラメなタイピングが生み出した偶然か、フロスティは電子ロックの開錠に成功してしまったのだ!

「ウオーッ!やはり冷静なやつは違うな!さすがだぞ!」 セイントサイは興奮のあまりフロスティの背中をバンバンと叩く。「ハハ…まぁ、ウム。こんなものだろうて」 逞しい平手に体を揺すぶられながら、彼は呆然とした表情で制御端末を見つめた。

(こ、こんなことが起きるとは…) ともかくフロッピーを回収しようと震える指をイジェクトボタンに伸ばす。フロスティの指が届く寸前に端末は突如火花を散らし、ボン、と小さな音を立てて黒煙を噴出した。 (な…) イジェクトボタンを押す。反応しない。フロッピーは飲み込まれたままだ。(なァ~~~ッ!?)

フロッピー使用後判定(出目3以下で失われる)
1d6 → 2 失敗 ウイルス入りフロッピーを消費

ブラックマーケットでのウイルス入りフロッピーの販売価格は五万円。売却価格は三万円である。(三万円がァ~~~ッ!?) 三万円あればフロスティが望む快楽はほぼ全て手に入る。 (オーガニック・スシ!上等なサケ!25分5000円コースを6回!) 必死にイジェクトボタンを連打するが、制御端末は無情にも煙を吐き続けるばかりだ。

「ウオーッ!いざ行くぞーッ!」 すでにセイントサイは意気揚々とドアを開け、森林公園内部へとエントリーしている。 (こ、こうなれば何が何でもあのサイめから三万円以上を吐き出させなければァ~~~ッ!) サイ頭の怪人と行動を共にする恐怖を金銭への執着で吹き飛ばし、フロスティはセイントサイの後を追う。途中で二度ほど制御端末を振り返りながら…!

◇◆◇◆◇

出入り口をハック突破した二人のニンジャは辺りを用心深く見渡した。この時間帯の侵入者は完全に考慮されていないようであり、「ウェルカムこちら」とプリントされたカチグミ向けアロママシンをはじめとする多くの機器が沈黙している。

照明と呼べるものはところどころに設置された電子灯篭が放つ弱々しいLED光だけだが、ニンジャ視力を持つ二人、そして夜行性であるカブトムシにとっては何の問題も無い。二人と一匹はカチグミ用に舗装された快適な道を歩いていった。

「さっきは助かったぞ。俺はああいう精密さを求められる場面が苦手なのだ。細々としたことをやっているとすぐにカッとなってしまってな」 よほどハッキングに感謝しているのか、セイントサイは並んで歩きながら再びサイ・オジギをした。 

「足りぬ部分を自覚し、それを他人に頼ることができるのも、組織で生きる者に必要とされる能力であろう」

フロスティは上から目線にならぬよう、かといって媚びへつらう様子を見せぬよう淡々とした口調で返す。(フォローを入れるにも気を遣うからつまらぬ感謝などするなァ~~~ッ!誠意を示したいならカネを払えこのサイめがァ~~~ッ!) 彼は上下関係を伴わぬ感謝や誠意に対して非常な苦痛を感じるのだ。

「お前の言葉にはインテリジェンスがあるなぁ。やはりお前に頼んで良かったぞ」 セイントサイは耳をぴこぴこと動かしてしきりに感心している。「トコロザワ・ピラーの廊下でお前を見て、その佇まいにピンと来たのだ。この冷静で落ち着き払った男なら、俺の足りないところを助けてくれるだろうと」

「ハハ、見込まれたものだな。期待に応えられれば良いが」 (外見でニンジャを判断しおって~~~ッ!いかにも脳みその詰まっておらぬサイ頭らしい愚鈍で軽率な考えよなァ~~~ッ!) セイントサイに微笑を向けながら、心中で悪罵の限りを吐き出す。

だが、これはインガオホーというものである。フロスティの外見から他者が受ける印象は、彼自身が意図的に演出したものだからだ。

フロスティはサンシタそのものだが、それを悟らせぬよう振舞うことにかけては一切の努力を惜しまぬ。彼の外見と雰囲気から他者が抱く印象は「常に冷静で落ち着き払った様子の、サンシタらしからぬ物腰の油断ならぬニンジャ」である。そう思わせるよう振舞ってきた。これはフロスティがソウカイヤ生活を可能な限り快適に暮らしていくために選択した自衛手段である。

「他ニンジャに実力を悟られ、弱者と侮られれば容赦無い搾取と暴力の標的とされる。ナメられたら終わりだ」…フロスティはそう信じて疑わぬ。彼自身、弱者であるヤクザに対してはそのスタンスを崩さぬからだ。ヤクザがニンジャを恐れるように、フロスティは他のニンジャを恐れる。ヤクザがニンジャに絶対に勝てぬと信じるように、彼は他ニンジャには絶対に勝てぬと信じ込んでいる。

ニンジャとなり、超人的な身体能力と全てを凍りつかせる強大なコリ・ジツを得た彼は「自分はこの世の王になった」と全能感に酔いしれた。だが三分後、彼の前に現れた「ソウカイヤ基準で中の下程度の技量を持つニンジャ」の、「何のジツやサイバネの助けも借りぬ単純なカラテ」によってその幻想を粉微塵に打ち砕かれた。

このニンジャはスカウト部門ですらない偶然近くにいたそこそこ名の通ったサンシタであり、軽い気持ちで「査定の足しにしよう」と調子に乗ったニュービーを叩きのめしてソウカイヤ入りさせたのである。

自分以外にもニンジャがいること、自慢のコリ・ジツがニンジャ相手には何の役にも立たぬこと、自身がニンジャの中で相当に弱いことを強烈に思い知らされたフロスティは、それ以来自分以外のニンジャを非常に恐れるようになった。そして「ニンジャである」ことだけで平伏し、自分を恐れるヤクザを相手にすることを何より好むようになった。ヤクザ相手なら、彼はこの世の王でいられるからだ。

ヤクザが相手ならばカラテを使うまでもない。憑依ソウルがもたらす超自然の冷気は、それだけで非ニンジャを屈服させるのに十分だった。

(私はカラテなど用いずにモータルを支配することができるのだぞォ~~~ッ) これはフロスティがカラテを鍛えない絶好の言い訳となった。カラテとイクサに満ちたニンジャの世界から逃げ、何の努力もせずに王でいられるヤクザの世界に君臨することを彼は望んだ。

だが、いかにヤクザの世界を好んでも、ソウカイニンジャである以上はニンジャの世界にも身を置かねばならぬ。彼は他のソウカイニンジャに対しては決してナメられぬよう毅然とした態度を保ち、だがムラハチにされぬよう程ほどに愛想良く、そして必要以上に親しくならぬよう適切な距離を取って接することに腐心した。

そうすることでフロスティは「侮られるほど弱くなく、一目置かれるほど強くない」というポジションに自身を置くことに成功した。「集団行動が苦手である」ということをさりげなくアッピールすることで、上役からチームを組まされることも回避してきた。

フロスティは自分以外のニンジャを全員度し難いサイコか理屈の通じぬ狂人と思っており、他ニンジャと行動を共にすることなど考えただけで胃が痛くなる。そんな彼にとって、頭をサイに置換するような何をしでかすかわからない狂ったニンジャと並んで歩いているこの状況は、拷問にも等しい苦痛と言えた。

(一刻もはやく用件を済ませ、このサイからカネを受け取って帰りたいわァ~~~ッ…) フロスティはミカジメ徴収担当のヤクザクラン事務所を想った。ヤクザ達がニンジャである自分を恐れ敬い、チャやサケでもてなしてくれる。彼がこの世の王でいられる場所。スシ・バーやオイランハウスよりも今はそこが恋しかった。

「ウオーッ…?」 セイントサイが警戒の唸りを上げる。 (なんだァ?) 我に帰ったフロスティが顔を上げると、前方から小さな明かり、そして足音が近づいてくる。 (警備員かァ~~~…) 二人のニンジャは道から外れ、近くの木陰へと身を隠した。

「フンフンフフフーン…」 巡回警備員は鼻歌を歌いながらノンビリと歩いてくる。その手にもったライトにフロスティは違和感を覚えた。何か妙なものがくっついている。 (あれは…スタンガンかァ?)

それは致死的スタンガンつきフラッシュライト。強烈なフラッシュを放つことで不審者を怯ませ、その隙にライトで殴りかかりスタンガンで鎮圧するという、恐るべき合理性を備えた巡回警備用武器である。

致死的スタンガンとはいえ所詮は非ニンジャ相手の武器、さすがにニンジャを殺すまでには至らないだろうが、ショックで動けなくなる危険性は高い。(相手にしたくないのォ~~~…)

「ウオーッ…どうする?やってしまうか?」 セイントサイが小声で囁く。興奮が抑えきれぬのか、その大きな鼻からは蒸気の如き鼻息がブシュブシュと噴出していた。 (このサイに始末させるかァ…?) フロスティはしばし沈思黙考。 (警備員を殺せればそれでよし。このサイがヘマを踏んで気絶したら…カブトムシを奪って逃げればカネになるなァ) 悪いアイデアでは無さそうだ…

【カラテ】判定 難易度NORMAL
3d6 → 4,4,2 成功

「いや、ここはやりすごそう」 フロスティは小声で囁き返す。 「我々の目的はオーガニック・オニクルミの樹液。その障害にならぬのなら、手を出す理由もあるまい」

(下手に騒がれて他の警備を呼ばれたら厄介だからのォ~~~ッ) いかに自然公園でもカチグミ向け施設には違いない。 (無いとは思うが…もしモーターヤブでも出てこられたら命にかかわるわァ) 警報が鳴ったが最後、カネにモノを言わせた殺人兵器が一斉に顔を出さぬ保障はどこにも無い。フロスティはそう判断したのだ。

「さすがに冷静だな。わかったぞ」 セイントサイは小さく頷き、巨体を可能な限り縮めて木の陰に隠れる。フロスティは音も無く木の枝に飛び乗り、こちらへ向かってくる警備員に対して冷気を静かに浴びせかける。「ヘッキシ!ウウ、妙に冷える…はやく戻ろう」 体を冷やした警備員は足早に通り過ぎていった。

「やるな。俺ならば迷いなくあの非ニンジャのクズ警備員を八つ裂きにしていたところだったが…」 セイントサイは物足りなさげにサイ・ホーンをブンブンと振り回した。興奮を暴力で発散したくてたまらぬのだろう。「うん、あれは…?」

二人のニンジャは去っていく警備員の背中に注目した。小型の扇風機らしきものが取り付けられ、何か独特な香りがかすかに漂ってきている。あれは一体…?

【ニューロン】判定 U-HARD
1d6 → 2 失敗

「恐らく虫除けか何かだろうな」 フロスティは特に何も考えずに言った。「なるほどな」 セイントサイも特に何も考えずに頷いた。彼ら二人のニューロンは貧弱であり、鋭い閃きといった類のものとは無縁であった。

「非ニンジャのクズ相手に福利厚生が行き届いていることだなあ…」 「さすがカチグミ向け施設といったところか」 カネに困窮しているサンシタ二人は嘆息した。恐らくあの警備員の給料も悪くないのだろう。自宅には風呂もトイレもあるに違いない。

「気に食わん、ウオーッ!」 セイントサイは鼻息を鳴らし、ずんずんと進んでいく。フロスティはその後を追う。カブトムシは扇風機から漂うアロマから何かを察したようだったが、カブトムシなのでそれを警告することは叶わず、二人のニンジャの後を飛んでついていった。

【フォー・シンセリティ】 2 終わり。3へ続く。

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