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ニンジャスレイヤーTRPGソロアドベンチャーをやってみた その2

計画的サンシタ生成

前回は全くの無からステータスと名前をサイコロによって決め、そこから「こいつはどういったサンシタなのか?」と考えながらニンジャを生成した。今回は最初からある程度イメージを決めてサンシタを作ってみようと思う。さらには前回使わなかったサイバネにもチャレンジしていきたい。サンシタとサイバネの相性は実際良好だと思うからだ。

ニュービーだけがサンシタじゃない

前回生成したブルータルシャドウ=サンは憑依間もないニュービーサンシタだったが、ニンジャスレイヤー世界にはボーツカイ=サンやデトネイター=サンのようなベテランサンシタもいる。また、モミジ=サンのようにイクサによる負傷で再起不能になったニンジャも、カラテ力量から言えばサンシタといって良いかもしれない。

憑依後間もないニュービーが、地道なカラテ鍛錬を面倒くさがり、手軽に力を得られるサイバネに手を出す・・・というのも実にサンシタ感があっていい。だが今回は、サンシタのまま長年くすぶってきたニンジャが、一念発起してサイバネによる一発逆転を狙う、といったロートルサイバネサンシタニンジャを作っていきたい。

と、いうわけで早速サイコロを振ってみた。

【カラテ】:1
【ニューロン】:6
【ワザマエ】:1
【ジツ】:1(3:カトン・ジツ)
【体力】:1
【精神力】:6
【脚力】:1
装備など:家族の写真

極端なまでのノーカラテニンジャが生成された。ニューロンが高いところを見るとハッカーニンジャか、それともカトン一本頼みのサンシタか。家族の写真はどう考えるべきなのか。

しかし今回はサイバネを装備するので、それを加味してから考えてみよう。サイコロを振る。1が出た。

テッコを装備することになった。サイバネ戦闘義手テッコは第一部でもお馴染みのオーソドックスなサイバネだ。鉄の義手がピストンとかして殴るので強い。とてもわかりやすくて実にいいサイバネだ。しかしゲーム的には実際どんな効果があるのだろう?ルールブックを調べてみた。

>1:テッコ:【カラテ】判定時にダイス+1個、回避ダイス+1個

なるほど、戦闘が有利になるのだ。このニンジャはカラテもワザマエも1なので、戦闘や回避に対して一回しかサイコロが振れない。それを+1してくれる。実にありがたいではないか。テックの恩恵だ。

だがしかし、サイバネにはカネがかかるだろう。我がサンシタニンジャにサイバネを購入するカネなどあるのか?

恐るべしふわふわローン。ニンジャ相手でも取り立てるとは。しかも返せないと死ぬ。何者なんだふわふわローン。

とはいえ、こういった背景があるとさらに設定を考えるのが楽しくなる。無軌道ヤンクのごとく何も考えず自信満々でノーフューチャーにカネを借りるのか、中年サラリマンめいてもはや後が無いと悲壮な決意でカネを借りるのか・・・今回は後者のタイプにしよう。

ソウカイヤの古参ニンジャ(サンシタ)

家族の写真から考えてみよう。家族。それはファミリー。イタリアンヤクザは構成員をファミリーというらしい。ソウカイヤもほとんどヤクザ。つまり構成員はファミリー、家族と言えるのではないか。

そう、この古参ニンジャは仲間のニンジャが写っている写真を家族の写真として持ち歩いているようなセンチメントなやつなのだ。きっとモータル時代はろくな家族がおらず、ソウカイヤを自分の家族と考えるようなニンジャだろう。グラキラのヒュージみたいな感じで。

第一部はソウカイヤ一強時代とはいえ、ネオサイタマには敵も多い。ニンジャスレイヤー誕生以前からも、ザイバツ、イッキ・ウチコワシ、ドラゴン・ドージョー、ヤクザ天狗などの敵が跋扈している。古参ともなればイクサの経験もあるだろう。だがこのノーカラテぶりで生き延びれるものだろうか・・・?

そこでサイバネが出てくる。そう、こいつは昔はそれなりにカラテ強者だったのだ。だがイクサで右腕を失ってしまった。それからは半引退の状態となり、どんどんノーカラテになっていく。だからテッコを付けたのだ。ニュービーが自分を追い越していくのに焦ったこいつは、サイバネ義手でカラテ補強をして一発逆転を狙い、過去の栄光を取り戻すべく・・・などと考えている内に、ニンジャができた。

◆忍◆
◆ニンジャスレイヤーTRPG名鑑#○○○○◆
【キャンドルファイア】
ソウカイヤの古参ニンジャ。カトン・ジツが使えるが、ロウソクの火めいて貧弱。かつてはカラテが強かったが、あるイクサで右腕をケジメされてからは酒とZBRとオイラン漬けの日々を送る。今の彼は足りぬカラテをサイバネ義手でごまかすロートル・サンシタである。
◆殺◆

名前はカトン使いであることと、ロウソク・ビフォア・ザ・ウインドから連想して付けてみた。今にも消えそうなロウソクの火、といった趣だ。はたしてキャンドルファイア=サンは無事にローンを返せるのだろうか?

【ライト・ア・コールドロウソク】

重金属酸性雨が降り注ぐツチノコ・ストリート。とある雑居ビルの中には、デスシャドウ・ヤクザクランのデータセンター事務所が存在する。そのビルの前にぼんやりと佇むのは一人の男だ。

男の風体は浮浪者そのもので、薄汚れたジュー・ウェアめいた服からは漂うのは強いアルコール臭。首に巻きつけたボロ布が鼻の上までを覆い、その上に見える両目は死んだマグロよりもなお濁っている。全身をカタカタと震わせるその様はZBR中毒者を思わせた。唯一まともなものは破れた右袖から伸びる真新しいサイバネ義手だけで、その組み合わせのアンバランスさはひどく滑稽だった。

彼を見た人間は、誰しもがこう思うだろう。あの男は単なる浮浪者、それもアルコールやZBRの中毒者だと。あの不似合いなサイバネ義手は、盗むか拾うかして手に入れたものだろうと。そう思った後、その中の限られた数人は、ジュー・ウェアの左胸に刺繍されたクロスカタナのエンブレムを見て驚くはずだ。キリステの文字を。ソウカイヤに所属するニンジャの証を。

「ここか」

掠れた声で呟く。男はニンジャであった。薄汚れたジュー・ウェアはニンジャ装束であり、首から顔を覆うボロ布はメンポであり、右腕は最新の戦闘用サイバネ義手、テッコであった。彼の名はキャンドルファイア。ソウカイヤの古参ニンジャである。彼の目的は、このヤクザクランのデータセンター事務所に忍び込んでUNIXをハッキングし、コケシマート社の未公開株件を奪い取ってくること。それがソウカイヤから受諾したミッションだ。

要はハック&スラッシュだ。相手はヤクザとはいえ所詮モータル、しかもヤクザクラン本部ですらなく単なる一事務所。警備やトラップの数もたかが知れている。こんなミッションを受けるのはニンジャになりたてのニュービーか、もしくは・・・

「よほどのサンシタか、だな・・・」

キャンドルファイアはテッコを見つめる。カラテの通わぬまがい物の腕を。かつてそこには幾千幾万のカラテストレートを放った、カラテに満ちた拳があった。モータルを、ヤクザを、ニンジャを、そのカラテで打ち倒した拳があった。今は無い。失われたのだ。テッコを付けるずっと前、あのマルノウチ抗争の夜に。



弱小ヤクザクランのニュービー・レッサーヤクザだった彼は、借金の取り立てに行った先で逆上したZBR中毒者に銃で撃たれ死にかけ、ニンジャソウルが憑依した。間もなく現われたソウカイヤのスカウトに応じた彼は、ラオモト・カンの放つ帝王のカリスマに魅了された。彼の役に立ちたい、彼のために命をかけて戦いたいと心から思った。ラオモトにドゲザしながら、彼は自分の心に火がついたのを感じた。

ニンジャソウルはカトン・ジツを彼に与えたが、それは指先に小さな火を灯すだけのもので、とてもイクサの足しになるものではなかった。ラオモトは「まるでロウソクの火よな」と笑い、それがそのまま彼の名前になった。キャンドルファイア。悪くないと思った。自分は忠誠という火を決して絶やさぬロウソクとなろう。

ジツは使えぬ。キリステだ。キャンドルファイアはカラテを鍛えた。サケもZBRもオイランも、カラテの妨げになるものは全てキリステした。バイオやサイバネといった安易なカラテ強化手段もキリステした。ラオモト・カンのために振るわれるカラテに、そんな不純物を混ぜるわけにはいかないからだ。ブレーサーやレガースの装着すら彼は拒否した。スシ、チャ、そしてカラテだけを摂る日々が続いた。

ブッダに供える神聖なロウソクを作る職人は、そのロウソクの出来が僅かでも悪ければブッダへのシツレイを恥じてセプクする。キャンドルファイアのカラテはそれに似ていた。ラオモトというブッダに供えるカラテは、何一つ欠落のない完璧なものであらねばならぬ。

キャンドルファイアのカラテはイクサによって研ぎ澄まされていった。シックスゲイツのアンダーカードとして、ザイバツ・ニンジャ、イッキ・ウチコワシのニンジャ、危険な野良ニンジャを、彼は右腕のカラテストレートで爆発四散させ続けた。そのワザマエは次期「シックスゲイツの六人」候補と目されるレベルになっていた。

マルノウチ抗争の夜。ザイバツ・ニンジャとのイクサに臨んだキャンドルファイアは、得意の右カラテストレートを武器にまず二人のニンジャを爆発四散させた。勢いのままに甲冑のような装束のニンジャに挑んだ彼は、凄まじいダブル・ポン・パンチを叩き込まれて吹き飛び、起き上がったところを巨漢ニンジャの振るう長大なカタナで斬られ、右腕をケジメされた。激痛に呻きながらケリ・キックで反撃しようとした彼の背中に、4発のカラテミサイルが着弾。キャンドルファイアは前のめりに倒れた。

消えそうになる意識の中で、しかし彼は満足だった。カラテ及ばず、俺は死ぬ。だがラオモト=サンのために戦って死んだのだ。死の際になってなお彼の火は燃えていた。キャンドルファイアは自らのカラテが汚れぬまま死ねることを幸福に思った。

キャンドルファイアの意識が戻った時、抗争は終わっていた。乱戦の最中であったためか、甲冑ニンジャも巨漢ニンジャも意識を失った彼に構うヒマは無かったと見え、カイシャクはされなかった。彼は生き延びたのだ。殺す価値も無しと見逃されたブザマな負け犬として。

護衛のニンジャとクローンヤクザに囲まれながら退去するラオモトの視線が、ほんの一瞬キャンドルファイアに注がれた。冷たいイーグルのような目。価値の無いものを見る目だった。キャンドルファイアの心から火が消えた。

キャンドルファイアは負傷の治療もしないままサケを飲んだ。ZBRを打ち、オイランを抱いた。スシとチャは一切口にしない。体を痛めつけ、カラテを汚し続けた。ラオモトの視線は、セプクする誇りすら彼から奪った。

(俺はビホルダー=サンとは違う。ジツは貧弱だし、彼のような指揮能力もない。カラテだけが取り柄の男だ。右腕を、カラテストレートを失っては、もう・・・)

マルノウチ抗争で半身不随となり、車椅子生活を余儀なくされながら、なおシックスゲイツの座に留まり続ける恐るべきニンジャの存在は、彼にとって耐え難い苦痛だった。彼はこのような言い訳をすることで自分を守り、それでもなお余りある痛みをサケとZBRとオイランに逃避して誤魔化した。

失った右腕をサイバネ義手で補うことも考えないではなかった。だが、それはかつて彼が自ら不純物としてキリステしたものだ。彼は機械の腕でブザマな代用カラテを振るう自分を、そしてそれを見るラオモトを想像した。ラオモトはあの日と同じ目をしていた。無価値なもの。キャンドルファイアはさらに鬱屈し、安易な快楽へと逃げた。火の消えたロウソクは、どんどん冷えて固まっていった。

時間が過ぎていった。ニュービーたちがキャンドルファイアを追い抜いていく。カラテも、組織内の地位も。負け犬に同情する者などソウカイヤにはいない。弱者はキリステされる。かつて次期シックスゲイツ候補だったニンジャは、ニュービーにすら劣るサンシタとしてソウカイニンジャの嘲笑の的だった。

キャンドルファイアの装束が廃テンプルに残されたロウソクのように薄汚れ、血中カラテのほとんどがアルコールとドラッグに置き換わった頃、彼はトコロザワ・ピラーでコッカトリスを見かけた。マルノウチで両腕を負傷した彼は、バイオサイバネ手術で新たな腕を得ていた。

(信じられん・・・あのコッカトリス=サンが・・・!?)

かつてのコッカトリスはシックスゲイツでも一目置かれる実力者で、モウドク・ダートを武器に戦う非常な強力なニンジャだった。彼が手術で得た両腕は包帯に覆われ、不気味なほど長く大きく、あれではモウドク・ダートの正確な投擲は難しいと思われたが・・・

(だが、あの両腕からはカラテが溢れんばかりだ)

コッカトリスはその奇怪な腕にカラテを漲らせ、自信に満ちた姿でトコロザワ・ピラーを歩いていた。彼は精密なモウドク・ダート投擲技術を失った代わりに、バイオサイバネによって得た両腕で、新たなカラテを生み出していたのだ。

(かつてのカラテの代用品ではない・・・サイバネによる、新しいカラテ・・・)

キャンドルファイアは、失われたはずの右腕が疼くのを感じた。疼きは体に伝わり、熱に変じた。熱は怠惰な快楽で錆びついた体をほんの少しほぐした。冷え固まったロウソクに僅かな熱が戻った。

その日、帰宅したキャンドルファイアはサケもZBRも摂らず、オイランを呼ぶこともなく、自室でザゼンし続けた。次の日、彼はふわふわローンでカネを借り、そのカネで戦闘用サイバネ義手テッコを買い、闇医者の病院で手術して取り付け、IRCで誰も受けなかったつまらぬケチなミッションを受諾。そのまま現場に向かったのだ。



キャンドルファイアはテッコを見つめる。腕の代用品を。取り付けてまだ数時間。動かすことはできるが、カラテができるかどうかすら試していない。テッコに限らず、今の彼の体に、カラテと呼べるだけの行動ができる力が残っているかどうかは極めて怪しい。

サケとZBR、それにオイラン。チャとスシは無し。カラテを錆びつかせることをだけを続けてきた。一日ザゼンしたところで何が変わるわけもない。実際、ZBRが切れかけており、体中が震えている。そんな状態で、使ったこともない義手を付けて、ヤクザ事務所にカラテをしかけようというのだ。彼がニンジャでなければ自殺志願者以外の何者でもないし、ニンジャであっても今の彼では自殺志願者である。

(本来なら、少しでもサケをZBRが抜けるのを待ち、スシとチャを摂って回復し、木人相手にカラテを試してから挑むべきなのだろうが・・・)

だが、今すぐに動かなければならなかった。熱が冷めない内に動かなければ、きっとまた快楽に逃げ続けるだろう。もう一日経てばきっとこの熱は失われる。そしてこの機会を逃せば、二度と熱は戻らないだろう。

(このイクサで生き延びて、新たなカラテのヒントを得るか・・・さもなければ・・・)

キャンドルファイアは全身を細かく震わせながら、おぼつかない足取りで階段へと向かった。

息を切らして階段を上がり、寒気と吐き気をこらえながらデータセンターの玄関を物陰から伺う。ショットガンを威圧的に構えたクローンヤクザが立っている。チャカガンやドスダガーよりは強力な武装だが、所詮クローンヤクザはクローンヤクザ。どれほど武装しようとニンジャの敵ではない・・・普通のニンジャなら。

(今の俺のカラテで、突破できるか?)

かつての彼なら、こんなものは障害とすら思わなかっただろう。一瞬で間合いを詰め、ショットガンを構える前にカラテストレートを顔面に叩き込む。それで終わりだ。今のふらついた足で同じことはできない。駆け出そうとしてブザマに転倒し、頭にショットガンを撃ち込まれ爆発四散。そんな光景が目に浮かぶ。

(イクサで死ぬのはニンジャの本懐とはいえ、さすがにそれはな・・・)

キャンドルファイアは自分に自尊心と呼べるものが残っていることにやや驚きながら、別の突破手段を考える。直接のカラテがダメなら?一つしかない。スリケンだ。一撃で頭部に命中させ、反撃させぬまま屠るべし。彼は左手にスリケンを構えた。構えられない。左手を見る。スリケンが生成されていない。もう一度見る。スリケンは生成されていない。

「・・・」

キャンドルファイアは目を閉じ、改めて己のカラテがいかに錆びついているかを思い知った。ニンジャとなって以来、スリケンを生成するのを意識したことなどなかった。投げようと思えばそれは瞬時に生まれ、望む限りいくらでも生み出せた。意識するまでもなく、出来て当然のこと。それが出来なくなっている。

(イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!)

メンポから声が漏れぬよう、小さくカラテシャウトを発しながら、必死にスリケンを生成する。頭が痛い。肩が重い。体がだるい。脳の血管が膨らみ、メンポの下が冷や汗で濡れる。アルコールとZBRに満ちた体から、僅かに残った血中カラテを必死でかき集める。

(イ・・・イヤァーッ!!)

ようやく生まれたスリケンは、しかしスリケンと呼ぶにはあまりに不恰好だった。薄く、イビツで、刃こぼれしており、全体にサビのような不純物が混じっていた。試しに指で刃部分を触る。全く切れない。カラテが錆びつけばスリケンも錆びつくか。キャンドルファイアはブザマなスリケンを構える。左腕がブルブルと震えた。カラテの緊張ではなく、ZBR切れによって。

「イヤーッ!」「ナンオラー!?」

ブザマな構えによって放たれたブザマなスリケンは、クローンヤクザの頭部をかすめもしない方向に飛び、玄関に突き刺さることもなくぶつかって落ちた。どんなニュービー、いかなるサンシタでもこんなブザマは晒すまい。 「ハハ」 乾いた笑いが漏れた。

「ザッケンナコラー!」 クローンヤクザはショットガンをこちらに向ける。 (まずいな) ニューロンが加速。死の危険とイクサの高揚で久しく馴染みの無かったニンジャアドレナリンが分泌。もう一度スリケンを生成。先ほどよりなおブザマ。だがすぐに出来た。頭部に当てて即死?厳しい。腕を狙い、銃口を逸らせるべし!

「イヤーッ!」「グワーッ!」 命中!しかし腕ではなく胴体だ!クローンヤクザは姿勢を崩したが、そのまま発砲!「スッゾコラー!」 BLAM!散弾がキャンドルファイアを襲う! 「イヤーッ・・・!?」 ブリッジで回避・・・できない!足がふらつく!姿勢が崩れる!散弾の内の数発が彼の心臓に吸い込まれるようにして飛来し・・・ 「イヤーッ!」

キャンドルファイアはテッコを振るった。ハガネの義手は散弾を叩き落とし、彼を守った。かつての素手のカラテではなし得ぬ防御だった。そしてさらに・・・ (なんだ?これは) 

(右腕が・・・いや、テッコが熱い?バカな) 一般のサイバネ義手ならともかく、テッコは戦闘用である。感覚を脳や神経に伝える機能など無い。まして熱など。しかし。

(カラテだ!カラテが流れている!) キャンドルファイアは確信した。己の体を通じ、テッコにカラテが流れ込んでいる!これならいける!右腕をひきしぼる彼に対し、クローンヤクザはショットガンをコッキングし、第二射を撃とうと銃口を向け 「イヤーッ!」 「アバーッ!」

腰が入っておらず、ほぼ上半身のカラテのみで打ったカラテストレートは、しかしクローンヤクザの頭部を粉砕した。サイバネ戦闘義手たるテッコの高速ピストン機構、そしてキャンドルファイアのカラテの相乗効果。テクノカラテである!

「これは」 なかば呆然としながらキャンドルファイアはテッコを見る。カラテを放った拳を。ゆっくりと開閉する。その指先に、小さな火が灯っている。よく見れば指先だけではない。テッコ全体がうっすらと火に包まれている。彼はクローンヤクザの死体を見る。粉砕され飛び散った肉片がぶすぶすと焼け焦げている。明らかに、彼のカトン・ジツだ。

「・・・」 ジツを使おうとしたわけではない。貧弱で使い道の無いカトンはキリステし、今まで存在を忘れていた。かつての彼のカラテには不要だったからだ。しかし・・・

「俺はカラテにこだわるあまり、とんでもない見落としをしていたのでは・・・?」

いつの間にかテッコの火は消えていた。しかし、彼は体の熱が温度を増すのを感じた。ジツ。サイバネ。新しいカラテ。冷えたロウソクの芯が、ほのかに赤くなった。

予想していたことだが、玄関のドアノブはロックされていた。クローンヤクザの懐を漁るも、カギの類は無し。 (その程度の用心はあるか) 舌打ちし、もう一度テッコのカラテを試そうとするが・・・思い留まった。ニュービー時代の失敗を思い出したからだ。

その時のシチュエーションは今とほとんど同じで、彼はロックされている扉を自慢のカラテストレートでぶち抜いた。途端に扉に仕掛けられていたバクチク・トラップが作動。彼は爆風で吹き飛ばされ、中で待ち構えていたヤクザからアサルトライフルの一斉射撃を受けた。もうコンマ数秒ほど回避動作が遅れたら爆発四散していただろう。

苦い経験だ。だがそれ以降、キャンドルファイアは慎重さを手に入れたのだ。ニンジャと言えど、イクサ以外ならばカラテにこだわるな。隠密重点。ピッキングやハッキングにも通じておくべし。

ピッキングは自信が無い。左手はまだ震えているし、テッコの指は滑らかに動くとはいえ、高度な精密動作にはやや不安が残る。ならばハッキングか。ZBRの影響か、ニューロンだけは妙に冴えている。この程度の論理錠前を破るなら、さほどのタイピング速度は必要とされまい。テッコでの一本指タイプでもなんとかなりそうだ。

腰のバイオ巾着袋からハッキングツールを取り出す。すると、一枚の紙切れがハッキングツールに引っかかって持ち上がり、床に落ちた。心当たりは無い。 (はて?) キャンドルファイアは紙切れを拾い、裏返してみる。 「ハハッ」 ミッションの最中に似つかわしくない笑いが漏れた。 「どこからまぎれたものやら・・・」

写真だった。写っているのは昔の彼と数人のニュービー。確か、ニュービー達の訓練がてら簡単なミッションをこなし、その帰りにヤンク上がりの若いニンジャが記念写真を撮ろうと言い出したのだったか。その中の一人、不機嫌そうに目を逸らしているニンジャ。ヘルカイトだ。彼は今やシックスゲイツの六人である。

(ヘルカイト=サンはこういう馴れ合いを心底嫌っていたな・・・ヤツが敬い、心を許していたのはラオモト=サンただ一人だった)

ヘルカイトはのし上がるためならどんなことでもやるニンジャだった。ラオモト以外へのソンケイなど欠片も無い。貪欲にミッションをこなし、ポイントを稼ぎ、時には他ニンジャの獲物を横取りし、誰も彼もを蹴落とし続けた。シックスゲイツの六人であったガーゴイルの死は、ヘルカイトによる陰謀という噂も流れた。ガーゴイルの後釜としてヘルカイトがその椅子に座ったからだ。ありそうな話だ、とキャンドルファイアも思った。

多くのニンジャはヘルカイトを嫌った。さほどのカラテもない、タコに乗るだけが取り柄のニンジャ。蝙蝠野郎、おべっか使い、得点稼ぎ。だがキャンドルファイアはヘルカイトが気に入っていた。彼の行動の全ては、ラオモトに対する忠誠から来るものだったからだ。ヘルカイトが蹴落としてきた者達は、所詮カラテと忠誠に欠けた弱者。ソウカイヤには不要な、キリステされるべきものだ。ヘルカイトの行動はソウカイヤから不純物を取り除くものだとキャンドルファイアは受け止めていた。

キャンドルファイア自身はカラテを鍛えることを至上とした。だが、敵を目前の敵を打ち倒すカラテだけで物事が解決するわけでもない。ヘルカイトのような後方支援、情報収集に長けたニンジャも、ラオモト=サンは必要としているはずだ。自分にはできないことをやれる男。キャンドルファイアは密かなソンケイをもって、このニュービーの成長を見守っていた。兄が弟の成長を見守るように。

(まるで家族の写真だな) 写真を眺める。あながち遠くも無いだろう。ソウカイヤはヤクザクランの色濃い組織だ。ヤクザクランとはファミリーである。他のニンジャがどう思っているかは知らないが、彼はラオモトのために共に戦うニンジャを兄弟同然に考えていた。父である偉大なオヤブンのために働く兄弟。キャンドルファイアにとってソウカイヤとは家族だった。

(さしずめ、俺は弟どもにバカにされる、出来損ないの兄貴か) ハッキングツールからLANケーブルを伸ばし、接続。奥ゆかしいBEEP音。テッコの人差し指で折り畳み物理キーボードを叩く。

堕落したキャンドルファイアを見るヘルカイトの目は冷たかった。当然だ。ラオモト=サンのために戦えないニンジャに価値など無い。だが今、俺はミッションに挑んでいる。小さく、つまらぬ、イクサとも呼べぬケチなイクサだが、間違いなくソウカイヤの、ラオモト=サンのために戦っているのだ。最後の一打。再びBEEP音。何の苦も無くロック解除。 

(ようやく、目が覚めそうだ) いまだに足はふらついており、体の震えは止まらないが、少しずつ熱とカラテが体に戻っていくのを感じる。誇りも。あの日に見たラオモトの目。無価値な負け犬だった自分。だが、ぎこちない足取りで立ち上がることができた。戦うために立ち上がることができた。ロウソクの先端に小さな火が灯った。

キャンドルファイアはテッコを見る。カラテとジツの通う腕を。彼はドアノブをひねり、事務所の中へ侵入を果たした。

玄関を開ければそこはタタミ20枚ほどのワンフロア。薄暗い照明の下、デスク上のUNIXモニタ群が幽玄な光を発する。部屋の奥、神棚の設置されたちょうど真下に、「母」とショドーされたオフダが貼られた一際大きな漆塗りのUNIXを見つける。マザーUNIXだ。

(あれをハッキングすればミッション終了。だが・・・) 中に警備がいないということがあるか?キャンドルファイアは油断なくカラテ警戒し「スッゾコラーッ!」「!!」

突如として掃除用具ロッカーが蹴破られ、中からドスダガーを構えたクローンヤクザが現われた!クローンヤクザはそのまま突進!キャンドルファイアの足では側転やバック転、ジャンプなどの立体的回避は不可能!ここは先制カラテで斬って落とすが最善・・・ (いや、試す!) キャンドルファイアはテッコによる防御姿勢を取る!かつての彼には無かったカラテだ!

ニンジャアドレナリンが湧き出す!体が熱い!体内で火が燃え、血中のアルコールとZBRを蒸発させる!カラテが満ちる!ジツとカラテがテッコに流れ込む!テッコの表面を火が覆う!「テメッコラー!」 迫るドスダガーヤクザ!その切っ先を狙い、テッコをぶつける!

「イヤーッ!」「ナングワーッ!?」

テッコはドスダガーを防ぎ、接触部分からその火をドスダガーに移した。ドスダガーに移った火はさらにクローンヤクザに延焼し、あっという間に全身を飲み込む炎になった。攻防一体!

(これか!) キャンドルファイアは今この時、己のニンジャソウルがもたらしたカトン・ジツの姿の真の姿を知った。これと似たカトンを使うニンジャを思い出した。ベイルファイア。カタナに炎をまとわせるカトン。彼のジツはそれだ。カトン・エンチャント!

いかなるブッダの気まぐれか。キャンドルファイアのカトン・ジツはカタナやカマ、ブレーサーやガントレットといった腕に装備したハガネ含有物に指先から出たカトンを伝導させるもの、カトン・エンチャントだったのだ。ブレーサーすらカラテ不純物と断じてキリステしていたかつての彼が気づけるわけもない。

「アババババーッ!!」 火ダルマとなって狂乱するクローンヤクザ! キャンドルファイアは右拳を握り締める!カトン伝導!右拳が火球と化す!腕を引く!ふらつく足!震える体!構うものか!狙うは顔面!倒れ込むようにして炎の右カラテストレートを叩き込む!サイバネ・カトン・ストレート!

「イヤーッ!」「グワーッ!」

クローンヤクザの頭が溶解粉砕!飛び散った肉片は溶けたロウめいてドロリと熱く、部屋のあちこちに焼け焦げを作った。いまだ燃え続けるヤクザの死体に反応してスプリンクラーが起動。キャンドルファイアは震える足で苦心してザンシンを決める。 「フゥーッ・・・」 カラテ警戒。どうやら残敵はゼロ。障害は全て排除したようだ。

キャンドルファイアは右腕を見た。ジツとサイバネを組み合わせた新しいカラテを生み出した腕を。スプリンクラーが撒き散らす水を受け、熱されたハガネはシュウシュウと心地良さげに音を立てた。

キャンドルファイアは新たなカラテに目覚めた余韻に浸りたかったが、今はミッション中であることを思い出し、強いて己を律した。急がなくてはならない。これだけ派手に暴れては、そろそろ通報を受けたマッポが駆けつけてくる頃だ。

スプリンクラーで鎮火されたクローンヤクザの焼死体に歩み寄り、懐を探る。マザーUNIXがロックされていた場合、パスワードに繋がるヒントがあるかもしれない。財布を掴み出し、中身を改める。万札だけだ。他に目ぼしいものは無い。無いものは仕方ない。キャンドルファイアは無造作に財布から万札を抜いて懐にしまいこんだ。帰りにスシを食べようと思ったからだ。

マザーUNIXは散水を浴び、クローンヤクザの溶解肉片で焼け焦げていたが、荒事が付き物のヤクザクランが使うマザーUNIXは防水・防火・防刃・防弾仕様が標準だ。この程度ではビクともしない。何の問題も無く起動。警備ヤクザと玄関セキュリティで安心したのか、ウカツにもロックの類はかかっていない。ツイている。キャンドルファイアは右手でキーボードを叩く。目当ての未公開株券データにはすぐたどり着いた。後はこれをフロッピーに・・・ 「ン?」

銀行口座。成功すればカネが入る。ふわふわローンに返済してもなお余りあるカネが。 (だから何だ) キャンドルファイアは鼻で笑い、未公開株券データのハッキングを開始した。 (今は何よりもカラテが欲しい) 彼の望みはただそれだけだった。

キャバァーン!あっという間にハッキングは終了。未公開株券データが収まったフロッピーが吐き出される。キャンドルファイアはそれをテヌギーで丁寧に包み、バイオ巾着袋に入れた。あとはこれをトコロザワ・ピラーに提出すればミッション終了。後日、受け取った報酬でふわふわローンを返済するのみだ。

ファオンファオンファオンファオン・・・騒ぎを聞きつけたのか、表通りでNSPD武装パトカーのサイレン音が聞こえてきた。潮時だ。キャンドルファイアは悠々と窓から飛び出・・・せるわけがない。彼は足を見た。ふらついている。体は震えている。 (そうだった) 顔から血の気が引いた。

イクサの高揚と新たなカラテの開眼でいつの間にか現役復帰したような気分になっていたが、別に体が昔のように動くようになったわけではない。脱出は徒歩だ。おぼつかぬこの足で?彼の装束はクローンヤクザの返り血で汚れている。緑の血は酸化してどす黒い赤となりシミを作っていた。マッポに見咎められれば、確実に職務質問を受ける。

(いかん、いかんぞこれは!) さすがに焦った。もちろんソウカイヤはNSPDと癒着しており、ソウカイニンジャの悪行は大部分見逃される。仮に捕まったところでキャンドルファイアに危害は及ぶまいし、フロッピーが没収されることもない。然るべき汚職マッポにクロスカタナのエンブレムを見せれば恐れ入って解放されるだろう。だが・・・

(せっかくもう一度立ち直ると決めたのに!ニンジャがマッポに捕まるなど!イディオットにも程がある!)

キャンドルファイアはすでにソウカイニンジャの誇りを取り戻していた。だからこそこのような恥ずべき失態は避けたかった。もうソウカイニンジャの笑いものになるのはゴメンだ。笑われるのを恥と思える自分を少し誇らしく思ったが、しかし今はそんなセンチメントに浸っている場合ではない!

(ヌウウゥゥーッ!動け、俺の足!イヤーッ!イヤーッ!)

キャンドルファイアは全力のカラテを両脚に込める。サケとZBRで錆びついた足にカラテの油が差される。先のイクサの余熱で足を温める。ギクシャクとぎこちなく彼の足は動き出した。それは走り始めた蒸気機関車の車輪のようにゆっくりと速度を増していった。(いけるか!?) そうでなくては困る!

ファオンファオンファオンファオン・・・サイレン音はどんどん近づいてくる!キャンドルファイアは歯を食いしばり、全身に血管を浮かび上がらせながら走る!マッポはすぐそこまで来ている!ハイキングはドア・トゥ・ドア!走れ、キャンドルファイア、走れ!

「ハァーッ!ハァーッ!ハァーッ!ここまで来れば・・・!」 薄汚い路地裏に辿り着いたキャンドルファイアは、壁を背にするとずるずるとへたりこんだ。もはや一歩も動けぬ。心臓が早鐘を打つ。気を抜けば爆発四散してしまいそうだ。遠くに聞こえるサイレン音の小ささに、彼はようやく逃げ切った実感を得られた。

携帯IRC端末を取り出し、ソウカイネットにアクセス。ミッションの成功を報告すると共に、迎えのヤクザリムジンを要請。 (これでよし) 必要事項を連絡すると、彼は端末ごと腕を投げ出した。僅かに残っていた体中のカラテを使い切った気分だった。

「チャが欲しいな・・・」 ぜぇぜぇと息を切らし、乾いた咳を何度もしながら呟く。そう、チャだ。サケではない。それにスシだ。胃がぐるぐると騒ぐ。スシとチャ。完全食。ニンジャのカラテに必要なもの。キャンドルファイアは今、心からそれが欲しかった。そう思う自分が誇らしかった。

今は一歩も動けぬ。体力もカラテも使いきった。依然として体は錆びついたままだし、怠惰な生活で体に蓄積したサケとZBRを消し去るのは時間がかかるだろう。だが、やらねばならぬ。どれだけ時間がかかっても、かつてのカラテを・・・

「いや、新しいカラテだ」 キャンドルファイアは右腕を見る。これから先、新たなカラテを共に鍛え上げる相棒を。ジツ。サイバネ。彼は己がキリステしてきたものの真価を知った。つまらぬ偏見で弱者の小細工と嘲っていたものの秘められたカラテを知った。目が覚めた気分だった。

明日からは鍛え直しだ。トコロザワ・ピラーのトレーニング・グラウンドに通おう。ニュービーに混じってカラテを鍛えよう。そしてテクノカラテを身につけ、もう一度戦うのだ。ソウカイニンジャとして。ラオモト=サンのために命をかけて。

震える左手でバイオ巾着袋をまさぐり、写真を取り出す。写っているのはキャンドルファイアの家族だ。ニュービー達。何人かはまだ生き残っている。ヘルカイト。ラオモト=サンのために忠義を尽すソンケイすべき男。

「お前の下で働くのもいいな」 キャンドルファイアはヘルカイトのアンダーカードとして、共にラオモトのために戦う風景を想像した。それは誇らしいビジョンだった。右腕が薄く火に包まれる。ロウソクの火はいまや赤々と燃え、もはや彼が倒れる日まで決して消えることは無い。

満足気に微笑むと、キャンドルファイアは目を閉じた。あとは迎えのヤクザリムジンを待つだけだ。いつの間にか寒気や頭痛は消え去り、心地良い疲れがフートンのように彼を包んでいた。

トン、と何かが額にぶつかったような感触。 (なんだ?) 手で触ろうとする。動かせない。疲れているのだな。目を開けようとする。開けられない。疲れているのだな。キャンドルファイアは気にしないことにした。1秒後、彼は爆発四散した。



アンタイ・ニンジャ・ライフル。大口径、大威力、長射程の対ニンジャウェポン。殺傷力は抜群で、命中すれば並のニンジャソウル憑依者の肉体を容易に破壊する。頭部や心臓などの急所に命中すれば爆発四散させることも可能だ。当たれば、の話だが。

どれほど強力でも当たらなければ意味は無い。そもそもニンジャには銃弾が当たらぬ。目視可能な中距離から至近距離ならばニンジャ動体視力で、遠距離狙撃ならばニンジャ第六感で、いずれも簡単に回避される。

この武器の有効活用法は複数配備させたクローンヤクザに持たせ、対ニンジャ戦闘の牽制として用いることだ。こんなものにしてやられるのはニンジャになりたてのニュービーか、もしくは・・・

「よほどのサンシタか、だな・・・」

スコープから爆発四散を確認し、ヘルカイトは呟く。ライフルの類は慣れていなかったが、動かぬ標的を狙う程度ならわけもない。

ヘルカイトはソウカイネットを常に監視している。ラオモトに貢献できそうなミッションを先んじて受けるためだ。チェック中、彼はそこにあるニンジャの名前を発見した。キャンドルファイア。半引退のロートル。ブザマなルーザー。あの堕落したニンジャがミッションを受けていた。

(セプクの代わりか?) いい加減に無意味な人生に見切りをつけ、ミッション中のイクサで死のうとしているのか?そう思ったが、キャンドルファイアが受けたのはニュービーにすら疎まれるケチなミッションだった。 (何を考えている?) ヘルカイトは警戒した。タコを飛ばし、偵察に出た。

ミッションに現われたキャンドルファイアはテッコを取り付けていた。 (あの男がサイバネを!?) 胸騒ぎがした。キャンドルファイア。かつてシックスゲイツの六人候補と言われたカラテの使い手。ラオモトへの忠誠厚きニンジャ。だが右腕をケジメされてヤバレカバレになり、もはや再び浮かび上がることは無いと思っていたが・・・

(テッコの力でカラテ・カムバックする気か!?) ヘルカイトは焦った。彼はキャンドルファイアのカラテを知っている。ラオモトへの忠誠を知っている。ヤツがかつてのカラテを取り戻せば、今度こそシックスゲイツの六人となるだろう。その時、ラオモト=サンの賞賛を多く浴びるのは、自分か、ヤツか・・・ (そんなことはさせん!)

キャンドルファイアがビルへと消えると、ヘルカイトはIRCで連絡、アンタイ・ニンジャ・ライフルをデリバリーさせた。ミッションを終え、ヨタヨタと走りながらビルから逃げ出すキャンドルファイアを尾行する。キャンドルファイアは路地裏でへたりこむ。IRCで迎えをリクエストしたところを見るに、動けぬほどに疲れきっている。チャンスだ。ヘルカイトはビルの上でライフルを構える。

スコープを覗く。額に照準を合わせる。テッコがうっすらと赤く燃えている。あんなジツは使えなかったはずだ。ヘルカイトは焦る。やはり危険だ。左腕には何やら紙切れを持っている。こちらからではわからない。何でもいい。キャンドルファイアが目を閉じた。今だ。ヘルカイトは引き金を引いた。

「ロートルが・・・あのまま朽ち果てていればよかったものを」 ヘルカイトは呟く。どの道、こんなライフルが避けられぬようなサンシタはソウカイヤに必要無い。あんなルーザーがラオモト=サンに貢献できるわけがない。キリステだ。これは正しい行為なのだ。後は自分が報告するだけだ。ミッションを終えたキャンドルファイアはニンジャスレイヤーと遭遇し交戦、爆発四散したと。

スコープを覗く。爆発四散跡にはテッコがぽつんと残る。その上をひらひらと舞う紙切れ。キャンドルファイアが左手で持っていたもの。ヘルカイトのニンジャ視力は、スコープ越しにそれが何であるかを見た。何が写っていたのかを見た。キャンドルファイアが何を見ていたのかを知った。

「・・・下らん」 メンポの下から漏れた声には、激しい憎悪と侮蔑が込められていた。つまらぬセンチメントだ。ラオモト=サンへの貢献に何ら寄与しないものだ。キリステされるべきものだ。

「下らん・・・実に下らん」 ヘルカイトは繰り返した。不要なものだ。ソウカイヤにも、ラオモト=サンにも、この俺にも。キリステだ。無価値なものはキリステされるべきなのだ。全てはラオモト=サンのために。

「イヤーッ!」 ヘルカイトはタコに飛び乗り、ネオサイタマの夜空に消える。タコを操りながら、彼はキャンドルファイアへの憎悪と侮蔑をラオモトへの忠誠で塗り潰そうと必死だった。つまらぬ不要なものを一刻もはやく心からキリステしようともがくように、ヘルカイトのタコは暴れ馬めいて乱暴に空を舞った。



路地裏に残されたテッコには、まだかすかに熱が残っていた。その上にひらひらと写真が落ちてくる。写真はテッコの熱で丸まり、ほんの僅かに黒ずんだ焦げを作ったが、火が付くことは無かった。一筋のセンコめいた煙が立ち昇り、それが風に流されると、テッコも写真も熱を失い、そのまま冷たくなっていった。

【ライト・ア・コールドロウソク】 終わり

死んだら終わり

と、いうわけでロートル・サンシタのキャンドルファイア=サンは無事ミッションを成功させることができた。かわいいね!

しかしシックスゲイツに迫るワザマエのニンジャがカムバックしようとすれば、まず確実にヘルカイト=サンが自分の地位を脅かす者として警戒して隙あらば暗殺してくるだろうのでこういう結末になってしまった。

どの道マルノウチ抗争参加者だから放っておいてもフジキドに爆発四散させられていたので、早いか遅いかの違いではある。ナムアミダブツ。

サンシタ・バリエーション

様々なサイバネやジツとの組み合わせでサンシタストーリーが想像できるのがとても楽しいなぁと思いました。

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