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書けん日記:23 実践貧乏めし - 大根飯

或日。テレワークな打ち合わせのあと――
T氏「そういえば。さっき、おまえ不在になっていたけど。どこか出ていたのか?」
不肖「はい、日が暮れる前にと。畑に。大根とカブを掘ってきまして」
T氏「大根掘りで仕事の打ち合わせを中座するやつ、初めて見た」
T氏「というか大根って。おうおう、さては大根飯か。おしんか」
不肖「ししし、失敬な。いくら三河の百姓でも、米くらいはふつうに食べられるんですけお。大根飯とか、たぶんうちの父や祖父の頃でもやっていなかったかと――」
T氏「これが奥羽と三河の差か。なのに三河もんはどうして。慢心、環境の違い……。――そういえば、おしんの産まれたのは1901年の設定だそうな」

不肖「そうでしたか。そのころだと……例のマフィアの、幹部筆頭が生まれた頃に近いですねえ。アメリカと日本の格差が……」
T氏「アメリカの貧困もかなりのもんだったろうけどな。だろうな、かな。おしんといえば大根飯だが……幹部筆頭は子供の頃、何を食っていたんだろうな」
不肖「アメリカの貧乏めしですか。……そういえば、100年前のアメリカの子供の給食だか弁当だかは酢漬けのキュウリが一本だとかの、恐ろしい動画を見た覚えが」
T氏「よし、決まった。次の日記のネタは、これや――」
不肖「えっ? 私が自分で料理して実践貧乏めし体験を?」
T氏「書けん作家で、貧乏なのはそのままだからちょうどいいだろう」
不肖「椎名林檎さんの歌みたいな、重くて冷たくて暗い現実でいきなりパンチするのはルール無用すぎませんかねえ」

――かくして。
東西貧乏めし対決企画が、私の家のキッチンだけで重く硬く暗く冷たく始まった。

まず、日本代表は言わずとしれた、大根飯。
そして、アメリカ代表は……色々考えた結果、とうもろこしの粉のパン。

先攻は、日本貧乏めし代表、大根飯の登場である。
これが料理漫画だと、たいてい負ける先攻側だが、果たしてお味は……?


まずは、お米。白米。玄米を使う案もあったが、今回は白米で。
備蓄米として2年ほど冷蔵室で置き去られていたお米。とはいえ、玄米で保存されていたものを精米したばかりなので、お米としての質はまあ、中級クラス。
この白米を、通常炊飯と同じく研いで、水につけておいたところに――

こちらの大根。主役登場。
ちょっとひょうたん感あるこちらの大根、形が不揃いのため出荷されずに畑に置き去られていたやつを回収して、これを葉っぱと茎ごと使う。

T氏「まっ、貧しいざます……」
不肖「そんな、永野のりこ先生のお嬢様風に言わなくても。形が不揃いでも、味は同じですし……」


今回は、しなびぎみの皮をむいて1センチ角ほどに切った大根を、そのまま研いだお米と一緒に炊飯ジャーへ。レシピによっては、大根だけ先に湯がいてエグみを取る、とかありますが――今回はそのまま、INッ。

そして、通常の炊飯――さて、結果は……。


――実食である。
先攻、日本貧乏めし「大根飯 大根菜とカブの味噌汁付き」

T氏「大根菜を刻んで、湯がいて塩ふったのが大根飯に乗ってるのと、味噌汁があるな――おかずがあると、純粋な勝負にものいいがつくが……まあ、貧乏めしそれ っぽいので良し」
不肖「大根飯を食べる状況で、大根の葉を捨てるとは思えませんし。味噌汁は許してください、なんでも書きますから」
T氏「今――まあいい、では実食レポして。どうぞ」

…………。んっ? んっ、んんん? あれっ、これは――

不肖「あれっ……。おいしい。美味いですよ、これ。ふつうにいけます」
T氏「三河もんの血、おつ。……あれっ、でも三河は大根飯食べないんだよな」
不肖「はい、私も初めて食べましたが――」

ふつうに……美味しいです、大根飯。
畑に置き去りの大根で、刻んだだけで湯通しせず、ワケアリの備蓄古古米で炊いた大根飯。もっと大根の臭いとかエグみがあって、後攻のとうもろこしの粉のパンといい勝負をするかと思いきや――
大根飯。ふつうに、こういうご飯として全然あり。個人的には大当たり。
こういう炊き込みご飯としても、全然ありなのでは? というくらい。

大根飯、味や食感などは――
大根の成分、アミラーゼのおかげか。ごはんには臭みもなく、大根の水分でベタつくかと思ったら、そんなこともなく。固めに炊けたごはんには、いつもよりほんのり甘みもあって……おいしい。
多めに入れた大根が舌に触ったり、違和感あるかと思いきや。ごはんの合間合間にかきこむ大根が、口の中で煮物のようにシャリリと柔らかく溶けてくれるせいで、固めのごはんがスムーズに食べられる。
むしゃむしゃ、アウンアウンと頬張って噛んでいると、びっくりするくらいスルスルと口から喉に、食道に、胃の腑に流れ込んで……気づけば、お茶碗がからっぽ。
気づけば、ジャーの中にあった大根飯、最初は警戒して二合炊いておいたごはんが――あれよというまに、からっぽ。完食。
おかずなど無く、ただ大根飯の上の、大根葉、そして味噌汁だけで……この食欲。

不肖「いやあ。これは予想外、想定外。大根飯、毎日でもいいくらい」
T氏「貧乏めし対決のはずが、満足していたらアカンがな。……とはいいつつ、興味深い結果が出たな」
不肖「そちらのご家庭でもどうですか、大根飯。これ、お子さんでもいけますよ」
T氏「いいえ。私は遠慮しておきます」
不肖「……食後にいきなりのド外道パロディはやりすぎだッ、じゃないですかねえ」

かくして――東西貧乏めし対決は、料理漫画でよくある先攻が高評価、有利。後攻はこれをはねのけることが出来るか……? な流れに。
そして……大根飯を、むしゃむしゃ、がつがつ食べた私の印象は。
じつは。大根飯は赤貧悲惨な貧困の胃の腑のためのそれではなく、十分に和食の膳として立ち回れるポテンシャルがあるのでは?と……。
今回の勝負では、貧乏めし対決なのにまさかの美味、かつ味噌汁と菜がついたことで、レギュレーション違反。失格負けの可能性すら出てきた大根飯の勝敗や、如何に――

いや、ほんとうに美味しいです。大根飯。

そして――次は、後攻。勝手に決められたアメリカ代表、とうもろこしの粉のパンである。
果たして…………。

-つづく-


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