推しが結婚した

2024年1月16日。
衝撃が脳天をビリビリと駆け巡って、冗談みたいにスマホを持つ手が震えた。

推しが結婚した。



ついにこの時が来た。

これまでは、推しには早く結婚してほしいな〜なんて思ってたし、自分は推しが結婚しても絶対に落ち込んだりしないタイプだと思ってた。

いい歳だしいつでも来い、はよ結婚せい!と腹を決めてるつもりで余裕をぶちかましてた。


けどそんな単純な気持ちではなかったことに、
結婚発表とともに気がついてしまった。


途轍もなく彼に恋をしていた。



わたしは30代になるまでジャニーズとはほぼ無縁の生活をしていて、自分は男性アイドルなんかにハマることはない、自分とは違う世界の話だと思ってた。

それなのに、コロナ禍のなかで眺めていたYouTubeから思いがけず、生まれて初めての異性のアイドルの推しができてしまった。


そこから転げ落ちるのは一瞬で、
生まれて初めてファンクラブというものにも入って、過去の円盤を買い漁って、初めてCDや円盤の全形態買いをして、初めてネットでできた本名も知らない友達ができて、初めてうちわと双眼鏡を持ってライブに行って、初めて1人で飛行機乗って、初めて推しのために地方遠征して、聖地巡礼して…

知らなかった世界がめちゃくちゃに広がった。
外ズラだけでヘラヘラ生きてきた根暗陰キャでインドアなわたしに、知らない世界をたくさん見せてくれた。

そして彼から発せられる考え方や物事への姿勢、癖のある仕草やいでたち、グループやファンへの深い愛情、戸惑うほどの大きなギャップの数々。

全部から目を逸らすことができなくなって、
この2年半夢中で追いかけた。

彼と出会って本当に毎日が楽しくなった。
自分の私生活はぐっちゃぐちゃで酷い有様だけど、彼のおかげで、現実のつらいこともどうにかやり過ごせた。本当に命の恩人だった。

彼に幸せをたくさんもらった。
だから絶対に絶対に幸せになってほしい。
それは間違いなく本心。



だけど結婚発表の文章を見たとき、
あまりにも突然すぎて、どこか現実味がなくて、 どこか他人事のようで、ただただ呆然としていた。

発表から一晩たって、夢じゃなかったんだと噛み締めた朝に、何も失ってないのに、ないはずの喪失感に涙が出た。

そして、全く喜べていない自分に戸惑った。

どうしてこんなにショックを受けているんだろう?なんで寂しいんだろう?悲しいんだろう?

推しが結婚だなんて幸せこの上ないじゃないか。


自分が結婚できるわけでもないし、そんなの望んでもいない。なのに、このぽっかりと空いた穴はなんなんだろう。



知らないところで誰かと恋に落ち、愛を育み、将来を誓い、家族になろうとしていた彼。

あたりまえだけど、わたしの知らない彼だった。
そんなのあたりまえなのに。わかっていたのに。

大好きな彼が、知らない人のように変わっていってしまう気がして。

ただでさえ手が届かないのに、さらにもっとその先に、消えてなくなってしまうような気がして。

夜になると涙が止まらなくなって、
ああ、わたしはこの人に、ちゃんと恋心を持っていたんだなと気が付かされた。



器用なんだか不器用なんだかわかんなくて、
第一印象とはかけ離れたキレッキレのダンスと甘い歌声を持ってて、誰よりも我が強くて、
彼が笑っているとわたしも嬉しくなって、
ふと見せる横顔がとても綺麗で、
なぜか無性に声が聴きたくなる。


しょうがないよな、こんな魅力的なんだもん。
恋しないわけないよな。


きっと彼はアイドルとして、
表では今後もお相手のことにはうまく触れないように、うまくやり過ごし続けてくれるのだろう。

ファンがアイドルに対して持っている感情をきちんと理解して、この先もアイドルとして振る舞ってくれるんだろう。

お豆腐メンタルすぎるわたしは、
まだお相手さんの写真どころかお名前すら直視できないくらいにまあまあ拗らせているけど、
きっとそのうち結婚したことなんて忘れさせてくれるくらい、また夢中にさせてくれるんだろう。

その眼差しが、その唇が誰のものになっても、
わたしは恋心を持ったまま、この先もずっと
騙されてあげよう。

君がアイドルでいてくれる、終わりまで。

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