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残酷で愛おしい「無邪気」というものについて

ナイフやピストルよりも怖いものが「無邪気さ」だったなんて、22歳になるまで知らなかった。

私が無邪気さに対して無頓着でいられるほど、まわりのひとが優しかったのか、ものすごく気を使って接してくれていたのか、世間知らずだって思って見逃してくれていたのか。ほんのつい最近まで、無邪気さの持つ「愛おしさ」と「残酷さ」の2面性について、大して注意を払わず生きてこれたのは、ある意味私自身が幸せ者であることを証明しているように思う。

もうなんだか私は、「私が無邪気を振り回していた瞬間瞬間に笑ってくれていた人たちは、一体どのくらい心から笑ってくれていたんだろう」と思っては、この一週間ただ布団に籠って泣いていたくなった。

不妊治療を受けている女性と子どもの写真を送りつける女友達

「不妊治療を受けていることを相談していた優しい女友達から、子どもの運動会の写真が送られてきて辛い」という書き込みをネットの掲示板で見たことがある。その書き込みを見たときに、不妊治療を受けている書き込み主が女友達について「優しい」と形容していたことが、どうにも引っかかった。

ここからは私の勝手な想像だけれど、きっとふたりはいい関係で、子どもの写真を送りつけてくる彼女のお友達は本当に優しいひとだったんじゃないかと思う。ネットには、子どもの写真を送りつけてくる女友達について非難の声が殺到していたけれど、少なくとも……書き込み主にとっての女友達は不妊治療を受けていることを相談できるほど、信頼に値するひとだったんじゃないかって。

無邪気と無神経は紙一重だ。そして、その境界線はいつも「想像力の欠如」で線引きされている。

大人になるごとに身につけていくものは、いい意味でも悪い意味でも「想像力」なんじゃないだろうか。これを言ったら、こうなるとかああなるとか。より長生きしている人ほど、人生の失敗例や成功例を踏まえて言葉や行動を選べるから、想像力を膨らませられるというのはたぶん大人の特権で。同時に、想像力ばかりが膨らんでなにも選べない、という怖さも併せ持って生きていかないといけないのだけれど。

話を戻す。書き込み主の女友達は、やっぱり想像力が欠けていたんだと思う。けれど、それが毎日、そしてどんなときでも、想像力が欠けているような人柄だとは限らない。不妊治療を受ける書き込み主の前でだけ、無神経に、つまり想像力のない無邪気になってしまっただけかもしれないのだ。そこまで考えて、「ああなんて残酷なんだろう」と、私はまた無邪気をぶっ放していた自分を、子どもの運動会の写真を送りつけた女性に重ねては呪いたくなった。

無邪気が持つ愛おしさの正体

無邪気は残酷なんだけど、でもやっぱり多くの人はこんなふうにも思う。

「子どもは無邪気でいいよね」「無邪気なひとって可愛らしいよね」

きっと。私たちは本来、他人と比べることなく無邪気でいたいのだ。たとえそれで誰かを傷つけちゃったり、自分が傷ついちゃったりしても。

大人になるほど、想像力を働かせなければ周りのひととうまくやれないこと、仕事が思ったようにいかないこと、毎日の生活がちゃんと回らないこと、をほろ苦い思い出とともにわかるようになっていく。だから人生を円滑に回すためには無邪気なんかでいてられないのだけれども、それでも私たちは心のどこかで無邪気さを手放したくなくて、無邪気でいれる場所をいつも探している。

ここからは無邪気の持つもうひとつの面、愛おしさの話だ。

無邪気はときに、笑顔で誰かを傷つけることができるナイフで、ピストルで……いや、記憶喪失にならない限りは一生治らない傷になるかもしれないから、ときにはなによりも恐ろしい兵器で。

それでも、無邪気がナイフやピストルと違うのは、無邪気ををぶっ放せるのは「安心」があるときだけ、というところにある。想像力を働かせることができる大人は、化粧やスーツや名刺なんかで武装して、傷つけられないように心を鎧で守って生きている。偉い人にパジャマで、すっぴんでアイスキャンディーを舐めながら会うことなんてできないのだ。

私たちが無邪気でいられるとき、きっとそこにはいつも無邪気でいさせてくれる人がいる。

「無邪気」が持つ本当の愛おしさは、「子どもらしさ」とか「純真さ」以上に、無邪気でいられる人と出会っているというところにあって。ひっくり返せば、私たちが誰かの無邪気と対峙するときはいつも、その誰かに自分自身がとても信じられて愛されているということを意味するのだと思う。

悪気がないというのはどこまでいってもタチが悪く、それでいて愛おしい。

と、先日まで無邪気に泣いていた私はやっと立ち上がって、こういうことを書いてみた。無邪気嫌いになりそうだったけれど、私も無邪気でいたいし、他人の見せてくれる無邪気に愛を感じれそうなので、なんとか無邪気を受け止められそうです。

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