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“大津美紀25th Anniversary 〜このキモチ〜 ねこかたりワンマン~第五十六夜~”レポート

11月26日、Yokohama mint hallにて“大津美紀25th Anniversary 〜このキモチ〜 ねこかたりワンマン~第五十六夜~”が開催。自身の音楽活動25周年を記念した特別なワンマンは、久々のバンド編成での開催。自身のデビュー曲から提供曲のセルフカバーなどを通じてこの25年間を振り返りつつ、今後の活動への意欲もにじませるライブとなった。 ライター/須永兼次

節目のライブは、ふたつの“原点”からスタート

暗転のなかステージに登場した大津、まずは個人としてのデビュー曲「手のひらからこぼれる雨」の、弾き語りスタイルでの披露からライブをスタートさせる。透き通るようであり甘さもある歌声をもって大事に歌い始めると、感情の膨らみとともに歌声やピアノ伴奏には明るさや力強さが。

こうしてまずは自身のピアノのみで大切な曲を届けきると、微笑みとともに観客と視線を交わし、足を運んでくれた観客への感謝の言葉を述べるとバンドメンバーが入場。今度は初めて大津が作詞と作曲をともに手掛けた飯塚雅弓への提供曲「かたおもい」をセルフカバーする。この曲も序盤は弾き語りスタイルでスタートし、Bメロからはそこにバンドメンバーが参加。間奏や後奏にはバンドメンバーのソロパートも盛り込まれたり、ともにハーモニーを形成したりしながら、穏やかな微笑みとともに暖かなポップナンバーを形にしていく。


ここで大津はエレクトリック・ピアノへと楽器を変え、こちらも作詞・作曲をともに手掛けた、「おとぎ銃士あかずきん」への提供曲「君のポケットの中」へ。バンド編成によって忠実に再現された原曲のサウンド感に大津の甘めな歌声成分が非常によくマッチし、透き通ったボーカルからはこのバージョンならではの良さも感じられた。


そして再びグランドピアノへと移った大津は、「とても思い出深い曲です」と語ってから、今年の8月に配信シングルとしてリリースした「このキモチ」を披露。楽曲自体が誕生したのは2006年であり、すでにライブでの定番曲となっていたこの曲をしっとりと歌い始め、ひと言ひと言を大事に届けていく。楽曲が描く感情の山を表現しながらも、歌声はいたずらにエモーショナルなものにはなりすぎず、想いはじんわりと観客それぞれの胸へ。転調後の大サビが、そこに光を差し込ませ希望を与えてくれているようでもあった。

歌唱後には、この曲の新しいジャケットのイラストや「セロシア -希望の灯-」のMV制作でタッグを組んだイラストレーター・タナベサオリの紹介や、バンドメンバーとの和気藹々としたMCでしばし和やかな時間の流れるmint hall。そんな雰囲気を引き継ぎ、ここからはこれまで4曲よりもテンポ速めの、よりポップさの強いセルフカバー曲が2曲続く。

まず『THE IDOL M@STER』の萩原雪歩(CV:浅倉杏美)への提供曲「ALRIGHT*」ではAメロ中にクラップを煽って、自身もより明確に楽しさを全面に出しての歌唱で観客のテンションを高めると、そのまま歌詞のフレーズどおりさらに“ノリノリ”なナンバー『ひだまりスケッチ』への提供曲「とびきりスイッチ」へ。この2曲とも、単に底抜けに明るいだけではなく、温かみや柔らかさのようなものがこもっているという、セルフカバーバージョンならではの魅力も発揮されていた。

ここでちょうど、ライブは折り返し。そんなポイントで場の雰囲気を再びしっとりと“聴かせる”ものへと変えたのが、インストバージョンとして演奏された「生まれたばかりの子ねこを抱きしめるように」。彼女のピアノ演奏を軸に、シンセサイザーの音色やスキャットが幻想的な雰囲気を醸し出して観客の音楽への没入度合いを高めていき、そのままデビューシングルの収録曲「小指」へとつなげる。若干の浮遊感を伴ったファンキーさをライブの場で形にできるのもバンド編成ならではのもので、1分強と原曲よりも長く取られた後奏ではグルーヴィーなセッションのような光景も繰り広げられる。そんなサウンドもあってか、大津の歌声にも特に後半にかけて感情がより強く現出していたのも、このライブにおけるこの曲の魅力だったように思う。

歌唱後には、完成・公開されたばかりの「小指」のMVについて、作画を手掛けたイラストレーター・橋本京子の絵に一目惚れしたエピソードなども交えて語る大津。それに続いたバンドメンバー紹介では、時折冗談なども交えつつ、全メンバー必ず他の活動も添えて紹介。そんな場面にも、彼女が長年愛され続けている理由のひとつが垣間見えていた。

きっとこれからも続く、音楽を通じた優しいコミュニケーション

そんなMCパートに続いては、今度は大津が愛を与える猫にまつわる曲を2曲続けて披露。いずれも2021年2月リリースの『猫と暮らせば、』の収録曲だ。まずは、拾われた捨て猫が虹の橋を渡るまでの、猫目線の想いをストーリーとして構築したバラード「ボクのかぞく」から。無垢な猫の姿が浮かぶような清らかさをもって、心に沁み入る歌声を丁寧に響かせていくと、今度は新しく猫を迎え入れた飼い主のワクワクを描くポップで爽やかなナンバー「フラッフィーガール」へ。終盤に向けてハッピーさをもって、場の空気を盛り上げていく。この2曲をセットで歌い、猫と飼い主両方の視点を提示するという構成にも、猫への愛やこだわりがにじんでいたのではないだろうか。

さて、ライブもいよいよ終盤。改めて25年間を振り返る大津は、音楽がもたらしてくれた出会いへの感謝の言葉を述べ、さらに「私にとっては音楽が一番のコミュニケーションツールだから、そういう形で誰かと繋がれるということはとても幸せなことなんだなと思います。私を知ってくれて、本当にありがとう」と観客や配信視聴者への感謝も口にすると、「これからもマイペースに活動していきたいし、楽曲提供とかも頑張ってしていきたい」と今後への意欲ものぞかせてくれた。そうして前向きな気持ちをみせてから、「大好きな曲なので」との前フリから田村ゆかりへの提供曲「恋のチカラ」を本編ラスト曲として歌唱。温かくポジティブなラブソングでありつつ、同時に「新しい一歩を踏み出す」ことへの希望や前向きさも感じさせるこの曲は、25周年を記念するワンマンライブを締めくくるのに実にふさわしい。しかもそれを最後まで微笑みながら、観客に視線を配りながら歌うことで、少しずつ日常を取り戻しつつある様々な人の心にも光を当てる曲にもなっていた。

歌唱後バンドメンバーとともにステージを降りると、すかさず響くアンコールを求めるクラップに応じる形で、再びステージに大津がひとりで登場。ここからは冒頭と同じように、自身のピアノ伴奏のみの弾き語りスタイルで、2曲を歌っていく。まずは、ファンへの感謝が込められた「Baptism」を、先ほど同様に微笑みつつ客席をみやりながら歌唱。特に序盤では、繊細な伴奏と歌声で観客を音楽の世界へと再び惹き込んでみせた一方で、長い長い後奏ではそれらは力強さを感じるものに。自身の中にある大きな感謝をぐっと込めるような伴奏は、壮大ささえ感じるほどのもの。

そしてスポットライトに照らされながらピアノを弾きつつ、「私は小さな頃からあがり症で、発表会やコンクールではいつも頭が真っ白になって演奏できなくて、『自分はダメだなぁ』と思っていました。でも、皆さんがこうやって、いつも私を温かく見守っていてくれているおかげで、25年間諦めないで歌い続けることができました」と、こみ上げるものをこらえながら語る。そして「皆さんが眠るときはいつも、優しい気持ちで素敵な夢を見られたらいいなと思います」とメッセージを送ってから、ライブから生まれた定番曲「Sleeping Song」へ。観客の心へと寄り添う優しいタッチの演奏と清らかな歌声、そしてこの曲に込められたメッセージはきっと、この曲を受取る全ての人の支えになることだろう。そんな想いを抱かせてくれたところで、アンコール2曲も完奏。弾き語りに始まり弾き語りに終わるという“原点回帰”の姿もみせて、記念すべきライブは幕を下ろした。

大津自身のデビュー曲から始まり、提供楽曲や最近配信シングル化された「このキモチ」まで、まさに25周年という節目を飾るにふさわしい楽曲ラインナップで構成された今回のライブ。ライブ中に語ってくれたように、自身としても作家としても、マイペースに活動していってもらいたい――終演後には、そんな想いが自然と湧き上がるライブだったのではないだろうか。丁寧に生み出されていく彼女の音楽を、私たちもこれからもじっくり味わい続けたいものだと、心から願ってやまない。

【大津美紀25th Anniversary 〜このキモチ〜】 ねこかたりワンマン~第五十六夜~2022.11.26@Yokohama mint hall
【SET LIST】
M01. 手のひらからこぼれる雨
M02. かたおもい
M03. 君のポケットの中
M04. このキモチ
M05. ALRIGHT*
M06. とびきりスイッチ
M07. 生まれたばかりの子ねこを抱きしめるように
M08. 小指
M09. ボクのかぞく
M10. フラッフィーガール
M11. 恋のチカラ
EN1. Baptism
EN2. Sleeping Song

森島玲(Violin) Twitter:@RayMSwolf
山下由紀子(Percussions) Twitter :@yukikoyamashita
furani(Keyboard,Backing vocal&arrangement) Twitter:@furanizm
宮﨑大介(Guitars) Twitter:@daisuke2000gt
遠藤定(E.Bass&W.Bass) Twitter:@enjodo_bass

会場:Yokohama mint hall
写真撮影:EIKA AKASAKI
たくさん助けてもらった:まっきいさん
衣装:La belle etude
靴:Gozovation
髪飾り:mou-mou wedding、bloom-wish
ヘアセット:アトリエファミーユ

ライタープロフィール
須永兼次(すながけんじ)。群馬県出身。中学生の頃からアニメソングにハマり、会社員として働く傍らアニソンレビューブログを開設。2013年にフリーライターとして独立し、主に声優アーティストやアニソンシンガー関係のインタビューやレポート記事を手がける。Twitter:@sunaken

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