ユーザビリティの価値を数字で評価する

ユーザビリティ評価に関するいくつかの記事を公開してから、ユーザビリティ評価に関するいくつかのコメントを頂きました。

その中にはユーザビリティ評価を導入していない理由や、導入できていない理由に関するものもありました。例えば、こんな感じ。

- ユーザビリティ評価に関する知識や経験を持つ人が居ない
- ユーザビリティ評価のための時間、あるいは予算がない
- ユーザビリティ評価によって修正項目が発生すると開発に遅れが生じる
- ユーザビリティ評価で得られるモノが実感として大きくない

などなど、ユーザビリティ評価を実施できていない理由は無限に挙げることが出来るでしょう。私も様々なプロジェクトに関わってきましたので、これらの事情、背景について理解できます。

多くのプロダクト開発の現場では開発スケジュールにユーザビリティ評価を織り込んで居ないことが多いですし、ユーザビリティ評価を行う事によって余計な問題が見つかって修正に工数を取られることを嫌がるマネージャーも多いでしょう。QAの一環としてユーザビリティ評価が導入されていても開発チームの発言力が強いために強気に出ることができず「まぁいいか」で通してしまう現場もあるかもしれません。

そこで本記事では様々な環境でユーザビリティ評価を実施しやすくするための助けになればと思い、ユーザビリティ改善によって得られる価値をいかにして算出する方法をいくつか紹介したいと思います。

そもそも、なぜ数字で評価する必要があるのか

ユーザビリティの重要性が認識されているにも関わらず、開発現場においてユーザビリティを改善しようという力が働かない理由のひとつには、コストの問題があります。例えば、ユーザビリティの問題をひとつ改善すれば「○○万円」の利益があると明確に数字で表す事ができればよいのかも知れませんが、実際にはなかなか難しい。

先日書いた下記の記事では「ユーザビリティの問題1つ発見することで得られる利益を15,000ドル」と紹介しました。もちろんこれが当てはまる、あるいは近い数字が得られることもあるでしょうが、これがすべてのプロダクトで当てはまると考えるのはあまりにも乱暴でしょう。

そこで、現代のプロダクトの開発や運用の状況を念頭に置いたうえで、適切な方法で数字を算出しなければなりません。

1. サポートコストの削減による効果

顧客対応にも様々な種類があり、一概にコストと捉えるのはいささか乱暴ではありますが、サポート窓口への問い合わせ件数はユーザビリティ改善の結果として評価しやすいもののひとつでしょう。

私が以前関わったことのあるとある企業では、顧客対応にかかる人件費や設備など諸々の費用を問い合わせ件数で割ったところ、1回の問い合わせあたり1000円近くのコストがかかっていました。つまり、ユーザビリティの問題で問い合わせをしてくるお客さんが1日100人いたとしたら、それだけで10万円、年間だと3650万円ほどかかっていることになります。

1日100人から問い合わせが来るシステムって相当のユーザ数が居るのでは?と思われるかもしれませんが、仮に、ユーザーが平均して1年に1回、使い方に関する問い合わせをするとすれば、3万6500人のユーザがいれば1日に100件の問い合わせが来ることになります。ちょっと名の知れたサービスであれば、この程度はあっという間に超えてしまうでしょう。

もちろんこれらはサービスの種類にもよるでしょう。使い方がわからなくてもまぁいいかで済ませるサービスもある一方で、お金が絡むようなサービスの場合はユーザーもシビアになりますので問い合わせにつながる確率も高くなるはずです。

さらに近年ではカスタマーサクセスなどの名目で、サービス導入支援にリソースを割いている会社も多いでしょう。世の中には導入支援でフィーを取れるような企業があることももちろん承知していますが、実際にはなかなか難しくサービス提供側の持ち出しである程度の支援を行う場合がありますから、そういった費用も計算に入れても良いかもしれません。

2. 研修コストの削減による効果

業務に関係するような社内アプリケーションの場合は、そのシステムの使い方を従業員に教える必要があります。使い方を習得するために長時間必要だとすると、そのあいだも会社は従業員に給与を払わねばなりませんから、簡単に習得できるシステムのほうが当然ありがたいわけです。

例えば、日本人の平均年収は約420万円ですので、これは1日あたり1.75万円になります。つまり、操作方法の習得に1日かかる業務システムと2日かかるシステムでは、1人あたり1.75万円研修コストが変わってくるわけですね。

社内アプリケーションを自前で作り研修を施す会社というのは多くの場合、それなりに従業員が居る会社だと思いますので、例えば1000人の会社だと研修コストだけで1750万円ほど変わってくると言うことができそうです。

3. 操作ミスの削減による効果

前述したものは導入に関するコストでしたが、アプリケーションを使用していると操作ミスなどが発生する場合もあります。そしてこれは簡単にリカバリー出来るものもあれは、復旧にある程度の時間を要するものもあるわけです。場合によっては社内のサポートセンターやシステム管理者に問い合わせが行く場合もあるでしょう。

例えば、全社員3万人が毎日1回使用する社内システムで、1%の確率で操作ミスが発生し、そのリカバリーに20分が必要だとしましょう。1日に発生する操作ミス件数は300件ですので、リカバリーには単純計算で6000分、つまり100時間で時給換算すると20万円程度の損失になります。年間の出勤日が240日とすると約5000万円の損失ですね。

もちろん、リカバリーできる操作ミスであれば良いのですが、レピュテーションリスクに直結するような操作ミス(例えば顧客名簿を誤ってインターネットに公開してしまうなど)もあるでしょうし、もっと重大なものでは人命が危険にさらされる操作ミス(例えば飛行機の操作ミス)も当然想定しえます。これらの事故が発生した場合は簡単に金額に換算できるものではないでしょう。

4. 業務時間の削減による効果

アプリケーションのユーザビリティを改善する事によって、これまで1時間かかっていた操作が30分で終わるようになれば、業務効率の改善と言っても良いでしょう。

例えば、以前聞いた某社の話では、勤怠管理システム(毎日退勤後にその日の勤務時間などを入力するもの)のリニューアル後に使い勝手が大幅に低下し、それまで1分程度で入力できていなものが2分程度かかるようになったそうです。1分の増加と聞くと大したことが無いようにも思えますが、3万人の社員がいる会社でしたので、3万人から1分を奪うと1日3万分、つまり1日500時間が無駄になっている計算で、人件費に換算すると約100万円になります。年間では2億4000万円。大変な金額ですね。

5. コンバージョン率の改善

これはユーザー向けサービスの話ですね。会員登録、ショッピングカート、ユーザビリティが低いためにユーザーの離脱を促すサービスやアプリというのは枚挙にいとまがないでしょう。

例えば、ユーザビリティの改善によってECコンバージョン率を50%から55%に改善することができたとします。10%の増加ですので、1日に100万円の売上があるサイトであれば10万円、1ヶ月で300万の売上増加に繋がります。年間だと3600万円近く売り上げ増加であると考えるとそれなりに大きな数字ですよね。

もちろんこれはサービスの性質に寄るところは間違いありません。ECなのか、あるいはサブスクリプションのSaaSなのか、あるいは広告モデルで運営しているサイトなのかなど、ビジネスモデルによっても計算方法は異なって来るでしょう。

おわりに

以上、簡単ではありますがユーザビリティの価値を見積もる方法についていくつかのパターンを紹介しました。ただし注意しなければならないのは、これらはあくまでもユーザビリティ評価と改善を行った後にしか計算できないという事。

ユーザビリティの評価を実施するまではどの程度の改善点が出てくるかわからないですし、その改善にもコストが掛かるということを念頭に置かなければなりません。そして改善後に改善前の数字と評価する事ではじめて評価することが出来るのです。

また、ユーザの主観的な満足度を数字で評価するのは困難であるという事も忘れてはいけません。ユーザインタフェースを改善することによってユーザの満足度、ロイヤリティーが上がったとしても、それが何らかの数字に直接現れるとは限らないためです。


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弊社ANKR DESIGNでは、お客様のプロジェクトの目的やフェーズに応じて最適なユーザビリティ評価やその他デザインリサーチプログラムをご提案・実施させていただいております。具体的なプロジェクトについてのご相談はもちろん、「こういったことって可能だろうか?」といった段階から、お気軽に下記のTwitterアカウントへのDM、または弊社Webサイトからお気軽にご連絡頂けますと幸いです。


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