見出し画像

地域格差に取り組むスタートラインに立った ~ 2022版岸岡智樹のラグビー教室を終えて(2/2)

リーグワンで活躍する岸岡選手が今年も開催した『岸岡智樹のラグビー教室』。岸岡選手がこのラグビー教室を始めるきっかけとなった問題意識は「地域格差」だ。

自分で通学できる学区にラグビー部のある高校がない等、中学から高校に上がる段階でラグビーを続ける環境が減る地域がある。それらの地域のトップ選手は他地域の強豪校に進学することもあるが、ラグビーを辞めてしまう子どもも多い。

ラグビー教室のターゲットを小学4年生~中学生としたのは、どんな地域でもラグビーを続ける子どもたちを増やしたい想いからだった。

一番はターゲットとしておきたかったのは中学生と小学生高学年。さらに中学生の方が重要度は高いと思っていました。「中学生なら高校生も一緒に入れるんじゃないかな」と思ったんですけど、高校生だと既に地域格差が起こっているので、その前段階の子たちにアプローチをすることで地域格差に触れる活動になっていくんじゃないかな、と。
中学生にしっかりアプローチするために中学生と同じグラウンドに立てる一番広い世代が小学4年生だと感じて年齢設定をしました。

地域差は「日常への溶け込み具合」にある

都市部などラグビー人口が多い地域で開催した1年目に対して、今年は地方に足を延ばした。

赤:サマーキャンプ(合宿)、青:半日のラグビー教室 開催地

「2年間では母数が多くない」と前置きしつつも実際に行って開催して感じたのは

集客やレベルに大きな差はない。競技人口が少ないから集まらない、競技人口が多いから集まるということはない。

ということだ。
その一方で、実際に地域に行って肌で感じる差は「日常への溶け込み具合」だった。

言葉にするのは難しいが「日常に溶け込んでいるか?」というところに圧倒的な差がありました。学校に行ったときに会話ができる相手がいるのか、家でラグビーが流れているのか、ラグビースクールでそういう会話になるかとか。
例えば(2022/10/29の)ニュージーランドとの試合について、ラグビー教室で子どもたちに話をして”ワーッ”てなるかは興味があるかどうかだと思いますし、学校でその話をしたのかとか、ラグビースクールで「あのプレーやばかったね」みたいな話をしたのかどうか。こういうところで日常に溶け込んでるかが分かる。

「日常への溶け込み具合」がラグビーを続ける、上手くなりたいと思う子どもたちの意欲に関わってくる。

日常にないものに対して「上手くなりたい」とは思いにくいだろうし、日常への溶け込み具合が上手くなるための可能性の伸ばしやすさに繋がっていく。周りにうまい奴がいるのかいないのか、目の前にトップ選手を見ることができる環境があるか。そういうところによる想像力や発想の幅どれだけ広げられるか?が変わってくる。

地域によって差があっていい

岸岡選手は、ラグビーに向き合う姿勢や距離感に地域によって差があっていいとも考えている。かつ、地域による差の評価軸は1つじゃないとも考えている。

プレーの深い話ができる地域では、普段コーチから教わっているんだろうと思うし、それよりもラグビーに触れて楽しもうと注力する地域もある。
例えば沖縄。全ての中学校にある唯一の部活がバスケ部だというくらいバスケットボールが盛ん。高校でラグビーをしているのは、バスケやサッカーなど他の競技を辞めたか両立している子たち。ラグビーが日常には溶け込んでいないけどすごく楽しんでいる。地域全体で日常に溶け込む必要があるか?というとそうじゃないと思う。
でも、それだと強くならないというのは一つの考え方。勝利至上主義的なレベルの違いを地域格差とするなら、例えば沖縄県のチームは花園(全国高校ラグビー大会)に出場してもすぐに負けてしまう事実もある。
そこを解決したいと思っていないけど、地域差の評価軸の話だと広がってくる課題なのかな。

地方には種を蒔けば変わる土壌がある

2年目の今年は集客に都道府県ラグビー協会に働きかけた。実際に宣伝やバックアップ等の支援で動く協会があった一方で、都道府県の間に壁を感じることがあったという。

ある県でラグビー教室をやるのに隣県に話を持っていたら「自分の県じゃないから」と断られることもあった。忙しかったり人手不足で変化したくてもできない古い体制や都道府県の境界みたいなものがある。

これはあくまでも組織の課題であり、その中で活動する個々の関係者が個人的にサポートしてくれることもあった。また、都市部とは違って地方だからこその良い特性があることも分かった。

地方には都市部からは声が届きにくいが、地方内のルートでの情報が回りやすい性質がある。
また、地方には圧倒的な地元パワーがある。例えば、新潟はゲストコーチに(7人制ラグビー日本代表の)原わか花選手に来てもらった。僕がイベント名に自分の名前を担いでいるにも関わらず、新潟では圧倒的にわか花ちゃんの人気が高いことにびっくりした。

すでに来年に向けて、地方への働きかけ方が見えてきている。

内側からは変革しにくい現実があるなら、外部の人が入って勝手に仕切って「お任せください」の心持ちで取り掛かれば、これからの地方のラグビーを変えるきっかけにはなるじゃないかな、と。そこも地方の可能性だと感じている。
来年は大元となるようなところ(組織)に入っていきたい。入っていくことでやれることも大きくなるし、より広く価値を伝えることができると思う。今まで思ってきたことを変えるきっかけ、可能性が大きいと思う。
種を蒔けば変わる土壌があるから、きっかけを提供できたらいいと考えている。

2年かかって地域格差のスタートラインに立った

実際に見て肌で感じた話をする岸岡選手だが、今の自分の状態を「歯がゆい」と表現する。

(地域格差は)行ったから感じたんですけど…。ただ行かなくてもイメージできてた部分なんですね。それを実際に行って見たっていうだけなんですね。
これがすごい歯がゆいというか。地域格差があるんだろうなと思って始めました→実際にありました。だからようやくスタートラインに立ったみたいな感じなんですね。
今はあるだろうと思ったものを実態として自分の目で肌で感じたというような状況。これから問われるところであり、まだこれからなんだなっていうのが…なんかすごい沼に足を突っ込んでた気分です。

確かに情報だけで想像できるが、想像だけでは歯がゆさは生まれない。
2年間地域に行って子どもたちやコーチたちと触れたからこそ感じる気持ちなのではないだろうか。

今スタートラインに立って、今後どういうことが必要なのかは地域ごとに考えていく。対策・解決策は千差万別で一緒のもので解決できる話ではないので、そこに取り組んでいかなきゃな…と今考えている。

2年かけてスタートラインに立った岸岡選手の次の挑戦が楽しみだ。

あわせて読みたい記事はこちら↓


サポートは「#スポーツ止めるな2020」活動資金、その他ラグビー関係のクラウドファウンディングや寄付に充てます。「いいな」と思ったら、サポートをお願いいたします。