ほんとうに感動した文章は分解できないんだ。

先日書いた、物語のような繊細な文章を書くコツを西加奈子にまなぶが、予想以上に多くの人に読んでもらえた。

そっか。みんな、どうやってよい言葉を紡いだらいいのか、どうやって感動させることができる文章を書けるのか、その方法を考えて探しているんだ。そう気づいて、もう一度自分が感動した文章の分析を書いてみたいと思った。

そう思ったときに、いちばん最初に思い浮かんだのが、小川たまかさんの「私、女性誌のキラキラ感を笑う気になれません、という話」という文章。

このnoteにおいて、2015年にもっとも読まれた記事ランキングの2位であり、1万シェア以上された、怪物のような文章だ。

さっそく、私は小川さん文章を分解して、この文章はここが素敵だ!という点を書き出してみた。

・「~とかね。」「~なのに。」と3文字の文末を多用して、会話調のリズムを作り出している
・「ただそれだけ。ただそれだけのことなんだけど」「ないってそんなの。そうそうないよ」「すごくきれい。きれいだな。うれしい。きれいだからうれしい」というように、同じ意味のフレーズの繰り返し方が独特で、引き込まれる
・「『自分とは違う世界の人』と思っていた」「『うれしかったこと』が全く書けない」というように、『かっこ』で言葉を囲むことで、その言葉の意味を浮かびあがせている

たしかにいっぱいあった。

でも、書き出してみて、ふと、文字を打つ手がとまった。

なんか違うんだよな。なんか違う。

文章に感動した。だから、そんな感動する文章を書きたい。そのコツを具体的に知りたい。たしかにそう。たしかにそうなんだけどなんか違うんだよな。

うーん。

そこまで考えた時に、やっと分かった。

そっか。私はこの文章を読んだときの感動を分解したくはないし、できないんだ、ということに。

なぜだろう。それは、感動というものが、ひとつひとつの言葉や文章という要素に還元されるものではなく、「書き手と読み手の感情のシンクロ」というひとつの経験からできているからなのだと思う。

だからこそ、分解できないし、分解することでその感動を台無しにしてしまいたくもない、と思ったのだ。

そもそも、私がこの文章に引き込まれたのは、

私はもう物心ついた頃から、とてもネガティブな人間だった。

という一文からだった。私は昔の小川さんと同じように、とてもネガティブだ。だからこそ、この一文をきっかけにこの文章に入り込み、そこに描写されている経験に、そして感情に、シンクロしていたのだと思う。

この文章を書いているのは小川さんだけど、私がこの文章を読んでいるとき、そのエピソードの中に登場し、それを体験しているのは、もう私だった。

そして、文章の終わりに差し掛かったこのシーン。

白い天井に日の光がぱーっと差し込んでいるところ。すごくきれい。きれいだな。うれしい。きれいだからうれしい。穏やかな気持ち。…? あれ? 私、もしかしてすごく幸せなんじゃないだろうか。

ネガティブだった小川さんが、ベットに寝転んで、日差しを浴びて、幸せを感じるこのシーン。この部分を読んだとき、私は同じように、ベットに寝転び、日差しを浴びて、幸せを感じていた。

小川さんの心の動きをそのまま私が追体験をしたこの感じ。書き手と読み手の経験や感情がシンクロしているこの感じ。ああ、これが「感動する」ってことなんだなあとそのとき思った。

だからね。

書くときは、分かりやすく書こうなんて思わなくていいんだと思う。思った順番で、思った言葉遣いで、思ったままを正直に書く。それが、書き手と読み手の間にシンクロを起こさせて、感動になるんじゃないのかな。

この文章に感動したのは、文末がリズミカルだったからでも、会話調で親しみやすかったからでもないんだと思う。ただ小川さんが、自分の心が大きく動いたその瞬間を、できるだけありのままに、言葉として再現したからなのではないだろうか。

小川さんの同僚で、わたしの大好きないけめんツイッタラーのカツセマサヒコさんがブログのなかで、小川さんのこの文章に触れて、

なんて言うか、ここはもう琴線に触れるかどうかなので、理解されなくてもいいんですけど、でも僕にはこの文章がちょーーーーーー響いて。すっげぇいいなって。文章ってやっぱ超いいなって。最高だなって思ったんですよ。たぶんこれ映画でも音楽でもダメで、文章だからキレイなんですよホント。すごいなって。文章ただただすごいなって。いやお前本当にライターなのかよってぐらい説明が下手すぎなんですけど、でも最高な感覚に言葉いらないでしょ、そこは負けざるを得ないでしょ。

と書いていた。

ほらね。やっぱり、本業のライターさんだって、本当の感動は分解できないんだよ。したくないんだよ。

だからね、わたしは、そんなふうに文章を書いていけたらいいな、と思う。

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