物語のような繊細な文章を書くコツを西加奈子にまなぶ

ロジカルで分かりやすい文章を書く…というのも必要なスキルですが、最近憧れるのは、物語のような洗練された文章を書くこと。

そんなスキルを身につけるために注目したのは、大好きな作家である西加奈子さんです。 

西加奈子さんといえば、サラバ!をはじめとしたさまざまなヒット作で知られている大人気の作家さん。

今日はそんな西加奈子さんの著作である「窓の魚」を題材にして、洗練された文章を書くコツを探ってみたいと思います。

1.色彩表現の細やかさ

まず西加奈子さんの文章の特徴として、「色彩の表現が細やか」であることがあげられます。

例えば、こちら 。

・目に乱暴に飛び込んでくるのではなく、目をつむった後にじわりと思い出すような、深い緑である(p7)

・むきたてのじゃがいものように白い岩の間を、緑の水が流れていく(p8)

単に色の情報を書くだけでなく、「目をつむった後にじわりと思い出すような緑」や「むきたてのじゃがいものように白い」といったように、読者のイメージを掻き立てるような情報を掛け合わせているんですよね。

そうすることによって、色彩の肌触りや、その状況にある受け手の感情を想起しやすくさせているのではないでしょうか。

2.擬人化の巧みさ

次にポイントとしてあげられるのが、「擬人化が巧み」であるという点です。

・耳の付け根を怖がるように撫でていった。あまりにもささやかで、頼りない。(p.7)

・濡れた岩は気持ちよさそうに、つやつやと緑色に光る。(p22)

もちろん風は「怖がり」ませんし、「頼りない」こともありません。

また岩が「気持ちよい」と感じることもありません。

でも、西加奈子さんは、それらがまるで人間であるかのように扱うことで、生き生きとした表現を可能にしているのだと思います。

3.擬音語と擬態語の絶妙な使い方

擬音語と擬態語は、洗練された文章を書くための第一歩ですが、西加奈子さんの場合は、それを絶妙につかっています。

・どろりと黒い隈(くま)が、目の周りに張り付いて離れない。(p13)

・ぐぐぐ、と音がするくらいに、俺の体を煙が満たす。(p54)

目の下の隈を「黒い」と表現することはあっても、「どろり」と表現することは、普通の人ではなかなかできません。また、煙が体の中に満ちるという比喩にプラスして、「ぐぐぐ」と音がするように、という擬音語を使っているのにも感動しました。高度な併せ技!!

4.句点の位置が、天才的

句読点の位置も独特です。

・私はきっと、狂っているのだ(p38)

・空が、しんと、静まりかえっている。(p59)

「私は、きっと狂っているのだ」とするより、「私はきっと、狂っているのだ」のほうが、「狂っている」が引き立ちますよね。同様に、「空がしんと静まりかえっている」ではなく「空が、しんと、 静まりかえっている」とすることで「しんと」という修飾語が、ぱっと、目に入りやすくなっています。

句点ひとつにも宿る、西加奈子さんの技、ですね。

5.時制表現の独特さ

普通であれば過去形を使うところを現在形を使うことで、その文章や人物を浮かび上がらせるという効果も使われています。

・あたしはもう、この柔らかなオレンジ色に、飽きている。(p108)

・あたしは、それを見ながら、やっぱり緑のショールを買えば良かったと、思っている。(p108)

「飽きた」や「思った」ではなく、「飽きている」「思う」とすることで、飽き飽きしている様子や思いの強さをより的確に表現しているんだと思うんです。

また、このセリフを話しているのが、ハルナという「消費」することに目がない現代的な女の子なので、「その場を生きている」ハルナをより表現するために、こうした現在形を使っているのかもしれません。

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 詳しく見てみると、本当にいろいろな工夫が隠されていることが分かります。西加奈子さんの文章が独特で、洗練されている理由が少しわかった気がしました。

ああ。やっぱり、西加奈子さん好きだなあ。

文章を読み解くことで、より物語も味わい深くなるし、自分自身の文章力をあげるヒントにもなるし、一石二鳥だと思います。

また今度違う本でやってみよっと。

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