Take my hand

プレイヤー不在の音楽室の中にあるのは、いわゆる静寂である。
空気の音と、それに触れる微かな物音だけが支配する空間の中で、ミハルは少し船を漕いでいた。
時刻にして夜の22時。何があったという訳でもないが、ただピアノを弾く膚李を見つめていたと言うだけの話だったが、ここまで長くなるとは思ってもみなかった。
夕飯代わりに作ってくれたさつまいものシチューも、腹に来るのか余計に眠くなる。

「……ごめんね。長居させちゃって。退屈で眠くなっちゃうでしよ」
「いえ、私が演奏を聞きたかっただけですので。……心地いい音色のせいか、少し眠くなってしまいました」
「僕のベッドで良ければ、そこで横になりなよ。僕は今日は床で寝るから 」
自分の眠気で膚李に気を遣わせてしまったことに少ししょぼくれる。
「あ、いえ、そんな……。床には私が寝ますから、膚李さんはちゃんとベッドで寝てください!」
知らず知らず、膚李の手を引いてベッドへと連れ込む。そのままベッドに座らせて、横にさせようとするも、膚李もどこか遠慮している。
「いやいや、君を床で寝かせる訳には……いい案はあるけど、これは僕には出来ないや……」
「……何となく考えてる事は分かりますが、私にも無理です……。つまり……一緒に寝るってことですよね?」
膚李は無言で頷く。その顔はとても赤い。
「膚李さん、本当にその……そういうのは大丈夫ですから……今日はもう帰りますね。それでは…」
そそくさと、恥ずかしさで急く足を膚李の手が止める。
「眠たそうなのに1人で帰らせるほど、僕は免疫無いわけじゃないよ。途中までは送ってあげるから。……とりあえず、手を繋いで」

恥ずかしさのあまり、恐る恐る、膚李の手を握ってみる。
いつも勇敢に見えるその大きな手は、緊張で少し震えていた。
ミハルは何となくそれが可愛らしく思えたからか、ふっと笑みが零れていた。

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