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仕事でおきる「手段の目的化」を防ぐには?

最近カスタマーサクセス(CS)の活動について相談を受けたときに、ちょっと驚いたことがあります。

それはCSの概念などの本質的理解を差し置いて、単純にCS手法だけを取り入れようとしていたからです。話を聞くと「これはCSに取り組む話なのか??」という感じるくらいの曲解もあって、コメントに困りました。

こういった相談を受けると個人的に「手段の目的化」だなと感じます。

上記のような曲解は珍しいですが、ちょっとした誤解を含めると、こういった話に遭遇することが結構あります。その多くが「バズワード起点の取り組み」での会話です。今なら「生成AI」だし、ちょっと前なら「Web3」でしょうか。また「DX」もそうです。

この「バズワード起点による手段の目的化」は今に始まったことではなく、昔からよく起きています。ということは「手段の目的化」という誤解を生み出す構造があるということではないでしょうか。

ということで「手段の目的化」を生み出している構造について、今回はモデリングしてみたいと思います。

「目的」と「手段」は何か?

今回のテーマにおいてまず大事なのが「目的」と「手段」の定義です。こういった抽象度が高い言葉は人それぞれの主観が入ってきますが、今回はこのようにしてみました。

定義
目的:最終的に成し遂げようとする事柄や目指すべき到達点
手段:ある事を実現させるためにとる方法

この定義から「目的」という成し遂げたい事柄に対して、実現方法に「手段」が存在することがわかります。これはモデリング観点で見れば、手段は目的の構成要素となるのです。

「目的」の構成要素をモデリングする

まずは「目的」の構成要素をモデリングしてみました。題材が抽象的になってわかりにくいので企業活動として目的になるものを前提として考えています。そうすると、目的と手段を同一人物が行うのでなく別人物がそれぞれ行うことになります。

目的や手段は一般用語で分かりづらいのですが、企業活動で考えれば目的は企業のビジョンにあたります。そこから目的達成の手段と事業計画が構成要素となります。さらに事業計画には外部環境や内部環境の構成要素が含まれてきます。

「目的」の構成要素

なぜ「手段の目的化」は良くないのか?

手段の目的化はどんな状態かといえば、目的の構成要素である手段が目的そのものに成り代わるということです。

これは目的の構成要素である「手段」にのみフォーカスして、手段を目標とするということです。つまり、目的を上位の構成要素としたモデリング構造の一部だけを見ている状態となります。

今回の図だと「手段」を構成するものは「実施の計画」と「自社のリソース」のみです。目的の構成要素から手段を最上位に置くと「手段の目的化」が成立します。つまり実施するための手順とリソースがあればすぐに手段は実行できるということです。

例えるなら、RPGのダンジョンで道があるかは不明なまま「進む」というコマンドを実行しているようなものです。進む先に壁があって進めなくても「進む」というコマンド自体は実行できます。

行き止まりでも進む

しかし、そもそも目的があって進むわけで、攻略するために行くのか、宝探しに行くのか、経験値を積むためなのか、目的によって進み方が違います。

だから、目的の構成要素は「手段」以外にもあって、それらを満たさなければ目的は達成できないはずです。

「手段の目的化」を生み出す構造

さきほどのRPGで考えると目的なしに実行だけすることは「ありえない」わけです。しかしビジネスのバズワード起点の取り組みになると、このようなことが起こっています。

モデリング結果を見てみると、「目的」には社内外の情報が必要ですが「手段」に必要な要素は社内のみで準備できてしまいます。ということは、手段の目的化を生み出す構造の理由として目的の構成要素の中で「手段」の実現コストが低いから発生しやすいと考えることが可能です。

この構造的な状況に加えて実現コストが低いのは、具体的に3点の理由があると考えています。

理由1:やれば良い

先ほど説明した通り「手段」は何も考えずに実行することで構成要素を満たすことができます。つまり、ただ”やれば良い”ということになります。

しかも行動したアウトプットが周囲にも伝わりやすく、自分たちの活動を説明するコストも低くなりますので、取り組みの成功・失敗は置いて「とりあえずやろう」で話が通ります。

実行した結果よりも実行することに意味がある

理由2:責任を取る必要がない

次に責任が曖昧にできるところです。もし実行するものが長期プロジェクトだった場合には、担当が変わる頃まで自分が実行して、その後の振り返りや成果を確認する時点で後任者に引き継がれていることになります。

RPGで言えば、最初の人がボスキャラに後先考えずに攻めて、状況が悪くなってから次の人にコントローラーを渡すようなものです。受け取った人は瀕死の状態からパーティの立て直しをしなければなりません。

これでボスに負ければ責任が明確にわかるのですが、現実ビジネスは長期プロジェクトになると関係者が増えて複雑になるため、責任の所在が曖昧となります。そのため、現在の推進者がすべての責任を取ることになりがちです。

実行側はそうすると責任を曖昧にできるプロジェクトのほうがやりやすいことになります。

どこが起点かわからなくなる

理由3:情報操作しやすい

RPGのボスを倒すためには準備が必要です。普通は経験値を積んだりお金を稼いで強い武器や防具を揃えたり、ボスの弱点や攻略のヒントとなる情報を集めてボス戦に備えます。この戦うための準備が重要かつ大変な作業です。

ビジネスも同様で事業の計画市場の規模市場のトレンドといった社外環境の要素がないと計画を作成できません。こういった自分たちでコントロールできない社外情報を自社にとって有用な形に整理することは非常に手間のかかる業務ですので、事業計画を作るためには相当なコストが掛かります。

しかし手段を起点に考えると、コントロールできる社内の情報だけを考えればよいことになります。それに加えて、コントロール不能な社外の情報は自分たちに都合よく利用することが可能です。例えば、バズワードや特定顧客の声から市場のトレンドを編集して、手段を実行するための後押し情報として活用できてしまいます。

社外の情報を活用するため、情報を都合よく活用しやすい

その他に構造としては現れないですが「◯◯役員がやると決めたんです」など、社内のパワーバランスを材料として用いるケースも想定されます。こういった理由から「手段の目的化」が生み出されていきます。

前提を確認すれば「手段の目的化」は防げる

ここまでモデリング手段の目的化を生む構造について整理しました。では、どうすれば「手段の目的化」を防げるのでしょうか。

対策の観点としては意外と簡単で、上位の目的と手段がしっかり繋がっているかを確認できれば良いことになります。そのために観点としてそもそもの目的に立ち返ることが大切です。

そのために実行の前提条件を明確にすることが大切です。

今回のモデリングから見ると前提条件は「事業の計画」の構成要素である社外の情報を正しく理解できているかどうかです。特に事業計画として合意できた「市場のトレンド」をどれだけ正しく把握できているかがポイントになります。

事業の計画は作成に関わってないと十分に理解ができない場合があります。さらに手段を実行したいと考えている人は、計画を正しく理解するよりも都合よく利用することを望むため、手段が事業の計画と齟齬がないかを確認する動きを意識することがありません。

よって事業の計画とのつながりを確認するための「問い」を持てることが重要です。

社外の情報を把握しようとする努力をどれだけしているかを計測するだけで、手段の目的化は防ぐことができます。

問いの解像度を上げよう

例えば「A社がやる気だから、この施策をやらせてほしい」という手段の実行を推進する要請に対して、どういった問いを設定するべきでしょうか。

この例文だと「手段としての合理性を判断するための情報として解像度が低すぎる、、、」ということはありますが、指摘できるポイントは数多くあります。例えば、こんなところが明確に答えられない場合は手段が先行している懸念があります。

  • A社でなく、どの部署の誰がやりたいのか?

  • A社の中で、何人がやる気なのか?

  • やる気があるとわかる行動は何か?組織を作るのか、予算を確保済みか?

  • A社以外でも再現性があるのか(他社でも同じ意見があるのか)

例えば、こういった事実関係を確認するだけで手段としての必要性を確認することができ、無用な「手段の目的化」を防げます。

手段の目的化では、一部の顧客ニーズや特定の技術適用を理由に「〇〇しましょう」「〇〇させてください」という事になりがちなので、そういった言葉が出てくると要注意です。

なお個人的な感覚ですが、こういった話は情報操作しやすい状況(バズワードや特定顧客を引き合いに出しやすいケース)になるほど多く出てくる一方で、目的達成に必要な手段を実行する本質的な活動になるほどバズワードが出てこなくなる気がします。

なぜなら本質的な取り組みは簡単に陳腐化しないからです。実績がある確かなことはそれだけ歴史があるため、一時的な流行り言葉のように風化されていくことは少ないと思います。

「手段の目的化」を防ぐ仕組みは作れるか?

問いにより手段の目的化を防げるならば、問いの設計をどうやって仕組み化するのかを次に考えることになります。これについての解決策の方針としては、ステージゲートのように評価基準と意思決定のタイミングを入れて、そこに手段として実行する必要性を判断する仕組みを作ることなどが考えられます。

このような仕組みに適切な問いの設定ができれば多くの場合は、手段の目的化を安易に実施できないようになるはずです。

「手段の目的化」は短期的には悪影響が見えづらいので見過ごされがちですが、効果のない手段を実行したことで発生する無駄な投資や期間までを勘案すると長期目線では大きな悪影響があります。

よって「手段の目的化」を防ぐことは目的達成のために非常に大切なことですが、防いだ効果が証明されづらいため労力が大きいわりに報われない難しさもあります。そんな手段の目的化についての問題構造や解決することの難しさについて、あれこれとPodcastで話しています。

ここまで読んで頂き、ありがとうございました!

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