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ちょっと長めの図書紹介⑧

わたしは「不登校」とは
無縁といえる子ども時代を過ごした。
皆勤賞にも何度か該当し、表彰された。
学校が好きだったわけではないが、
特に嫌いだったというわけでもなく、
ただ学校に行くことだけでも
それがひとつの価値だった時代を生きていた。

「大丈夫? 登校。」と疑うこともなかった。
別にそれはそれでもよかったし、
後悔することでも、もちろんない。
そんな子ども時代を過ごした人間による
『大丈夫! 不登校。』の図書紹介
であることだけ最初に伝えておこう。

まず、冒頭から驚きがある。
「不登校とは、
 もとの自分に戻るとか元気になるための
 充電期間などではなく、
 まったく新しい状態に移行にするための
 “進化の過程”であり、
 その途中のステージだ」(p.3)という、
ある当事者の言葉──。
不登校状態=進化の過程と捉えたのである。
その「進化の過程」における苦難などの体験
それを乗り越えた先輩からのエールを
中心にまとめたのが本書である。

「朝になるのが怖かった」(p.17)という
行かないという意志ではなく
行けないという心身からの訴えから
「chapter1●行かないんじゃない、
行けないんだ!」は始まり、
以後、リアルな子どもの不安や
親の葛藤などが綴られている。
本書に登場する当事者たちのように
発信できることは「進化」への前進だろう。

しかし、本書にも書かれているように
後ろめたさを理由にだれにも相談(発信)が
できない時期もあるだろう。
そんなときは、受信から始めればいいと思う。
本を読むことはひとつの受信である。
その受信行為により、
相談できない不安から、相談してもいい安心へ
そして「自分だけじゃない」という
同調を得るきっかけにもつながる筈だ。

本書のもうひとつの価値として、
編著者が代表を務めている支援団体
登校拒否の子どもたちの進路を考える研究会
の継続した支援により得られた追跡
「彼ら彼女らの現在地」がある。

たとえば、
中学受験を突破したH.Nさん(現在35歳)は、
入学後2学期から不登校状態が続き、
高校はサポート校、
そして大学に進学し、就職──なんと!
「小・中学校の事務職員」になったという。
職員室のこぼれ話も書かれている。
「学校すら通えない奴は社会でも通用しない」
当事者として胸に刺さった言葉であろうが、
彼はいう──
「不登校でも、このくらいにはなれた」という
自らの姿で
「社会人」としての自分を示している。

当事者にとって不登校状態は
「死ぬほどつらいこと」とよく聞くが、
その実感を他者が得るのは難しい。
しかし「死ぬほどつらいこと」だという
苦しみを理解する努力はできるし、
特に教職員にはそれが必要だと考えている。

事務職員として学校で働いていると、
特に問題が見えてこない子どもよりも、
特徴がある子どもから記憶するし、
顔と名前を覚えるのも早い。
保護者との関係も同時に深くなっていく。

不登校状態の子どもでいえば、
週一開催の「教育相談部会」という会議、
その資料に載っている「写真」だけで
認識している子どももそれなりにいる。
ごくたまに学校で見かけたとき、
どんな言葉をかけるべきだろうか、と考える。
もしかしたら「死ぬほどつらい」登校を
決断した直後かもしれない。
教員よりも子どもとかかわる時間は少ない、
その分、一言一言が
子どもに与える影響は大きいかもれない。

学校を職場としている教職員の一員として
事務職員も不登校を学ぶ意義は深いし、
いろいろな事例を頭に入れておくべきだろう。
── 知識は認識を変える ──
本書には、
「不登校」という認識を変えるために
必要な知識となるエッセンスが詰まっている。

70人の当事者(子どもや親)が
現実を言葉にし、
14人のカウンセラーが40の助言を
添えている。
本書の構成はQ&A形式のほうが
使いやすいのではないか、とも考えた。
事例(Q)を受けた
カウンセラーによる回答(A)──
・心と体との付き合いかた
・家族との関係や家族の見守りかた
・仮想と現実社会との向き合いかた
・昼夜逆転現象の考えかた など満載である。

しかし、使いやすさの反面、
不登校対応の処方箋という
イメージが強くなり、
テキスト化してしまうのも残念に思える。
本書はあくまでも
「エール」という体系を崩さなかったのだ。
それもやはり基本には
── 信じて・任せて・待つ ──
という観念の存在があるのだろう。

「chapter5●そのとき心が動いた」
ここには「進化」のきっかけが収められ、
「chapter6●大丈夫! 不登校」と
まとめに続き、
内省の過程を経た進化がみえる。

「かけがえのない経験」
「学校に行っていたら体験できないこと」と
不登校をプラス作用と
捉えている当事者は多い。
「タイムマシンがあったら昔に戻って、
 あの頃の自分に『大丈夫だから』と
 言ってあげたい」(p.105)
という声もある。

出口はある。
その出口に向かって
当事者も支援者も関係者も……
みんなで叫べばいい──「大丈夫!不登校。」

本書の編集企画・デザイン担当
(株)あどらいぶ企画室 圡田正文さま、
ご恵贈ありがとうございました。

#不登校
#登進研
#登校拒否
#登校拒否の子どもたちの進路を考える研究会

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↓一部「立ち読み」可能
https://www.honnomori.co.jp/isbn978-4-86614-129-9.htm

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