森 晶麿

虚構家、小説家ってWikipediaに書いてあったのでたぶんそう

短篇「ぼくのじゆうけんきゅう」一週間限定公開

あまりに暑いので夏先取りで、過去に書いた短篇を一週間限定でアップします。最後まで無料で読めますのでどうぞ。お愉しみいただけましたら、そのついでに現在発売中の『ホームレス・ホームズの優雅な0円推理』をよろしくお願いします。では以下に全文を。

短篇『ぼくのじゆうけんきゅう』
 1 研究のはじめに

 夏休みは長い。だからその長さを埋めるために、先生は僕たちに宿題を出す。それでも埋まりきらないくらい、

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性的な眼差しから逃れる装置としての物語について──『ホームレス・ホームズの優雅な0円推理』発売によせて

近年、男同士のバディものをドラマや映画で観るとき、そこに少なからずソフトなBL風味を読み取ることが、以前より多くなってきたような気がする。
 ここでいうBL風味とは男同士の恋愛を描いている要素があるということではなく、男同士の、恋愛に近い友情を描いているということだ。女同士の「百合」という概念に対して、かつては「薔薇」という表現があったが今ではそれはあまり一般には使われず「BL」という言葉が使われ

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ホエール今鹿の平成トリップ

プロローグ

 2019──。
 三月の半ば、その数字の並びを見ながら、僕はぼんやりと自分の過去を20歳から19歳へと遡って思い出そうとしていた。けれどその時期のことを思いだそうとして最初に浮かんでくるのは、渋谷のネオンの渦でしかなかったし、そのネオンが19のときのものか20のときのものかもよくわからなかった。無理もない。考えてもみれば、その頃の僕は毎日アルコールの海に溺れていたんだから。
 それ

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スガシカオ『労働なんかしないで光合成だけで生きたい』はスガ史上最大級の拡散力をもった「ドラッグ」だ。(後半)

(前半は一つ前の記事にあります)

05「おれだってギターを抱えて田舎から上京したかった」
 くるりの「東京」に限らず、ロックバンドは都会のアウトサイダーであってほしいというのが、何となくの無意識に根差しているなんてことはないだろうか。ジョン・レノンはリヴァプール生まれだし、ギャラガー兄弟はマンチェスターの生まれだ。やっぱりロックたるもの、都会の洗練に対して「クソったれが」と悪態をついていてこそな

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スガシカオ『労働なんかしないで光合成だけで生きたい』はスガ史上最大級の拡散力をもった「ドラッグ」だ。(前半)

スガシカオ(敬称略)は危険きわまりないドラッグである。なんて言ったら、昨今は物騒に思われるかも知れない。が、実際、自分には「スガシカオをキメる」としか言いようのない音楽体験がある。ファンクが聴きたいとか、ブラックミュージックが聴きたいとか、そういうことじゃない。「スガシカオをキメたい」のだ。
 若い頃からこの欲求はかなり高い頻度で起こった。つまり中毒性が高いのだ。まあそれは聴けばわかるし、今はくど

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スガシカオとGRAPEVINEでひもとくミレニアムのたいくつとゆううつ

2000年前後の出来事は覚えているようで存外記憶が怪しいところもある。自分はその年、ちょうど大学3年で、21年間の人生で最大級の当惑の渦のなかに身を置いていたからだ。
 早い話、学生結婚することになったのだ。それ自体は自分の望んだことだったのだが、結婚が家と家とか親族と親族をつなぐものだとか、そういった意識がまだ全然欠けていた時期でもあり、「家」が急激に自分たちの背中に押し寄せてくる何とも言えぬ息

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