ほんとうにあった淡い話

2019年は百合ミステリも熱い

 早川書房の『SFマガジン』で百合SF特集を組まれたのをきっかけに百合SFが今年すごい勢いであるのは皆さん周知のことと思うのだが、じつは百合SFなみに2019年は百合ミステリーも跋扈した年でもあるのではないか、とまだ1年を締めくくるには早いながらも思ったりする。

 まず、講談社タイガから発売された阿津川 辰海『紅蓮館の殺人』。山火事によってクローズドサークル化された館で起こった死が事故死か殺人かをめぐって35時間というタイムリミットのなかで推理がはじまる。
 こう書くといわゆる典型的なクローズドサークルものと思われそうだ。たしかに道具立てはあれこれと館モノならではの要素がこれでもかと詰め込まれているのだが、中盤からある女性同士の関係に強い百合要素が……(いやもちろんこれはメインではないのは承知しているのではあるが)。名探偵という存在自体をど真ん中に据えた青春ミステリとしてもおススメ。

 次に挙げるのは斜線堂有紀『コールミー・バイ・ノーネーム』(星海社)。
 深夜のゴミ捨て場に捨てられていた美少女、古橋琴葉に魅せられた世次愛は、友だちになろうとするも、恋人にならなってやると言われる。そして、自分の本当の名前を当てられたら友だちになってあげるという奇妙な賭けを持ち出され──。ドライでビターな味わいが魅力的で、かつ百合であることの「必然性」を感じられる百合ミステリ。

 ほかにも京極夏彦『天狗』、乱歩賞受賞作『ノワールをまとう女』など話題作が目白押し。

 そこへもってきて超話題作がいよいよ刊行される(たしか今日あたり)。あの『元年春之祭』で年末ランキングを制覇した陸 秋槎の新作『雪が白いとき、かつそのときに限り』が早川書房から発売となるのだ。未読ながら、帯コピーを百合好きで有名な青崎有吾さんが書いているところからも百合ミステリ保証済と考えて間違いないだろう。
 冬の朝の学生寮で、少女が死体で発見された。白い雪に覆われた地面には足跡がなく、警察は自殺として処理するが、五年後、いじめ騒動をきっかけに過去の事件の噂が校内に広がっていくなか、生徒会長の馮露葵が図書室司書の姚漱寒と調査を始める──。

 中国といえば馮夢龍の『山歌』のなかに「人の目をあざむく」という歌があり、これが雪の上の足跡トリックの最古の例とする考え方もあるくらいで、雪の足跡と中国というのは関係が深いのでそういう意味でも楽しみな一冊。

 と、ここまでシレっと紹介してきたが、読者から「何をわざとらしい。自分が百合ミステリを書いているくせに」という声が聞こえてきた。え? まさか、そんな、こんな文章書く人間が百合ミステリを自分で書いているわけが……書いてましたね……それなのにこんな百合ミステリが熱いなんて記事を書いてしまうなんて恥ずかしい……恥ずかしいついでに内容を紹介させてほしい。タイトルは『キキ・ホリック』(KADOKAWA)
 舞台は〈私立扇央女子高等学校〉。校庭の一角を占める<プラントハウス>。温室植物たちを管理するのは、他の誰にもない存在感を放つ蘇芳キキただ一人だった。しかし彼女は姿を消してしまう。ある事件と共に……。その記憶を、いま綴ろうと思う――。百合ミステリであることを除いても作者屈指の名編であることは間違いない。

 ということで、令和元年は、百合SFの年、であるだけでなく百合ミステリの年でもある、ということを今年の後半はガンガン言っていきましょう。
 
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 最後までお読みいただきありがとうございます。
 末筆ながら、今度11月2日(土)に東京でトークイベントをします。
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