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#それでもスポーツで生きていく・#2

スポーツ界の『生きづらさ』と自立への道筋

連載2回目は、日本スポーツ界の自立を阻む5つの要因の2つめ、スポーツ界の「やりがい搾取」について、これまでの経験や私見を綴っていきます。

≪ 日本スポーツの自立を阻む5つの要因 ≫

1.日本のスポーツ界は本当に「稼げません」
2.「やりがい搾取」が横行しています
3.組織が上意下達の「ピラミッド型」です
4.「経営上層部がサロン化」しています
5.現場からの「叩き上げ経営トップがいません」

今日は「2.」のお話。

東京オリンピック・パラリンピックの話

スポーツ界の「やりがい搾取」について、例に挙げるならば、やはり11万人のボランティア(大会ボラ8万人、都市ボラ3万人)で運営することになる東京オリンピック・パラリンピック。この話は避けて通れないと思います。

インターネットを閲覧して、今大会の組織委員会の大会運営経費の資料を見つけました。

トータル1兆3,500億円の経費計画ですが、これ以外に8,100億円の追加支出があると発表され、さらにまだ精査されていない支出項目もあり、報道ではトータル3兆円は支出があるのでは、と囁かれています。

「いい加減にせーよ!スポーツ界」と言われそうな話なんですが、スポーツ界の人間としては「ちょっと待ってくれ、話聞いて!」と声を大にして言いたいのです!

聞いて欲しいのは、各費目のお金の落ち所

◼️恒久施設    → ゼネコンが儲けます
◼️仮設等     → 設営業者が儲けます
◼️エネルギー   → インフラ業界が儲けます
◼️テクノロジー  → ICT企業が儲けます
◼️輸送      → 輸送機関が儲けます
◼️セキュリティ  → 警備会社が儲けます

ここからがやっとスポーツ関連社の出番です。

◼️オペレーション 1,150億円
◼️管理・広報    650億円
◼️マーケティング 1,250億円 →電通
◼️その他      700億円

合計して3,750億円。

まとめると、予算の大半はハード面の整備を中心に使われ、約1兆円はスポーツ界でないところに落ちるお金、となります。

( 恒久施設はスポーツ界に恩恵が落ちるではないか、と言われそうだけど、多分競技団体の立場で、そんなに豪華な競技場が要る団体はないと思う。)

そこに、機動されるボランティアが11万人、1,000円のプリペイドカードで毎日お手伝いしてください、というお話しなのです。

人件費にお金が回らないスポーツ界

僕も某競技団体の国際大会運営に関わったことはありまして、この五輪の予算繰りと似たようなことを経験しています。

まず国際大会をやるとなると、会場の仕様を国際大会に適したものに整える必要があります。増改築が必要なら、その出費がありますし、映像の国際配信やプレスセンターを設けられるだけの通信環境整備も必要です。

大会期間前後を含めて宿泊施設の用意が要りますし(しかも安宿では済まされない)、輸送関係も整えなければいけません。このあたりを一手に担ってくださる旅行代理店も昨今ありますが、実務をお願いすればマージン分、さらに費用がかかります。

大会規模に合わせて各種整備を行い、その見通しがついてから、ようやく最後に人の配置が決まります。

自分が関わった大会も、語学関係ができる人は全員ボランティアでした。( さすがに東京五輪よりは日当良かったですけど。) また、実行委員会に名を連ねる地方協会の方々も、多くは無給で大会の任務にあたられていました。

パートナー企業職員も労務提供を余儀なく

2002年サッカーW杯日韓大会の際、自分自身も協力企業の社員として大会のお手伝いをしましたが、会場に着くなり、大会組織委員会のジャケットを着ることになり、分厚いマニュアルを渡され、「組織委員会の人間として現場対応は一任する」と労務にあたりました。

一人で対応に窮する事態があり、インカムで運営責任者にアプローチしたりもしましたが、次第に対応の限界に至ったのか、本部とは一切連絡が通じなくなりました。

1日こっきりの経験でしたので、笑い話程度になっています。しかし「労働力の搾取」という観点では看過できないでしょうし、2020年にも同様のことが繰り返されると想像します。

( 写真 : 2002年サッカーW杯埼玉会場でのひとコマ。 )

過酷な学生インターンシップの環境

スポーツ系の専門学校で勤めていた頃、産学連携事業を担当していたので、学生と一緒に多くの興行主さまの現場にお邪魔しました。

受け入れ体制を万全に整えてくださっているところは稀で、中には通常業務レベルのことを無給で取り組むことになるケースも多々。

とあるバスケットボールの試合後、会場の椅子やパネル状のスポーツコート、養生用のシートに至るまで完全撤収するのに、3名の職員に7名のボランティアが付き、作業が終電近くに及んだことも。

とあるスポーツイベントでは、その会場が、前日別イベントの撤収があった関係で、夜の21時から設営が始まり、その完了が28時、そして翌朝7時から日が暮れるまで運営のお手伝いを経験したこともあります。

スポーツ界の場合、この程度のことで疑問を感じていたら、職員はまだまだ業務が続いたりするものですから、同じ地平には立てないのです。

これで学生が就職に繋がれば、苦労の甲斐もありますが、中には「使うだけ使って、用が終わればさようなら」という団体さまもあります。

まっとうな会社さまも多くあって、きちんと業界の戦力として今も継続して機能している教え子も多くいますが、報われなかった子の顔もいまだに何人も浮かんできます。

求められる経営者の意識改革

前回の投稿でも書いたように、日本のスポーツ界が「稼げない」ということも、「やりがい搾取」の原因として繋がっています。

提供してもらった労力に見合うお金がきちんと循環しているか、スポーツ界の経営者はもっと強く意識する必要があります。

あとは2020年のこと。スポーツを出汁にして稼ぐ周辺業界だけが潤い、旨味がなくなったら、誰もいなくなる。そんなスポーツ業界になることは、何としても避けなければなりません。

スポーツエッセイスト
岡田浩志

『みるスポーツ研究所』では、「それでも、スポーツで生きていく」皆さまの取り組みにもっと寄り添っていけるよう、随時サポートを受け付けております!